星の在り処   作:KEBIN

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魁・武闘トーナメント(ⅩⅧ)

「アネラスさん達と相対した場合、開幕後のコンマ数秒が勝負の分かれ目よ」

 ホテル・ローエンバウムの食事処の作戦会議。ヨシュアは白い受け皿に盛られた四角いトーストを闘技場に見立て、パンの耳の四隅に赤いトマトソースを塗り込みバトルポイントを設定する。

「私が先制攻撃を仕掛ければ、クルツさんが陣形をばらけさせてくれるから、このケチャップの位置まで対戦相手を追い込むこと」

 この段階でクルツの察知スキルの存在を確定させていたヨシュアは、初手の奇襲はほぼ回避してくれると敵を信頼している。

 むしろ、万が一にも真・魔眼が成功した方が他面子はともかく肝心要のクルツにはどうせ遅延効果をレジストされるだろうから、何らかの方術強化をカウンターで発動され事態が面倒になるくらいだ。

「言うまでもなく機動力(MOV)の高さが追撃の肝なので、装飾品と靴も決めておくわね」

 前戦では自由にアクサセリを選ばせたが、メンバーの個性に応じた一つ目はもちろん、二つ目も今回はヨシュアが定めることにする。机の上に人数分の猫のしっぽ(MOV+2)と、ジン達の足サイズに応じてヨシュアが手直しした穴空き長靴(DEF+1 MOV+3)が置かれて一堂は目を見張る。

 黒猫少女はともかく男性陣がこんな尻尾を装着したら変態そのものだが、(※早速、オリビエはお尻に嵌め込んで、「にゃおーん」と顔を洗う気色悪いポーズを誇示する)ベルト代わりに腰元にでも巻きつけるようレクチャーされる。

 尚、エステルが釣り上げた長靴まで実戦投入させるとは意外だが、馴染のクラフトシューズ(DEF+20 MOV+2)に較べ防御力が大きく損なわれるものの、それほどMOV+1の僅かな上乗せが電撃戦では重要なのだ。

「首尾よく四隅に封じ込めてしまえれば、敵同士で連携(チェイン)される心配はなく、安心して個人戦へと移行できるわ」

 一人も失敗せずに全員嵌められる確率は五分五分だが、その態勢に持ち込んでしまえば勝負開始前の優劣が完全に逆転する。

 得物や戦闘スタイルの相性も加味した上で各対戦パートナーが割り振られたが、ヨシュアは四つの戦域全てで真っ当な勝利を収めるつもりは毛頭なく、主役となるのはタイマンなら無敵に近い性能を誇る武闘家(ウーシュウ)だ。

「私たち三人の役割は基本的には足止めだから、それまで対局者を袋小路から絶対に逃がさないように務める事」

 その間に局地戦の中でも最も力量差がかけ離れた一戦をジンが物にし、その後直ぐさま別の味方に加勢すれば今度は二対一という圧倒的に有利な状況で敵を屠れる。

 残りの二人も同じように複数で襲いかかれば、最後まで数的優位を築ける。新たな卓袱台返しが起きない限り勝利が確定するが、あくまで開幕直後の半丁博打を乗り切らないといけないのでトータルの勝率は四割弱のようだ。

「やれやれ、軍師殿も随分と無理難題を押し付けてくれるものだ」

 敵を侮る慢心や自惚れと無縁の拳法家は、グラッツが瞬殺可能な有象無象の雑魚には程遠い猛者なのを承知しているので大げさに肩を竦めるが、完全に目が笑っている。

 越えるべきハードルが高いほどに克服し甲斐を感じるのは格闘馬鹿に共通する悪癖。瞳に好戦的な活力を漲らせる。

「見込まれた以上はその期待に添えるよう尽力するが、軍師殿も何実に大変ではないのか?」

 腕組みしたジンは軽く眉を顰めて、ヨシュアの職務を憂慮する。

 相手は彼と同じA級遊撃士。しかも単なる足止めに留まらずに戦闘フィールド全域を効果範囲とする方術の詠唱阻止もノルマとして課せられており、ある意味では単純に敵をぶちのめせば良いジンよりも難易度の高いミッションといえる。

