星の在り処   作:KEBIN

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攪乱するグランセル(Ⅴ)

「ふああー、暇だな……」

 周遊池にノコノコと出没した親衛隊の残党を殲滅する為に離宮を出発した仲間を見送った留守番組は、敷地内を巡回しながら幾分緊張感を失った面持ちで欠伸を噛み殺す。

 建物内には敵の奪還対象が囚われているものの、もはや襲撃を受ける危険性が消失したからだが、ふと空を見上げた特務兵の表情が凍りつく。

「…………おい、アレは一体何だ?」

「何だって……未確認飛行物体(UFO)でも目撃したのか…………はあ?」

 中庭にいた全ての特務兵に動揺が伝染する。暗くて視認し辛いが、瘤のような三つの塊が垂直に連なって、プカプカと宙を浮遊しながらフェンスを乗り越えてきた。

「ダンゴ三兄弟?」

 

「ガウガウガウー」

「流石に僕らの姿を見て面食らっているみたいですね。それにしてもヨシュアさん、貴方は本当に軽いです…………って、そんなに密着しないで下さい」

「うふふっ……、ダイエットに成功しているからね。それよりもタット君って初で可愛いわね。まるでむっつりスケベの誰かさんみたい」

「ガウガウ、タットが赤くなってるガウ。後でメイルにチクるガウー」

 謎のUFOの正体は二人と一匹の攪乱班。飛行能力を持つガウの背中にタットが乗り込み、更には体重の概念が希薄なヨシュアがタットの肩に赤マント越しに掴まることで、本来重量制限一人乗りが限界の怪獣に強引にタンデムした。

 中央まで飛行し庭全体をアーツの効果範囲内に収めたタットは、早速印を組んでアーツの詠唱に入り身体全体を黄色に光らせる。

「おい、何をしている!」

 あまりに非現実的な光景に呆然と敷地内への侵入を許した特務兵は我に返ると、機関銃の銃口を空の飛行体に向け射撃態勢に入る。その刹那、必死に羽をばたつかせて宙空に静止しているガウからヨシュアが飛び下りて、彼らのど真ん中の地面に着地する。

「撃て。撃てぇー!」

「遅い!」

 機銃の矛先を地上に変更。蜂の巣にせんと一斉射撃が施されたが、ヨシュアは異常な機動性能と空間認識能力で弾幕のシャワーを全て避けきると、アヴェンジャーを展開する。

「これで終わりよ」

 まさに電光石火。『漆黒の牙』で彼らの合間を駆け抜けると、中庭にいた七人の特務兵を纏めて戦闘不能にする。剣狐のような単体の(ことわり)の術者には及ばない反面、自分より低レベルの強者が何人群れようとも全て一撃で屠れるのが雑魚専……もとい対集団戦闘タイプの真骨頂。

「ガウー、凄いガウ」

「本当に何者なんだろうね、彼女。陽動とか色々な策を巡らせてきたけど最初からこの娘一人いれば…………って、今度は僕らが仕事する番だね」

 黒髪の少女の無双劇を、その名の通りに中空から高みの見物していた少年と一匹は、建物内の特務兵が外の騒ぎを聞きつけワラワラ飛び出してきたのを視認する。アーツの詠唱が完了した計算通りのタイミングで敵の第二波が戦場に押し寄せたので、まだヨシュアが地上に取り残されているにも関わらず全体攻撃魔法を発動させる。

「大地よ震撼せよ。タイタニックロア!」

 ガウの背中の上という中空の安全地帯からアーツを唱えて、地面を大きく揺らす。中庭に到着するタイムラグを完全に見計らい、先行して詠唱した時間差攻撃にまんまと嵌められた第二陣は開幕でいきなり極限魔法を浴びて、成す術もなく全員土砂に生き埋めにされる。

「ふーう、上手くいったみたいね」

 一見、地上に置き去りにした仲間ごと無慈悲に一網打尽にしたように見えるが、下界を見下ろすとヨシュアが無傷に近い状態で汗を拭っている。

 これまた腹黒参謀の悪知恵。少女の胸元には己の属性を土に変更する『琥曜石の護符』をペンダントのようにぶら下げている。

 武術大会の決勝戦でも用いられた属性防御策。素で並外れて魔法防御力(ADF)が高いヨシュアの場合だと土属性の有効率を半減どころかゼロに無効化可能。後は得意の俊敏性で地割れに呑まれるのを物理的に回避しさえすれば、一撃必殺の地震魔法すらダメージを免れる。

