灰色の少年   作:橋場由由

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少女はいつもケーキを食べて暮らしている。
少女の食事は全てケーキや甘味で、それ以外は食べれないらしい。
少女の仕事は、とある物を作る事と探偵の二つらしい。

そんな少女の下で働くようになってから2年は経った。
彼女は今日も変わらずケーキを食べている。

そんな感じで始まります。
今回の名言。
『生きる事の辛苦を読者に伝えるのも、また主人公の役目』
by太公望


第二話 愛さえあれば働けるよね!

【前回のあらすじ】

「ああ、主人公よ。死んでしまうとは情けない(棒読)」

 

 夢を観ていたんだ。

 其処は不思議な空間だった。

 見渡す限りに広がる生物の体内を思わす薄い赤。

 壁や天井は無く地面は赤く、足元は自重で溶けた肉のように沈む。

 そして、空間は一定のリズムで胎動し、此処が生物の中であることを物語っていた。

 

 

 そんな空間にソレは居たのだ。

 ソレは自分の体より大きく、歪な楕円球のような形で、それの表面は黒く滑(ぬめ)りを持っているのか微かに光が反射していた。

 目を凝らせば、ソレの表面は不気味に脈動しその形は丸々とした人型だと理解できた。

 

―――クチャ、ペッチャ

 

 ソレから聞こえた水音は扇情的で、同時に嫌悪感を僕は抱いた。

 理由は分からない。ただ、あれをはっきりと認識してはいけないと脳が警告している。

 

―――ゥ、ァアゥ

 

 水音の後に続くように聞こえた弱弱しい呻き声はソレの手が握っているモノから断続的に聞こえる。

 握られているモノは大きな人型の怪物だった。

 狼の頭、指先から生えた鋭い爪、首から腰まで黒い体毛で覆われた獣。

 獣はソレの黒い手から逃げようと必死にもがいているが、ソレの力が上なのか、逃げれずにいる。

 

―――ベキッバキッ…ブッチン

 

「ッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 獣の足は手の中で握り潰されながら、ソレの口らしき空洞の中へと消える。

 怪物はその苦痛に耐えられず絶叫する。

 

―――クチャ、ペチャ

 

 そして聞こえる咀嚼音。

 ソレは菓子でも食べるように獣の手足を咀嚼していく。

 獣はもがくのを止めて、喉が潰れん程に絶叫を繰り返す。

 

―――■■■■?、■■■■■■■!

 

 生物ではおおよそ出せぬだろう鳴き声を上げてソレは喜ぶ。

 そして、ソレは痙攣している獣の頭を掴み…。

 

―――ブシャ

 

 木の実をもぎ取るように握りつぶした。

 水風船が潰れるような音を最後に獣は痙攣を止め、絶命した。

 首を無くした死体は地面に落ち、首から絶え間無く血を噴き出す。

 ソレの手の中には、潰れたザクロを彷彿させる赤と白の混じった■■。

 

―――ガリガリ、グッチペチャ

 

 ソレは■■を口の中に入れて咀嚼する。

 頭蓋ごと噛み砕きながら、それを平らげた。

 最後に舌で口の周りを舐め取り、獣の死体を拾い上げた。

 

―――キャッ■■■ハハ■■!!!

 

 ノイズの混じった金切り声のような笑い声がそこら中に鳴り響く。

 首の無くなった獣の手足を意味もなく千切りながら笑い続ける。

 そして、ソレの姿が一瞬だけはっきりと目に映り、僕は後悔した。

 

―――嗚呼、アレは…。

 

 そこで場面は暗転し夢は終わる。

 一体この夢が何なのか僕は知らないし覚えていない。

 目覚めればきっと忘れているんだろう。

 

 そして、長い眠りから目を覚ました。

 ぼやけた視界に映るのは一般的な部屋だ。

 家具が置かれ、棚には熊や兎の縫いぐるみが置かれ、机には食べ欠けのショートケーキと仄かに湯気を上げたカップが置いてある。

 何処にでもあるような家庭の一風景だろう。

 

チャキチャキ、カタン…。

 

「おや、目を覚ましたのかいサカツキ君?」

 

目の前にメスと鋏を両手に持ち、血の付いた白衣を着た少女と消毒液の独特の臭いがなければ。

それは非日常の光景だ。あっていい筈がない。

だから、僕はこの非現実を権化たる少女にこう言ってやったのさ。

 

「お願いですから…腹を開くのなら……、麻酔をしっかりしてください。……スゲェ痛いです」

「ああ、忘れていたよ」

 

悪いね。と少女は続けてメスを僕の腹へと入れた。

僕は痛みのあまり、もう一度失神し(眠っ)た。

 

 

 

 

第二話 愛さえあれば働けるよね!

