妹の幸せを願って何が悪い!   作:のーぷらん

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15 兵器と覚悟

 

 

 

教室は先ほどからひっきりなしにざわついている。

一夏に専用機が与えられることが伝えられたこと、箒が篠ノ之束博士の妹であることが織斑先生の口から伝えられたからだ。

だが、俺はそのざわめきをよそに別のことを考えていた。クラス代表決定戦に本来イレギュラーである俺が入ったということについてだ。

(クラス代表にはなりたくない。これ以上色んな機関に注目されるのはあまり良くないし、クラス代表戦は一夏のデータをとる絶好の機会になる。代表戦のための練習に『友だち』として見学しに行ったら簡単にデータは集められるわけだし…)

俺のことを『友だち』と言った一夏が脳裏によぎった。

 

『俺も参加させてもらう。友だちをバカにされて黙ってられるか』

『細かいこと気にすると若いうちからはげるぞ?』

 

情にほだされるな。

データを送らないとお母さんがどうなるか分からない。ババアの命令を破ることは契約違反だ。今度はシャルに何かを強制させるかもしれない。

二人を守る。

そのためには一夏を利用するしかない。

一夏がどう思おうと関係ない。

 

一瞬感じた罪悪感を俺はシャルとお母さんの顔を思い浮かべて打ち消し、考え事を続けた。

 

アニメでは、セシリアは一夏に勝ったが辞退していたし、俺もクラス代表になりそうになればそうすればいい。

彼女がどういう理由で辞退したかは分からないが、きっと一夏の善戦に敬意を表してとか言ったのだろう。

俺はちらりと一夏を見た。いつの間にか授業が始まっていたようだが、その内容に一夏はついていけていないようだ。そりゃ、昨晩は箒にノックアウトされていて予習していないだろうから当たり前か。

今日も今日とて冷や汗を流している一夏を見ながら、『こいつ本当にクラス代表になれるのかな…』と不安を覚えた。

 

 

 

チカッチカッ

 

 

 

「?」

デスク上のメッセージボックスが何か受信したようだ。

 

『ほとんど分からん』

 

「…」

送り主を読むまでもなかった。このクラスでこんなメールをよこすのは一人だけだ。

隣の席で目配せしている一夏にメールを打ち返した。

 

『授業内容 アラスカ条約 参考書6ページ』

『そんな検索ワードみたいに羅列されても。後で教えてくれ。頼む』

『篠ノ之さんに頼め』

 

俺はお前の戦闘データは欲しいが、知識を学ぶ過程はいらん!それに箒怖いよ、腐ってる女子も怖いよ。勉強を教えるなんて一夏の好感度が上がって、二人の距離が縮まる行動に他ならない。それに、IS関連のことは箒に教えてくれと頼んだ結果、セシリア相手に善戦するくらい操縦できてたんだし、俺が下手に手を出さない方が確実にこいつはクラス代表になれるだろう。『篠ノ之』と変換するのに苦心していた俺や頭を抱えている一夏は気付かなかった。背後に立っている戦乙女〈ブリュンヒルデ〉に…。

俺たちの上に影が下りて「授業中にもメールをするほど、もう仲良くなったようで結構なことだ。織斑、デュノア」という声が聞こえた途端、

 

 

 

バコンッ!!

 

 

 

衝撃が頭から背骨、足先へと駆け巡った。

 

「よほど授業が余裕なのだろうな。明日テストをしてやろう」

あの出席簿は鋼鉄か、そうでなければIS専用のパーツでも使っているに違いない。俺と一夏は授業が終わるまで痛みで上げそうな声を我慢する羽目になったのだった。

 

 

**************************************************************************

 

 

「シャロ、大丈夫?」

「大丈夫…」

休み時間になり、シャルがそっと尋ねてくれた。頭はまだガンガンするが、大分平気だ。それより一夏がもうぴんぴんしているのがムカつく。俺も叩かれ慣れたらあんなふうに…いや、なりたくないな。

シャルは俺の強がりをすぐ理解したらしい。「いたいの、いたいのとんでいけ」と小さな小さな声で言いながら何度も優しく頭をなでてくれた。あまりの心地よさに自然と笑みがもれる。

 

