円環少女×魔法科(サークリット×マギテクス)   作:象印

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物語全然進んでない!と読み返して泣きそうになりつつ投下



唐突にも時は来たれり Part 2

「くそっ…何やってんだ、俺は」

自宅に帰ったレオンハルトは、服と床についた血に顔をしかめながら、似合わない泣き言を吐く。

大怪我を負った女子中学生を発見した彼は、病院へは行かずに彼女を背負って自宅へもどった。彼女の要望どおりにだ。

「身元のわからない女の子が、深夜に大怪我を負っていて、しかも病院へ行くなって…」

布団に寝かせた少女は、身につける服の他に何も持っていない。財布も、タブレットもだ。

魔法科高校の入試成績がさほどよろしくない彼でも、これが『やばい事』なくらいわかる。

本来なら、彼女を病院に連れて行くとか、警察に事情を話すのが、自然な方法なのだろう。関わらないことも、選択肢の一つだった。

ただ、レオンハルトには彼女を見捨てることはできなかったし、彼女が重傷を負っている中で伝えてきたメッセージを無碍にしようとは考えなかった。倫理的にその行いが正しくなくとも、あの時のレオンハルトはそれを選択した。

『病院はだめ…こうかんへ…』

「コウカンって、なんだ?」

 

レオンハルトの部屋に救急用の道具箱があってよかった。たとえ深夜でも、止血処置の方法はネットにあるナビゲーションシステムが丁寧にガイドしてくれる。さらに言えば、レオの一人部屋にはないが大抵の家庭にあるHAR(ホームオートメーションロボット)は、一人暮らしの高齢者のため、AEDほか救命処置や、家族への連絡も行ってくれる。もはや人間の生活は魔法師、非魔法師関わらず、インターネットが第一条件である。

 

「なんだ…これ…?」

ナビシステムの「服を脱がせて下さい」という、ちょっと悪趣味に聞こえる自動音声に従い、彼女を下着姿にしたレオンハルトは声を失った。

息の詰まりそうな白い体。

その体を真っ赤に染める鮮血。

そして、彼女が自分で抑えていた脇腹に浮かぶ、淡い緑の光。

円形の幾何学模様。

 

魔法師の世界と、魔法使いの世界。二つの世界の交錯は、ここから始まる

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まどろみの中、レイチェル・アリューシャは夢を見ていた。白く、奥行きの分からない空間の中。夢に出るのはいつも、母と幼い自分。

レイチェルは父の顔を見たことがない。「とおいところ」にいる父について話すとき、母は母親じゃなくて、女になる。しぐさや、話し方の全てが、母と父が遠く離れても繋がっていることを教えてくれる。

お父さんの、どこが好きなの?とレイチェルは聞いた。

『全部よ』と、母が誇らしげに答えたことを、レイチェルは覚えている。

『あたしのお母さん、つまりあんたのおばあちゃんはね、自分のためにカミサマにケンカを売ったわ』

『でもね。あの人は、あたしのために、カミサマだけじゃなくて、世界にまでケンカを売ったの。あの人だけが、あたしのぜんぶを許してくれた』

『だからあんたにも、そういう人が見つかるといいわね』。そう言って笑った母に、幼いレイチェルは何と答えたのだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「母さん…」

目に飛び込んだのは、天井につけられたLEDの白色光。レイチェルは目を細めた。起き上がる。

布団がかけられていたことと、自分が下着姿なことには同時に気がついた。羞恥から隠すように布団を持つと、脇腹がずきりと痛む。呻き声が漏れた。

「あたし…なんで生きてるんだろ…?」

記憶を掘り返す。レイチェルは因果大系の魔導師アスラガルドと戦闘し、これを撃退した。だが、敵の最後の一撃は脇腹を撃ち抜き、彼女は死ぬはずだった。

意識のない間、いったいなにが起きた?

