円環少女×魔法科(サークリット×マギテクス)   作:象印

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細かい世界設定、複雑な魔法理論、強烈なキャラクター…
クロスオーバーに絶対向いてないと断言できる二作品…
ゆっくりと書いていこうと思いつつ投下。


Introdution Part 1

「魔法」が、おとぎ話や空想の産物でなく、現実の技術を指す言葉になったのは、現在よりおよそ一世紀前のことだ。

 

超能力研究の中で生まれた「魔法という技術《マギテクス》」。

 

事象に付随する情報を書き換えて、現実を改ざんする魔法師の存在は、いくつかの専門用語とともに急速に世界に浸透していく。

核ミサイルすらねじ伏せる魔法師たちは、国家にとって力そのもの。

 

二十一世紀末ーー2095年になってより一層国際紛争が身近になった時代。

軍事力とは魔法師であり、世界の国々は、優れた魔法師の育成に躍起になって取り組んでいた。

日本もまた、例外ではない。

国立魔法大学、およびその付属高校、通称「魔法科高校」

ウィードとブルーム。一科生と二科生という特殊な制度を持つ魔法科高校に、今、とある兄妹が通っているのだった。

 

 

国立魔法大学付属第一高校に入学して約一週間ほどで、司馬達也は「学校に通う必要はなかったのではないか」と真剣に考えてしまう自分がいることに気づいた。「妹のボディーガード」という特殊な事情を抱える達也だが、クラスが違うため午前の大半は妹の状況を確認できない。なにより彼を後悔させているのが、今すすんでいる授業だ。

 

『えー、12ページにあるように、魔法は情報次元イデアに記録されている情報体エイドスを改変する事象のことを言います。イデアにはあらゆる情報が蓄積されていて、私たち魔法師は魔法式をもちいてこれらを改ざんします。

イデアというインターネット上にあるファイルを、魔法式というプログラムをもちいて、一時的に違うものにしてしまうわけですね。魔法式はサイオンという物質から構成されていますがーーーー』

 

明らかに高校の授業レベルを超えているのだが、達也にはレベルが低すぎて、退屈で仕方がない。今話していることなど、基本中の基本。なんだったら、自分が教壇に立ってもいいくらいだった。

はっきり言えば、時間の無駄。魔法科高校に通うことで達也に有用なのは、卒業することで得られる評価や資格、それに寄贈されている資料くらいか。

(もっとも、苦戦しているものもいるくらいだが)

現に達也が机から目を移せば、授業についていけてない生徒は何人かいた。

目の前の西城レオンハルトはその筆頭だ。山岳部への入部を決めているだけあってがっしりした体つきの男だが、今は夢の世界に旅立っている。教室の中で一番安らかな顔だった。教師の女性は苦戦している生徒のペースに合わせようとはしない。電子黒板の向こうで3クラス同時に授業を行っているから、一人一人に合わせることなどできないのだ。

 

 

一時限目が終わり、電子黒板の電源が切れると、教室内はため息で満たされた。達也もため息をついたが、ため息の理由をクラスメートと共有することはできない。

 

「達也、ノート後で見してもらってもいいか?」

「レオ、それくらいちゃんと自分でとれ。」

 

あらゆるものが電子化した時代の中でも、紙の需要は必ずある。といっても、保存性と隠密性の高さを買われているのであって、学校という環境ではタブレットに打ち込む方が便利なはずだ。それなのに、生徒たちがなぜか紙とペンに愛着を持つ理由は、達也にはよくわからない。

わりいな、と笑うレオの机の上で開いた大学ノートは、三行目あたりでもう字がのたうっていた。基礎魔法理論は必修科目のはずだが……

 

「サンキュー」

「まだ授業は始まったばかりだろう。かなりまずいんじゃないか?」

「心配すんなって!どうにかなるだろ!」

 

気楽に笑うレオンハルトだが、達也はたいして心配していない。実際どうにかなるのだろう。二科生とはいえ、国立の狭い門をくぐり抜けてきたのだから、他の生徒たちの中でも本当についていけてないものはいないはずだ。

 

「あーら、アンタそんなこと言ってもあとで司馬くんに泣きつくんでしょ?」

 

からかい目的でかけられた声に、レオンハルトは眉をひそめて振り向く。彼より頭一つ分小さい美少女が、不敵に笑っていた。栗色のショートカットが活発な印象を与える千葉エリカは、学年内でもトップクラスに顔立ちが整っている。相性がいいのか悪いのか、顔を合わせれば口論が始まるのがレオンハルトとエリカ、二人の関係だった。

 

