星の在り処   作:KEBIN

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攪乱するグランセル(Ⅵ)

 王太子奪還作戦と時を同じくして発生した王都グランセルの七ヶ所同時火災。兵士から消防士に一時的に転職した特務兵たちの懸命な消化活動により、家屋は焼け落ちたものの何とか隣家への延焼を阻止する。王都の城下町全てが炎上するという最悪の危機は脱せたが。

 

「それで奥様方のお子さん達はどこにいるのですか?」

 特務兵の一人がイライラした口調で問いかける。それもその筈、彼らの足元には焼け焦げた人形が複数体転がっている。火のついた家屋に子供が取り残されていると哀願され、部隊の中からレスキュー班を編成し荒れ狂う火の海に飛び込んだ。ベッドで毛布に包まった固まりをお子様と認識して、大火傷を負いながら必死に家屋に連れ出して消火器を浴びせると、中から出てきたのは何と等身大のデッサン人形。固い木製ではなく人肌の柔らかさに近い特殊素材で作られご丁重に鬘まで被せてあったので、闇と炎に包まれた鉄火場で生身の児童と取り間違えるのも無理もない。

「あら、へんねえー。うちの子たちはどこにいったのかしら?」

「ママー、あちこちからケムリがあがってるけど、どうしたの?」

「ニモ、あなた達、今まで一体どこにいたの?」

 エーデル百貨店の方角から十人前後の子供の一団が出現し、母親たちは驚きの声をあげる。

「お人形を身代わりにして、オンモの公園でみんなで缶蹴りしてあそんでいたの。お留守番のいいつけを破って勝手にアソトに遊びにいってごめんなさい」

「いいのよ、あなた達が無事で本当に良かったわ」

「そうね、お陰で子供たちが火傷しないで済んだのだから、本当に怪我の巧妙よね」

「けど、次からは出かけるときは一声かけていくのよ」

「「「「「はーい、ママ」」」」」

 我が子の無事を確認した母親が次々と涙の抱擁を交わす。美しい光景であるものの、特務兵達の目にはなぜか茶番劇に映るが、この放火自体は実はご婦人方のマッチポンプなのでそれはあながち錯覚ではない。

 武術大会に参加した面々も含めてよくよく炎に巻かれるのに縁のある連中だが、ろくに状況確認もせずに自分らを死地に焚きつけながらも、まったく悪びれもしない主婦たちに苛立ちは最高潮に達する。彼らの一人が掴みかかろうとしたが、途端にパシャパシャとシャッターのストロボがたかれる。

「はえー、命懸けで火の中に飛び込んだのにお家は藻抜けの殻とか、骨折り損の草臥儲けでしたねー。けど、兵隊さんの勇気だけは称賛されるべきだと思いますよー」

 ピンク頭の若いカメラマンが、褒めてるのか貶しているのか分からない微妙なフォローをしながら更にストロボを切る。その声に連れられるように、火事見物にきていた周囲の野次馬から拍手がおくられる。

「い、いえ、国民の命を守る王国軍兵士として、当然のことをしたまでです」

 仮面の兵士たちは煤だらけの顔に笑顔を浮かべたが、剥き出しの頬が引き攣っている。口先だけの賛辞で心が慰められる筈もないが、これだけ大勢のギャラリーの前で諍いを起こすわけにもいかないので、しぶしぶ矛を納める。

「愛着のある家屋が焼け落ちたことにお悔やみを申し上げます。放火犯は草の根分けてでも必ず探し出して罪を償わせますゆえ」

「まあ、頼もしいわね。期待していますわよ、兵隊さん」

「どうかお任せください」

 緑の軍服を着た中隊長は頼もしそうに確約する。良く第一発見者が犯人というが、火災保険に入っていない貧乏庶民が自分の家を焼くメリットは皆無なので、目の前の人の良さそうな貴婦人達を放火魔と疑えなど無理な話だ。

