ブロリーの目が覚めてから数時間がたった。時刻は夜の12時である。
美鈴達は目が覚めてまだ日が無いから今日は休ませておこうと言う事でブロリーを部屋に一人にさせている。紅魔館組の判断はブロリーにとっても丁度良かった。
幾度と無く自らの体を見て、幾度と無く自分を殺そうと思った。だが、自らを殺す術をブロリーは知らない。ナイフやクリスタル等では幾ら今のブロリーの体が昔より劣っていても傷一つつかない。
ブロリーは手からでなくても気弾を撃つ事は出来る。その攻撃方法で自分の気弾を自分に当てて死のうとしても強い気弾を撃つ体力も無い。このまま無様に生きるしか無いのだ。
頭の中が空っぽになりながら窓の外を見つめる。何か考えようとするが案の定何も考えられない。元から考えるのが苦手なブロリーが情緒不安定な時に柄にもなく考えられる訳が無かった。
何もしない。ただ窓の外の欠けた月を見続ける。暇な時は何かを破壊した。だが今はその破壊の力は残されていない。今のブロリーはただ物事をたまに考え、動くだけの木偶の坊だった。
痛む傷を抑える事も出来ないまま、赤いベッドから憎たらしく煌々と光る月を朝が来るまで見続けていた。
*
朝。
早々と朝食の支度を終えたメイド長の咲夜は紅魔館の無駄に長い廊下をリズム良く歩いていた。咲夜が向かう先はブロリーの部屋だ。美鈴から起きたと言う話だけは聞いていたがその日は忙しかった為、挨拶に行かなかった。その為、今日に挨拶ついでに朝食にに来るように呼びに行くのだ。
ブロリーの部屋の前についた。男というのはうるさいものだと考えていた咲夜の考えとは裏腹に、部屋は気味が悪い程静かだった。咲夜が美鈴から聞いた話によると、起きて直ぐは本当に5ヶ月も寝ていたのか?と言う程質問をしてきたのだが、自分の体を見た瞬間に表情が一変し、生気が消えたと言う。
この部屋の静けさだと何だか死んでいる様で恐ろしくなる。
どちらにしろ部屋に入るしか無い。死んでいたら嫌だが火葬すればいいし、生きていたら朝食を食べて貰うだけだ。それにどうしてもブロリーには紅魔館の主から話を聞いて貰う必要があるのだ。
ふぅ、と大きく一息吐きドアノブに手をかける。 キィ‥ と言うドア特有の音を立てゆっくりと扉が開いた。
「おはようございます」
何時もの様に何事も無かったかの如く朝の挨拶をする。たが、ブロリーは窓の外を見つめるばかりで挨拶を返すどころか咲夜の方を見向きもしない。まあこんな事だろう、と咲夜は予想していたので、これと言った反応を示さなかったが、美鈴の言う通り後ろ姿だけでも生気の感じられない。だが、伝えなければならない事が山ほどある咲夜はブロリーが反応を示さなくても一方的に話しかける。
「目が覚めた様で何よりです。私、この館のメイド長をしている十六夜 咲夜と申します」
咲夜が自分の名を示した時、ブロリーはゆっくりと体を咲夜の方へと向けた。初めてブロリーの目を見た咲夜の率直な感想がこれだ。
(何て寂しい目をしているのだろう)と。
ブロリーの目にも勿論生気は無く、光が完全に失われていた。どこまても黒く濁った目は一片の希望も何も無かった。あるのはただの闇。世間一般では死んだ魚の様な目と言われるのだろうが、彼の目は既に死んでいた。
そんなブロリーが無機質な声で咲夜に問いかける。
「…お前が俺を…」
「お前が俺を」とは多分咲夜がブロリーを助けた事を言うのだろうと咲夜は予想した。
「ええ、私が貴方をここまで運んで来ました」
「…お前が……」
ブロリーの声がまた途切れる。生きていない目で咲夜を見つめること数秒、ブロリーはゆっくりと口を開き、咲夜にまた問いかけた。
「…何故‥俺を助けた……?」
「…え?」
ブロリーの口から咲夜にも予想外な言葉が吐き出される。これには流石の咲夜も返答に間が出来る。だが、直ぐに何時もの調子を無理矢理取り戻し、言葉を返す。
「何故って、それは貴方が生きていたからで「そのまま殺してくれても良かった」……!」
割り込む様に飛び出したブロリーの言葉。その言葉に驚き、自身の言葉を見失う咲夜に対し、ブロリーは関係ないとばかりに続ける。
「…俺が生きていても何も生まれない。逆に壊れていくだけだ。…それに…こんな体で生きている位なら……死んだ方がマシだ…!」
吐き出される様に出た言葉に咲夜は頭が真っ白になった。咲夜にもブロリー自身に対して質問があった。だが、その質問の殆どが吹っ飛んでしまった。だから、咲夜は唯一絞り出した質問をブロリーに投げかけた。