「ハッ、よく言うぜ。泣きつきたいのはそっちなんだろ?」「あたしは別に大丈夫よ?誰かさんと違って、朝から寝たりしてないもの。なんならノート見せてあげようか?」「余計な御世話だっつーの。俺には達也がついてるからな」「ほら、結局は泣きつくんじゃない。司馬くんがかわいそう」

 

「司馬くん、さっきの授業、どうだった?」

 

二人が言い争いを続ける中で、達也に声をかけた女生徒の名前は柴田美月。丸いメガネをかけた彼女を合わせたこの三人が、1−Eでいつも達也が親しくしているグループだ。

 

「始まったばかりだからな。そこまで難しくなくてよかったよ」

「…じつはエリカちゃん、さっきまで私のノート借りてたんだよ。自分のノート見返してもわからない〜って」

 

くすくす笑う美月に、達也もつられるように口を歪める。「…なんだか悪い顔してるね」と、美月からぽつりと声が漏れた。

 

「…やるか?」「やめといたほうがいいわよ。自分よりちいさな女の子に泣かされたくはないでしょ?」

 

レオとエリカの喧嘩は、いよいよもってヒートアップしていた。にらみ合う二人の視線は、火花でも起こしそうな熱をもっている。次は移動教室だからという名分のもと、クラスメイトたちは次々と教室から逃げ出していく。二人の仲介に回るのが、すでに達也に任せられた仕事の一つになりつつあった。

 

 

 

国が主体となった「超能力」の研究が始まったのは、現在から100年前のことだ。核兵器による巨大なテロを止めた「最初の魔法師」たちは、まるでアメコミのヒーローみたいにもてはやされ、彼らの力のメカニズムは研究された。

紆余曲折を繰り返して、「超能力」は「魔法という技能」となった。

先天的な適性は必要なものの、それは芸術の分野などにも通じる話。上手下手はあれど、絵を描けない人間は存在しない。

「魔法技能《マギ・テクス》」のプロフェッショナルたちは、一様に「魔法技能師(魔法師)」と呼ばれることになる。

優れた魔法師は国防を担う重要な要素となった。生まれて100年しかたっていない「赤ん坊」の技術が、現行の兵器のほとんどを無力化することに成功したからだ。100年のうちに行われた世界大戦がそれを証明した。

戦闘機をねじ伏せ、艦隊をなぎ払い、戦車一台分に相当する。ミサイルも、銃弾も、手りゅう弾すらも無効化する。

コスト、戦闘力ともに圧倒的な力を誇る魔法師は、国家にとって強力な兵器と言って良い。

 

こうして、現在は魔法師こそが国力の時代となった。

軍事予算のほとんどは魔法師の育成に当てられ、魔法科第一高校のような教育施設もできた。

その魔法科第一高校の生徒会室で、司馬達也は昼食をとっていた。

 

「お兄様、こちらはいかがですか?」

 

となりに座って甲斐甲斐しく達也の世話を焼くのは、妹の深雪である。学年で一番の才女であり、現時点でも魔法師としての実力はこの学校の五指に入るだろう。容姿すら他者を隔絶する少女の服には、花を模したブローチが付けられていた。

 

「ああ。おいしいよ、深雪」

「どんどん食べてください。お兄様のために朝から頑張ったんですから」

 

つぼみがほころぶかのように、満開の笑顔をうかべる深雪。妹の笑顔はあまりにも可憐で、達也の授業の疲れなど吹き飛んで行ってしまう。やさしく笑い返すと、深雪は顔をまっかにするものだから、余計に愛おしく思う。

 

「あの、達也くん、深雪ちゃん…ここ、一応公共の空間なんだけど…」

 

生徒会室で展開される甘い空気に耐えられず、この部屋の主である七草真由美は声をかけた。風紀委員会と生徒会の親睦の意をこめて開いた食事会であったが、集まった役員の多くは気まずそうにしている。一年の森崎駿にいたっては目から光が失われ、箸でつかむ先から弁当の具が溢れている。ときおり「そんな…司馬さんが…そんな…」と聞こえてきて、不気味きわまりない。

 

「あ、会長…すみません、今お茶を淹れますね」

「深雪、おちつけ。会長のカップはまだ空じゃない」

「なんていうか、その…すごいわね。いつもそんな感じなの?」

「ええ、まあ」

 

生徒会室に集まった役員男子の心は、魔法もないのに完全にシンクロする。つまりはーー

 

       《司馬達也爆発しろ!!!》

 

「…なんだ?急に寒気が」

「まだ春先ですから、お身体を冷やしたのでしょう。あたたかいお茶を淹れてきますね」

「…まあいいわ。二人について聞くのはまた今度にしましょう」

 

