星の在り処   作:KEBIN

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攪乱するグランセル(Ⅱ)

「まずは現在の状況を整理しましょう」

 受付のエルナンがグランセル地方の地図をデスクの上に広げる。全員で覗き込むのはスペース的に無理なので、エステル、ヨシュア、ジンの中心メンバーの他は各参加チーム代表者のユリア、クルツ、タット(※リーダーはメイルだが、彼女は色んな意味で戦略的な話し合いには向かないので)が最前列に陣取り、他の面子は二列目から様子を伺う。

「情報部は四個中隊の戦力を大きく二つに分散させていて、私が調べた限りでは王都に約100人。攻略拠点たるエルベ離宮には80人程が陣取っていて、残りの20人が遊兵として巡回や飛行艇を停泊させている周遊池などの重要ポイントに屯しています」

「80人か。力押しの拠点攻略の形を取るしかないにしろ、もう少し数を減らしたい所だな」

 エルナンの説明にクルツが顎に手を当てて思案する。

 エルベ離宮はグランセル城のような守り易い城塞ではなく、今では単なる観光スポットに過ぎないが、それでも迎撃側が有利なのが防衛戦の常識で、本来なら攻め入る方が寡兵など問題外。

「その件に関して、一つ耳寄りなサプライズがあります。昨晩、リシャール大佐に率いられた30人前後の特務兵が宝物庫の中へと入っていき、未だに出てきておりません」

 ヨシュアが肉眼で確認したマル秘特ダネを報告し、王宮の内情を知るユリアはピクリと反応する。

 宝物庫と銘打っているが実際に金銀財宝など金目の物は何ら保管されてはおらず、王家によって禁制と定められたグランセル城の聖域の一つ。どのような思惑で、そんな場所に一晩以上も籠もっているのか。

「さーて、宝物庫の中だから、きっと宝探しにでも出掛けたんじゃないですか? 大事なのは現在グランセル城の特務兵が70人に減少し、情報部の司令も留守にしているので僅かばかり攻略難易度が下がったという事実です」

(なるほど。大佐は輝く環(オリオール)を目指して、本格的に動き出したというわけか)

 リシャールの奇異な行動に首を捻る一堂の中で唯一人エステルだけがヨシュアの暗喩を理解したが、この場では口は挟まなかった。

 義妹の恒例の秘密主義に乗っかるのは心苦しいが、今、七の至宝(セプト=テリオン)の話を持ち出しても場が混乱するだけ。王太子の救出が成功してからでも遅くはない。

「しかし、流石はヨシュアだな。俺が瞑想で動けない間も油断なく敵の動きを観察していたとは」

「ええ、まあ……」

 感心したように肯くジンに、ヨシュアは曖昧に言葉を濁す。

 別段、敵の不穏な動きを事前に察知したとかでなく、単純に憚りの用で外出した際に情報部の面々と出くわし得意の隠密能力で尾行しただけの偶然の戦果にすぎないが、ジンをはじめヨシュアと関わった人物は悉く少女の成す事全てを深慮遠謀に過大評価する傾向にあり、今後の作戦も腹案を抱えているものと期待され話を振られる。

「以上を踏まえた上で、軍師殿ならどのように兵を動かすつもりか?」

「もう、ジンさん。参謀ゴッコは武術大会で終わりましたし、ここには軍略の専門家が大勢揃っているのだから今更私が出しゃばる必要もないでしょ?」

「そう謙遜するな、ヨシュア。オーソドックスに戦略を練るなら、陽動班、突入班、要撃班、攪乱班などに役割分担するのは自明の理だが、いかんせん敵味方の数を違いすぎる」

 故にあの手この手の奇策で武闘トーナメントを勝利に導いた策士の悪知恵を待ち望んでいる。自らを取り巻く好奇の視線にヨシュアは軽く嘆息すると、地図上のエルベ周遊道のグリューネ門側にある周遊池を指差した。

「まず、最初の一手は陽動からかしらね。ここにある飛行艇を狙って、ユリアさん達親衛隊のメンバー全員で奇襲を仕掛けてもらいます」

 情報部は親衛隊の残党の数を正確に把握している上にギルドと結託した現状はまだ掴んでいない。残存戦力を余さず投入すれば、囮の可能性を排除して離宮からも援軍を派遣するだろうから、その分だけ本丸が手薄になる。

「さて、大佐が不在の中、グランセル城の指揮を引き継ぐのは副官のカノーネ大尉だと思いますが、彼女の人柄には若干触れる機会はあったものの、能力の方は全くの未知数なので行動の予測が立てられません。ユリア中尉、大尉とは旧知の仲だそうですが、貴方なら予想できますか?」

「そうだな、確かに私は個人的にカノーネの手口を心得ている。油断なく常に正着手を打つ参謀肌の優秀な軍人で、やや融通が効かない面もあり細かい戦術の機敏や修正に対応できない所はあるが、戦略レベルで間違いを犯すことはまずない」

