東方狐答録   作:佐藤秋

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第八十五話 茨木華扇

 

 博麗神社には参拝客こそ少ないが、やってくる客はそれなりに多い。霊夢の友達である魔理沙を筆頭に、紫や文、レミリア咲夜妖夢と、結構色んなヤツがちゃんと目的を持ってやってくる。その目的は霊夢の様子を見に来たりだとか新聞を届けるためだとか様々であるが、大した目的が無ければ来てはいけないなんて決まりもないし、とやかく言う必要は無いだろう。妖精などは遊び場として、神社に訪れることも少なくない。

 

 宴会会場になることもある結構賑やかなこの博麗神社にて、俺はいま一人で境内の掃除に勤しんでいる。外の世界に行っているときはしていなかったが、境内の掃除は俺の日課。掃除というものを嫌いだと言うヤツは多いだろうが、俺はこういった一人の静かな時間に考え事をしながら掃除をするのが好きだったりする。

 

 今日の考え事は、『地上にいる連中には、あらかたお土産は渡し終わったかなー』とか『地底にお土産を渡しに行くのは、ついでに温泉を楽しめる冬にしよう』などのどうでもいいこと。一応未来のことを考えているので、いつもしているどうでもいい考え事の中でも少しは建設的かもしれない。

 

 

「~♪」

「……おはようございます。朝から精が出ますね」

「……ん?」

 

 鼻唄()じりに掃除をしていると不意に前方から声をかけられ、どうでもいい考え事が中断される。朝早く、と言うような時間ではないが、朝から誰か来るのは珍しい。箒の動きを止めて顔を上げると、そこには霊夢よりも少し年上そうなピンク色の髪をした少女が立っていた。

 

「ああ、おはよう。この神社にお客さんかな?」

「ええ、少し用がありまして。初めまして、私は(いばら)華仙(かせん)。しがない仙人をやっています」

 

 華仙と名乗り仙人を自称してくる少女は、そう言うと丁寧に頭を下げてきた。仙人というと老人の姿を想像するが、これだけ若い見た目なのに仙人なのか。まぁ一般的に想像される姿と全然違う連中はこの幻想郷にたくさんいるため、今さらそんなことに驚いたりはしない。天狗なのに長鼻じゃない少女の天狗とか、河童なのに皿や甲羅を見せない少女の河童とかな。

 しかしそれはさておきこの少女、どこかで姿を見たことがあるような……

 

「ふーん、仙人か……」

「……? どうかしましたか?」

「あ、いやなんでもない。『華仙』って名前、仙人みたいで合ってるな」

 

 どこかで見たような気もするがジロジロと顔を見るのも失礼なので、俺は慌てて誤魔化しておく。見かけたことはあるのだが、こうして顔を合わせるのはおそらく初めてだ。華仙も『初めまして』と言っていたし、人里のどこかで見たのだろう。

 ……それにしても下手な誤魔化し方をしたな俺。そうなると鈴仙だって仙人になるぞ。

 

「……仙人みたい、ですか?」

「……まぁ、"仙"の字だけで判断したけど……」

「……実は『華仙』は仙名でして、本名は少し違うのですが…… 気にしないでいただけると助かります」

 

 案の定、下手糞な誤魔化しのせいで、華仙は少し苦い顔をしている。もしかすると仙人には、名前の話題とかは禁句なのかもしれない。そんな事情は知らないが、とりあえずここは謝っておこう。

 

「いや、こちらも適当な発言をしただけだ。無遠慮なことを言ってしまったかもな、すまなかった」

「あ、いえそんな謝ることでは…… それより貴方の名前を教えてください。霊夢以外にこの神社に人がいるのを見るのは初めてです」

「そうだったな申し遅れた、俺は真という。霊夢とは違い出かけていることもよくあるが、一応この神社に住んでいる者だ」

 