「…1つ教えて。貴方が寝ている時にも何度も呟いていた『カカロット』って貴方にとってどういう存在なの?」
つい素に戻ってしまった咲夜の質問を、ブロリーは抑揚なく答える。
「…俺を殺した奴……俺をこんな体にした俺の宿敵…」
「貴方はその人をどうしたいの?」
「…俺は奴を殺したい…だが……その力はもう俺には無い…俺にとっての生きる意味も…何もかも失った……」
「貴方にとって生きる事ってどういう事なの?」
「…俺はただ俺の本能のままに生きてきた…
破壊、破壊、破壊、破壊……。
…俺は破壊以外の術を何を知らない…破壊する事が出来なくなった以上、俺は…生きていても何も出来ない……」
…なるほどね。彼の素性や今までの人生が大体分かって来たわ。
咲夜の質問に機械の様に淡々とブロリーは答える。
その答えを聞き、彼の人生を簡単に推測した。きっと物凄く過酷な生活だったのだろう。生きていた中で破壊する事しか教えて来られなかったか、彼の力は何かを破壊する事しか出来ないのか分からない。だから、彼は自分の力に支配され、自分の力で全てを手に入れて来た。いや、手に入れたい物も全て破壊したのだろうか。どちらにしろ彼には何かを壊すことしか人生の中に無かったのかもしれない。
その力を駆使してカカロットと言う人物と戦い、そして負けた。どうやって彼は力を手に入れたかは分からないが、多分彼は自分の力に慢心して負けたのだろう。
そして、彼は力の戻し方を知らない。何かを失ったら戻せないと錯覚してしまっているのだろう。きっと沢山の戻せない物、つまりは命を奪って来た。彼は自分の腕も、元の力も全てを失い、今の彼には絶望しか残されていない。
咲夜は諦めることが嫌いだった。主に無理難題を押し付けられても可能な限り全力でこなして来た。だから咲夜は努力もしないで無理だとほざくこの男が嫌いだ。
だから、この男に示さなくてはいけない。人間と言う者はこんなにも簡単だと言う事を。
「貴方は何で諦めているの?」
咲夜の質問にブロリーは少し呆れた様な顔を一瞬だけ見せたが、質問には律儀にも答えてくれた。
「…無くなった物は戻せない…」
「何でそう言いきれるの?貴方は自分の無くなった力を少しでも取り戻そうとした?」
「…そんな事をしても意味が無い」
「やって見なくちゃ分からないわ。腕だって、今は確かに治療法は無いけど貴方は未来が見える訳ではないでしょ?だから今諦めて明日にも治療法が見つかったら損だと思わない?」
「……………」
『やって見なきゃ分からない』
この言葉は新惑星ベジータでブロリーの手によって窮地に追い込まれた悟空がブロリーに言い放った言葉だ。
圧倒的力の差の中、悟空が仲間の力を集め一時的にブロリーの力を上回り、ブロリーを倒した。
この例をブロリーはしっかりと覚えていた。ブロリーが雑魚と言った者達、確かに単体で見ればブロリーにとって雑魚そのものだろう。だが、その力が集まった結果がブロリーを超えたのだ。
「……!!」
…ここでブロリーは気付いた。あの時カカロットは『やって見なきゃ分からねぇぇ!!』と言い、そして『仲間』の力を集めた。そしてカカロットの『力』が上がった。
ここで重要なのは『やって見なきゃ分からねぇぇ!!』『仲間』『力』と言う単語。
つまり仲間のとやる気があれば力が上がると単純脳のブロリーは考えたのである。
「…なるほど、確かにお前の言う通りだ…」
「そうでしょ?なら朝食食べて力をつけなくちゃ」
「ふん、俺に命令するな」
ブロリーの瞳に微かな光が現れる。それを確認した咲夜にも、微かに笑顔が戻った。
「それでは、食堂まで案内致します」
「…切り替えが早いな。親父みたいだ」
「ブロリーさんのご両親がどのような方かは存じませんが、光栄ですわ」
「…なるほど、女と言うのはこういう生き物か」
自然に出てくる言葉にブロリー自身不思議に思えた。彼は他人と50文字以上の会話をした事がないからだ。新惑星ベジータでカカロットと喋った気がしたが、あれはブロリーが一方的に喋っていただけで会話とは思えないものだったからだ。
父親とも話をした事があるが会話と言うか言葉のキャッチボールで大体終わっている。
何故こんなに自分が喋れるのか、ととても不思議に思うのだがそれは多分ブロリーが美鈴や咲夜に毒されたからなのだろう。
(俺はおかしくなったのか?)
