円環少女×魔法科(サークリット×マギテクス)   作:象印

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話の都合上、レオンハルトが一人暮らしを始めています。ご了承ください。
膨大な設定に圧殺されそうになりつつ投下


唐突にも時は来たれり Part 1

西城レオンハルト。15歳、魔法科第一高校一年E組。学校では山岳部所属。

身長180センチジャスト、体重75キロ。

魔法科高校では二科生ながら、得意の硬化魔法は強力で、並の魔法師にも引けを取らない。現代魔法には珍しく、近接戦闘を主体にするタイプ。詳しくは『調整体魔法師・城壁シリーズ(ブルク・フォルゲ)』ページを参照のこと。

父がハーフ、母がクォーターという血筋。もっともこれはかつての魔法研究の名残であるため、魔法師の中ではハーフやクォーターは珍しくない。血筋からか、顔立ちはやや日本人離れしている。

明るい性格だが、少し負けず嫌いの気がある。曲がったことが許せないが、人の秘密は守るタイプ。

3年前、子供を助けて大怪我を負う。

司波深雪、司波達也両名と親しい。

それなりによい条件だった。完璧とはいかないものの、そこは状況次第でどうにでもなる。

「…決めた」

どこかで、誰かが呟いた。

「この人にしよう」

 

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西城レオンハルトには深夜の彷徨癖があって、小さい頃はよくそれで母や姉を泣かせたものだった。

始まりは小学一年の夏。友達の家に泊まりにいったレオ少年が、夜になって突然家を抜け出したと大騒ぎになった。

埼玉の草加にあるレオンハルトの実家、その裏にはまず子供が一人では立ち入らないような大きな山がある。

人づてに聞き周り、山に入っていく子供を遠巻きに見たと話を聞き、家族はずいぶん必死にその山を探し周ったらしい。

結局、二時間近く探しても見つからなかったレオ少年は、木の棒片手にひょっこり帰ってきた。

父は怒り、母も怒り、姉は泣きじゃくりと、ずいぶん大変な有様だったそうだ。

しかしその中で、『さすがはわしの孫だ』と。

当時まだ生きていた祖父が豪胆に笑っていたことを、レオンハルトはよく覚えていた。

 

レオンハルトの祖父は、ドイツから日本に嫁いできた。かつて、遺伝子操作による魔法師調整技術に一日の長のあったドイツは、魔法師の物理耐久の低さを嘆き、「魔法を併用できる超人兵士」を開発した。「城壁(ブルク・フォルゲ)」と名付けられたその魔法師たちは、人間よりも頑強な大型哺乳類の遺伝子構造を参考に調整されたと考えられている。

レオンハルトの祖父はその最後の生き残りだった。「城壁シリーズ」は幼年期での死亡例が多く、生き残り成長しても発狂死する事例が見られた。なぜ彼らが死んだのか、レオンハルトは感覚的にその理由を見つけている。

 

彼らはきっと、自分の内側に眠るこの衝動を抑えようとしたのだ。

獣の因子が埋め込まれた「城壁シリーズ」第一世代の魔法師たち。

超人的な身体能力を持ちながら、ときおり来る衝動に向き合わず、押さえ込もうとした。

彼らは、日に日に膨れ上がる衝動に心を軋ませ、やがて耐えきれず、壊してしまったのだ。

だから死んだ。だから、ありのまま自分の生き様を貫いた祖父が天寿を全うしたのだ。

祖父のように生きれば、自分が狂うことはない。

レオンハルトのその考えは、信仰の域まで昇華しているとみてよいものだった。

 

こうしてみると、西城レオンハルトがその明るいキャラクターとはかけ離れた、自分への恐怖、嫌悪の念を抱えていることがわかる。

高校生になる際に、レオンハルトが実家を飛び出して一人暮らしを始めるようになった理由も、ここにあった。

「夜を彷徨う」衝動に逆らわない彼は、この日も自宅を飛び出したし。

高校生とはいえ、一介の魔法師であるレオンハルトが、それを見つけるのもおかしい話ではなかった。

 

 

 

「…なんだ、あれ?」

Tシャツにジーンズ、スニーカーを履いてCADも身につけない。

あんまりにも不用心な格好で、レオンハルトは夜の八王子を歩いていたところだった。

ボソッとつぶやく彼の目線の延長には、月明かりと、天を指すビルしかない。

ただし、それは一般人、ありていに言うならば、非魔法師の話だ。

魔法師達は普通、サイオンを光として見たり、音として聞いたりすることで知覚することができる。

サイオンの色や音は波長によって決定し、波の長さはその空間に含まれるサイオン(情報素子)の密度を示している。

例えば現代魔法を発動する際、魔法師達が使うサイオンのほとんどは青く見える。現代魔法は発動速度を優先する為、媒体に使うサイオンは、「ごちゃごちゃしていない(密度の低い)」ほうが良いからだ。レオンハルトはこうした話を、クラスメイトの司波達也からよく聞かされていた。

それを踏まえても、レオンハルトは己の目を疑った。

 

 

彼の眼前に現れているのは、天を貫かんとばかりに伸び上がる赤光の柱だった。遠目に見てもわかるくらいには太く、柱は火のようにゆらめき、時折渦巻くように動く。炎の竜巻とも形容できるそれに音はなく、ただ揺らめくだけ。

何度も何度も目をこすって見たので、じわりと涙が浮かんだ。頬をつねることがなくても、春先の冷たい風が、ここは現実だとレオンハルトに教えていた。

 

「サイオンなのか…あれ…?」

 

彼のすぐれた視力は、揺らめく赤い光柱から吹き出す赤い粒を捉えていた。光の柱から離れるにつれ、粒はその色を赤から青へと転じて消える。青い光は、紛れもなくサイオンだった。

つまり、とレオンハルトは考えをまとめた。

眼前の、音もなく立つ赤い光の柱は、サイオンでできている。

赤いサイオンの光は、その空間内にあるサイオンの密度が恐ろしく高いこと、あの柱には膨大なサイオンが含まれていることを示している。

では、あそこまで膨大なサイオンを集める理由は?