それらレイチェルの疑問を中断するように、部屋の扉が開いた。

(しまったーー)

右手を強く握りしめて振り向く。

こめかみに薄らと汗がにじんだ。

ーー《魔力》のチャージは心もとないけど、やるしかない!ーー

 

入ってきたのはロボットだった。

 

『Good Morning(目は覚めたか?くそったれ).オハヨウゴザイマス。本日は4月10日、時刻は9時38分。天気は晴れ、本日のTop Newsはーー』

 

「……ゲッスいロボットね。作った奴の顔が見てみたいわ」

 

あまりのゲスっぷりに、全身の力が抜けた。魔法世界の住人にとって、英語は最低の卑語だ。このロボットを用意した奴は、とんだ常識知らずのようだと、レイチェルは顔を赤らめる。

 

『Do you have a breakfast?(お前のーーをーーーーー)(翻訳不可能)』

「「死ね!!!!!!」」

 

チャージしていた《魔力》がコントロールを失い、あたりに拡散した。

円環大系魔導師にとって《魔力》とは周期運動するものであり、その最たるものは原子核に軌道をもつ電子だ。

レイチェルの手を離れた電子(魔力)は部屋を暴れまわり、目の前の家事ロボットをだまらせてーー

 

 

ーーちらりと、赤い炎が見えた。火のオレンジ色よりも波長の長い、真紅の光ーー

 

瞬間、世界は燃え上がった。

 

レオンハルトの部屋は、一瞬で地獄に様変わりした。

部屋中の家具、ロボット、照明、床、布団に至るまでのすべてから、ごうごうと炎が噴き出してくるのだ。

いや。ごうごうと、というのは間違っている。吹き出す炎に音はない、熱もない。

ちろりと、炎の舌がレイチェルの頬を舐めた。彼女の身体に、汗や火傷はない。

炎の吹き出るロボットは、煉獄の使者のような姿で、レイチェルに「hello」と告げた。

 

突然に炎は消えた。

ロボットは、異常など何もないという顔をして、粥の乗ったトレイを机に置いた。

PCやエアコンにも、何も異常はなかった。レイチェルの電子(魔力)は、これらの電化製品に何ら影響を与えなかったのだ。

突如部屋の中でおきた発火元のわからない炎に、レイチェルは取り乱すことはない。

ただ、心底忌々しいと言わんばかりに、は顔を思い切り歪めた。

 

「腐っても、〈地獄〉ってわけね…」

 

呟いた言葉の意味を知るものが、彼女以外に何人いるだろうか?

少なくともレイチェルの眼前に立つこのロボットは、何も反応しなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し遡って、レイチェルが起き上がる前。

HARが万能家事ロボットとは言っても、血のついた床を掃除する方法はさすがにインプットされていない。

応急処置を終わらせた後、レオンハルトはティッシュを濡らして床に点線を作る血を拭き取り、自分と彼女の服を洗濯機に突っ込んだ。

あらかた終わった所で、事情聴取が来るだろうと思い、ソファーに腰掛けてタブレットを手に取った。彼の方から通報などしなくても、日本の警察機構は動くだろうから、今わかっていることをまとめようとした。

タブレットには、以下のように書いた。

『4月9日の、日付が変わるくらいの頃に、家の近辺を散歩していた。

制服の上にパーカーを着ていて、路地裏のとても奥まったところで、脇腹に大怪我をしている女の子を発見した。

声をかけて、救急車を呼ぼうとしたが、その子に止められた。その後に気絶。

事情は一切知らないが、やむを得ない理由があると感じて、自宅で介抱した。

身分を証明するものを何も持っていなかったため、名前もわからない。

応急処置をするとき、緑色の円が脇腹に浮かび上がっていた。BS魔法師?』

「…親父が見たら、怒るだろうな」

口に出してみるものの、このメモ書きを見たら誰だって怒る。止められたからといって救急車も知り合いも呼ばず、自分だけで少女の応急処置をしましたなど、あまりにも無責任すぎる。それでもレオンハルトは、自分からそうした行動を起こそうとはしなかった。

