妹の幸せを願って何が悪い!   作:のーぷらん

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20 第二の妹と会う

窓から見える桜はすっかり緑色になりつつある。春も終盤に差し掛かり、もうすぐ梅雨。

本当は俺たちが入学するはずの時期だな、と思いながら教室で女子たちとISスーツのパンフレットを見ているときだった。

何故か三組から絶叫が聞こえた。

 

「可愛いぃ!!!」「妹みたい!!」「キャー!!」

 

一組の生徒はまだ先生が来ていないので三組に殺到する。俺は既に慣れ親しんだ黄色い悲鳴を無視しようとしていたが、「初の専用機持ちゲット!」という声に、椅子から音を立てて立ち上がった。

「シャルル?」

耳を押さえていた一夏が不思議そうに尋ねてきたが、俺はかまわず絶叫の渦に野次馬にまぎれて近づく。まさか。

そこには、室内でも輝く銀の髪、眼帯の少女がいた。

 

「萌え!」

「私の部下と同じことを言うな…」 

「え、ドイツ軍にもオタク文化が!?」

「もっと詳しく聞かせてよー」

 

どうやら原作と違い、三組となったラウラは、やっぱり違うように見えた。どこか優しげと言うか、もっと柔らかくなったような。

とはいえ、実際には会ったことのない人物だ。触れたら切れるような緊張感や排他的な空気を勝手にイメージしていたが、もしかするとただ単にアニメでデフォルメされていただけなのかもしれない。

三組のアイドルに早々なってしまっているらしい彼女は、あちこちから黄色い悲鳴とシャッター音に戸惑っているようだった。顔を赤らめながら目線をカメラ方向に向けている。

(やっぱり、違う?)

しかし、俺がそう思っていたのもそこまでだった。

「シャルル?あの子も専用機持ちなのか?」

一夏の声に振り向こうと思った俺は、さっきまで見つめていた銀色の少女が俺より素早く一夏の方に向いたのを視界に収めた。

「…所用がある」とあの女子の包囲網をまさしく猫科の動物のようにしなやかに避けてこちらまで来たラウラは、一夏に向かって手を振り上げた。ぼんやりとそれを見る一夏がその鏡のような瞳に映っている。

(根本的には変わっていないのか)

俺は同じくぼんやりと考えた。パチン、という乾いた音が近くで聞こえた。ついでに俺の手からぷにぷにという感触が伝わった。

「ん?」

ラウラは俺の方を向いていた。何か言いたげに口をわずかに開いた。そこでようやく俺はラウラの手が一夏の頬にクリーンヒットする前に自分の手で掴んで止めたのだ、ということに気が付いた。何か言うと思ったが、ラウラは結局何も言わずに背を向けた。

「シャルル、ありがとう……」

一夏はお礼を言ってきたが、無意識のうちに一夏をかばったということ、ラウラが食って掛からなかったことに俺は違和感を覚えていた。

「でも、あの子、どうして俺を叩こうと「お前こそどうして他のクラスにいるんだ?もうホームルームの時間だ。お前たちも」」

気になって問いかけた一夏と一組の野次馬の背後にいたのは、我らが担任の雄々しい立ち姿であった。

「グランド10周してこい」

一組は全員一時間目の授業を汗だくで受けることになったのは言うまでもない。

 

 

*********************************************

 

ラウラに関して、俺は謎のIS同様介入するつもりはなかった。だが。

「やっぱり行くのか?」

「うっさい、付いてくんな」

ラウラとシャルが同室になるとなれば、話は別だ。

丸くなったように見えたけど、アニメではラウラ・ボーデヴィッヒが一夏に惚れる前はそれはもう危険な人物であったように思う。例えるなら、爆弾。いつ爆発するか分からない。導火線なんぞないに等しいほど短いんだ。今はそうは見えないが、1ミクロンでもシャルに危害を加えるおそれがあるなら俺は行く。だがしかし、俺の後ろからまさしく炎とも言うべき人物がくっついて来ているからには、おいそれと部屋をノックする訳にはいかない。