「…誰かが、なんかでっかい魔法を使おうとしてるのか?」

うーん?と頭をひねりながら、レオンハルトは足を速める。

「こんなに明るいのに、なぜ人が来ないのだろう?」という疑問は、彼の中に一片も浮かばなかった。

赤いサイオンの柱は、彼を迎え入れるように揺らめいている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

誰かが、どこかで、何かをしている。

 

「…ここを、動かして…こうか」

 

誰かは、女性だった。それ以外はわからなかった。

彼女はいったいどこにいる?動かすとは、何を?

 

「…よし、これでちょっと様子を見よう。

うまく動いてくれればいいけど…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

かつて中世ヨーロッパの時代、西ヨーロッパ全体には「黒い森」が広がっていた。

現在ではドイツ南西部でしか見る事のできない、モミの木を中心とした針葉樹林は当時の人々にとって、「日常」とはかけ離れた「そばにある異世界」である。

光の届かない森は、狼や盗賊の根城であり、森の奥には魔女や怪物がいるとされた。

実際に、ヨーロッパの民話、童話には森を舞台にしたものは多い。森には用心しなければならないという教訓からだ。

光の届かない暗がり。最も近い異世界。

レオンハルトの歩く道もまた、八王子にできた「黒い森」だったかもしれない。

 

曲がり角を曲がり、小道をかき分けるように進む。

引き返すべきなのかと思った。ここまで必死に歩き続ける必要があの赤柱にあるのか、よくわからなくなってきた。

ごくりと唾を飲み込む。足が、体が、しかしレオンハルトを裏切って進む、進む。

衝動が、己の本能が告げていたのだ。

行け。

振り返るな。

行け、と。

 

 

また一つ道を曲がったとき、雲が晴れ、月明かりが無明の闇を照らし出した。

長いトンネルを抜けたその先のように、その場所はひどく眩しい。

彼女は、そこにいた。

 

 

 

 

 

少女が、裏路地に背をつけて座り込んでいる。暗がりにいて顔はよく見えない。

「おい、大丈夫か?」

近づきながら、優しく声をかける。

レオンハルトを押すように、風が裏路地の奥へと流れていった。

少女とは言ったが、中学校くらいだろう。ブレザータイプの制服なのに、ワイシャツの上には黒のパーカーを羽織ってることがわかる。家出したのだろうとレオンハルトはあたりをつけた。大柄な彼よりふたまわりも小さい女子中学生は、はあはあと荒い呼吸を繰りかえしている。レオンハルトのかけた声も聞こえていないのだろうか。うなだれた眼は固く閉じられて、白い首筋には汗がじわりと浮かぶ。乱れた黒髪が張り付いたうなじが見えて、レオンハルトはごくりと喉を鳴らした。

口を開けて出した言葉に、邪な思いはなかった…と思う。

「あのさ、君、なんでこんなとこにいるんだ?」

 

「こんな遅い時間まで、親に心配かけちゃダメだぜ」とつづけようとしたレオンハルトは、異臭に気付いた。

つんと鼻をつく、錆び付いた鉄の匂い。

(なんだ?)

しゃがみこみ、女子学生を見る。

暗がりでよくわからなかった。

黒のパーカーも、パーカーの下の白いシャツも、べっとりと血で濡れている。

 

「う、うおおおおっ!」

反射的に後ずさる。顔を歪めるレオンハルトを意にも介さず、彼女は荒い呼気を吐き続ける。

女学生は右手をパーカーの上から脇腹に当てていた。血のシミは薄手のパーカーなどたやすく貫通して、右手を濡らしている。

止血しなければでは命に関わるだろうと、レオでもわかるほどの重傷だった。

 

「おいっ、しっかりしろ!寝るなよ!今救急車を呼ぶからーー」

「病院は、だめ」

 

一瞬、時間が止まったのかと思った。

 

「お願い…病院は…だめなの…」

 

かすれるような声を出して、彼女はレオンハルトに腕を伸ばしていた。あまりにも突然だったから、迫る手を避けられなかった。脇を抑えているのとは反対の方の手が、唇に触れる。

続く声が出なかった。口に当てられた指が、血と砂でザラザラとしている。少女が、目を開いた。

眼が合う。透明感のある薄茶色。あめ色の瞳が、レオンハルトの動きを止めた。まるで、魔法のように。

彼の眼は、自然に指の先を追っていた。白い腕。汚れた黒のパーカー。血にまみれた白シャツ。脇腹に手を当てる右手ーー

 

 

(ーーなんだ、あれは)

 

暗がりの中、右手に光があった。自然にはない、緑色の淡い光が当てられ続けるたびに、彼女の呼吸はリズムを取り戻してゆく。

レオンハルトにはそれが、自分の知らない「魔法技能」に見えた。

 

(サイオン?この子、魔法師か?)

「警察も、だめ…こうかんに…」

「お、おい!」

 

口に当てられた指が、力をなくして落ちた。右手の光も消えて、彼女は意識を失いレオンハルトの方に倒れる。体は軽くて、それ以上に冷たい。呼吸のたびに体が動かなければ、死んでいるのかと思いそうだ。あたりを見回したレオンハルトは、ポケットから携帯端末を取り出すが、すぐにしまった。やがて彼女を背負って歩き始める。ビル風は彼らを押すように、一度だけ強く吹いた。

 

 

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