「まあ、そこは任せておいて頂戴。その代わりにジンさんのお仕事が達成したら、いの一番に私を助けにきてね」

「心得た」

 クルツ対策に自信を伺わせる少女にそう誓約する。

 二人の想定戦場は対角線上の最遠に位置する。同じ蒼の組逆側から片づけた方が手っ取り早いが、そういう距離的な効率を無視してでも敵側のライフラインは真っ先に潰さねばならないキーマンだ。

「何か納得いかないな」

 ここでエステルが初めて口を挟む。少しばかりトーンを落とし作戦に不快感を申し立てる。

 目立ちたがりの利かん坊としては脇役に徹しろと命じられたのも愉快ではないが、団体戦なのでチームプレイの損な役回り自体は受け入れるつもりだ。

「個人戦はいいにしても、なら勝ち残った者は他のバトルに手を出さないようにして、最後までそれを貫くべきじゃないか? 差し勝負のグラッツさんはともかく、最終的に数で殴殺されるカルナさん達は浮かばれないだろ?」

 今回忌避感を覚えたのは、ひたすらクルツチームの長所を削って、敵に一切の本領を発揮させることなく殲滅まで持ち込もうとする悪辣な手口そのもの。野球に譬えるなら四番打者を敬遠し続けるようなプレイする者も鑑賞する側も真に興醒めな戦術だ。

「遣り切れなさが残るというエステルの主張は案外、正鵠かしら?」

 戦いは目的達成の一手段に過ぎない合理主義者はバトルマニアの性根を解さないが、義兄の見解には一定のシンパシーを示す。

「アネラスさん達は、メイルさんみたいに賞金目当てで大会に参加した訳じゃないからね」

 老獪な遊撃士が本気で優勝を志したなら、消化試合に等しかった緒戦で方術やチェインを披露したりはせず、もっと手の内を隠していた筈。

 恐らくは猟兵団(イェーガー)との殺伐とした血生臭い殺し合いに辟易し、お互いを称え合えるような気持ちの良い喧嘩がしたいという子供っぽい動機で公式試合にエントリーしたのだ。

「ヨシュア、お前、そこまで理解して……」

「けど、それはあくまでクルツさん側の個人的な感傷であって、対戦者が酌んであげる義務はないわ」

「まさか、『手術を受ける幼子に勝利を約束した事情(わけ)ありの相手』と対戦する都度、態と負けてあげる訳にもいかないでしょ?」

 少しばかり皮肉のスパイスを効かせて、正論を突き付ける。

 アネラス達がスポーツマンシップに準じるのは自由だが、大会規定のルールを尊守している以上、どのような戦法で応じようと咎められる筋はない。付け加えるなら、実は負けられない理由を抱えているのはリベールの命運を背負っている兄妹の方である。クエストの達成率を少しでも高めようと知恵を搾るヨシュアに、技術的欠陥の指摘以外の難癖をつけるのは単なるガキの我が儘だ。

「武闘の本来の基本は『敵に力を出させずに勝つ』だから、ヨシュアのスタンスの方が多分正解ではあるんだろうな」

 頼れる兄貴が包容力のある視線で見下ろしながら、エステルの肩を叩く。

 ジンもどちらかといえば結果よりも内容を重視するエステル側の住人なので弟分の憤りは判らないでもないが、勝つ為に最善を尽くすのも武人に対する礼儀。

 また個人戦自体がクルツ側からすると一方的に押し付けられた罠なので、仲間同士で合流するように手を尽くすだろうから、エステルの傍観案はナンセンスそのもの。パーティーバトルである以上、私心は抑えるべきだろう。

 

 こうして多少のしこりは残したものの、ジンチームはヨシュアの定めた方針に従いブレイサーズ同士の頂上決戦(※この地点ではまだ対決は当確していなかったが)に挑む次第になった。

 

        ◇        

 

「これはこれで判りやすいけど、どの対戦に注目すれば良いか悩むよな」

 闘技場の四方で個人戦の複数バトルが同時スタート。気の多い者は首を忙しく左右に動かして目を瞬かせ、要領の良い観客は自分が座る席に近い場所での対決に意識を注ぐ。

 

