東方狐答録   作:佐藤秋

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第九十話 緋想天⑤

 

「……見つけた! アンタが今回の異変の犯人ね!」

「うふふ……ようやく来たわね博麗の巫女。貴女と戦うのを楽しみにしてたんだから、期待を裏切らないで頂戴ね?」

「期待してくれたところ悪いけど、アンタを楽しませるつもりは無いわ! 即行で終わらせて神社に帰らせてもらうわよ!」

「……やっぱり神社を壊したのは正解だったわね、気合十分。早いところ終わらせて神社の復旧に帰りたい気持ちもよく分かるわ。それなんだけど、貴女が私を満足させたなら、壊れた神社を建て直す手伝いをしてあげても……」

「……は? 何言ってんの? 博麗神社は壊れたりしてないんだけど……」

「……え?」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 ザーザーと降り注ぐ雨に、ビュービューと吹き荒れる風。いくら変化の術で神社を強化したといっても、建物内に響く音を完全に防ぎきることは不可能だ。衣玖と文の服がある程度乾いたのを見計らい、俺は二人を縁側から居間へと移動させる。

 なんでも、竜宮の使いとは滅多に見かけることの無い妖怪らしく、移動する前も後も、文は衣玖に取材と称してずっと話を聞いていた。会話とは、基本的に質問とその回答の連続であるが、よくそんなに尋ねることがあるものだ。軽度の人見知りである俺にとっては、文のコミュニケーション能力は少し羨ましい。

 

 会話に積極的に加わることも特にせず、同じちゃぶ台を囲んで俺は、二人が会話するのをただぼんやりと眺めていた。ときおり振られる文からの投げかけに「ああ、そうだな」程度の相槌を打つ。このような近過ぎず遠過ぎずの距離感は嫌いではない。たまに物凄く距離を縮めてみたくなったり、距離をとって一人になりたいときもあるけれど。

 

「……なるほど。竜宮の使いは、地震が起きる前に地上に降りてくることが多いというだけで、普段何も無いときでも自らが望めば地上に降りることは可能なんですね」

「はい、そうです。ですが天界は地上に比べて恵まれた場所ですから、竜宮の使いに限らず天界に住む者が地上に降りてくることは稀ですよ。それこそ、天界では地震も台風も起こりませんし」

 

 屋根を叩く雨の音に混じって、文と衣玖の話し声が聞こえてくる。ふと次の瞬間、屋根の上で誰かが走り回っているような雨音がピタリと止んだ。更に言えば、戸を撫でていた風の音も、先ほどよりもいくらか治まっているような感じがする。

 

「……あら? あれだけ激しかった雨が治まりましたね?」

「本当ですね。私たちがここにいる以上、止むことは無いと思ってたんですが…… こうなると神社に泊まる口実が無くなってしまいますね」

「私は元々、そこまでお世話になるつもりはありませんでしたけど……」

 

 文と衣玖の二人も、改善した天気に反応する。この急激な天気の変化により、今日の俺の今後の予定--具体的に言えば、衣玖と文が神社に泊まるならばと考えていた夕飯のメニューや寝床の部屋割りなど--の修正が必要になってきた。

 まぁそれはさておき、天気が変わったということは誰かが神社に来たということだ。俺の予定を崩したのはどこのどいつか、しっかりと確認をする必要がある。

 

「二人とも。俺ちょっと外の様子を見てくるから……」

 

 腰をあげて、二人に一言告げて出ていこうとした束の間、

 

「なんで神社が壊れてないの!?」

 

 外からそんな大声が聞こえてきた。なんて物騒な内容の叫び声だろう。

 あれ? 神社に誰か来たみたいですね、と文が声に反応して立ち上がる。声が聞こえてしまえば、天気の変化と来客を結びつける必要も無い。誰かが来たことは明白だ。

 

「今の声……なんだかとても聞き覚えのあるような……」

 

 そう言って衣玖も立ち上がる。来客の対応は神社に住む俺がすべきことだと思うのだが、なんでお前らまで立ち上がるんだ。衣玖には声の主に心当たりがあるようだが……

 

 二人はさておき、戸を開いて俺は神社の前に出る。そして視界に入った人物()()を見て、俺は大まかながら現状を理解した。

 