 

 

 

 

―――シャァァァァ、ッキュゥ

 

「いや、悪いねサカツキ君。僕もつい麻酔を刺すのを何故か忘れてしまうんだよ。…何でだろうね?」

 

台所の洗い場で、手に着いた血を洗い流し終えて帰ってきた少女は、黒猫の描かれたマグカップと生クリームが過多に塗られたロールケーキの乗た皿を両手に持って、僕が座る向かい側のソファーに座り、それらを間に置かれた机の上に置いた。

 

「それは貴方が麻酔代をケチろうとして、僕の寝てる間に手術しようとするからです。あと素手で体を開かないでくだい」

「なに、君は眠っているから麻酔をしなくても大丈夫さ。それに僕は素手で君の内臓に触れても気にしないよ」

 

そういう問題じゃないだろう。

少女は僕の恨みの籠もった視線を気に留めず、机に置かれた砂糖入れから砂糖を一つ取りだし、カップに落としてティースプーンで掻き混ぜる。

その姿は高貴で、彼女の育ちの良さが窺える。

彼女の容姿は美しく、白い肌に腰まで伸びた流れるような黒髪、小柄な少女の体に反してその琥珀の双眸には賢者のような知的さがあり、そのアンバランス感が見事に彼女の魅力を引き立てていた。

しかし、残念な事に彼女の表情はその幼さの残る仏蘭西人形のような美しく整った顔にチェシャ猫のような人の悪い笑みを浮かべ…。もう、なんというか台無しだ。

服装は近くの高校の制服と、その上から無規則に赤い斑模様の着いた白衣を羽織っていた。

彼女の名は霧島(キリシマ)絵空(エゾラ)。

自分の保護者であり、この探偵事務所の所長であり、自分の上司だ。

 

「それはそうとサカツキ君。大分うなされていたようだけど、悪夢でも見ていたのかい?」

「え、マジですか?」

「ああ、本当さ。「苦しい、食うな、ヤメテくれ」なんて寝言で呟きながらベットでもがいていたよ?おかげで解剖に苦戦したよ」

 

ならするなよ。と思ったが言っても無駄なので溜息を一つ吐いた。

それにしても、自分はそれほどまでに魘されるような夢を見ていたのだろうか?

目を閉じ、さっき見た夢の内容を思い出そうとするが、夢の内容は全く思い出せなかった。まぁ、いいか。と思い出すのを止める。話を聞く限り寝言で悲鳴をあげるほどの悪夢なのだ。思い出せないならば無理に思い出す必要も無いだろう。

ふと、時間が気になり壁に付けられた時計を見る。短針はローマ数字の五を超えて六を指そうとしていた。確か寝る前に見た時は三時だったので二時間も眠っていたようだ。

 

「そういえば、エゾラさん。今日は学校から帰ってくるの早かったですね?」

「ああ、今日はこれといってやる事がなかったからね。早く帰って来たのさ」

 

彼女はケーキを食べながら退屈そうに答えた。何でも、いつもと変わらず美少女と美少年に生徒達は歓喜し、変態の三人が剣道部の女子更衣室を覗いたのがバレて部員達に竹刀でリンチされ。時々、旧校舎から悲鳴が聞こえるそんな日々だったらしい。後半二つはどう考えてもおかしいが、敢えて触れない。不用意に触れれば泥沼に嵌まるのは長い付き合いで嫌というほど肉体的にも精神的にも学んできたのだ。

不用意に触れれば、この前の廃工場みたいに…。

不意にバラバラの怪物の死体と赤い光景がフラッシュバックのように頭に過ぎ去り、黒い■■の笑い声が耳元で聴こえた。

 

「ウグッ、オッゲエェェェ」

 

僕は駆け込むように台所に入り、洗い場で情けなく吐いた。喉から流れる溶けかけた固形物と胃液が流れる不快感に身体が震える。

 

―――ああ、またか。

 

そう思いながら、酸っぱさの残る口を入れて吐き出した。そして、吐き切ったソレを視界に入れないようにして水で流した。

 

「ハァ…」

「ふふ、サカツキ君もいつになったら学ぶんだい?」

 

エゾラは僕が吐いたのを気にせず変わらずケーキを食べていた。その表情も変わらず笑みを浮かべている。

 

「君にとってアレの事を思い出せば、気分の一つや二つ悪くなって吐くのは自明の理だろ?」

「ええ、身を持って理解していますよ。ただ、その僕が何度も嘔吐しているみたいな言い方しないでください。若干傷付きます」

「ああ、悪かったね。まぁ、良いさ。僕は君が目の前で嘔吐しようが捨てたりはしないよ」

 

まぁ、僕に嘔吐物を付けたりしたら捨てるけどね。とエゾラは最後の一切れとなったケーキを口に入れた。彼女の言う通り本当に気に止めてないようだ。

 

「それそうとサカツキ君。君、僕の鞄を知らないかい?今日、学校から帰ってきて見ていないんだ」

「はい?そんなの今さっき起きた僕が知るわけないでしょう。最後に見たのは何時ですか?」

 

