妹の幸せを願って何が悪い!   作:のーぷらん

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3.5 双子の母の独白 (前)

 

 

ちょうど去年あたり、小学校5年生のときだったか。

当時のシャロンと同じように、シャルロットを「シャルロット」と呼ぶ子が多くなった。それまでは、あまりに似ている双子だったので区別がついていない子や、区別がついていても何となく呼びかけに躊躇や迷いが入る子が多かったらしい。だが、…シャロンは全く気にしていないので言ってしまってもいいだろう―初潮がきてから、二人は成長する部位が異なっていた。要は、シャルロットが胸の部分が成長したのに対し、シャロンは成長しなかった。まぁ、代わりにシャルロットは背が伸びず、シャロンは小学生6年生の現在159cmと高めの身長を手にしているのだが。

そういった経緯で双子の見分けがつくようになったため、どんな人も「シャルロット」と迷わず言えるようになった。これがシャロンのお気に召さなかったらしい。

「シャルロットは私の特別に可愛くて大切で守りたくて(以下、妹に対する惜しみない賛辞)な妹だから、他の人と一緒の呼び方なんてしたくないの。だからこれからシャルって呼ぶね。私だけの、呼び名だよ!」と宣言した。

その独占欲丸出しなセリフに対して、シャルロットは「私もシャロンのこと特別だから、えーと、シャロって呼ぶ!」と微笑みながら言ったそうだ。動じないシャルロットは将来大物になるか…それとも単なるシスコンになるのか(言うまでもなく、シャロンはシスコンだ)。

ちなみに、私はこのやり取りを直接見たわけではなく、シャロンから聞いた。二人だけの呼び名を決めたという事実だけではなく、シャルロットの「えーと」や反応、仕草までも細かく伝えてくるあたり、歪みないシスコンである。我が娘の将来に不安を感じざるを得ない。

 

 

 

 何故こんなシスコンになってしまったのか。

 

 

 ……それは、私のせいだろう。

 私は家にいられる時間が少ない。二人を育てるために働いている。だから、その分、二人はお互いを(片方は驚くほど)大切にするようになったのではないかと思う。

こんなに働くのは、頼れる親族も…夫もいないからだ。離婚したわけではない。養育費ももらっていない。そもそも、彼は、シャロンとシャルロットの存在さえ知らない。

 

 

私は、デュノア社に勤務している。今となっては量産機ISのシェア世界第三位の大手企業として有名だが、昔は機械工業の会社で、私も精密機器の製造に携わっていた。

あの人は私と同じ部署だった。当時はデュノア社社長ではなかったが、仕事が出来て、気配り上手で甘いマスク、おまけに親御さんが資産家ということもあり、社の女性は色めきたったものだ。

私は、始めこそ彼を親の七光りで女の扱いに慣れている男と思っていたが、機械の製造について議論を交わしたり一緒に作業をしたりしているうちに彼に惹かれていくのが分かった。同年代の男性は仕事人間な私を敬遠していたし、機械で話が弾む男性なんていなかったこともあるが、何より彼が機械の油で汚れて、指の皮もすっかり硬くなっている私を、それでも女性扱いしてくれていたところが大きな理由だろう。

 

いつも以上にバーで議論が白熱し、お互いに酔っ払った日、倒れ込むようにして入ったホテルで私たちは体の関係を持ってしまった。我ながら馬鹿だった。せめて、その前に好きだと言っていれば、こんなことにはならなかった。朝起きて気だるい体を起こすと、彼は私に謝ったのだ。彼にとっては、これは酔った上のもので、愛の伴わない誤った行為だったのだと感じた。

ショックだった。

ちょうど異動希望の時期でもあり、私は部署異動を申請した。彼と顔を合わすのは、少なくとも今は無理だと思ったから。

異動は受け入れられ、会社に赴くと彼に会う可能性もあるので、自宅で設計やプログラミングを作成し、会社に送ることにした。これで会社には滅多に行かなくて済むようになった。ただ、私がそうするようになってすぐに、社の噂で、彼がデュノア社の社長令嬢と婚約したことを知った。

 

それからしばらくは仕事に打ち込んだ。彼とのことを考えたくなかった。だから、無理をしたから生理がこないのだろうと思っていたが、二ヶ月して恐る恐る検査薬を使って初めて……妊娠していることが分かった。婚約した彼のことを、未練がましいが、まだ好きだった。だけど、会って謝られて、「お金は出すから堕ろしてくれ」と言われたら?