「でゅっちー、気持ちよさそうだねー」

「兄妹っていいねぇ」

「絵になりますね」

 

上からのほほんさんこと布仏本音さん、谷口癒子さん、鏡ナギさんだ。

この三人とシャルは特に仲良くなったらしく、シャルは俺の頭をなでながら彼女たちと兄弟姉妹の話をしている(谷口さんと鏡さんは一人っ子で、のほほんさんはなんと生徒会にお姉さんがいるらしい!)。理想の兄という実に興味深い話になったところで、一夏が声をかけてきた。

 

「みんなも一緒に食堂行かないか?」

 

シャルの理想の兄の話まで聞けなかったのが不服だが、みんなが行くと言ったので(鏡さんなんか「お弁当持っているけど行きます!」って言ってたしな)、俺も笑顔を作って頷いた。俺とシャル、のほほんさんと谷口さん、鏡さんが一夏と……何故か一夏に手を引かれている箒の7人で食堂に向かう。

箒は顔を真っ赤にして俺たちのほうを見ず、一心に下の方―― 一夏とつないでいる手を見ている。おそらくみんなの前で手をつなぐのは恥ずかしいが、まだつないでいたいと葛藤しているのだろう。

ここは優しく見ないふりをしてやって…

 

「ところで、何で織斑くんは篠ノ之さんと手をつないでいるの?」

 

あ。

谷口さんの言葉に俺たち7人の視線が一斉に一夏と箒、次にその手に注がれた。

箒の顔がぐんぐん赤くなっていき、

「は、離せ!」

「うわ!?」

「あ…」

照れた箒が手を振り解こうとした挙句に一夏を投げ飛ばした。

「イテテ。箒、腕上げたな…」

すかさず一夏がフォローを入れるが、「や、やっぱり食堂は遠慮しとくね…」と箒の行動に恐れをなした3人がどこかに行ってしまったことで俺たち4人が取り残される。

 

シャルが一夏に恋しないように出来るだけ接触は避けるべきだし、一夏にはある程度距離を置かないと。

 

俺もシャルを連れて離れようとしたが、シャルが俺の手を握って来たので立ち止まった。

「シャ…お兄ちゃん」

濃紫の目が俺を見て、箒をちらっと気遣わしげに見た。

箒は自分のやってしまったことに驚いていたが、即座に顔を曇らせている。

シャルは同室で、人の気持ちを察するのが上手い。だから、一見過剰な暴力だが箒なりの一夏への照れ隠しにも気づいているし、……箒がその暴力的な表現を自分自身で後悔していることや、それによってみんなが遠ざかるのを寂しいと思うことにも気づいているのだろう。

本当にシャルは優しい。自慢の妹だよ。

俺は苦笑しているのを見られないようにシャルの頭をなでて、一夏と箒に続いて食堂の列に並んだ。一夏は俺たちを見て嬉しそうに笑い、箒はどこか安心した顔で一夏と同じ日替わり定食を頼んだ。……まぁ、今日くらいはみんなで食べてもいいか。

 

「はい、日替わり二つお待ち!」

「シャルロット、デュノア!先に行っているぞ!」

「おい。箒、待てよー!…シャルル、シャルロット、一番端の席に行っているからな!」

 

俺はカルボナーラとシュークリーム(シャロンさんの体に入ってからは甘いものが倍は美味しくなったように感じるんだ。おかげで毎食デザート食べている)、シャルは野菜いっぱいのグラタンを食堂のお姉さんから受け取って、一夏と箒の座っている席に行くと、険悪な空気が流れていた。…おい、さっきまで嬉しそうな顔をしていたのに、ものの五分の間に何で箒さんは般若のような顔になっているんですか?