「……ほら、だから言ったでしょ、神社が壊れたりしてないって。 ……あ、真、ただいま」

「……ああ、おかえり霊夢」

 

 目が合って、のんきに挨拶してくる霊夢に挨拶を返す。外にいたのは霊夢の他にもう一人。先ほど聞こえた大声は、霊夢ではなくその人物があげたものだ。

 

「真の言ってた、天気を固定してた犯人見つけたわよ。まぁこいつなんだけど」

 

 霊夢の隣には、桃のついた妙な帽子を被った、青い髪の少女が立っていた。叫び声の内容から察してはいたが、この少女が今回の異変の犯人のようだ。

 天気が変わったことで来客の予想はしていたものの、今回の場合は半分アタリで半分ハズレ。客が来ていたのは正解だったにしても、天気が変わった原因は霊夢が異変を解決したためだったらしい。

 

「お疲れ。異変を解決できたんだな」

 

 霊夢の元まで歩み寄り、犯人の少女を横目に見ながら口にする。異変解決には数日かかるかもと予想はしていたが、実際数日かかったとなると霊夢も大変だっただろう。俺が労いの言葉を口にすると、霊夢は満足そうに頷いた。

 

「ええ! 一足先に変な天気はもう元に戻させたわ! 後はこいつを弾幕ごっこで叩きのめせば、晴れて異変解決よ!」

 

 そう言って霊夢は、文曰く早苗よりも薄いらしい胸を張る。()()()異変解決、とは霊夢のヤツうまいこと言うものだ。もう天気はすっかり変わって晴れているのだが、異変解決の最後は犯人を叩きのめさなければならないルールでもあるのだろうか。

 

「神社まで来たのは、こいつが変なこと言うから連れてきたんだけど、やっぱり神社が壊れたりなんてしてなかったわね。さて、そうと分かれば早速……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 犯人の少女が声を張り上げる。先ほどの神社の中にまで聞こえてきていた通る声。通るというか、ただ単に声が大きいだけの気もするが。

 

「私は確かに地震を起こしたはずなのに、どうして神社が無事なままなのよ! 集めた気質はそのまんまになってるし……もしかして地震も起きてないの!?」

「……あー」

 

 今回の異変の犯人ということで、失敗に終わったことくらいは感じ取れるらしい。そういえば犯人には、神社を倒壊させるって目的もあったんだっけ。それに伴い、危険な真似をと思った俺は、犯人に対して憤りを感じていたんだった。怒りに限らず感情というものは、時間が経つと風化してしまうから困ったものだ。

 俺は少女の前に向きなおり、視線を合わせて、おい、と声を掛ける。

 

「な、なによ! もしかして神社が無事なのはアンタの仕業!? 一体どうやって……」

 

 一声掛けただけなのに少女がギャーギャーと喚き始める。 ……ふむ、よくよく顔を見てみれば、まだまだ幼い少女じゃないか。異変を起こした動機から、我儘な子どもであることは十分予想できてたけれど。

 まぁ犯人が子どもだからといって、笑って許してやる事柄でもない。人の大事なものを自分の都合で傷付けようとした罰はしっかりと受けてもらわねば。なによりそうしないと俺の気が晴れそうにない。そう、晴れそうにない。

 

「……まぁ、その話は後でゆっくりしてやるよ」

「へ?」

「まずは……」

 

 俺は右手を突き出して、少女の顔の前でバッと開く。少女が呆気(あっけ)にとられている間に、俺は右手の形を変えて、中指を親指で押さえてタメを作った。いわゆるデコピンというやつだ。

 怪訝な顔をして俺の手を見つめる少女の額を目掛けて、俺はタメた中指を思いっきり解放した。

 

「アガッ!?」

 

 てこの原理を体言したように、額に衝撃を受けた少女は綺麗にグルンと一回転をする。『ガッ』、というのは、少女が衝撃を受けたと同時に、俺の中指と少女の額によって生じた音。おおよそデコピンしただけとは思えない衝撃により吹っ飛んだ少女がそのまま上手く地面に着地できるはずもなく、次の瞬間には顔面から地面に落ちていた。豪快にバク転に失敗したみたいな感じだ。

 

「総領娘様っ!?」

 

 地面に倒れる少女を見て、衣玖が大きな声を上げて駆け寄る。そうか、同じ天界に住んでいる身なら知り合いである可能性は十分あるのか。様を付けて呼んでいるところをみると、身分的には衣玖よりも上の立場の者みたいである。