思い出す。ふるえる身体、かすれた声、こちらを刺すように見るあめ色の瞳。あの目を思い出すと、首の後ろが無性にかゆくなる。かさかさの唇を、親指でぐっと拭った。

「コウカンか……交換、好感、高官、公館、好漢……」

少女が口走った「コウカン」という単語について、タブレットには何も書かなかった。耳で聞いただけでは予測変換できる単語が多すぎるので、少女が起きてからにしようと思ったのだ。

らちがあかない。タブレットにまとめたら、余計にこんがらがった気がしてきた。疲れているのだと言い聞かせて、とりあえず眠ることを決めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『はい。それではホームルームを始めます』

 

モニターの教師、小野遥がそう声をあげたので、司波達也は手をあげた。

 

『あら、司波くん?どうかしましたか?』

「レオがまだ来ていませんが」

 

達也の言うように、彼の前の席にいるはずの男は今日はいなかった。大柄なレオンハルトがいなくなると、教室が途端に広く見えて、少し落ち着かない気持ちになる。

 

『レオンハルトくんなら、今日は欠席ですって』

「あいつがぁ?」

 

小野先生の言葉に、信じられないとばかりに千葉エリカが眉をひそめた。言葉に出さないが、達也も同じ気持ちだ。

 

『えぇ、さっき電話でね。風邪ひいちゃったみたいよ?』

「はあぁ?なにそれ?」

ガタリと椅子をひいて、エリカが立ち上がろうとする。それを止めたのは柴田美月だ。

「エリカちゃん。その言い方は小野先生に失礼だよ、座ろう?それに、本当にレオくんが風邪をひいている可能性も、ないわけじゃないでしょ」

「…でも美月、アイツが風邪で寝てる所、想像できる?」

「それは……」

エリカの返しに、誤魔化すように笑うことしか美月にはできないようだ。助け舟を出すかと思ったが、エリカは席に座りなおした。

 

「あいつが風邪って…今日は雪でも降るんじゃないの?」

(本当に、同感だな)

『もういいかしら?それではホームルームを始めますよ。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーおきて

 

優しくて、けれど芯のある声が、レオンハルトの耳を撫でた。

彼は自宅のリビングで、ソファにもたれかかってうつらうつらとしていた。

レオンハルトの家は八王子駅から徒歩10分の上、部屋は1LDKと、高校生の一人暮らしには似つかわしくない優良物件である。なぜかといえば、この家はドイツへ長期出張している叔父の家だからだ。国立のエリート高校である魔法科高校への合格が決め手となって、在学中この部屋を使う許可を得たのだ。荷物を運び込んだのは入学式の一週間前である。

リビングには備え付けのシングルソファとテレビ、整理されてないダンボール箱が数個置かれている。テーブルの上には、CADが充電器につながれており、タブレットもその横に転がっていた。リビングからつながる寝室には、布団の他にはクローゼットに、PC用のデスクくらいしか置いていない。

 

ーー起きて

 

窓からの朝日と、誰かに呼ばれているような感覚。

幸せな感覚に浸りながら、レオンハルトは目を開く。

 

目の前に、少女がいた。

彼女はお腹に包帯を巻いて、白い下着を身につけて、それだけだった。

 

「おはよう。」

「……」

 

白い素肌と包帯のコンビネーションによる視覚効果は、寝ぼけたレオンハルトを叩き起こすのに十分な威力があった。

少女は、羞恥に顔を赤くする様子などかけらも見せず、レオンハルトの前で堂々と腕を組む。

黒髪が揺れる。あめ色の瞳が、レオンハルトの視線とぶつかる。

脳がフル回転し、一気に目が覚めて、そして。

 

「起こして早々だけど、私の服、どこにあるか…」

「うわああああああああああああっ!」

レオンハルトはソファから転げ落ち、頭を強く打った。

 

 

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