「お前が行くと余計厄介なことになるだろ」

すねた顔をした一夏を見てため息が出る。ラウラとこいつが会ったら即爆発だ。爆発するのは勝手だが、周囲にいるシャルが巻き添えになるのは許せん。

「……俺だって何であいつが叩こうとしたか気になるし」

「厄介なことになる自覚はあるんだな?」

ちょっと沈黙した一夏をせせら笑うと同時に部屋の中からシャルの悲鳴が聞こえた。

「シャル!」

「シャルロット!」

慌てて扉を開けると、

――全裸のラウラに顔を赤くしてパジャマを持っているシャルがいた。

「「「「……」」」」

欧米人特有の白い肌に綺麗な|直【・】線で描かれた裸体。小柄な体と同じくらい小さな淡い桃色を二つ認識した俺は勢いよく顔を横に向けた。

そして、

 

「貴様、何しに来た?!」「お前、裸で何してんだ?!」

「何堂々としてるの!?ラウラ!」「何堂々と見てるんだよ!?一夏!」

 

部屋に悲鳴にも似た四重奏が響き渡った。

「ちょっと外に出てて!」という声に俺と一夏は一旦退室したが、その時になってようやくラウラが寝る時は裸になる習慣があると思い出した。シャルの悲鳴のせいですっかり頭から抜け落ちてた。それもこれもきっと。

「なんというラッキースケベ野郎。お前、後ろ向いて見なくするとかしろよ」

この馬鹿のせいだ。

「でもあいつ今にも襲いかかってきそうだったし」

あまりの言い訳に何度目か分からないため息が出た。

部屋の中では、

「せめて前を見えないようにしようよ」

「敵に背を向けろと言うのか」

「手で隠すだけでもいいからぁ…」

とシャルが言いつつ、姉妹同時にため息をついていたのなんて知る由もない。

 

俺は一夏と一緒に扉の近くの壁にもたれて悩んでいた。様子を見た限りラウラは危険そうじゃないと思う。だって危険物を持てない格好をしていたし。

一糸まとわないラウラの姿を思い出したが、首を振り霧散させる。

そういうわけで、もう用事はない訳なんだけど、一言謝るべきなんだよな。今の俺は男のふりしてるから、女の子の裸、見ちゃったんだし。

ちらっと一夏を見た。奴は顔を赤らめるどころか何やら神妙な顔で向かいの壁を見つめている。

(何、考えてんだろな……)

最初こそためらいがあったが、今では俺の中で一夏は大切な友人だと言い切れる。一緒に馬鹿な話をして、勉強して、ISのトレーニングをすることがとても楽しい。そういうときは楽しいって感情を共有してるって感覚がある。だから、こういう真剣な顔をしているときは分からない。俺はこいつがまだ話していない過去も、これから起こる未来のことだって知っているのに、今何を想っているか分からないときは何だか背中をどついていつもみたいに馬鹿騒ぎをしたくなる気持ちになる。

(……俺ってそんなにかまってちゃんだったっけか?)

今だって自分の体温で温まった後ろの壁より、自分の左腕の方から感じる一夏の温もりの方が断然居心地がいいんだ。……どうやら女ばかりの学園生活は思ったよりこたえていたみたいだ。

そのとき、扉が開いた。

「お兄ちゃん、一夏、もう入っていいよ」

首だけ出してシャルがこちらに手招きをする。

ラウラは制服を着ていた。放課後でも折り目正しい制服を着ているのは、私服がないからか。左からラウラ、シャル、俺、一夏の順で横並びにソファに座った。ラウラが一夏を視界に入れると明らかに顔をしかめるので。

子どもか。

「何で俺を叩こうとしたんだ?俺たち、初対面だよな?」

唐突に一夏が口を開いたので、俺はすっかり謝るタイミングを失ってしまった。ラウラも、裸を見られたことに対して、何ら謝罪を求めていないのか、即座に一夏の質問に答える。

 

「貴様が織斑教官の弟であることが許せなかったからだ。貴様がいたせいで教官はモンド・グロッソで優勝できなかった」

 