 

「い、いきなり何すんのよ!」

 

 地面にうつぶせ状態から顔をあげて少女が言う。顔から地面に落ちたというのに元気だな。天人は普通の人間に比べて丈夫だと知っていたからこそ手加減をせずに攻撃したわけだが。

 

「ごめんな。いきなり殴られてわけわかんなかっただろ」

 

 地面に着物をつけないように、それでも目線の高さを合わせるべく、腰を下ろして少女に言う。殴るというかデコピンなんだが、衝撃的には似たようなものだろう。

 

「……は? いや、殴られてわけ分かんないと言うか、わけ分かんないままおでこにものすごい衝撃が来たというか…… ともかく、いきなりなんなのよ!?」

「怒るのはまぁ分かる。でも俺が言いたいのはだな……お前が今されたようないきなりで理不尽なことを、お前も霊夢にしようとしてただろっていうことだ」

 

 少女を立ち上がらせることもせず、ただ少女の目を真っ直ぐ見て俺は言う。立ち上がりたいならそれでもいい。衣玖が心配そうな目をして見ているぞ?

 

「はあ!? 私が何をしようとしてたって!?」

「さっきお前叫んでたじゃん、『何で神社が壊れてないのか』って。そのことだよ」

 

 倒れたまま凄い剣幕で俺を睨む少女に、できるだけ淡々とした態度を取りつつそう返す。この()(およ)んでまだしらばっくれるつもりだろうか。いいや違うな、これは自分が悪いことをしている自覚の無いヤツの反応だ。かつてパチュリーの図書館から無断で本を借りてきていた魔理沙を少し思い出させる。

 

「地震なんて起こしたら危ないだろうが。それにこの神社は、霊夢が生活していくうえで大事なものってことくらい少し考えたら分かるだろう。お前はそれを一方的に壊そうとしてたんだから、こうして怒られて当然だ」

「さっきからお前お前って、私にはちゃんと比那名居(ひなない)天子(てんし)って名前があるんだから!」

 

 出た、子どもにありがちな、こっちの話を全スルーからのよく分からない逆ギレ。いや、お前って呼んだら怒る子は慧音の寺子屋にもいるから俺も多少は悪いのか。自己紹介もまだだったので、俺も名乗り返して話を戻す。

 

「……でだ天子、お前は自分が悪いことをしたっていう自覚はあるか?」

「またお前って……!」

「今のは仕方ないだろ。それよりほら、返事。はいかいいえで答えろ」

「なによ! 確かに神社を壊そうとは思ったけど、結局壊れてないんだからいいじゃない!」

 

 反省の色は未だ見せず、天子が結果論を用いて開き直る。

 

「……まぁ、何も起きてないからそう言いたくなる気持ちも分かる」

「でしょう?」

 

 俺が同意することで、少しだけ得意げな顔になる天子。おいおい、論破できたわけじゃないんだぞ。俺の主張はむしろ次である。

 

「……でもな、やっぱりお前……天子が神社を壊そうと実行に移したことは間違いないだろう? 俺がいなかったら結局神社は壊れていたわけだし、そこのところはキチンと反省してもらわなければ困る」

「……むむむ……」

 

 天子は地面に突っ伏したまま、見上げるような角度で俺を睨む。別に謝れと言っているのではない。先ほどのデコピンで俺たちの関係はチャラになったのだから、今後は同じような失敗をしないと約束してくれるだけでいいのだ。

 

「……はっ、そ、そうだわ! 私が神社を壊そうとした証拠が無いじゃない? 確かにここに気質が集まってるみたいだけど、それだって私がやったって証拠がどこにあるのよ!」

「……ほう。なるほど、そう来たか」

「でしょでしょ! 決め付けはよくないわ!」

 

 途端に天子が元気になる。あれだな、俺はとりあえず同意する癖を直したほうがいいな。相手の言うことをすぐに否定するのもよくないが、結局否定するなら余計な気を持たせてしまう分タチが悪い。

 

「証拠が無いって…… 気質を集めたうえに地震を起こせるのは総領娘様以外には……」

「衣玖は黙ってなさい!」

 