 華仙に一言謝った後、俺は少し遅れて自己紹介をする。華仙はその口ぶりから、何度かこの神社に訪れたことはあるみたいだ。霊夢とも面識があるようだし、俺と今まで会わなかったのは結構な偶然である。

 『霊夢以外に』、ということは、萃香にも会ったことは無いのだろうか。まぁ萃香は俺以上に、用も無く出かけることが多いからな。

 

「真さん、ですね。 ……霊夢に保護者がいたとは驚きです」

「別に俺は保護者ではないが…… 俺は単なる居候だ」

「あら、そうなんですか? ところでその『真』って名前、どこかで聞いたことがあるような……」

 

 華仙が自らのあごに手を当てて、先ほどの俺と同じようなことを考える。俺は華仙の姿に見覚えがあるが、華仙は俺の名前に聞き覚えがあるようだ。

 俺の名前は妖怪の山になら知られているが、博麗神社に住んでいるということで、もしかしたら人里にも知られているかもしれない。華仙は髪の色がピンクなのもさることながら、右手に包帯左手に鎖と目立つ格好をしているので、人里のどこかで目に付いた可能性が大いにある。まぁ人里のほとんどは黒髪着物だが、たまに別の、例えば赤髪マントの少女を見かけたりすることもあるので、いまいち華仙をどこで見かけたのか思い出しにくい。

 

「……あ、思い出した。俺も華仙をどっかで見たことあると思ったら、俺が人里でよく行く団子屋か」

「……へ? 団子屋って言うと、少し年を召した店主と女将がやってる……」

「そうそうそこだ! その団子屋で何回か、華仙の姿を見かけた気がする」

「……あー、私が真さんの名前を聞いたのもそこでしょうか……?」

 

 華仙が俺の言葉を聞いて、合っているかどうか更に考えを巡らせる。店主たちに俺の名前を教えた覚えは無いが、もしかすると阿求や文と行ったときにでも、俺の名前を聞いたのかもしれない。華仙からすればもしかすると間違った予想かもしれないが、少なくとも俺にとってはスッキリできる回答だ。

 

「……うん、そうだったかも。真さんもあの団子屋にはよく行くんですか?」

「そうだな、結構行くほうだ。人が少なくてゆっくりできるのがいい。味はかなり良いものだしな」

「あー、分かります。お客の量の割りには美味しいんですよね。もっと主人たちがお客さんとコミュニケーションをとれば、客足も増えると思うんですが……」

 

 向こうも納得したようで、しばし華仙と世間話に花を咲かす。まぁ以前見かけたことがあるなんてどうでもいい話だ。今日お互いを認識したので、これからはそのように対応していけばいいだけである。

 

 華仙もあの団子屋にはよく行くようで、予想外のところで話が弾んだ。行きつけの店の良さを自分以外も知っているというのは結構嬉しい。

 今度あの団子屋に行くときは、華仙がいるかどうかこっそりチェックしてみようかな、と思った。

 

 

「……っと、長話をしてしまったな。華仙は神社に何かしら用があって来たんだろ? 霊夢に用があるなら呼んでこようか?」

「え? ああそうでしたね、どうしましょう。元々私は、霊夢がキチンと博麗の巫女としての生活ができているかどうか様子を見に来たのですが……」

「へぇ、紫みたいなことをするなぁ。それも仙人としての務めなのか?」

「そのようなものです。 ……そうだ、真さんから見て最近の霊夢はどうですか? 博麗の巫女としての務めを果たせてますかね?」

 

 少し長引いていた世間話に一段落つき、華仙が何をしに博麗神社まで来たか話してくる。賽銭を入れにだったら霊夢も喜んでいただろうが、どうやらそうではないらしい。

 

 博麗の巫女としての務めというものをよく知らないので、華仙の問いにはどう答えたらいいのか少し迷う。とりあえず霊夢は格好以外は、巫女らしい行いをしていないのは確かだが。

 

