妹の幸せを願って何が悪い!   作:のーぷらん

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18 セカンド幼馴染とライバル認定

 

 

「一夏。負けたって??」

「……『エネルギーがっ!』ってなりました」

「だから言ってやったのに、何焦ったんだか」

「……」

今夜は、一夏のクラス代表就任記念パーティーである。

まぁ、名前だけでそんな形式ばったものじゃない。クラスの親睦を深めているって感じだ。

みんな色々な国、日本でも色々な地方から来ているからな。お互いに知りたいことも多いんだろう。ただ、一夏が新聞部にインタビューを開始されてからみんな耳ダンボで集中している。うん、このイチゴうまい。

「…シャルルさん、このブドウもどうぞ」

負け犬君がさっきから色々差し出してくる。今度はブドウか。横目で見ると紫の皮がはち切れそうなほどたわわな甘い宝石たちがガラスの皿に鎮座している。雫が落ちるスピードが緩やかになるほど美しい曲線のフォルムだ。

俺に小言を言わせないためってのがまるわかりだが、まぁいい。差し出し先の馬鹿は置いといても、ブドウだけ受け取っておいてやろう。ブドウに罪はない。一つ頬張るとシャロンさんの口が小さいせいで片頬がぷっくり膨れる。おいしいけど、食べづらいぞ。

「デュノア君は、フルーツ好き?」

「ふぁい。ん…すみましぇん」

レディの前で何たることか。ちょっと食べるから待っててと伝えると「むしろ、いい!」ってガッツポーズされたけど何なの、このインタビュアー。

「好きですよ?」

「あえて、主語と目的語を言わずに『好き』っていう小悪魔さ!ありがうございます!」

うん、落ち着いて。

横ではどういう展開か分からないが、セシリアが一夏にISの教授をしている。

一夏は結局セシリアに敗れたが、それは彼女が油断せず初めから本気でやっていたからだそうだ。それでも善戦した一夏を通して彼女は「男性」というものを見直したらしい。顔が赤くないし、べたべたしてないから多分恋はしてないんだと思うけど。

そう考えていると、セシリアはぱっとこちらを振り返った。青い瞳が強くきらめく。

「デュノアさん、二人で一夏さんをクラス代表にふさわしく、鍛えましょうね!」

データ収集には役立つから手伝うけど、いつからそんなに熱い性格になったんだ、セシリア。

「私との放課後の訓練もあるだろう!」

お前が熱いのは知ってるよ、箒。

試合が終わったばかりだというのに、乱入してきた箒と共に熱心にISについて語り合うクラスメートたちを見ると、これじゃラブコメじゃなく、スポコンになりそうだなと思う。

俺は、ちょっとうんざりしたので、涼みに教室から出た。

 

 

*********************************************

 

風が気持ちいい。

中庭のベンチに俺は座っていた。

あの熱気に火照った頬が冷やされていく。10分くらいここにいたが、そろそろ帰った方がいいだろうか。

シャルか、一夏あたりが俺がいないことに気づきそうだ。特に一夏にかかると、「シャルルはトイレが長い」とか言いそうで……よし、帰るか。

重い腰をあげて、少し伸びあがるように立ち上がると俺の背後から足音が聞こえた。

 

「ねぇ、そこのあんた。受付まで案内してくれない?」

 

足音が止まったのと同時に、そんな台詞が耳に届いた。俺が振り返ると、小さい背、ツインテール、大きいリボンに大きな目と八重歯つきという、「子ども」の愛らしさをすべて押し込んだ少女がそこにいた。