 これまでの所、恐いぐらいに遊撃士側のペースに嵌まっている。全体Sクラフトと全域極限アーツの二段構えの大技連発で離宮に駐留していた守備兵の半数が地に伏した。

 ついでに今の地震で美しい中庭の景観がグチャグチャに壊されており、ユリア達親衛隊の面々がこの惨状を見たら卒倒しそうである。

 もしかしたら、ヨシュアが強引にメイル達を仲間に引き入れた最大の理由は、彼らがリベールに縁がない故に何の枷もなく好き放題暴れられるからかもしれず、だとすると親衛隊を全員陽動班として離宮攻略から分離した配置案にも納得がいく。

「さて、今度は十人程出てきましたが、次の第三波にはどう対処します、ヨシュアさん?」

「適当に遣り過ごしましょう、タット君。離宮内の敵を引っ張りだす任務は果たしたのだから後は突入班に任せましょう」

 ガウの背中から荒れ果てた地上に飛び下りたタットは、ヨシュアの返答に肯くと追手が近づく前に逃走モードに入る。

 アーツを詠唱する為の待機時間はもう作れない上に多くの仲間を潰されて敵さんは大層お怒りのご様子。装備重量制限の貧弱なアサシンとウイザードのコンビは例の防弾チョッキをどちらも身に纏っていないので、奇襲以外で実弾銃とマトモに遣り合うのは自殺行為だ。

 

        ◇        

 

「良い感じに攪乱班の連中が掻き回してくれたみたいだな」

 得意の機動力で特務兵の一団との追っかけっこに興じるヨシュアの姿を尻目に、フック付きのロープを引っ掛けて壁を攀じ登って密かに中庭への侵入を果たしたエステル、ジン、メイル、ブラッキーの四人はそのまま建物内部に突入する。

「ちっ! あの娘は囮か?」

 すんでの所で見咎められてしまい、特務兵は鬼ごっこを中止するとUターンしてこちらに向かってくる。

「ふふっ、ここは僕に任せてもらおうか。こいつら悪者だからウッカリ殺しても罪にならないんだよね?」

 自ら足止めとして入口前に居残ったブラッキーは偉く物騒な台詞を囁きながら、火のついた黒い球状の爆弾を無造作に放り投げる。地面に落ちた途端に派手に爆発を起こして、先頭を走っていた二人の特務兵が空高く舞い上がる。

 国際条約で使用が禁じられるだけあり、旧式の火薬兵器はとてつもない殺傷力。外壁の一部が壊されて再び景観が損なわれる。もし、武術大会で手投げ爆弾の使用が認められていたら、ブラッキー達が優勝し兄妹の計画は御破算になっていたやもしれぬ。

「こいつ、例の爆弾魔(ボマー)か?」

 更に仲間から犠牲を出し、いきり立った特務兵は至近からマシンガンの銃口を向けるが、ブラッキーは慌てた様子はなく「撃てるものなら、撃ってみたまえ」と余裕の表情でチョッキの胸元を見開く。すると上半身には離宮そのものを吹き飛ばせる火薬量のダイナマイトの束が結わかれていて、この場にいる者は仰天する。

「ふはははは、火縄銃の火花が誘爆したら、皆一斉のお陀仏たよーん」

「しょ、正気か、貴様? その時にはお前も一緒に死ぬ…………」

「爆弾と共に果てるのなら、本望!」

 エルフ耳の青年は血走った眼でそう断言し、一堂を怯ませる。

 流石は大陸各所でボマーの悪名を馳せて、爆発騒ぎのトラブルで五つの国や自治州で入国禁止処分を受けた危険人物。今まで遊撃士の資格を剥奪されなかったのが不思議なくらいだ。

 もちろん単なるハッタリである可能性は否めないが、相手があまりにキチガイ然としている上に、己の生命をチップとされる以上はそう簡単にはルーレットは回せない。ブラッキーと特務兵たちは入口前で睨み合い、否応なく膠着状態が築かれた。

 

        ◇        

 

「おい、ブラッキーさん、とんでもないこと呟いていたけど、大丈夫か? 特務兵が開き直って自棄を起こしたら、俺らごと吹っ飛ぶぞ」

 内部の廊下を走りながら、ボマーの狂気に巻き込まれかねない自分たちの身の上を危惧したが、同じエルフ耳の少女はあっさりと首を横に振る。

「その心配はないわよ。あいつが身に纏っている爆弾は、単なるイミテーションだから」

 『この世界で最も尊いお宝は、金銀財宝でも人間同士の絆でもなく己の命である』という全人類の最大公約数的な価値観を持つメイルたちは、任務に生命を張るような殊勝さなど持ち合わせていない。ただし、思い込みの激しいブラッキーはアレは本物の爆弾だと得意の自己暗示を刷り込んでいるので、演技と見破るのは困難。

「あの馬鹿の脳内ではあたしはあいつと恋人同士ということになっているみたいだし、妄想を現実と信じ込むのはお手の物なのよ」

「その例えは大いに疑問に感じるけど、俺が奴らの立場でもあの人と無理心中するのは御免だな」

 情報部の面々は使命の為にその身を投げ出せるのかもしれないが、それは自己犠牲に意義を感じられたらの話。道理の通じない狂人に名誉と無縁の犬死を強いられては死んでも死にきれまい。