「負傷した兵士の数は?」

「救出班として火の中に飛び込んだ二十人程です。その内の八人はかなりの重傷で早急に手当てが必要かと」

「ちっ、こんな満身創痍の状態では、今から遠征に赴くのは無理だな。負傷者を回収してグランセル城に引き上げるぞ。その上で改めてカノーネ大尉の指示を仰ぐとしよう」

「「「「「「イエス・サー」」」」」」

 特務兵の一団は症状の重い仲間を庇うようにしながら、帝国大使館通りを通って王城へと引き上げていく。援軍に赴く予定のエルベ周遊池の戦闘が気になったが、戦力比を考慮すれば親衛隊の敗北で既に決着はついている筈だと己に言い聞かせた。

 

「まさか一兵も使うことなく、本当に王都からの援軍を阻止してしまうとは」

 金髪碧眼の男性が意味深な目つきで特務兵の一団を眺めている。グランセル支部受付のエルナンで、野次馬に紛れて密かに状況を伺っていた。

「希代の戦略家と敬われたカシウスさんも『一つの知恵は時に万の兵にも勝る』と主張していましたが、真に智者とは貴重な存在……いえ、今回の策の困難さは発案よりも実行にあったかもしれませんね」

 エルナンは青い瞳に憐憫の色を浮かべて、婦人の一人を見つめる。彼女は先程までの飄々とした態度から一転し、虚ろな瞳に焼け焦げた我が家の残骸を焼き付ける。

「ママー、お家が焼けちゃってる。一体何が起こったの?」

「ニモ、あなたには小さいから分からないと思うけど、これはこの国の未来を変える為の重要な犠牲なんだよ」

「ぐすっ、本当にママが何言ってるか分からないよ。今夜から僕たちどうするの?」

「お隣のマルティンさんの家にしばらく泊めてもらえるように話がついているから、行くわよ、ニモ」

「うん、パパが出張から帰って来たらきっと悲しむよね」

 七組の母子は背中に哀愁を漂わせながら次々と焼け跡から離れていき、居た堪れなくなったエルナンは思わず目を背ける。全てが成された暁にはアリシア女王なら必ず家屋を復元してくださると信じてはいるが、遣り切れなさが残るは避けられない。

「この(はかりごと)の実現はジンさんやクルツさんのような良い人にはまず無理ですね。かといって他人を道具扱いする酷薄な人間に献身しようとは誰も思わないでしょうし、清濁併せ呑むバランスが難しいものです」

 かつての百日戦役で王国軍大佐だったカシウスも、帝国軍との十倍の戦力差を覆す為に警備飛行艇の動員の他にも、結果的にモルガン将軍の息子を戦死させた非情な作戦を決行したという噂がある。ならば嫡子のエステルでなく、養女のヨシュアが剣聖の影の部分を担うのだろうか?

 いずれにしても、一般庶民にこれだけの犠牲を強いた以上は失敗は許されない。首尾よくエルベ離宮の開放に成功したら釣公師団のモノリスを通じて連絡が入る筈なので、特務兵と鉢合わせないように共和国大使館通りを経由しギルドのグランセル支部に帰参した。

 

        ◇        

 

情報部(生存者:41 戦闘不能者:9)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:13 戦闘不能者:0)

 

 エルベ周遊池で両軍睨み合いの緊張状態が続く。形の上では特務兵は連合軍に挟まれているが、クルツの裏朱雀の奇襲が成功した今でさえ両軍には三倍以上の兵力差があり、特務兵を率いる緑服の中隊長は思案する。

(さてと、本来なら挟撃された時には片側に全軍突撃して一点集中突破で離脱するのが常道だが)

 それは挟まれる側が寡兵の時のみ。この場合では少数の敵同士を合流させ、戦力を一点に増強させるリスクを孕んでいる。現在の兵力比なら二正面作戦は十分に可能、大軍に区々たる用兵など必要ない。