呆れながら答え、口直しにインスタントコーヒーを淹れ、それを飲みながら部屋に戻る。

 

「ああ、確か……」

 

エゾラは目を閉じ、空いた皿をホークで一定のリズムで叩く。

 

 カチン…カチン…カチン…カチン…カチン…。

 

何度かの皿を叩く音の後、彼女は目を開き僕を見る。

 

「思い出したよ。学校の帰りから机の横に提げたままだ。道理で今日の帰りは軽かったわけだ」

「持って帰ってくる段階から!?」

 

予想外過ぎる答えに呑んでいたコーヒーを噴き出した。

噴き出されたコーヒーを見て「行儀が悪いよ」とエゾラは自分に非難の目を向けてくるが、関係無い。自分の知る彼女ならば、この後の言葉はこうだ。

 

『そう言う事だから、持って帰って来てくれるかい?』

 

頭の中の彼女と現実の彼女の言葉が重なる。勿論、錯覚だ。

さて、彼女の理不尽な我儘はいつものことだし、それなりに長い付き合いだし慣れている。だから返す言葉はこれしかないだろう。

 

「嫌です。自分で行って下さい」

 

自分が出来る爽やかな笑顔を浮かべて僕は言った。

エゾラの下で働いてからというもの、雑用やらパシリに走らされる事が日常となっている。

彼女は上司と部下の関係を、飼い主とペットの主従関係と勘違いしているのではないだろうか?

 

「大体、何で僕が取りに行かなきゃならないんですか?」

「それは君が僕の助手だかさ?」

 

噴き出したコーヒーで汚れた床を拭きながら断る。

彼女の頼みに頷けばロクでもない事になると今までの経験が物語っているのだ。

 

「エゾラさん、今僕が気分を悪くして吐いたの見てましたよね?」

「ああ、見たよ。でも、それぐらい慣れているだろ?」

「……せ、生徒でもない人間が学校に入れますか?入れませんよね!」

 

しかし、エゾラは変わらず笑みを浮かべて紅茶を飲んでいた。

 

「君、こんな時間にか弱い女の子を学校に向かわせるのかい?もし、強姦魔に襲われたりしたらどうするんだい?」

「ッグゥ!」

 

見えない槍が心に刺さる。

確かにエゾラの言う通り外は夕日が落ち始めて、あともう少しで暗くなるだろう。遅い時間に女子高生を一人で学校に行かせるのは常識的に駄目であるだろう。

だが、まだだ。まだ、折れるのは早い。

 

「で、でも僕がエゾラさんの学校に入るのは」

「それにね、僕が出来ない事を君に頼むと思うかい?」

 

僕の言葉を遮り、そう言った。

そして、彼女はソファーから立ち上がり、物置と化した服の散乱した部屋に入り、服の山を掘り返し始めた。

 

「確か…。あ~これだよこれ」

 

帰ってきたエゾラの手には、所々に皺だらけのエゾラの通う高校の男子の制服があった。

 

「それって確か・・・」

「ああ、この前の仕事の時のだよ」

 

 それは三カ月前にあったとある依頼で、捜査のために貸してもらった制服だった。

 

「これを着ていけば問題ないだろう?」

ああ、やっぱりですか。と力無く答えて、僕は時計を見た。時間は丁度六を指している。確か此処からエゾラの通う高校までは電車で三駅程の距離だった筈だ。今から着替えて出たら六時四十分ほどには着くだろう。

僕はエゾラが持ってきた皺だらけの制服を貰い着替えた。財布をポケットに入れて僕は玄関に向かう。

 

「ああ、そうだサカツキ君」

「なんですか」

「君のために一つ助言をあげよう」

「はい?」

「木造の校舎とそこの関係者には気を付けた方が良い。あそこは一種の“たまり場”というものでね。君のような人間が行くと戻れなくなるんだ」

 

エゾラは謳うようにそう言って、ソファーに横になった。

 

「あと、もう一つあったよ」

「今度は何ですか?」

 

いい加減出たいと思いながら、僕は答えた。彼女はそれを敢えて気付きながら笑みを浮かべる。

 

「いや、なに。夜の公園は気を付けてね。要らぬ出会いがあるかもしれないよ?」

 

僕は返事をせず、今度こそ外に出た。

 

「ああ、でもサカツキ君の事だから関わってしまうだろうね。彼は運が悪(良)い」

 

 サカツキが居なくなった部屋で彼女は一人そう呟いた。

 




橋場「次回!夜の学校に向かうサカツキは、校内でポニテで胸の大きい女性と出会う」
絵空「彼女は初な少年を野獣のような本心を優しいそうな笑みで隠し、少年を人気もない場所へと誘導する」
橋場「二人は何故か体を密着させて、そのままの勢いでセ、グアアア」
絵空「作者が電撃で倒れた!?」
サカ「この人でなし!」

作者「次回、『夜の学校 おねs』」
サカ「それ以上はいけない!」
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