 

「あなた一年でしょ?私、三年。私のほうが上手く彼にISについて教えられると思うけど?」

「必要ありません。…私は、篠ノ之束の妹ですから」

「そっ、そう!」

 

どうやら三年生の先輩が素人の一夏にISについて教えてあげると言い出したのに対抗して箒が嫌々ながらお姉さんの名前を出したところらしい。先輩は博士の名前が出た途端、さっさと退散していった。

 

「教えて、くれるのか…?」

 

一夏が不安げに目を揺らしながら聞くと、箒は少し目を閉じたあと「…放課後に剣道場に来い」と言った。本当この二人は性別を入れ替えた方がいいんじゃないかと思える。恋愛に鈍感な少女と、不器用なりにも少女を気にかける日本男児…そっちの方がまるく収まるような。

「シャロ?座らないの?」

「あ、ごめん。ぼーっとしてた。座ろうか」

俺は無意味な想像をやめて、嬉しそうにお礼を言っている一夏とその一夏をどこか厳しい目で見ている箒に声をかけて座った。無論、シャルを一夏の隣に座らせるわけにはいかないので、俺が一夏の隣、シャルが箒の隣に座る。

窓際の席は大きく窓が横にあり、雲一つない青空が広がっている。

 

「シャルル、シャルロット、箒がISについて教えてくれるんだってさ!」

「「良かったね」」

「ふん…」

 

箒、口元ゆるんでるぞ。

昼食は、無神経な一夏が「シャルルも一緒に箒に教わらないか?」と聞いてきて箒から睨まれたり(「僕は剣使わないから」と断った。それにしても箒の視線は完全に恋敵を見るような…いや、深くは考えまい)、「クラス代表決定戦までの一週間はずっと放課後篠ノ之さんと一夏は一緒にいるんだね」と出来るだけ朗らかに言うと箒が顔を赤くしてご飯をのどに詰まらせたりしているうちに、あっという間に過ぎた。

言わずもがなだが、シュークリームは美味しかった。日本の甘味も食べに行きたいなぁ。それにしても、篠崎玲自身は甘いものはそれほど好きじゃなかったんだけど、…シャロンさんの味覚に引きずられているのかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

一夏もいないので、俺の部屋にシャルを呼び、お母さんと通信している。

俺が他薦されたのでクラス代表戦に出なければならない話、シャルの同室の箒が今日も素直になれなかった話などたくさん話すことはある。シャルが今日もかわいかったことも話さないと!シャルが俺の頭を撫でてくれたり、グラタンを食べたら舌を火傷して「こんにゃ熱いにゃんて…」と言ってしまったり、髪を結びなおそうとしたら髪がISの待機状態を下げるネックレスに引っかかって涙目になっていたり…あれ?シャルが赤くなった。やっぱりかわいいなぁ。

お母さんはわりと真剣そうに『シャロンはシャルロットの双子のお姉さんなんだからね?』と言ったけど、どうしたのだろう?

シャルは俺の自慢の優しくてかわいい(略)妹に決まっているじゃないか!

 

お母さんが疲れているようなので通信を切ったら、シャルがこっちを恨みがましい目で見ていた。

「シャロだって、今日授業で怒られたくせに」

どうやら俺がシャルの失敗談をお母さんに報告したことが不満らしい。かわいかったから話したんだけどなぁ。

俺は話を変えようとして…唐突に思い出した。

「そういえば明日ISのテストがあるんだった…」

あの先生のことだ。テストで間違えでもしたらさらに罰が来るだろう。

「ふんだ、自業自得だよ。……仕返しに難しい問題出してやるんだから。教科書貸して」

落ち込んだ俺を見て、シャルが手を差し出す。そっぽを向いているが耳が真っ赤になっているのが見える。

本当に…

「シャロ?」

腕の中でシャルが問いかけた。そりゃ、いきなり抱きしめたら驚きもするよな。でもすごく愛しい、大切だって思ったから。

俺は篠崎玲だ。シャロンさんの体に一時的に入っているに過ぎない。シュークリームや甘いものを前よりずっとおいしく感じる味覚のように、このシャルを大切に思う感覚だってシャロンさんのものなのかもしれない。

それでも。

「ぜったいしあわせにしてみせる」

俺の存在はシャルのためにあるから。

だからシャロンさんが帰るまで、俺がいる間にシャルを精一杯大切にしたい。

「シャロ?なんて?」

シャルがもぞもぞと動いて俺の方を見つめた。

 

「いやー、シャルがツンデレしてくれると思わなくって!かわいいなぁ!!」

「もう!せっかくテスト勉強手伝ってあげようと思ったの、に…」

時計を見るともうすぐ門限の9時だ。シャルも俺の目線を追って気づいたようだ。ちょっと沈黙が走って、「時間がその、ない…から、手伝えないけど…頑張ってね!」と気恥ずかしそうに言ってシャルは部屋を出て行った。                                                  