鳳鈴音。

この見た目で、このタイミングで現れる少女はこの人しかいない。

「ええ、いいですよ」

と微笑みながら答えると、鈴音は「あんた、…男?」と驚いたように聞いてきた。緑色の目がさらに大きくなり、街灯の光の下輝く。

「はい」と余計なことは言わずに「こちらですよ」と俺は歩き出した。

後ろからぱたぱたっと軽い足音がついてきて、「ねぇ、あんた男なら」と鈴音は何か言いかけていたが、残念そこの角を曲がったところが受付だ。

受付嬢がこちらの姿を認めて、

「あら、こんばんは」

と挨拶した。鳳鈴音も受付が優先と見たのか、挨拶をし、カバンの中から転入の手続書を出する。俺が、静かに礼をして帰るために歩き出した時だった。

後ろで、「さっきの子?シャルル君っていうのよ」と声がして、思わず振り向きそうになった。意識だけ後ろに向けて足だけ前方に動かす。

「シャルルくんは織斑くんと同室よ。二人は仲良くっていつも一緒にいるの」

「へえ」

おい、そんなことないだろ。否定したくなって俺はちらっと後ろを振り返って――後悔した。

表のピカピカした表紙と薄い厚みからして腐っている方々御用達の本が受付の机の上にあるのが見えたからだ。

一応就業時間中だと思うんだが、何を読みふけっていた?しかも、その表紙何となく俺と一夏みたいな。あれ、気のせい?

うっかり立ち止まって様子をうかがっていた俺が馬鹿だった。

一瞬苛烈な鈴音と目が合った。背筋が冷える。

恐怖から俺は今までにない競歩で教室に戻り、その後はずっとシャルの傍にいた。「シャロ?どうしたの」と小さな声でシャルが聞いてきたが、俺は黙って首を振った。

 

(箒と同じ目してたよ…絶対誤解された。恋のライバル認定された)

 

「シャロ、大丈夫?」

「きっと大丈夫」

「??」

本当シャルは癒しだ。シャルのために、お姉ちゃんは頑張るよ。

 

*********************************************

 

頑張るといったものの。

「はぁ…」

朝も早くから食堂でため息をついている俺がいた。

(鈴は思い込み激しいな…あれから教室に来て恋敵を見るような目で俺を見て…。なんでファースト幼馴染とセカンド幼馴染は妄想たけだけしいんだろうな…。箒だけでも視線で体に穴空きそうだったのに、これから鈴も加わるとか…

 

しばらく一夏は避けとこう……)

ちなみに今日の朝は一夏よりも早く起きて、食堂に行ったともさ。部屋が一緒なのは仕方がないが、行動は一緒にしてないよ、というアピールである。

昨日の歓迎会でお腹はあまりすいていないので、朝はパンとコーヒー牛乳だ。

のんびり咀嚼していると食堂がざわっとした。あいつの行く先は常ににぎやかになるからすぐ分かる。ざわつきの主はこちらに近づいてくるなり、

「シャルル、何で先に行くんだよ?」

と大変不満そうな声を出した。

「……お腹すいてたんだよ、一夏」

俺は(朝からお前の両隣にいる方々と会いたくなかったからだよ)と思いこそすれ、おくびにも出さず、一夏の方を見ないようにしながら俺は残り僅かなコーヒーをすすった。

朝から鋭い視線を、昨日の倍浴びることになり、穴が開きそうだ。

「昨日あれだけ食べたから『明日の朝はご飯いらないかも』とか言ってたじゃんか。朝抜くの良くないから『お茶漬けくらい作ってやる』って言ったのに。俺準備してたのに」

……本当穴あく。

そういや、パーティーの最中にそんな会話して、久しぶりのお茶漬けにウキウキしてたような。

「あー、忘れてた。すまん」

「まぁ、朝ご飯食べたんならいいけどさ」

そう言って、俺の頭をよしよしとなでる一夏はお母さん……って、幼馴染×2の視線が超怖いわ!