手を叩いて注目を集めると、真由美はいくつか事務的な話を伝えた。

主な内容は、今行われている新入生歓迎活動についてのことだった。

21世紀は魔法師育成全盛の時代。国立の魔法科大学付属高校には多額の予算が降りているから、生徒数とは裏腹に部活がかなり多くなっても学校で維持できる。

部活が多いのに、新入生が少ない。となれば新入生の取り合いが始まる。

新歓期間はデモンストレーションのため魔法の使用が許可されている…など。

ほかにも幾つかの事情があって、新入生の取り合いから魔法の乱用に走る生徒は毎年のようにいる。

こうした諍いを止めるのは、風紀委員の新年度最初の役員業務である。

 

「ーーーということで、放課後は忙しいですが、みなさん頑張ってください。それでは昼食会は解散。次の授業には遅れないようにね」

 

 

 

風紀委員の事務仕事を終わらせると、もうすっかり夜になっていた。

深雪といっしょに帰宅して、夕食を食べ終わった後、達也はたいてい、自分と妹のCADをチェックしている。

CADは、デバイス、アシスタンス、ホウキなどさまざまな呼称があるが、正式名称は「術式補助演算器」。要は、おとぎ話の魔法使いが使う杖や魔法書、その現代版だ。

そもそも魔法は現代魔法と古式魔法のふたつに大分される。

 

 

超能力から発展した現代魔法は補助にCADを用いるものの、基本的に魔法の発動に思考以外のプロセスを用いない。

それとは違って、思考以外のプロセスも用いるものが古式魔法。「古式」と名のつくのは、これらの魔法がどうやら現代魔法より「昔からあった」からだと言う。

古式魔法は術が複雑で、ひとくくりにするにはあまりにも多様性があるぶん、扱う魔法にはかなりの個人差が出る。

現代魔法は限られた人にしか使えない超能力を、簡易に使えるようにシステム化、系統化されたものであり、現代魔法をサポートするCADの用途もそれと同じだ。

まとめるなら、古式と現代式の違いはあくまで発動プロセスの違いであり、発動する魔法の種類の違いではない。

十師族の一門である九島家は、「古式魔法を現代魔法で再現する」ことを研究しているのは有名な話である。

 

 

それはさておき、CADの中には魔法の起動式が収納されているが、これはプログラムのインストーラに相当する。現代魔法師は体外のCADから取り入れた魔法の起動式を、無意識下にある魔法演算領域内に取り入れ、起動式から魔法式を展開する。

この方式では魔法式を記憶することにリソースを裂かずにすむため、CADがあるのとないのでは発動速度や魔法師にかかる負担がぜんぜん違う。

この精密機器は、正しく現代魔法師の生命線と言えるだろう。

兄とはいえ、自分の生命線を他の人に預ける深雪のような人間は魔法師にはまずいない。CADの調整を任されるのは、相手の魔法師にとって最上級の信頼の証なのだ。

 

CADの微調整をあらかた終わらせて、達也は休憩に入った。席を立って、作業用とは別の机に移り、本を取る。タイトルは「伝承と魔法の関係性」

はっきり言えば、ちゃちなゴシップ記事並みにひどい読み物だった。

「魔法技能」が誕生した当初、宗教に見られる奇跡や、伝承の妖怪、神話の神々、その正体が検証されることは多々あった。この本はそれらについて綴っているようだが、話のつながりがまるでわからない上、ひどく支離滅裂である。

正直つまらなすぎて仕方がない。あげく最後には「宇宙人は魔法師」といいだす始末。

最初は真面目に読んでいたものの、途中からばらばらとページをめくるだけの作業になった。最終章に差し掛かる頃、扉を叩く音がした。

 

「お兄様、そろそろ休憩になさってはいかがですか?コーヒーをお持ちしました」

「ああ、今いくよ」

 

達也は本を机に置いて、部屋を出た。入り口に立っている深雪に、今日はリビングで休憩したいと言った。

 

 

 

ーー「魔法」は、おとぎ話や空想の産物ではなく、現実の技術となった。

ーー「技能」となった魔法が、「おとぎ話の理由」になったのも、また同じ時期だ。

 

『神話の神々の正体は、古代の強力な魔法師である』

『民間伝承に残る妖怪伝説の正体は、古式魔法師の魔法である』

 

……極端なことを言ってしまえば。

人類は「魔法」に逃げた。

神話の奇跡を分析することなく、おとぎ話を深く考察することもなく、その理由を「魔法だから」「魔法師だから」と割り切った。

 

そうやって割りきった理由は、「割り切らなければならなかった理由」とはどこにあるのだろうか。

 

ーーそれは恐怖かもしれない。

ーーもしも

ーー神話の神々やおとぎ話の怪物の正体が、人類の知る「魔法」でないのなら

ーーそれらをいったいどう説明すればいい?

 

 

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