部屋が静まり返った。

俺は怖かった。一番端にいるラウラの射抜くような視線じゃない。一夏を見るのが怖いと思った。

一夏はきっと何も言い返さない。

きっと誘拐したやつらの方が悪いだなんて言わない。あいつは弱かった自分が一番悪いと思ってるから言い返さないし言い訳もしない。ただ傷つくだけなんだ。

その傷つく顔を見るのが俺は怖かった。

ラウラはさらに口を開く。

「貴様を助けるために、教官は試合を放棄した。そのせいでいらぬ誹りを受けることになった。

そんな、私の大切な教官を、そうさせた貴様が許せない。

教官はあの大会の後、すぐ我がドイツ軍の教官になったのだ。そのとき私やクラリッサ、隊のみんながあの人を励ました。すぐにドイツ軍に来たのは日本にいると身の危険があるからでもあったんだぞ?自分の母国なのに、その代表としての責を全うできなかったと国中から批判を受けてこのままじゃ危なかったから!

でも、どんなに励ましても私たちが傍にいても、あの人は結局お前の方が心配で……あの弟なのに、私より無条件に、ずっと近くにいれる存在なのに、努力もせずにそういられるのに、弱いお前が教官に迷惑かけて、ッ……一発でも殴ってやらないと気が済まないと思っていた……それに、なんで、私は…私は教官の言うことをいっぱい、頑張ってるのに、クラリッサたちだってそう認めてくれたのに……教官は、お前の姉で、お前のことをとやかく言う私を冷たい目で見るんだ……」

赤い目がさらに赤くなり、あれよあれよという間に雫としてこぼれ落ちた。

ラウラは小柄な体を縮こめて嗚咽すらこぼさずに泣く。

色々なことを教えてくれた師への尊敬と敬愛。

師を慰めたい、大切にしたいという気持ち。

それなのに、一夏のせいで師から冷たくされるという怒りと悲しみ。

つたないながらも発せられた言葉は、気丈である彼女がつたなくも言うからこそ、胸にずんと来た。

だから、友人であろうと俺が一夏を励ますのも、ラウラと議論してみるだのということは出来ないと思った。

彼女と今言葉をかわすとしたら当事者の一夏しかいないと考えた。考え通り時間はかかったが、一夏は話し始めた。

「確かに俺があの大会の決勝戦前に誘拐されたから千冬姉は助けに来てくれた。誹り……千冬姉は一言も言わなかったけど、色々嫌なこと言われただろうな。世界大会の優勝戦を蹴っちゃったんだから。それもこれも、俺が弱かったから」

目を伏せて、思い返すようにしていた。

「誘拐されたとき、……手も足も出なかった。剣道をそれなりに頑張ってやってて、普通の人より強いつもりだったけど、あまりの自分の弱さに腹が立ったくらい……結局千冬姉に助けてもらって、力じゃダメならって思って家計を助けるためにバイトをしてみたけど、それだってたかがバイトだ。IS学園に入ってからは、剣道を続けておかなかったから上達に時間がかかるし……やっていることは空回りで、守りたい千冬姉には迷惑かけてばっかりだと、確かにそう思う。でも、俺が千冬姉の弟であることは、変わらない。それに謝ると千冬姉は、…悲しそうな顔をするんだ……『お前をむざむざ誘拐させた私が悪い』って…」

懺悔のようだった。今の今までため込んできて、自分を苦しめていた患部を披露しているようなものだった。

俺は、少し顔を上げた。誰もかれも苦しい顔をしていた。

シャルと目が合って、彼女も泣きそうな顔だった。

誘拐されたことがあって、俺が傷ついたことを、彼女は忘れていない。シャロンさんの体にある傷が消えないように、彼女の心の傷だって誘拐された記憶だって、消えない。

シャルが泣きそうならみんなが傷ついているなら、俺は第三者ではなく、当事者として語らなければならない。

「先生は一夏に傷ひとつつけずに救出できたことを誇りにしているはずだ」

胸がうずいた。こんな中途半端な怪我を負わずに救い出した先生がうらやましい。

「その誇りを突く人間を普通良く思わないだろう。でも、……俺は先生のことはよく分からないし、悪口を言うボーデヴィッヒさんはどうかと思うけど、先生はボーデヴィッヒさんのこと好いてると思う。じゃないと、仕事とはいえ、ISを教える訳ない」