……私はどうしたらいいか分からない。

彼に何も告げることが出来ないまま、二人の女の子を出産した。双子の姉をシャロン、妹をシャルロットと名付け、私の姓であるアズナヴールで戸籍を登録した。

 

会社に育児休暇を出すと、いまや次期社長となっている彼に知られるかもしれない。育児をしつつ、双子を育てることは想像以上にハードだった。ベビー・シッターや保育園をフル活用し、働く。貯めていたお金が二人の将来を思うと、心許なかった。

二人は小学一年生になった。賢く優しい私の自慢の娘だ。学校から帰ってその日会ったことを色々話してくれる姿が愛おしい。

その年に、ISが登場した。開発した篠ノ之束博士は日本人で、日本語がIS業界では公用語になった。私は必死で日本語を勉強して、ISの武器や機体についての研究報告書や論文を翻訳して会社に送った。

 

日本語をマスターする間、娘たちには特に寂しい思いをさせてしまったように思う。

朝一緒にご飯を食べて、その後娘たちの昼と夜のご飯を作る。作り終わったら日本語学校に行き、会社でISについて学び――その頃には彼がIS開発社としての新生デュノア社の社長となり、会社内部でばったり出くわす危険性はなくなった。忙しく社長室で朝から晩まで書類と向かい合っていると噂で聞いた――、夜に帰ってきて娘とお話をする生活だった。

シャロンとシャルロットは眠そうで長く起きていられないようで、うつらうつらしながら「おかあさん、あのねぇ…」と話しかけてきてくれる。私はいつも「明日聞くわね」と言い、子守唄を歌い、二人の額にキスをして「おやすみなさい、私のかわいい娘たち」とささやくのだ。

 

 

 

 二人には無事に育って欲しいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

だが、二人が小学6年生になり、まだ残暑が残る9月。

 

その日は夕食前に帰れたので、みんなで外食をしたいと思っていたが、家に帰っても二人はいない。焦る私に、ちょうど携帯電話が鳴る。

二人にはデュノア社に関わってもらいたくないので、緊急時には勤め先のデュノア社ではなく、私の携帯電話に連絡するように言ってある。

その電話が鳴った。

嫌な予感がする。

電話の主は、シャロンでもシャルロットでもなく、近くの病院の看護師からだった。

シャロンが大怪我をしたと告げられた。

 

頭が真っ白になった。とにかく走って走って病院まで行った。

シャルロットは椅子に座ったまま青ざめていたが、私を見ると即座に抱きついてきた。すすり泣きの声が聞こえる。まだ9月で蒸し暑いはずなのに、触れたシャルロットの手はいやに冷たかった。

 

シャロンは病室の中で眠っていた。すでに手術も終わった後だった。

その場に来ていた警察の方に伺ったところ、次の通りに説明された。

シャルロットが学校の帰りに不審な男に連れ去られ、誘拐されそうになったところを、シャロンが猛然と男に襲い掛かったそうだ。火事場の馬鹿力なのか、もみあいへしあいに。そのときの怒声とシャルロットの悲鳴に気付いて近所の人たちが来る。焦った男はそのまま刃物を取り出して袈裟懸けにシャロンを切った。そして逃走。

 

次にお医者様。

「シャロンさんは、左首筋から右のわき腹まで切られました。倒れた時に側頭部も強打したようです」

袈裟懸けに切られた傷は消えないだろうとも言われた。

 

シャルロットは自分のせいだと泣いている。

私はとにかく「シャロンは大丈夫。シャルロットのことをあの子が責めるなんてありえない」と言った。慰めでもなく、シャロンは妹のことを責めないし恨みもしないだろう。責めるとすれば、シャルロットを泣かせた自分自身の弱さだ。

 

(シャロン…早く起きて。シャルロットが泣いているのよ…?)

 

その祈りが通じたのは、誘拐未遂事件から二日後のことであった。

 

 

 

 

だが、その時にはシャロンはシャロンであって、シャロンでない人物となっていたのだ。

 

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