「そうだな…… 最近は異変らしい異変が起きてないからどう言ったものか……」

「なにも異変解決だけが博麗の巫女の仕事ではありませんが…… そうですね、例えば結界が崩れないように修行するとか、異変が起きたときのために腕を磨くとか……」

「……そういった面は一度も見たことが無いな」

「へぇそうで…… 一度も!? なんですって!?」

 

 俺の正直な答えを聞いて、華仙が驚いた声をあげる。あまり霊夢が困るようなことを言いたくはないが、事実なのだから仕方がない。

 しかし俺が見たことが無いだけで、もしかしたら霊夢は一人のときにこっそり修行をしているかもしれない。そうフォローをしようとしたが、華仙の耳にはもう届いていないようだ。

 

「い、いや一度もは言い過ぎたかもしれないと言うか…… あくまでこれは俺の見ている部分の情報であってだな……」

「……まったく、霊夢は目を離すとすぐ怠けるんだから! ……そういえば少し前、霊夢が守矢神社の神との弾幕ごっこでコテンパンにやられたって話を聞いたわね…… 事実かどうかはさておいて、霊夢を鍛え直さないと……」

「……お、おい華仙? だからあまり俺の言うことは鵜呑みには…… 霊夢に直接聞いたほうが誤解も無いし……」

「……そうね、霊夢に直接会って言わないと。真さん、霊夢を呼んできてもらえま……」

「……真ー? いつまで掃除やってるの?」

 

 華仙から映姫と似たような説教の鬼のオーラを感じていると、タイミングがいいのか悪いのか霊夢が俺の様子を見に神社の外に顔を出した。いつもは掃除中の俺の様子を見に来るなんてことはしないのに、今日はどういった風の吹き回しだろうか。

 既に朝食は結構前に食べ終わっているから、ご飯ができたと呼びに来るはずもないし…… まぁ掃除が長引くなんてことはそうそう無いので、もしかしたら俺に何かあったのかと心配してくれたのかもしれない。

 

「早く終わらせて一緒にお茶でも…… げっ」

 

 霊夢が俺の隣にいる華仙の姿を見て眉をひそめる。人の顔を見てそんな反応するのはあまりよろしくないが、華仙から変なオーラが出ているのも原因だろう。このまま霊夢が華仙の前に出ると、少々面倒なことになりそうだということは想像するのに難くない。

 

「……真、どうして華仙がここにいるのよ……」

「……なんでも、霊夢の様子を見に来たみたいだぞ? 俺にとっては華仙が神社に来るのは初めてだからよく分からんが……」 

「……そういえば華仙がここに来るようになったのは、真が外の世界にいるときだったわね…… 最近見かけなくなったから、説教されることが減って良かったのに……」

「霊夢、なにをごちゃごちゃ言っているのですか!」

 

 霊夢が俺の背中に隠れて華仙を睨んでいると、その姿を見た華仙が霊夢に向かって怒鳴り声を上げる。紫はなんだかんだ言って霊夢に甘いので、こうして霊夢に叱る人の姿を見るのは新鮮だ。俺だって相手のために怒ったことなどほとんど無い。

 

「真さんから聞きましたよ! 貴女は博麗の巫女としての修行を全然していないそうですね!」

「うぐ……真め、余計なことを…… だって修行なんてしたくないし……」

「そんな心構えだから、弾幕ごっこにも負けるんです! 今日は一日、私が貴女を鍛えなおしてあげますからね!」

「そんなの余計なおせ…… わわっ! 別にそんなこと頼んでないのにー!」

 

 霊夢が華仙に手を引かれ、神社の前に連れて行かれる。神社の境内はそれなりに広い、早速ここで修行を始めるつもりだろうか。修行といえば滝に打たれるものなどを想像してたが、どうやら今回は違うようだ。

 

「まぁ……頑張れ霊夢」

「うう……」

 