素早く立ち上がって、「お前こそ早く飯食べろよな!」と言ってすたこらさっさと逃げ出したのだった。

 

男同士。気安い関係。……『友だち』。

 

「かわいそうな奴だよな……」

そりゃ、女ばっかりの学園だったら、男の俺と話したいし一緒に行動してた方が楽に決まってる。女相手してるときみたいに格好つけなくてもいいし話題選ばなくてもいいし、重い物持ってあげるとか気使わなくてもいいし。

俺は今日一日奴の幼馴染たちの誤解を解くために一夏をスルーしてきたが、感じたのはいかにこれまで自分が一夏と一緒にいたかだった。

「何か疲れた……」

わざと一夏を避けるのも、女の子とばっかりしゃべるのも。

(俺がこうなんだから、一夏はもっと疲れてるかも)

隣のベッドは空いている。俺は早々にシャワーを浴びてISの資料を持ちながらベッドに潜り込んだ。

 

どれだけ時間が経ったか。いつの間にか寝ていた俺は、言い争う男女の声に起こされた。

 

「『私が大きくなったら、酢豚を毎日食べてくれる?』って」

「そういう意味じゃないのに……一夏の馬鹿っ!!!」

 

扉を荒々しく閉じる音と廊下を駆ける音が次の瞬間部屋に反響した。

どうやら、酢豚の話のようだ。鈴音にとってはプロポーズのつもりだったが、一夏は気付かなかったって話だったよな。

しばらくして部屋の中に現れた鈍感男を俺は布団から抜け出してベッドに座り込み、じとっとした目で見つめる。

奴は後頭部をかきながら今しがたすごい勢いで閉まった部屋のドアを困ったように見ていたが、俺が起きているのに気が付くと「起きたのか」とのたまった。

「さすがにあれだけ音がすればな」

と首をすくめて答える。声じゃなくて音というのは俺なりの配慮だ。俺は何も会話内容なんぞ聞いていませんよっていう。貴公子も全く板についたもんだ。

「幼馴染が悪いな。昔さ、『私が大きくなったら、酢豚を毎日食べてくれる?』って言ってくれてたから思い出して、奢ってくれるのかって言ったら、何か急に怒っちゃって」

何も詮索する気はなかったが、一夏は勝手に話し始めた。

本気で悩んでいるようで、ため息をついている。呆れるしかない。哀れな鈴音のために俺は、

「おごるって意味じゃないだろ…鈴、料理うまそうだし」

と少しヒントを出してやった。一夏は、すぐに

「ああ、作ってくれるってことか」

と返す。

お。

気付いたか!それにしては無反応だな。一夏の表情には嬉しさとか恥ずかしさとかは一切感じられない。

「鈴、親父さんと同じく中華料理屋でも開くつもりなのかー。俺に常連客になって毎日でも食べに来てほしいってことか」

次にため息をついたのは俺の方だった。俺は諭すように淡々と話してやった。

「ちょっと話を変えよう……たとえば、一夏が毎日味噌汁、…いや、料理を作る。特定の一人に毎日ご飯を食べてもらいたいんだ。その心は?」

「え、ちゃんと自炊しないから心配で「お前、今誰で想像した?」

「千冬姉」

このシスコン!

俺に淡々と諭すなんて無理だったようだ。勢いよく舌打ちした俺に一夏は「何だよ」と言う。

毎日自分の作ったご飯を食べてほしいなんて好きだからだろ!察しろよ。……待てよ。そもそもこいつは人を好きになったことないから、こんな反応なんじゃ。

「……一夏。お前が気にしている、あるいは気になった人は」

高校生になってそれはないだろうと思いながら、俺は恐る恐る聞いてみた。

「千冬n「先生以外で」

安定のシスコン発言。もう飽きたわ。

「うーん、箒は転校した後何してたか気になったしのほほんさんはあの袖で物をどうやってつかむか気になるしセシリアが入れる本場の紅茶の入れかたも気になる」

俺は今日何度目かのため息をつきたくなったが、何とか思いとどまった。これ以上この朴念仁のために幸せを逃すわけにはいかないし、第一こいつと恋愛に関する話をするなんて無理だったんだ。

諦めて「もういいよ」と言おうとした瞬間、次の一夏の言葉に俺は固まった。

 