 蒼の組左側では、ヨシュアから超過勤務を託されたジンが大剣を振り回すグラッツと渡り合う。

「ぬうんっ!」「うっしゃあ!」

 前へ前へと距離を詰めて積極的に攻めながらも、試合巧者の拳法家は決して勝負を逸ることなく落ち着いて機会を伺う。

 ジンの役柄がバトルフィールド全域に及んでいると悟られたら、逆に守りに入られ時間稼ぎされてしまう。むしろ傍目にはグラッツを逃がさないように壁役に徹しているように見せ掛けて敵の攻勢を誘い込むあたり、戦いの年季を感じさせる。

「いくぜ、グラッツスペシャル!」

 クラフトに自分の名前をつけるのが大好きな、ヨシュアとは別の意味で中二病の気がある赤髪の若造は上空に大きくジャンプ。その反動を利用した必殺の一撃を真下に叩きつけるが、ジンは両腕をクロスに構えて籠手の部分で受け止める。

「マジかよ?」

 摩擦で火花を散らしながらも、硬質の大型魔獣を一刀両断する威力の剣撃に耐えきった豪腕にグラッツは唖然とし、ジンはその鋼の拳を大きく振りかぶる。

「ふんっ、せいやぁ!」「ぐぼぉあ!」

 クラフト後の硬直で動きが止まった所に反撃を喰らい、鳩尾に正拳突きが叩き込まれる。渾身の月華掌一発で重装備の鎧に皹が入り、胃液を吐き出して足元をふらつかせる。

「そりゃ、そりゃ、そりゃゃあっ!」

 無手と得物のリーチ差の有利不利を体現した『剣道三倍段』は、この規格外の拳法家にはまるっきり当て嵌まらない。今の攻防でペースを掴んだジンは一方的なラッシュで打ちのめしガシガシHPを削っていく。

「げふぉっ! 不動のジン、まさかこれほどの凄腕とは…………」

 アガットに匹敵するリベール名うての若手遊撃士も対戦カードが悪すぎた。ヨシュアの目算通りにグラッツが戦闘不能に追い込まれる結末はそう遠い先の話ではなさそうだ。

 

        ◇        

 

「あははっ。やるじゃない、新人君」

「アネラスさんこそ、空賊砦の時とは別人だぜ」

 一方、蒼の組右側ではワンサイドに傾き始めた左側と異なり、アネラスとエステルの二人は実に楽しそうに一進一退の熱いバトルを繰り広げている。

 極長の物干し竿とクルツから正遊撃士昇格祝いで授けられた業物の青龍剣が正面からぶつかり合う。

 一撃の破壊力は膂力に秀でるエステルに分があるが、アネラスはかつてカシウスも師事した八葉一刀流初伝の腕前と鋭利な幅広剣の性能を駆使し、パワー差を埋め合わせて互角に立ち回る。

(やべえな、俺また何かワクワクしてきたぞ)

 共に気持ちで戦うタイプなので、両者のバトルは時計の歯車のようにガッチリと噛み合う。エステルは身体の奥底から沸き上がる高揚感を自覚するも、自分の役割だけは忘れずに指定エリアから逃がさないような位置取りを丹念にキープする。

 ノックバック攻撃でフェンス手前に押し返されて少し両者の距離が開いたので、アネラスは一端剣を鞘に収めて小休止タイムを設けるとフレンドリーに話しかける。

「あー、楽しいー。やっぱり、色々と相性良いみたいだね、私たち。けど、惜しむらくは新人君は手綱を制限されて少し窮屈そうに戦っていることかな」

 天然であっても、決して馬鹿ではあらず。

 僅かながらに棍筋に顕れた心の迷いを見事に見抜かれてエステルは素直に兜を脱ぐ。

「やれやれ、やっぱり歳食っている女の人は洞察力が高いな…………んっ?」

 目の前のアネラスが突如、地属性魔法(ペドロプレス)を浴びたように石化している。

 何やらエステルの発言に只ならぬショックを受けたらしく、「新人君、それってどういう意味かな?」と奮える声で問い質すも。

「どうもこうも言った通りの意味だぜ、アネラスおばさん」

 嫌味や挑発でなく素直に感じた有りの儘を口にしているらしく、ピシリと石像アネラスに亀裂が入る。

 そういえばボースデパートで初めて出会った時からやたらとアネラスを淑女(レディ)と持ち上げてくれていたが、あれはおべっかでなく単純にエステルの中で年増のカテゴリーに分類されていただけだとしたら?