 霊夢から"薄情者め"という視線を受けながら、華仙にズルズルと引きずられていく霊夢に手を振って見送る。単なる嫌がらせなどではなく華仙が厚意で霊夢に修行させようとしていることは分かるので、俺には華仙を止めることはできない。

 

 まだ境内の掃除は終わっていないので、修行の邪魔にならないように注意して掃除を再開することにする。掃除が終わったら冷たい水でも用意して、霊夢の修行の様子を見に行こうかな、と思った。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「……うー、疲れた…… 暑い……」

「お疲れ、霊夢」

 

 太陽が頭の真上まで昇ったころ、修行が一旦終わって霊夢は賽銭箱の横に仰向けで寝転がっていた。修行内容は弾幕ごっこの実戦みたいな内容だったが、霊夢は俺と同じで体力が無いのかそれとも面倒だっただけか、とても疲れている様子である。

 俺はそんな霊夢の隣に座って、団扇(うちわ)を使って霊夢をあおいでいる真っ最中だ。団扇を使う季節にはまだ早い気もするが、汗をかいている霊夢を見たらこうしたくなるのは当然と言える。

 

「まったく……華仙が来ると大体こうなのよ。よく分からない説教をしたり、何かと理由をつけて私に修行させたり…… いったい何を考えてるのかしら」

「……そういうことは私がいなくなってから言うものではないでしょうか? 本人を前にしてよくもまぁ……」

「まぁまぁ、霊夢も疲れてるんだよ。華仙も疲れてるだろ? ほら、水だ」

「……ありがとうございます」

 

 霊夢を挟んで反対側に座る華仙に、冷たい水の入ったコップを手渡す。疲れた様子の霊夢とは対照的に、華仙はそれほど疲れている様子は無い。掃除をしながら横目で修行の様子を見ていたが、華仙よりも霊夢のほうがたくさん動いていたので華仙の疲労が少ないのも頷ける。

 

「……あら? 霊夢、左腕のそこ……」

「え? ……あ、少し擦りむいてるわね。いつの間に……」

 

 華仙が俺からコップを受けとる際に、霊夢の左腕に目を止める。少々離れている俺にも分かる程度に、霊夢の左腕は少しだけ赤くなっていた。

 

「……私の弾幕が掠ったのかしら? 霊夢大丈夫? 痛くない?」

「別に。言われなければ気付かなかったくらいだし何とも無いけど……」

「……どれ、俺にもちょっと見せてみろ」

「ん」

 

 差し出される霊夢の左腕を手に取って、赤くなっている部分をまじまじと見る。 ……ふむ、華仙が先ほど言ったように、弾が掠めたためにできた傷のようだ。弾幕ごっこは結界により肉体的ダメージは軽減されるものの、それでもこのように怪我をすることは普通にある。

 

「……大丈夫だと思うが、心配だから包帯でも巻いとくか。よっ」

「(……!? 今どこから包帯が…… というか真さんから感じた今の力は……!)」

「……包帯なんて大袈裟なんだから……」

「まぁ一応だ一応。 ……よし、できたぞ」

「……そうね、ありがと」

 

 俺は変化の術を使って包帯を作り出すと、その包帯を霊夢の左腕に丁寧に巻き付けた。修行を見てもらったことから華仙を霊夢の師匠とすると、師匠とおそろいの格好だ。包帯を巻いている腕は、華仙が右で霊夢は左なので異なるが。

 

「……あの、真さん……?」

「ん、なんだ?」

「その……真さんって妖怪だったんですか?」

「……あ」

 

 華仙に思わぬ質問をされ、思わず口から声が漏れる。別に妖怪であることを隠していたわけではないが、自分で言う以外に妖怪だと指摘されることは久しぶりだ。いったいどこに俺が妖怪だと分かる要素があっただろう。

 ……ああそうか、変化で包帯を作り出すときに、少しだけ妖力が漏れたんだな。華仙はただの人間ではなく修行を積んだ仙人なのだから、妖力を感じ取れてもおかしくはない。

 

