響子は人里の入り口が見えるところに緊張して物陰に隠れて立っていた。
大丈夫かな……
響子は比較的に人里とよい関係を築けている命蓮寺の一員であるとしても所詮妖怪だ。すんなりと入れるとは到底思えない。
でも、行かなきゃ。
響子は自分の重い足をゆっくりと前に進めた。
人里の入り口の門の前に着くと常時いる二人の見張り役が響子を見る。
「お、おはようございま……す」
「おおー、命蓮寺の子じゃないか!何時もの元気な挨拶が無いぞ!聖様にでも叱られたか?おはよう」
「ええっ、うん。少し……」
響子は思っていた反応と真逆で驚きつつ人里の中に踏み入れた。
「元気出せよー」
「はいっ、ありがとうございます!」
比較的若い門番に励まされやる気が出て来た。
人里の中はまだ日が昇る前だがパン屋や豆腐屋等朝早くから仕込みにかかるお店の窓からは灯りや白い湯気が立ち上っている。
まずは小傘に会いに行ってみよう、それで何でそこに居たのか聞いてみないと。
響子は考える。
犯罪者は独房に入れられてしまう、だけど私一人でそこに行って小傘に会えるのか。
そこで小傘は一人の人物を思い浮かべた。
上白沢先生だ。上白沢先生なら妖怪の私にも優しくしてくれるだろうし人里での人望も厚いから私と小傘を合わせてくれるかもしれない。
「上白沢先生はいらっしゃいますか」
寺子屋の横に建っている先生の自宅を訪ねる。
「こんな朝早くに誰だ……おお、君は命蓮寺で毎朝掃除している山彦の妖怪の」
「幽谷響子です、おはようございます」
「いつもより元気が無いじゃないか、何かようかな?」
「……えっ、あの、その、小傘ちゃんに会って話をしたいんです!会わせてくれるように口添えをお願い出来ませんか!?」
勇気を出して口に出した響子を見た上白沢は少し悩んだ様子を見せた。
「まぁ、とりあえず朝食を食べさせてくれ。一緒に食べるか?」
「ご馳走様でした。とてもおいしかったです」
「いやいや、焼き魚とご飯だけじゃないか」
「焼き魚の焼き加減なんか良かったです」
響子の感想を聞いた上白沢は恥ずかしそうに頬を綻ばせる。
「それは良かったよ」
そしてそのまま世間話を続けているうちに人里唯一の警察署にたどり着いた。
「少しここで待ってくれるかな?」
そう言って上白沢は中へ先に入っていった。耳の良い響子は少し中の会話が聞こえる。
おーい、子兎姫は居るか?
おー、先生じゃないか。どうした?
この間妖怪が捕まっただろう?その友人が会いたいらしい。ああ、大丈夫だ、命蓮寺のところのだから……安心だろ?
えっ?安心出来ないから牢屋に入れるって?馬鹿か?お前はただ牢屋に空きが有るのと暇だからだろ!
からかうんじゃないよ、全く。
「おーい、入って良いぞ」
上白沢は響子を呼ぶが彼女は入り口から此方を覗いたまま近づいてこない。
「ほら、さっきので怖がらせたんだぞ、きっと」
「あら、怖がらせちゃってごめんなさいね。ふふふ、可愛いわねー」
「お、おはようございます」
「おはようございます」
響子の挨拶に子兎姫はお辞儀して応える。
綺麗な人だなぁ。こんなところで働く人とは思えないや。
子兎姫のお姫様のような姿を見て響子は思った。が、すぐに本来の目的を思い出して焦る気持ちを抑えて頼み込んだ。
「お願いします!小傘ちゃんに合わせてもらえませんか!?話をしたいんです!」
土下座しそうな勢いで頼み込んだ姿を見た子兎姫は微笑んだ。
「分かったわ、好きなだけ良いわよ」
「ありがとうございます!」
連れて行かれたのはこの建物の最奥にある座敷牢だった。しかし響子にとって意外な光景がそこに有った。
「びっくりした?殺風景な部屋って私は嫌いなのよ~」
薄暗いと思ってたが日当たりは抜群!格子窓の窓際には花瓶や可愛らしいぬいぐるみ等が飾ってあった。
「こ、小傘ちゃん!」
そしてその隅っこで彼女は小さく丸まっていた。