 

「でも……今一番気にしているのはシャルルなんだ」

 

 

「は?」

脳内に受付嬢が持っていたBのLな漫画の描写がありありと浮かんできた。

こいつが俺のこと男だと思っているのにこんなこと真剣に言いだすなんておかしい。絶対この鈍感男はきちんとした意味で言っていないのだろう…と思う反面、真剣な目でこっちを熱く見ている一夏を見ているともしかしたら本当にそのままの意味で言っているのではないかと思えてくる。不安に揺れる瞳は俺に嫌われるのを恐れているみたいで、言われた俺までそれが伝染してしまったようだ。ふわふわと妙に浮き足立った気持ち。俺は無意識に自分の胸元をつかんでしまっていたらしい。まるで恋する乙女のようで自分の反応に気まずく感じる反面、どうしてもそわそわしてしまう。

「…どういういみだよ……」と俺が言うまでたっぷり3分は経っていた。

 

 

「この前零落白夜で切ったとき………」

 

 

俺は急に頭が冷えるのを感じた。ああ、そういうことかと何度も頭の中で納得しなければならなかった。

「気にすんな。シールドエネルギーがゼロになっただけで、お前は俺に傷ひとつ付けてねえよ」

紛らわしい言い方をするな、と思った。今ならちょっと箒たちの行動が分かる。気をもたせるような態度をとられてそれがすっかり的外れだったと分かったとき、自分の勘違いに対する羞恥、一夏のそんな態度への怒りがこみあげてくるのだ。

人傷つけんのが嫌だったなんて一夏らしい優しい考え方だとは思うけど。

だが、一夏は首を振った。俺の勘違いはまだ続いているようだ。今度は一体なんだと言うのだろう。

「それもあるけど…なんと言うか、俺のこと怖がったりとかしてないか、って…

トラウマあって同じようなことされてお前が俺を怖がって避けるのは分かる。今日もずっと避けてたし、話せずに寝ようとしてたし………分かるから、トラウマ克服出来るまで待とうと思ったんだけど…

 

 

しんどいんだ。すごく。嫌なんだよ だからおr」

「え、あ、ちょっと待て。

あれはお前の取り合い…ゴホンゴホン、えーと久しぶりに鳳さんと会ったならそっちと話せばいいと思って離れてただけだよ。早く寝ようとしたのは、えーと、疲れているからかな」

あまりに悲痛な一夏の独白に俺は思わず言葉を遮った。

一夏はたっぷり三拍おいた後、間の抜けた声を発した。

「は?」

主人公のくせに追い詰められた顔より間抜け顔の方が見る回数が多いとはどういうことだろうか。説明がまだほしいというようなので、俺は渋々正直にあのときの話をしてやった。

「試合は…単に悔しかっただけだよ。そりゃ、全く怖くないというと嘘になるけど、今までみたいにフラッシュバックが起きた訳じゃないし、まぁ、お前との練習のおかげだと思ってる」

一夏は俺の言葉をよく吟味しながらやっとのことで小さく「え、俺の勘違い?」とつぶやいた。

勘違いしたのはお互い様って訳か。すっきりした気分で「そのとおり」と言いながらにやにや笑うと、一夏は途端に顔を赤くする。

「…ッ//////」

「あははっ。俺が一日くらいそばにいないだけで嫌なんですか、一・夏・さ・ん」

「え、あ?!…とっ、友達に避けられたと思って一日中気を病んでた俺に謝れ!」

にやにやしまくる俺に枕を投げつけて一夏は布団に入ったのだった。

 

 

後日、「たまにシャルルが悪魔みたいに思えるときがある」とクラスの女子に言ったらしく、一夏といる時の俺は「小」悪魔ちっくという噂が広まっていたとか俺には知る由もな…かったら良かったのだが、ばっちり俺の耳にも入っていた。

…この噂に歓喜して紙に何か書いている女子は避けよう。特にあの受付嬢。

 

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