 客観的に判断をしようとしてくれた衣玖の言葉を天子がバッサリと切る。まぁ証拠は衣玖の言うそれ以外にもたくさん思い付くのだが、さてどうしたものだろうか。

 

「さあ、証拠も無いのに、貴方は私を犯人扱いするのかしら? そもそも天界に住む私が、わざわざ地上に干渉する動機が無いとは思わない?」

「動機ねぇ……」

 

 動機とかいう普段の会話で出てこないような単語を言われるなんて、まるで犯人を追い詰める探偵にでもなった気分だ。しかし悲しいかな、証拠はと聞かれたらなんとも言えないのだが、動機はと聞かれるとそれに対する答えを俺は持っている。

 

「……悪いな、そこのところも俺は全部知ってんだよ。お前が気質を集めてたことも、退屈だから霊夢を呼んでたことも、霊夢を呼ぶために地震を起こそうとしてたこともな」

「……え?」

「ああ、ついでに言えば、最終的に地震で壊れた博麗神社に何をしようとしてたのかも知ってるぞ。 ……ったく、退屈だからついでに神社の土地を奪うってどんな発想だ。ついでの規模が大きいんだよ」

「!?」

 

 天子が大きく目を見開く。あまりに図星であることを指摘されると、次の言葉を失うことはよくあることだ。

 

「……えーと……どういうこと? あの二人の話についていけてないんだけど……真は神社を守ってくれてたの?」

「ええ、どうやらそのようで。天子さん、と名乗るあの方が天気を変えていた異変の犯人ですが、ついでに神社に地震も起こそうとしてたみたいです。それを知っていた真さんは、あらかじめ何か手を打ってたみたいですね」

「で、でも真はずっと神社にいたのよ? なんであいつのことを知ってる風なの?」

「さぁ……それはさすがに分かりませんが…… 真さんが能力を使ったのならば簡単に説明がつきますよね」

「……真の能力?」

「あや? 霊夢さんご存じない? ……そうですか。霊夢さんが知らない真さんのことを私が知ってるというのは気分がいいですね。じゃあここは深くは話さないでおきましょう」

「え、なによそれ!」

 

 霊夢と文が向こうで何やら話している。霊夢には俺が異変の詳細まで知っていたことを黙っていたのに、天子がここに来てしまったからバレてしまった。それにしても意外なのは、文が俺の『答えを出す程度の能力』についてペラペラとしゃべっていないことだ。

 

「……ど、どうして私の、神社の土地を奪う計画まで知ってるわけ!? まさか誰かが裏でバラしたんじゃ……衣玖!?」

「……へ?」

 

 天子が衣玖のほうにバッと顔を向ける。まぁ『答えを出す程度の能力』なんて能力普通は思いつかないから、身内を疑う形になるのも必然か。衣玖が天子の身内かどうかは知らないが。

 

「んなわけあるか。衣玖は今回異変が起きてることすら知らなかったんだぞ」

「そ、そうですよ!」

「……じゃあ誰が……」

「……まぁ、なんで俺が知ってるかはこの際どうでもいいだろ」

 

 衣玖へのフォローもそこそこに、俺は未だに目の前で地面に突っ伏している天子を、一本の尻尾で縛りあげながら自分の前に持ちあげる。先ほどの驚いた表情から衣玖を疑う発言まで、その全てにより少女は自分が犯人であることを認めていると言っていい。

 

「……いいなー、真の尻尾」

「……昔見たことありますねあれ。見たことがあるというかされたというか」

 

 のんきな傍観者としてこちらを見ている霊夢と文。その二人とは対照的に、こちらの二人は苦い顔をしている。

 

「……くっ」

「し、真さん…… その、手荒な真似は……」

「ん? 別に何かするわけじゃないよ、怒ってるわけでもないし。いや少し怒ってたけど……子どものイタズラは、許すのが大人だ」

 

 心配そうな顔をする衣玖に、俺はできるだけ穏やかな口調でそう返す。そう、かつて冬が長引いた異変のときも幽々子に対して思ったが、大事なのは同じ過ちを二度繰り返さないことなのだ。一回目の失敗は気にしないでおく。思いっきりデコピンしたけれど。

 

「……だが許すにしても、反省の色が見えないならダメだ。ああ謝る必要は無いぞ、もうこんなことをしないと約束するならな。自分の勝手な都合で誰かを傷付けたりするのは絶対に駄目だ」