本当かわいいなぁ。

 

俺がニヤニヤしながら、教科書や参考書を机の上に出していると、一夏が疲れ果てた様子で帰ってきた。

「ただいま…」

「お帰りー。そんなに箒のISの訓練は厳しかったのか?」

「ISについては何も…。ISのアリーナの使用許可が下りなかったらしくてさ…これから放課後毎日三時間剣道をするって…シャルルはこれから勉強か?」

これは相当疲れているな。一夏は体を引きずるようにしてベッドにまでたどりつき(ほら、ドアから近いほうのベッドで良かっただろ?)、うつ伏せで倒れこんだ。

「明日テストだって織斑先生が言っていたからな」

「…忘れてた」

一夏は絶望したようだったが、ベッドの上にちょこんと座りなおし、頭を下げた。

「…何だよ?」

「シャルル、このままじゃ明日のテストもわからないし、何も出来ないままオルコットさんに負けちまう。箒に全部教わるつもりだったけど、別の部屋だからこの時間には教えてもらえないし、お前しかいないんだよ。頼む!」

やだと即座に言おうとして、一夏の言っていることにはっとして口を閉ざした。アニメでは何も映っていなかった(と思う…そもそも、アニメでシャルロットが出てきてから真面目に見たくちだから自信がないんだ)けど、箒とは同室だったから、もしかしたら剣道を終えた後勉強も多少教えていたのかもしれない。

今のままじゃこいつクラス代表になれないかもしれないしなぁ。俺は一夏の懇願のまなざしを見てため息をついた。

「…そこの椅子に座って、ノートと教科書用意しろ」

「ありがとう…!!」

全く。

 

 

 

一夏が勉強机の椅子に座ると、一夏の横にある程度距離を置いてもう一つ椅子を持ってきて、俺はそれに座った。

「第一問、ISの正式名称はなんだ?」

「インフィニット・ストラトスだろ?」

「そうだ。おい、誇らしげな顔するな。一般常識だからな。…第二問、誰によって開発された機械だ?」

「束さんだな。箒の姉さんで、俺が通っていた道場が篠ノ之道場のお姉さんだったんだ」

…ISってのは、こいつの周りの人間が作り出して発展させていったものなんだな。「テストでは篠ノ之束って書けよ?」と言いながら、俺はそれならば、と次の質問をした。

「…じゃあ、一夏、ISは実質なんだと思う?」

「束さんは宇宙に出るためのスーツだって…でも、今は千冬姉みたいにスポーツ用として使われている機械、か?」

「ISは兵器だよ」

ISを動かす上で最も必要なこと。俺はこれをハル教官に教わった。

それに、こいつは知らなければならない。

「そんなことは…」

「確かに今はスポーツとして使われている。だが、実質は兵器だ。

その威力も、危険性も、兵器以外の何物でもない。

スポーツでのISバトルでは、シールドエネルギーを0にすることで勝敗を決する。あらゆる攻撃を受け止めるシールドである『絶対防御』もあるけど、それも完璧じゃない。それを破る攻撃があれば、本体…乗っている人にまでにダメージを与えられる。現にIS操縦者に直接ダメージを与えるため『だけ』の装備も存在しているんだ。これを兵器以外の何といえばいいんだ?」

 

こいつはいずれ相手のバリアを無効にし、絶対防御に直接攻撃する実体ブレード…雪片を手に入れるだろう。その単一能力・零落白夜はエネルギーそのものを消し去って、無人ISをも両断していた。セシリア戦や鈴戦のときは発動しなかったが、これが発動していたら……紛れもなく、彼女たちは死んでいた。だから、こいつだけは、ISを安易にスポーツ用だと思っていてはいけないのだ。

押し黙ってしまった一夏にさらに言った。

 

「ISは兵器だ。すごい力があって世界の風潮も変えてしまう。知識もそうだが、お前はここに来るまでに覚悟をしてこなきゃいけなかったんだ。自分が強大な力を持つって覚悟を。 人を傷つける力を持つ覚悟を。それに、同じように自分が傷つくかもしれないという覚悟を」

 

一夏はうつむいている。俺もあの時、覚悟の話を聞いた時、こんな辛そうな、目をそらしていたものを強引にひきずり出されたような顔をしていたのでしょうか、ハル教官?