「ええと……隠すつもりは無かったんだ。ただ人間の姿のほうが、人里に行くときに余計な混乱をさせずに済むからな。霊夢は既に俺が妖怪であることは知っているし……」

「(……思い出した! どこかで聞いたことがあると思ったら、『真』って妖怪の山の『鞍馬』じゃない! ……もしかして私の正体に気が付いてたり…… いや、直接の面識は多分無いから大丈夫のはずだけど……)」

「だからその……悪さをするつもりはこれっぽっちも無いから、あまり睨まないでくれると助かるんだが……」

「……へ? ああいや! 真さんが話の通じる妖怪ってことは、先ほどの会話で理解してますから! ただ少し驚いていただけです!」

 

 なにやら怖い顔をしていた華仙だったが、一呼吸遅れて慌てた様子で首をブンブンと振って否定する。もしかしたら仙人には『妖怪=悪』の考えでもあるのかもしれない。そう不安に思ったが、どうやらそれは杞憂だったようだ。今のところ俺の中では華仙の評価は低くはないので、妖怪という理由で嫌われるのには抵抗がある。

 

「……そうか、ならよかった」

「(……とりあえずバレてはいないみたいね。今後真さんに思い出す兆候が見えたら、妖怪の山に私も住んでいるからもしかしたらそのときに会ったことがあるかも的なことを言って誤魔化そう…… 今は仙人として妖怪の山に住んでいるのは事実だし)」

「ははは、いやーいきなり無言になるから焦ったよ」

「ふふ……大変失礼いたしました。私もまだまだ修行が足りませんね」

 

 先ほどの怖い顔はどこへやら、華仙と顔を見合わせて笑い合う。やはり気まずい空気や険悪なムードよりも、楽しい雰囲気のほうが俺は好きだ。

 

「……華仙、なんか様子おかしくない? 心なしか、何かを誤魔化そうとしてるような……」

「な、何を霊夢は言ってるんでしょう? 私が何を誤魔化す必要があると言うのです?」

「いや、確かにそうなんだけどさぁ。 ……んー?」

「……さ、さて! そろそろ修行を再開しましょうか!」

 

 上半身を起こして顔をまじまじと見てくる霊夢から目をそらし、華仙がすっくと立ち上がる。そういえば、今日は一日修行をすると言っていたような気がするな。今のこの時間は休憩時間だったということか、すっかり終わった気分になっていた。

 それにしても華仙のヤツやる気十分だな、終わってからあまり時間が経っていないのに。まだそれほど休憩できていない霊夢は、当然不満顔である。

 

「……え。まだやるつもりなの?」

「当然です! もう十分休んだでしょう!」

「むぅ、面倒くさい…… っていうか華仙、やっぱり何か誤魔化そうとしてない?」

「そ、そんなわけ無いでしょう! むしろ霊夢こそ、修行したくないから適当なことを言ってるんじゃ……」

「まあまあ。修行はいいけど、もう昼過ぎなんだから飯を食おうぜ。な、華仙。お前も腹が減っただろ?」

 

 話している二人の間に入り込み、俺は別の選択肢を提案する。霊夢に味方するような意見だが、結構まともな提案のはずだ。霊夢が修行を再会しようと俺に疲れが溜まるわけでも無いので関係ないが、それでもやはり修行の様子を見ているよりも話をしているほうが俺にとっては楽しいのである。

 

「賛成! お腹が空いたからお昼にしましょ! 華仙にも特別にご飯を分けてあげるから!」

「……む。そ、そうですね、いただきます」

「よし、決まりだな」

 

 華仙もお腹が空いていたのか、結構簡単に意見を曲げた。修行を再開しようと立ち上がった華仙は、再び腰を下ろして息を整える。

 仙人が(かすみ)を食べて生きているというのが本当かどうかは知らないが、それだとやっぱりお腹が空きやすいのではないだろうか。

 

