「その人らしい」「その人はどういう人」だなんて見る人によって違うのです。今日はとある一人の少女について、三人の方に聞いてみましょう。きっとそれぞれ違う意見を言ってくれるはずです。
では一人目。
シャロン・アズナヴール?
あの子のこと私大嫌いなの。何でって?
それは泥棒猫の娘だからに決まっているじゃない。私があの子の存在を知ったのは、シャルロット・アズナヴールの誘拐未遂事件がきっかけだったわ。カロンと朝ご飯を食べていたときだったわ。え?カロンは私の最愛の夫よ。…ああ、あなたは呼ばないで。あなたの呼べる名前ではないのよ。
まあ、そのとき娘たちが事件に巻き込まれて重傷を負ったのでアズナヴールは休むと秘書から知らせが入ったの。あの人目に見えて動揺していてね。隠そうとしたって私の目はごまかしきれない。それに怪我をした娘の名前を聞いたとき…嫌な気持ちがしたわ。だって、シャロン。Caron(カロン)とそっくりな女の子の名前。そっくりな青紫の目の少女。
私は自分の部下に調べてもらったら、彼が以前自分とアズナヴールの娘たちのDNA検査をしていたことも、…その結果、彼には二人の娘がいるということも分かった。
我慢したわ。
彼は、ここ数年アズナヴールに社で会ったことはないし、……ああ、防犯カメラで彼と会った女性のことは全てチェックしているの、……ましてや娘に会いに行ったことはないようだったから。
第一、娘たちの年齢を見るに、私が彼と婚約する以前に関係をもっているみたいだったから。早く彼を見つけて婚約しなかった私が悪い。
でも、分かっていても辛くて、アズナヴールの写真を見ては似ている系統の服を着てみてこちらの方が彼の好みかと考えたり、憎くって写真を破り捨てる。
そして、四か月ほどたったある日。病院にアズナヴールが重病にかかって、その娘に会いに彼が行くようだと部下から聞かされた時、私は走った。
会社。
「もう出られたようです」
「病院に行ってくるわ」
病院。
「いえ、こちらにはいらっしゃりません。ミス・アズナヴールの病態をお聞きになった後、会社の方へ女の子と一緒に向かわれました」
「…そう」
そして、会社の応接間。
ここに、いるはず。あの人の声がするわ。
「さっきも言ったように、君のお母さんは、長く入院する必要がある。お母さんが治るまで、僕の…いや、子どもを預ける施設を手配する。そっちに君とシャルロットちゃんは暮らせばいい。僕が君たちを養おう。あと入院費も心配しなくてもいいよ」
…あのとき初めてあの人の目の前で他人に暴力をふるった。だって、あの人は自分の娘と愛人を守ると言ったから。どうでもいい人にはそんなことしない。大切な人たち…私にはいない彼の子どもだから。彼の子ども…私にはない彼とのつながり。
だから、私は利用できる唯一のもの、自分の立場を利用するの。
「今は女尊男卑の時代だもの。さらに前社長の娘であり元々地位もある私が、夫に愛人ばかりでなく私生児も作られたと訴えたらどうなるかしら?世間からの糾弾、多額の慰謝料、不埒で女性を敵に回した男…
ねぇ、あなた。私を愛している?」
あぁ、あなたを脅すなんて、きっと嫌われてしまうわね…いいえ、親の決めた結婚だからきっと私は元々どうとも思われていない。
こんなときでさえ、「愛している」と言わない彼だもの。
私はその怒りと悲しみのはけ口として、あなたの名前をもつシャロン・アズナヴールを選んだ。
たった二人を守るだけなのに、私に踊らされてその考えの浅さゆえに約束の穴も見抜けない。
一人の人間の思い通りに結局動いてしまう愚かで、私の愛する人の名前と瞳をもつ大嫌いな少女。
それがシャロン・アズナヴールよ。
シャロン・アズナヴールという人は随分憎まれているようですね。
では二人目の方は?
シャロン・アズナヴールか。私は「彼女」として会ったことはない。それ以外でもせいぜい20分程度だし、「彼女」のことを知らないと言っていいだろう。
だが、私でも言えることが二つだけある。
それは私の弟にとって危険な少女であり、かわいそうな少女であるということだ。
実は、ドイツで教官をしていた際にクラリッサから彼女のことを聞いたことがある。クラリッサは現在ドイツの特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの副隊長で、当時は世界第三位の大会社デュノア社の動向や技術調査のための諜報員であった。諜報活動の隠れ蓑として、デュノア社テスト・パイロットの指導をすることになったが、そのときの生徒がシャロンというわけだ。
クラリッサは彼女を、優しい少女、ISを兵器ともファッションとも考えておらず恐れていること、それなのに無理に乗っていること、どうやら愛人の子であり、本妻と父から疎まれていること、妹にそれを隠している少女だと言っていた。
度を越したシスコンだと笑っていたが、そう言う彼女の方も妹のことを思う姉の顔をしていた。
だから。世界二番目に現れた男の写真を見たとき、その出自を見たとき、ありえないと思った。だって、そこに写っていたのは「シャロン」であったが、その性別も名前も戸籍も変わっていたからだ。
男になって、シャルル・デュノアになって、後のデュノア社の養子になる少女。きっとそうなるように「された」少女。そして、それはきっと私の弟に接触するための…
車の中で一夏についての質問を次々とされたとき、私は少女を憐れみながらも、自分の弟を守るため、弱点などの情報を言わないようにした。
弟の方が私は大切なのだ。彼女のことは哀れだと思うが、それ以上に危険だと思っている。今後も動向を見て、一夏に悪い影響を与えるようであれば…その時は…
シャロン・アズナヴールという人は彼女から見ると同情すべき人のようです。
では三人目。
三人目は、あなたです。
あなたはどう思いますか?
……直接会ったことがないのではすぐに答えられないのも無理はありません。
彼女の物語はまだまだ続きますので、そちらをお読みになって判断していただけると幸いです。