なぜ何どうしてwhy?!
俺の混乱をよそにシャルロットちゃんの目からは大粒の涙が落ちていく。
『うぅ…シャロぉ、怒ってるよね?…ひっく…私のせいで怪我しちゃったんだから、当たり前だよね…ご、ごめんね…!』
(…やっぱり何言ってるのか、分かんねぇ)
明らかに嬉し涙ではない。悲しそうというよりも、罪悪感を持っているような苦しそうな顔だ。
(な、何が悪かったんだ?!)
発音も発言もシャルロットちゃんのお母さんの真似をしてみたつもりだ。
『メルシィ』は「ありがとう」で合っているだろうし、じゃあ名前が違うのか?でも確かにお母さんは「シャルロット」と…
『…シャル?』
『!』『!』
口からぽろっと言葉が出てきた。
泣いてほしくない。笑顔を見せて欲しいのだ。
言葉の代わりに、精一杯思いを込めて、シャルロットちゃんの涙を親指の腹でぬぐった。
あまりこすると目元が赤くなるので、丁寧に優しく…
(…って、何ISのシャルロットの愛称で呼んでいるんだぁあぁ!)
一瞬前の自分を殴りたい。そんなに大きい声で言った訳ではないが、シャルロットちゃんのすすり泣き以外に音がない病室には、やけにその呼び方は響いた。いくら名前が同じだからって、無意識に好きなキャラクターと同じ愛称で呼んでしまうなんて、ありえない。ありえないよ。
泣かせたくないとか思ってたくせに、ふざけてんのか!
自己嫌悪で泣きそうになる。シャルロットちゃんと、シャロさんが培ってきた絆を、俺のせいで断ってしまったのだ。
『…シャロ』
いつからだろうか、シャルロットちゃんは泣き止んでおり、俺の顔をじっと見ていた。何を言われるかと不安で、体が固まる。
『ありがとう』
「…ッ」
シャルロットちゃん―いや、シャロさんはこう呼んでいたのだろうから、俺もそう呼ぼう―シャルはきれいに笑った。寒い中、陽だまりに入ったかのように体の緊張がほぐされていくのが分かる。
それと同時に心が決まった。
かなり痛かったが、ベッドの上で正座をした。
シャルは正座を初めて見たのか不思議そうな顔をして見ている。俺は、シャルからお母さんに視線を移した。お母さんも何かを決めたように穏やかな顔をしている。
「俺はシャロさんではありません。ですが、シャロさんの代わりに、シャルロットちゃんを支えていきたい。
お母さん、シャルロットちゃんを幸せにします!
俺をあなた達の家族にして下さい!!」
俺は勢いよくベッドに手をついて頭を下げた。
シャルが『シャロ?!』と戸惑った声で言った。
土下座は男としてどうかと思うが、今はそんなこと構わない。
シャルとお母さんの反応を見れば、いかにシャロさんが大切な家族と思われているか分かる。中身は俺だが、シャロさんが帰ってくる可能性がある以上、シャロさんとして一緒にいた方がいいだろうし、シャルもシャロさんがいる方が幸せ……というのは、建前だ。
本音は、俺が単にこの人たちと一緒にいたいのだ。
今日初めて会ったのに、シャルは既に俺の癒しであり、大切で、守りたい……妹であると強く感じた。お母さんだって悲しい顔をさせたくないし、冷たい言葉をかけられるのが怖い。
この人たちは優しい。だから、こんなにはっきり言わなくても家にあげてしばらくは面倒を見てもらえるだろう。
だけど、はっきり認めて欲しい。俺に他意はなく、せめてもの贖罪にシャロさんがいない間、シャルを幸せにする努力をすることを認めて欲しいのだ。
「………レイくん」
肩に手を置かれて、顔を上げると、お母さんは複雑そうな表情をしながら、それでもそのまま優しく俺を抱きしめた。
「二人で、シャルを幸せにしましょう」
不覚にも泣けた。男なんだから、女性の前では泣くまいと歯を食いしばる。
『ああっ、ずるいよー!』
シャルが俺の腰にハグ……一部の業界ではベアハッグと呼ばれる技を掛けてきたせいで、我慢できずに泣くことになったが。
「痛っああぁあぁ!!」
さらに言うと、一部の業界ではこの痛みはご褒美とも呼ばれる。