もちろん俺はシャルのことが好きだっていつも伝えているし、『先生』と主語で言ったけど、シャルに傷をつけずに救出したことを誇りにしてるんだ。だから、泣かなくてもいいんだ。

同じことがあっても、俺がかつてそうだったように、今でも何度もかけつける。ラウラは複雑そうに唇を噛みしめた。俺は続けて「ボーデヴィッヒさんだって、誰かを見捨てる先生は嫌だろ?」と言った。

言いすぎてしまったし分かった風な口をきいたと思ったが、ラウラにとって何だかこの話は反論できないものだったようだ。

「言い返す余地はないな…言い負かされたようで腹が立つが」

「あー。姉になってほしいなら、義妹になるとか?一夏を『嫁』にしてさ」

「嫁じゃねえだろ!」「冗談よしてよ!」

あと二人からのツッコミに場が緩んだ。みんな泣き笑いの表情だったが、笑っていたのだからいいとしよう。

 

 

それからペア戦があったんだが、学園の生徒は奇数だ。そこで、ラウラはシャルに箒とペアを組ませた。一人でいるのが気にかかったみたいだ。一夏は勝手に俺とペア登録してた。ラウラ自身はといえば、

「なあ、シャロン」

「どうした、ラウラ?」

「私、私は、…そのっ、教官から特別にペアを組まないか誘われたのだ…その、正規の試合には教官だから出させられないが優勝ペアとエキシビジョンマッチをさせてもらえると…私と一緒に戦おうと、他の生徒たちよりも私の方が優れているからトーナメントになるまいと……そう、言ってくださったのだ…!」

「良かったな!」

「~~うんッ///!」

だそうだ。

ペア戦では何だかんだで一夏と俺が優勝したものの、教官ペアにぼっこぼこに打ちのめされ、無論ラウラがVTシステムは起動せず、無事に終わった。ちなみでもう一個、俺と一夏のペアが優勝した時の箒と鈴音の顔がめちゃこちゃ怖かった。この戦いに勝ったら、付き合ってもらうとか言っていたからだろうか。だが、この箒の妙な宣言のせいで後日厄介なことになるなんて思ってもみなかった。

何はともあれ、この件で、シャルの次にラウラは可愛い妹になった。以上だ。




「そういえば俺の名前は『シャルル』だぞ?言い間違えてる、ラウラ」
そう言うと銀の髪の少女はニヤリと笑った。
そして恐ろしいほど俊敏な動きで俺の制服の下に手を突っ込んで、俺の悲しいかな、薄い胸を巧みな指のテクニックでもみだした。
「うひぃッ///?!」
「私は貴様が『シャロン』であること、まして女であることを知っている(ドヤァ」
同じく薄い胸を張りつつ、俺の胸をもみしだきつつ、ラウラは言い放った。
「え、何で!?」
思わず否定せず、先に理由を聞いてしまった。ラウラは、
「クラリッサだ」
とこともなしに笑った。
ラウラが言うには、俺がクラリッサさんにISの使用方法を教わっていたこと、学園に来るとき俺の正体とかも言われていたらしい。
「お前のこと、気にかけていたぞ…」
「ハル教官が……」
「お前に教えたことが忘れられなくって、すっかり世話焼きになってしまったと、クラリッサは私にまでも世話を焼いてな。姉と言うのはあんな感じなんだろう。というか、黒ウサギ部隊全体が私の姉だな」
これがラウラの変わった訳か。
嬉しそうな彼女が微笑ましくて、俺まで笑顔になれた。

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「……それよりそろそろ胸から手を離して……」
「私とシャロン、どっちが大きいのだろうな(モミオミ」
「そりゃ、わずかに俺の方が」
「何だと?!触ってみろ!」
「う、うーん、同じくらい?(モミモミ」
ガチャ
「おはよ、シャルル、らう…ら…??!!し、失礼しました!!」
ガチャン!
「一夏、なんつータイミングの悪さ……」
「あれが教官の弟か……」

それから、一夏にめちゃくちゃ言い訳した。
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