 

 完全なる詭弁ではあるが、大人は子どもに理想を押し付けるものなのだ。自分のやりたいことをやる上でなら他人などいくら傷つけようと構わないと思うが、それはいま言うべき言葉じゃない。

 

「……分かったか?」

「わ、分かったわよ……悪かったわね」

 

 もう言い訳のタネが尽きたのか尻尾で縛り上げたのが功を奏したのか、天子がようやく殊勝な態度を見せる。それも、謝らなくてもいいと言ったにも関わらず、キチンと謝るというオマケ付きだ。

 

「ん、よし」

「わっ」

 

 尻尾で掴んでいた天子を目の前に降ろし、その頭を軽く撫でる。帽子が邪魔で、いまいち撫でているという感じがしない。フランみたいに柔らかい帽子だったから話は変わってくるんだが。

 

「……さて、耳障りな説教はもう終わりだ。じゃ、霊夢とでも誰でもさっさと戦ってこい」

「……え?」

「霊夢と戦ってみたかったんだろ? それならそうと異変なんか起こさず直接いけばよかったものを」

 

 そう言って俺は肩を(すく)める動作を天子に見せる。まぁ天子は、本気の霊夢と闘いたいと思ったからこそ異変を起こしたのは知っているが。

 

「それに……」

「……いいわ。私もちょうど今、そいつと戦いたいと思ったところよ」

「……霊夢もやる気みたいだしな」

 

 すっかり傍観者となっていた霊夢が、いつの間にか鋭い目つきをこちらに向けている。俺はもう天子を許しているのだが、神社を壊されそうになったことを今さらになって霊夢は怒っているのだろうか。

 それともあれか、俺の尻尾の妖気に当てられたか。妖怪の山での守矢神社の話し合いのときも、神奈子の前で尻尾を出したら似たようなことがあった気がする。

 

「--なーんてことを思ってそうな顔ですね真さんは。どう見ても霊夢さんのあれは、真さんが天子さんの頭を撫でたことに対する嫉妬でしょうに」

「……ん? 文、なんか言ったか?」

「いーえ、別に」

 

 まぁなんにせよ、これで天子と霊夢が闘えば、犯人の目的も達成されて異変も無事に終了だ。二人の弾幕ごっこの様子は、神社の屋根にでも上ってゆっくり観戦でもさせてもらおう。宙に浮いていく二人を見て、鼻から息を吐きつつ俺はそう思った。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 霊夢と天子、どちらが弾幕ごっこに勝利したか、なんていうことは異変が解決してしまった今ではどうでもいい話だが、敢えて言うなら博麗の巫女の面目躍如といったところか。負けたほうは負けたほうで特に疲れた様子も見せずにピンピンしている。

 勝負が終わった後に天子から、天界まで宴会をしに来ないかという誘いがあった。異変の後に宴会があるのはいつもどおりだ。どうやら天界では既に一人の子鬼が宴会を始めているらしく、ははあこれは萃香の仕業だなと俺は思った。宴会など地上でもできるが、おそらく萃香が能力で天界に人を萃めているに違いない。

 

「……え! 真は宴会に参加しないの!?」

「ああ、まだ地上でやることがあってな」

 

 しかし俺は残念ながら、その宴会には参加できそうにない。というのも変化の術で地震が起きるのを無理矢理押さえていたわけだから、このまま離れて変化の術が解除されると、再び地震が起こってしまうのだ。これを言うとなんとなく天子を責めているようだし、霊夢に余計な心配をさせるのも悪いので詳しく説明はしないでおくが。

 

「……やれやれ、真さんはかっこつけですねぇ」

「ほっとけ。文も余計なことを言ったりするなよ」

「はいはい、りょーかいです」

 

 ニヤニヤした顔でこちらを見てくる文を適当にあしらい、霊夢たちが天界へ向かうのを神社から見送る。霊夢は出発する前に、戻ってきたら覚悟しなさい、と俺に指差して言っていた。覚悟するって何をだろう。異変解決出発前に霊夢とした約束のことだろうか。

 

 まぁいい、当面の俺の目的は、地震を起こさせずにこの土地に掛けた変化の術を解除することだ。後のことを気にしている場合ではない。

 まず手始めにと、俺は神社そのものに掛けていた変化の術を解除した。

 

 


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