と考えながら布団から起き出る。確かに体を曲げて布団から出たら傷口が開いて痛いが、ブロリーには舞空術が勝手に身についている。その為、ベッドで寝ている姿勢のままで移動をする様にした。
「…ちょっとその姿勢はどうかと思いますよ」
「何故だ?」
「え〜と…不思議と言うか、気持ち悪いと言うか…」
今の宙に浮いている状態のブロリーは確かに咲夜が言う様に気持ちの悪い飛び方をしていた。腰を曲げない様に背筋を伸ばして飛んでいる為、少し怖い状態になってしまっているのだ。それに加えて黒ブロリーは大体の時間無表情でいる。
皆様も想像してみてはいかがだろうか。両手が無い上半身裸で身長約2mの無表情の男が直立不動で浮きながらゆっくりとこちらへ近づいて来る姿を。それが夜中ならば尚更恐ろしいだろう。
その姿を見て、咲夜は他のメイド妖精達の地気に関わるのでは無いかと考えた。
「歩けないんですか?」
「いや、歩ける。だが痛い」
「痛い?」
「俺が歩くと傷口が広がってしまうからだ。外部からの攻撃なら楽々耐えられるのだが、体の中からダメージが来るとなると流石の俺も耐え難い」
ブロリーの理由に咲夜は納得する。だが、そこに更なる疑問が生まれた。
「傷口ならもう完璧に塞がっている様ですが?」
「何ぃ?」
上半身裸のブロリーの傷口は誰が見ても開く事は無い様な傷口だった。サイヤ人は人間より遥かに回復率が早い。それは心身的にサイヤ人を辞めたブロリーも変わることは無い。それに加え戦闘種族の特徴で回復の為に長時間の睡眠をとり復活した場合、体の動かし方を完璧に覚えている。つまり人間で数十日リハビリが必要な程昏睡状態でもサイヤ人ならば起き上がって1分足らずで満足に動く事が出来る。
だがそれも傷が完璧に治っていたらの話。
ブロリーの場合は傷口が塞がっておらず、動くと激痛が走ると言うものであった。だが、1000年に1人しか産まれないと言う伝説の超サイヤ人たるブロリーは普通のサイヤ人よりも回復が早い。それ故死の淵からブロリーの意識が戻った事によってブロリーの体が覚醒し、回復速度を早めたのだ。
鈍感なブロリーはそれに気付かずまた傷口が広がる事を恐れ、舞空術を直立で使用した。理由としては当然ではあるが、やはりブロリー馬鹿である。
「…ふむ、確かに傷は塞がったか。なら早く飯食いにいくぞ」
「分かりました。それでは朝食が冷めてしまう前に行きましょう」
「どれくらいかかるんだ?」
「普通に歩いて5〜7分程でしょうか」
(…本当にただの屋敷なのか?軍事要塞なんじゃ無いのか?)
サイヤ人としての自分を消し、新たな力を手に入れる為にブロリーは動き出す。力も自身も何もかもを失った彼は負の運命を変える事が出来るだろうか。
全てを取り戻し宿敵を倒す為、悪魔と呼ばれた伝説の破壊者はここに蘇る。
いかがだったでしょうか?
ちょっと終盤ブロリーがキャラ崩壊したかと思いますが、次はちゃんと原作通りのキャラにしたいです。
え?もう遅い?