でも、辛くても。目をそらしたくても。

こいつにはISに乗らないという選択肢がない。

お母さんを人質にされている俺と同じように、こいつは『男』のIS操縦者として世界に認知されている。

どこへ行ってもこいつにISは付きまとうのだ。すでに国際IS委員会からは、織斑一夏の身柄引き渡し命令が出されている。それに、ISを研究する者の中にはこいつを解剖したい、実験したいと思っている奴も少なくない。織斑先生がこいつを学園にいさせて寮生活をなかば強制的にさせたのも、こいつを手元において守るため、『IS学園』というありとあらゆる国家・組織・団体の介入を防げる壁の内側におきたいため、なのだろう。

 

「お前とISはもう切り離せない。お前が生きている限り世界中から……初の、男性操縦者として狙われる。

一夏、ISに乗りたいか?」

 

無意識だった。

 

言ってしまったと思った。俺はISに「乗りたいか?」と聞かれると「否」と答える。兵器だと言われたものに乗りたいと思う者なんていない。それなのに、どうしても乗らないといけないやつにそんなことを聞いてしまった。

 

俺と状況が似ているから?

どうしても乗らないといけない理由のある俺に。

俺と同じ道を歩いてもらいたいとでも思っているのか?

 

自分の弱さが見えたような気がして、今度は俺の方がうつむいてしまった。

 

 

 

 

 

「…ありがとな、シャルル」

 

はっと顔を上げた先には一夏の泣きそうな複雑そうな笑顔があった。普段の能天気な笑顔や人を気遣う笑顔に比べて歪んでいるが、俺は目を離せなくなった。真実、美しいとそう感じた。

 

 

「俺さ、特に訓練したわけでもないのにIS動かせて、周りからすごいって言われて、世界で初めての男性操縦者って言われて、なし崩しにこんなすげぇ学園に入れて、入学試験だって教員倒しちまうし……ISは近所のお姉さんが作って先生は千冬姉で、…ISがそんなにすごい力を持ってるって思えなくなってたんだ。

だから、オルコットさんに軽く決闘だなんて言ったけど…決闘ってことは、ISは立派に戦う道具なんだよな。お前の言葉で気付けた。ありがとう。

 

昔…小学生くらいだな。千冬姉に真剣を持たせてもらったことがあってさ。すごく重くてふれなくって…千冬姉は『重いだろう?それが、人の命を絶つ武器の重さだ』って言っていたけど、…人を傷つける覚悟も、…きっと傷つけられる覚悟も、もうあの時にはあったんだな。

女手一つで俺を養うために、千冬姉|も【・】、多分ISに乗る以外の選択肢はなかったんだ。

 

……なぁ、シャルルはどうしてIS〈兵器〉に乗ってるんだ?」

 

一夏は、ぽつぽつと思いつくままに脈絡なく話しているようだったが、そうすることで自分なりの答えを探しているように見えた。

 

「……俺はシャルとお母さんを守るためだよ」

 

一夏は俺の言葉を聞いて、驚いたように目を見開いた。そして、何かに気付いたように笑った。

「そっか…」

「何か嬉しそうだな」

俺も不思議なことに嬉しくなってきたよ。

 

「…俺も家族、千冬姉を守るためにISに乗るよ」

 

「パクるなよ」

クスクス笑いながら、けれどもこいつはただ俺の言葉をそのまま真似したわけではないことは分かっていた。そんなの、一夏の目を見ていれば分かる。しっかり自分で決めたんだな、お前は。

 

「今まで守られてばっかだけど、俺が男性操縦者として世界から狙われるから、千冬姉はもっと俺のために頑張っちゃうと思うんだ。俺は逆に守れるくらい強くなりたい。それが出来るならISに乗りたいと思える。シャルルのおかげでISに乗る覚悟くらいはできた。ありがとう」

「…お前、お礼いってばっかだなぁ」

シャルの笑顔が春の陽だまりだとすると、こいつの笑顔は夏の青空のようだ。どこまでもつきぬけていく深い濃紺に可能性を感じる。一歩踏み出してみたくなる。濃紺にこがれて引き付けられてついて行ってみたくなる。