 ヨシュアから下駄を預けられたユリアは迷うことなく明言し、敢えて敵の立場にたって思考を推し進めると、周遊池から連絡を受けたカノーネがどう兵を動かすか説明する。

「まずは距離が近いエルベ離宮から、50名ほどの応援部隊をエルベ周遊道を最短距離で送り込む。時を同じくして王都からも同数の兵力をキリシェ通り経由で急行させ、自然に作ったタイムラグを利用し戦闘の(たけなわ)にバックアタックを仕掛けて、挟み打ちにした我々を一挙に壊滅させる」

「おいおい、ちょっと待てよ。ユリアさん。たった9人の親衛隊を潰す為にその十倍以上の100名の兵士を動員するっていうのかよ?」

 貧乏性のエステルは30名もいれば十分に勝てるだろうと皮算用するが、敵より多くの兵力を整えるのが軍略の基本。ましてや数十人単位の小競り合いでは、個の力によって戦局を覆される余地が国同士の戦争に比べたら大きい。ユリアがカノーネの知略を弁えるように、親衛隊中隊長の武勇を警戒する女狐副官は万全を期する筈。

「行き当たりばったりにランダムに兵を動かそうとする愚将(ばか)だと却って行動が読めなくて困るけど、カノーネ大尉が最善を尽くそうとする整合性に富んだインテリさんで助かるわ」

 ユリアの予測通りに王道で兵法を構えるなら、エルベ離宮の守護兵力は30人にまで減少する計算になる。

 ヨシュア、タット、ガウなど広範囲攻撃に長けた者を攪乱班として採用。その隙にエステル、ジン、メイル(ブラッキーは?)の接近戦特化型を救出部隊として、狭い建物内に突入させるようにメンバーを振り分ければ、遊撃士7名だけでも上手く敵を掻き回せる。

「もっとも、このままでは陽動班の親衛隊は普通に全滅してしまうので、『大軍兵器』をつけることにします。クルツさん、あなた達のチームで要撃班としてエルベ離宮からの応援部隊を挟み込むように迎撃してもらえますか?」

「了解した」

 そう肯くと、まだ見習いの小娘の指図を不服なしで受け入れる。

 同じA級遊撃士のジン同様、大会中、常に戦場をリードし続けたヨシュアの知謀を高く買っているからだ。更に大軍兵器と評された無茶苦茶なチート方術があれば、親衛隊、遊撃士合わせて13人の少数精鋭で50名を数える特務兵とも互角に渡り合える。

「ただし、私たちが力の限りを尽くしても、離宮からの増援と遣り合うのが精一杯だろう。気力、体力が尽きかけた所で同数の急襲部隊に後背を突かれたら一溜まりもないが、それはどう対処すべきだろうか?」

 自らの限界を弁えているクルツは、己の能力を過信することなく疑問を投げ掛ける。

 確かに歴史上の戦争でも前後から挟撃を受けた軍が勝った試しは少なく、ましてや挟まれる側が少数ではお話にもならない。

 故に王都からの援軍の派遣は是非とも阻止せねばならないが、今までの部隊配置で既に手持ちの戦力を全て使い切っており、対応できるカードは残されていない。

「そっち側は物理的に食い止めるのは不可能なので、(はかりごと)を以って当たりましょう」

 その一言に周囲が、『キタ━(゜∀゜)━!!!』という謎の雰囲気に包まれる。ここまでの戦術推移なら、態々ヨシュアが仕切らずともエルナン達だけでも十分執り行えた。

 親衛隊幹部や上級遊撃士が腹黒参謀に求めていたのは兵力不足を補う裏技の行使だったからだが、次の言葉は想定外だ。

「これからその根回しをしに行かねばならないので、ユリアさん。私と一緒に着いてきてもらえますか?」

 そのお誘いにユリアは怪訝な表情を隠せず、エステルや親衛隊の面々は眉を顰める。

 この二人の女性の間には様々な禍根が蟠っているのは周知の事実だが、クローゼを溺愛するユリアも仕事中に私情を挟むつもりはないようで、細部を煮詰めておくように部下たちに指示すると、例のシスターの仮装でヨシュアと連れ立ってグランセル支部から退出した。

 

        ◇        

 

 

歴史資料博物館:

「あら、ヨシュアさん。お久しぶりですね。修道女姿がどういった心境の現れかは存じませんが、大変お似合いですよ。えっ、何々、七の至宝の一つの輝く環について知っていることを教えて欲しい? うふふっ、良いですよ。ただし五時間は掛かりますので覚悟して…………えっ? 時間がないので五分以内に手短に? しょぼーん」

 