 真相を悟ったアネラスは石化状態を解除すると、涙目になって抗弁する。

「せめて、お姉さんって言ってよね。カルナさんはともかく、私はまだピチピチの十八歳…………ひっ!?」

 突然、アネラスの鼻先を導力エネルギーの弾丸が掠めて、反射的に後ろに飛び退く。

 てっきりオリビエの援護射撃かと思いきや、発射元は同僚のカルナらしい。大型の導力銃をこちら側に向けながら「おっと、手が滑った」などと嘯いている。

「ちょ、ちょっと、カルナさん? 私、味方…………」

「ふんっ、あたしの年齢を揶揄する奴は誰であろうと敵さ」

「こらっ、オリビエ。真面目に仕事しろ!」

「ふっ、彼女の銃口の発射角からマイブラザーは標的でなさそうなので見逃したまで。ここから先は一発たりとも通しはしないから、安心したまえ」

 一筋の流れ弾を巡って、両陣営ともチームメイト同士で些細な口論が生じたが、仲違いするほどの諍いには発展せずに、舞台を紅の組の左側へと移動させる。

 

        ◇        

 

 クロスレンジで判りやすいガチバトルでぶつかる蒼の組の前衛対決と異なり、ガンナー同士の組み合わせは互いの距離の奪い合いに終始する微妙な駆け引きが続いている。

 先のアネラスへの誤射(?)で立証されたように、飛び抜けた射程を誇る導力銃の担い手たちは全ての戦場への横槍が可能。故に二人とも相手を牽制しながら他のバトルに介入されないよう留意している。

 残弾数の導力エネルギーと行動力を温存する為、必然的に連射を避ける。時に前へ踏み込み、稀に撃ち込んで、後退、左右のステップと単純な移動を繰り返して緊急の状況変化に備える。

「クククっ、実にマニア受けする渋い戦いだね」

「ふわあぁー。ママー、僕なんか眠くなってきちゃった」

 緻密な騙しあいの連続に目が肥えた玄人客は手に汗握るも、素人目には何をしているのか判りづらいのでお子様は退屈そうに欠伸を噛み殺す。

「何かダンスを見ているみたいで、つまらねえな。遠方でお見合いしてないで、帝国洋画の『ガン=カタ』みたいに至近距離から二丁拳銃でド派手にバンバン撃ち合えや、ゴルア!」

 などという素人意見まで飛び出す始末で、戦いの当事者二人はへこたれる。

「やれやれ、過酷な実戦を大衆映画と一緒だくにされちゃ敵わないね」

「ふっ、そう嘆くことはない、レディ。素人を喜ばせ玄人に鼻で笑われるエンターテイメントと逆に玄人を唸らせ素人には理解不能なハードボイルドのどちらにも相応の需要があり、両者間に優劣など存在しない訳だからね」

「おやおや、言うね、色男?」

「ちなみに僕が目指すのは、素人を喜ばせ玄人を唸らせる。リアルとエンタメが融合した至高のハイブリッド作品かな?」

「はっはっはっ。大言壮語もそこまで突き抜けるといっそ清々しいね。気に入ったよ、あんた」

 こうやって対話を試みお互いを認め合いながらも、決して足を止めることなく優位なポジションを伺い合い、遊撃のスナイパーという自らの役割を全うする。

 見る者の眼力によって評価が百八十度反転しそうな難しいバトルを提供する二十台半ばの男女ペアによるエンドレスワルツは果てしなく続きそうだ。

 

        ◇        

 

「おいおい、どうなっているんだ、こいつら?」

 残るは紅の組右側。ジェノサイドに味方強化。手法は真逆だが共に集団戦闘を生業とする者同士の対決は、プロアマともに見解が共通するという希有な事例に陥っている。

(二人とも単に横着して、楽してないか?)