「それじゃあ今から作ってくるから。華仙もいるから今日は四人分だな」

「……四人? 霊夢と真さんと私で三人じゃ……」

「……ああ、華仙は見たこと無いんだっけ? 博麗神社には真の他に、もう一人居候がいるんだけど……」

「……霊夢ー? 真ー? お昼まだー? お腹空いたー」

「お、噂をすれば。 ……今から作るからもう少し待ってろー」

 

 神社の中から聞こえてきた萃香の声に返事する。頻繁に出かけることの多い萃香だが、今日は神社にいるみたいだ。

 

「(今の声は……)」

「聞こえただろ? 中にもう一人いるんだよ。鬼って種類の妖怪で、萃香っていうんだが……」

「……んー? 誰か来てるのー?」

「(……やっぱり萃香! どうして萃香が博麗神社に!?)」

「ああ、来てるぞー。 ……そうだ、丁度いいから先に顔合わせしとくか。萃香も妖怪だけど、そう悪いヤツじゃないから……」

「(ま、まずい! このままだと萃香に見つかって……)あ、あの!」

「ん?」

 

 腰を下ろしていた華仙が再び勢いよく立ち上がり大声を出す。立って座ってまた立って、忙しいヤツだな。いったいどうしたというのだろう。

 

「私急用を思い出しまして! 今日はこれで失礼させていただきますね!」

「え? ああおい、それならせめて飯だけでも…… わあっ!」

 

 ビュウゥゥー!

 

 いきなり強い風が吹き、ゴミが目に入らないように腕を前に出す。風が止むのを待ってから腕を下ろして前を見ると、そこにはもう華仙の姿は見当たらなかった。

 

「……っと。 ……なんだ? 誰もいないじゃん」

 

 華仙がいなくなったと同時に、萃香が神社から顔を出す。もう少し早く顔を出していれば、萃香も華仙の姿を見ることができたのだが。まぁ終わったことに何を言っても仕方ないか。

 

「……さっきまでそこにいたんだがなぁ、慌てて帰っていってしまった。そんなに大事な用だったんだろうか。飯くらい食っていけばいいのに」

「……まぁ仙人なんて変なのばっかりだから、気にする必要なんて無いわよ。 ……それより、昼からの修行はしなくていいみたいね! さあ、さっさとご飯を作りましょ。疲れたからお腹空いちゃった」

 

 霊夢はいきなり消えた華仙のことを気にすること無く、神社の中に入っていった。むしろ華仙がいなくなってから、先ほどより元気になった気がする。

 

 ……飯は無理でも、萃香と顔を合わせるくらいしていけばいいのに。もしかすると華仙は、やっぱり妖怪が苦手だったのかもしれない。

 まぁそうならそうで、今後博麗神社に来るときにでも次第に慣れてもらえばいいか。それに俺の予想なんて全然違って、本当に急用を思い出した可能性だって十分にある。

 

 次あの団子屋へ行って華仙に会ったときにでも、またゆっくり話せばいい。そう思い直し、俺は昼食を作るため神社に戻っていった。 

 

 




華扇「えー、今から言うことは、最新話を毎回読んでくださっている方よりも、後々まとめて読んでくれる人に向けての話になります。
 話数が八十一話から八十五話に飛んでいることにお気付きでしょうか? 実は八十二、三、四話は、お正月に投稿した特別編として最初の部分にありますので、抵抗の無い人はぜひ読んでいただければと思います。話数をこのようにしているのは、特別編の時系列が八十一話と八十五話の間に当たるからです、紛らわしくてごめんなさい。

 …ところで、今回のタイトルと、台詞前に表示されている私の名前、間違ってますよ? このままだといろいろと不都合が...」

華仙「…あ、これでいいです! 本日は読んでくださりありがとうございました!」


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