「…………このような経緯で、私が調べた文献では輝く環(オリオール)(コルティア)を司る至宝。その名の通りに『空間』を自在に制御する能力を持ち、全く異なる次元世界(パラレルワールド)との扉を開く鍵の役割を果たしたと言い伝えられています。他にも(オブシディアン)の至宝は過去の歴史を遡る時間旅行(タイムトラベル)を可能とします。(アルジェム)の至宝はこの世の因果律そのものに干渉して、望んだあらゆる結果を齎すと云われます。そして、上位三属性の全ての至宝を手中にせし者は、過去、現在、未来の全ての次元を支配して、(エイドス)にも等しい奇跡の御業で天地創造さえも成し得たそうです。なぜ、ヨシュアさんが急に七の至宝(セプト=テリオン)に興味を抱かれたのかは判りませんが、お蔭で私の研究も次の段階に進めそうな素敵な予感に満ち溢れています。お仕事、是非是非頑張って下さいね」

 

        ◇        

 

コーヒーハウス『バラル』:

「やあ、待っていたよ。ヨシュア君。例のブツは持ってきてくれたのだろうね? おおっ、これこそはまさしく『カーネリア』全11巻のフルセット。今では絶版になっている幻の逸品を良く一刊も欠かさず揃えたものだ。約束通り『黒千鳥・白千鳥』か『太極棍』のどちらかを…………太極棍の方で良いのかい? 一部では伝説の宝具とか持て囃されているみたいだけど、見ての通り伸縮調整に特殊なギミックを用いた割長の扱いづらい棍で重さも尋常じゃないから、よほどの怪力でないと振り回すことすら困難だよ。だから、こっちの黒千鳥・白千鳥がお勧め…………。えっ? 自分は復讐者(アヴェンジャー)があるし太極棍に打って付けの遣い手を知っているから、こっちの方が良いって? 判った、それじゃ太極棍はそっちの本箱を担いできたシスターさんに手渡せば良いね?」

 

        ◇        

 

リベール通信社:

「あっ、ヨシュアちゃん。ちょうど良かった。実はナイアル先輩がここ二日全く連絡がなくて、ギルドに捜索依頼を出そうか迷っていたのー。えっ? うん、そうそう。最後に出掛ける前にエルベ離宮のお友達に直接会いに行くっていっていたけど、何でヨシュアちゃん知ってるの? 「これで最後の裏付けが取れた」って何の話か私にはチンプンカンプンだけど、もし先輩がピンチで何か私に手助けできることがあれば……。何々? 一緒についてきて、これから遣る事に協力すればいいの? うん、判ったよー。それじゃ編集長、ちょっとお出かけしてきまーす」

 

        ◇        

 

「一体、どのようなつもりだ?」

 考古学者と思わしき中年女性に御伽噺の伝承を尋ね、ローエンバウムホテルの部屋から持ち出した本をアホみたいに重い武器に物々交換した挙げ句、マスコミ関連の人間までお供に加えたヨシュアの一連の行動を訝しむ。

 太極棍はおろか、カーネリア全巻セットすら持ち歩けない貧弱なヨシュアには荷物持ちが必要だったにしろ、それなら武具の本来の担い手である義兄に頼めば十分な筈。態々遺恨のあるユリアを担ぎだした理由が判らない。

「確かに今までの寄り道は私用みたいなものだけど、最後の目的地にはユリアさん。貴方の協力がどうしても必要なの」

 ヨシュアは軽く空惚けると、リベール通信社とコーヒーハウス『バラル』の合間にある空き家の前で立ち止まる。

 将来とある助平男が『セピス屋』を営むことになるこの貸店舗も、現在は廃屋そのもの。良く観察すると屋根には釣公師団の本部と同じ巨大なパラボナアンテナが添えつけられているが、どのような意味があるのか?

 ドアは妙にハイテクな技術によって施錠されている。ノブの真横に数字式の暗証パネルがセットされ、ヨシュアが入力コードを打ち込むとカチリと音がして扉が開く。

「おい、今の六桁の数値はもしかして?」

「やはり気づきましたか。ええ、貴方のスリーサイズですよ」

「はえー、するとユリアさんは上からななじゅう………………」

「言うなぁー!」

 ドロシー嬢が王室親衛隊中隊長の着痩せするスリムなボディーを喧伝しようとしたので、ユリアは赤面しながら彼女の口を抑える。

「一人残らず斬り伏せる!」

 修道服の下に忍ばせた愛用のバトルセイバーの鞘に手を置く。

 こんな不埒な数字をパスワードに設定するなど、中に立て籠もっているのはどんな如何わしいケダモノなのか息巻く。空き家だけあり埃を被った家具が散乱しているだけで人の気配は感じないが、奥の方に進むと地下に繋がる階段を発見した。

「おいっ?」

 ヨシュアは迷わず階段を降りていく。ユリアとドロシーは互いの顔を見合わせた後、意を決して、後へと続く。

 地下室とは思えない、かなり広大なスペースの隠し部屋の中で、ユリア中尉か見たものは……。

 

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