 そうこう問答していると、部屋の後ろから五人の特務兵が追い掛けてきた。狭い廊下なので敵がほぼ縦一列に連なっているのを確認したメイルはその場で足を止める。

「役割的には今度はあたしが足止めする番かしら? お誂え向きの戦場だし、とっておきを見せてあげるわよ」

 そう宣言すると剣を垂直に構えて、そのまま突進する。

「いくわよ、ポップルストリーム!」

 そう叫ぶと弾丸のような勢いで体当たりを敢行。どこぞの赤毛の女ったらしの冒険者みたいにぶつかった特務兵を次々に跳ね飛ばす。ジェニス王立学園の学園祭の最大ダメージ測定器で第七位を記録したレアな直線貫通型Sクラフト。四人の特務兵を戦闘不能に追い込み、何とか突撃を避けて生き延びた最後の一人と取っ組み合う。

 

「エステル、気を抜くなよ」

「判っているぜ、兄貴」

 メイルチームの援護で建物最奥の『紋章の間』に辿りついたエステルとジンは、その扉の前に立ち塞がる大柄な特務兵コンビの姿に気を引き締める。

 武術大会に参加していた精鋭を含めて、今までの特務兵にない重厚な気配を醸しだしており、恐らくは重装備に特化したガーディアン。無言のまま巨大な斧槍を振り翳してきた。

「ぬんっ!」

「ぐわっ?」

 敵の豪快な一撃をエステルは物干し竿でジンは籠手の部分で受け止めようとしたが、どちらも支えきれずに後方に大きく弾かれる。物理屋の遊撃士チーム前衛が力負けするなど大会中ですら一度も有り得なかった珍事。

「強え、何者だ、こいつら?」

「単純な膂力だけなら、あの分け身のロランス少尉さえも上回っているみたいだな。ふふん、面白い」

 ジンは不敵な笑みを浮かべる。闇の工作活動に従事する通常の特務兵と比べると機動性能はさほど高くないが、その分だけ破壊力に長けており狭い場所での防衛戦にはもってこいの逸材。

「これはこれで、新鮮なバトルではあるな」

 今まではパワーで蹴散らす側だったエステルらが敵の一撃必殺クラフトを掻い潜るという弱者の立ち回りが要求される。カウンターでちくちく反撃するも、重装の鎧に阻まれて中々ダメージが通らない。

「ちっ、まさか二対二の同数対決でここまで手子摺らされるとはな」

「なら、三対一ならどうかな、エステル?」

 敵のタフネスに舌打ちするエステルに裏切りを示唆する意味深な独白をすると、ジンは斧槍の一振りを避けて懐深くに潜り込み、相手の脳天(テンプル)目掛けて月華掌を打ち下ろす。

 武闘家(ウーシュウ)の渾身の一打も頑丈な重装特務兵をノックアウトするには至らなかったが、脳が激しく揺すられて視界がドロドロに変化。仲間の身を案じて近づいてきた相棒を敵と誤認し反射的に薙ぎ払ってしまう。

「ぐぼあ! な……何故?」

「はっ? しまった!」

 重鎧に一発で亀裂が入る。同僚なので無警戒の状態をクリーンヒットし、そのまま意識を刈り取られる。物理攻撃力(STR)の高さ逆利用されて、見事に同士討ちを誘われた。

「なるほど、これが三対一の意味か」

「貴様ら!」

 正気を取り戻した特務兵は怒りに震えるが、これは別に正式なタイマンではないので卑怯でも何でもない。斧槍を垂直に振り降ろすが、『龍神功』を唱え筋力アップしたジンが今度はクロスガードで構えると、クラフト『重刃斬』を受け止める。

「エステル!」

「おうよ、兄貴。これで決めるぜ!」

 キュピーンというカメラ目線のカットインが入る。ジンの頭上を飛び越えるように宙空から正面飛び蹴りが噛ましたエステルは、そのまま『桜花無双撃』の凄まじいラッシュで特務兵を打ちのめす。

「ふふん、流石は単体Sクラフトの威力は凄まじいな」

「これでもまだ上には上がいるんだけどな、兄貴」

 重鎧が粉々に砕かれて、生身を晒した特務兵は前のめりにぶっ斃れる。学園祭で二位のスコアを記録した多弾ヒット技で、栄えある一位はこいつらの上官のリシャール大佐。

「中々に手間取らせてくれたが、この奥にこの国の王子様が囚われているんだよな」

 エステルは気絶している重装特務兵の懐を漁って、紋章の間の鍵を取り出すと扉を開いた。

 

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