 

 

「じゃあ、お礼として、今度抹茶パフェおごるよ。甘いもの好きだろ?駅前のが美味しいんだ」

「な、なんでそんな…」

「今日の朝もプリン、昼もシュークリームをデザートに食べてたろ?幸せそうに食べてたからなぁ。日本の甘味も食べたいとかつぶやいてたし。あ、シャルルは抹茶知らないのか?風味が良くてちょっと苦いんだ。けど、それがまたバニラアイスの甘さに合うんだよ」

頬が赤くなるのを感じた。

久しぶりに抹茶が食べたくなって唾が大量に出たとか男のくせに甘味好きとか女の子っぽく思われたかもとか、…こいつ俺の言動よく見ているなぁとか、それが何となく恥ずかしいような気がして……

「俺の言葉は、俺の師匠からの受け売りだよ。だから、お礼とかはいい」

「すげぇ行きたそうな顔してるのに何言ってるんだよ…」

キリッと言ったつもりだが、呆れたような顔をされた。口許を指さされる。あ、いけね。よだれ出てた。指でぬぐってまたあわててキリッとした顔に戻すと、一夏は何だか恥ずかしそうにしながら、「じゃあ、今度おごり抜きで行こう」と言って、笑顔で言った。

 

 

 

 

 

「本当にありがとう」

 

 

 

 

 

 

…シャルの笑顔ほどではないが、こいつの笑顔も破壊力あるよなぁ。俺は視線を一夏から全力で引き剥がしながら、「馬鹿。まだISの使用用途まで説明しただけだ。次、アラスカ条約の説明をするぞ!」と参考書を一夏の顔面に突き付けた。

勉強は深夜まで及び、翌日の早朝行われたテストで俺が満点を取ったのは言うまでもない。

一夏は…先生に呼び出されていたから、ミスでもしたのかな?

俺はそう思いながら、朝ごはんを食べに食堂に向かった。

 

 




(千冬サイド)

「千…いや、織斑先生、何でしょうか?」
「…自分が何故呼び出されたのか分かっているな?」
私がそう言うと愛すべき馬鹿な弟は首をかしげて考えた後、「今日のテスト?」とつぶやいた。私はそのどこか間延びした感じにため息をついた。
教師に呼び出されたというのにこの態度。教師が実の姉の私だからか、どうにも緊張感がない。
私は無言でテストの下あたりを指さした。
テストにはISの重要用語の他に、文章題も盛り込んでおり、その最初の問題がおかしかったのだ。

「ISの使用用途とそれに伴う注意を問う問題に、決意表明を書く馬鹿がどこにいるのだ」

そう、こいつはISは兵器であり、そのために競技用のみで使用するよう制限されていること、絶対防御があってもその攻撃力には注意が必要であることを述べた後…最後に最も注意すべきであることは、操縦者の意識であり、ISは兵器だという意識とそのISを使う目的意識…一夏にとっては姉である私を守ることが合わさって初めて、ISに搭乗する覚悟が生まれるといった内容を…『シャルルと昨日話した』と書いていた。

「何故作文調なんだ…」
頭を押さえている私に一夏は「考えがまとまらなくってとりあえず昨日の会話を思い出したんだけど…書き直す時間もなくって…」と気まずげにもごもごと言った。

「罰として参考書全ての内容を三日で覚えるように」

後ろから一夏の嘆きの言葉と「千冬姉」という声が聞こえたので、出席簿で叩いておいた。

それにしても、三年をかけて、教えておくはずだったこと。
ISという兵器に乗ること。
それが一夏にとって必須であること。
すでに弟は知っていて、その上で「私を守る」という目的のため、前進している。

(少しでも目を離すと、すぐ成長してしまうのだな…)

感慨深い気分になりながら、その成長を促したシャルル――いや、シャロンという少女のことを考えた。
「義妹候補、か…」


**********************************************



「くしゅん!」
「シャロ?風邪でも引いた?」
「いや、でもぞくっと寒気がしたんだ…」
風邪かな?俺は生姜入りのクッキーを食べながら、早く今日は寝ようと思ったのだった。
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