 激しく鍔競り合う他の戦場とは異なり、ヨシュアとクルツは得物を構えて睨み合ったまま一歩を動かずに静止状態を維持している。「お互いに隙がないから攻めあぐねているんだ」と深読み大好きな解説君が必死にフォローするも、興業としては最低レベルの見せ物なので客は白ける一方。

 もちろん、実際には手を抜いている訳ではなく、敵手の力量を警戒しどちらも先手を打つのを遠慮しているので、マニアの考察はさほど的外れではなかったりする。

 更には眼前の局地戦のみに集中すれば良い戦士らと異なり、指揮官の両雄は戦局全体を見回し自軍を勝利に導く視野の広さを帯びている。目の前の敵を直接倒すことは戦術的には枝葉の一要素に過ぎず、クルツは選択を迫られる。

(この対局に振り分けられた地点で予測できた事だが、やはりグラッツ一人ではジンさんの相手は手に余るか。あの怪物と『対等な条件』で一対一で戦える兵など私たちのチームにはいないから無理もないが)

 戦場の綻びを認識したクルツは方術による強化を施そうと左手を掲げた所で、背筋に悪寒を感じて途中で動作を停止させる。

 一瞬、瞳を真紅に輝かせた黒髪の少女は目のカラーを琥珀色に戻すと面妖な表情でクスクスと嘲笑い、クルツの頬から冷や汗が流れる。

「やっぱり、見えちゃうんですか? 方術の一種なのか、はたまたエステルやキールさんみたいな単なる勘の良さかは知りませんけど、あまり未来が読め過ぎるというのも考えものですね」

 客目線からはどちらも職務怠慢に映るだろうが、実はクルツは既に三回ほど方術を行使しよう試み全て不発で終わっている。

 現在の戦況に危機感を抱くクルツが仲間の手助けをするのが責務なら、その作業を妨害するのが現状に満足するヨシュアの使命。狙いは方術そのものの阻止ではなく、何と敢えて発動させた後のワンターンキル。

「私は解除クラフトなんて気の利いた温技は持ち合わせていませんから、覚悟してくださいね。まあ、実際には『朧』の即死率は50%程度ですけど、試合前の私たちみたいに半丁博打に運命を託してみます?」

 無用心に立ち尽くしているよう偽装しながら、少女は慎重に方術が使われるタイミングを見計らっている。発動直後の僅かな硬直時間(ディレイタイム)に合わせて喉元を抉られる光景がありありと脳裏に焼きつき、死に対する本能的な恐怖心がクルツの身体を萎縮させる。

 ヨシュア程ではないが素で状態異常の強耐性持ちの上にやばい特殊攻撃を事前察知して回避する自信があったので、アクセサリをCP回復のみに特化させ即死耐性を疎かにしたのが裏目に出た。

(読めるが故に、却って縛られるか……)

 所詮は半々のデット・オア・アライブなので、喰らってみれば案外、数回持ち堪えたりするかもしれないが、慎重で臆病な性分故にそういう運否天賦に身を委ねられない。

 付け加えるならクルツの戦闘不能は即チームの敗北に直結する。仮にシャドウスペア並の低即死率(20%)だとしても、今の段階で敢えて石橋を渡る気にはなれなかった。

 こうして結果的にクルツは方術の発動を躊躇い、少女が望んだ通りの膠着状態が維持され続ける。

 グラッツも懸命に奮戦しているが、既にHPがレッドゾーンにまで突入しており、戦線離脱は時間の問題。そうなれば、あの怪物拳法家が他戦域にも雪崩込み、辛うじて保たれていた戦場全体のバランスが一気に瓦解する。

(どこかでリスクを犯さなくては、今の劣勢を打開するのは無理だろうな。黄金の羅針盤とも対等に渡り合った私たちのチームワークをこの不届き極まる怪傑たちに知らしめるとするか……)

 シンプルイズストロングを地で行く単体最強戦力の『不動』に、謀略と暴略がセットになった剣聖を彷彿させる『漆黒の牙』のタッグなど反則極まりない気もするが、あくまでクルツは皆で力を合わせてこの理不尽なまでの個の暴虐に立ち向かう腹である。

 

 同じ遊撃士同士の大一番でありながら、個別間の力量差に任せて粉砕を目論む暴君(タイラント)にチーム全員が一丸となって挑むクルツとその愉快な仲間達。本当にどちらが主人公側のメンバー構成か判らない両極端なブレイサーズの戦いの行方は次回に続く。

 

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