「近接戦闘部隊、前進! 隊員一人に三人がかりで殴殺せよ。シュバルツ中尉には五人で当たるように」

「「「「うおおおおお!!」」」」

 中隊長の号令に両手の鍵爪を唸らせ土煙をあげて突進し、瞬く間に9人の親衛隊員は29人の特務兵に取り囲まれて、たちまち乱戦になる。

「食らえ、影縫い!」

「ぐわっ!」

「「おらおら、死ね!」」

 元々親衛隊と特務兵の戦闘力に大きな差はなく、三対一では勝負にならない。ナンバー2のルクスで守勢に徹して辛うじて凌げる程度。遅延効果を促す『影縫い』の永続コンポに嵌められて、ガシガシとHPが削られる(ユリア中尉は幻影の鎧(ミラージュベルグ)の能力を駆使して、五人相手に互角に渡り合っているが)

 いたずらに時を費やせば、例の方術使いがまた何をやらかすか見当もつかないので、速攻で親衛隊を潰す案を採用。その選択は間違ってない筈だが。

(乗り切った)

 当のクルツ自身は親衛隊の窮地を見て尚、安堵する。両軍の兵力差がかけ離れている場合、劣勢な側はいかに開幕を凌ぐかが重要で、敵の初手によっては為す術もなく詰むケースがある。

 クルツが恐れていたのは、彼らが親衛隊に背を向けて多少の犠牲覚悟で遊撃士側に全戦力を投入してくることだが、敵の指揮官はそこまで思い切れなかったようだ。

「遠距離部隊、構え」

 その代わりに遊撃士側の別動隊として残された10人の特務兵は全員が機関銃(マシンガン)を装備して、その銃口をクルツ達に向ける。

 親衛隊側は大乱戦なので同士討ちのリスクが高すぎて使えないが、遮る味方のいない遊撃士側なら思う存分撃ちまくれる。

「撃てえ!」

 中隊長の合図と共にドガガガガと薬莢を吐き出して銃弾の雨が降り注ぐ。アネラス達は防弾チョッキを纏っているが、あくまで貫通を阻止するだけで、着弾ダメージまでは防げない。複数のマシンガンによるティータの機関砲(ガトリングガン)に匹敵する高密度の絨毯爆撃に、4人は蜂の巣にされると思われたが。

「へっ、舐めるなよ」

 グラッツがクルツ達の前に立ち塞がると、背中に背負っていた等身大の大盾を正面に翳し銃弾をシャットアウト。キンキンキンキンと派手な金属音と共に500発近い銃弾が弾かれたのに、大盾には傷一つついておらずに特務兵はギョっとする。

「『重装甲防弾盾』よ。テメエらみたいな猟兵団(イェーガー)紛いの無法者を相手に何の対策もしてこない訳ねえだろうよ」

 アラド自治州で、イェーガー『黄金の羅針盤』と渡り合う為にエリカ・ラッセル博士が開発した銃弾防御に特化した特殊合金製の大盾。80kgの超重量で並の人間には持ち運ぶことすら困難。

 本来は斬り込み隊長のグラッツだが、今回は盾役(タンク)としてこの戦闘の鍵となるクルツを身体を張って守る覚悟。早速、そのキーマンが声を張り上げる。

「方術・鈍重のこと裏麒麟の如し」(SPD-50% AGL-50% MOV-4)

 まずはカウンターで裏シリーズを唱える。親衛隊員は『五神獣のお守り』の効果でレジストしたが、敵全体の行動力が大幅に削がれる。ユリアを除くほとんどの隊員はHPがレッドゾーンに達していたが、俊敏性に秀でたアサシン達の起動性能に一撃を加えたので一息つけることになる。

 

「やはりあの方術使いは危険だ」

 目に見えて周囲の特務兵の動きが鈍くなり、自身も体調の悪化を覚えた中隊長は戦術を修正。効果の薄い銃撃から近接戦闘に切り換える。大盾を所持するグラッツの牽制用に3人ほど銃撃を続行させると、残りの7人は鍵爪を展開して切り込む。

 「よしっ、突破した……ぐあっ!?」

 固定タンクとして動けないグラッツの脇を特務兵は次々にすり抜けるが、クルツの隣に控えるカルナの導力銃でヘッドショトを受けて先頭の2人が倒れる。

「おやおや、あたしを忘れてもらっちゃ困るよ」

 妙齢の女遊撃士は不敵な笑顔を浮かべる。敵は真っ直ぐにこちらに突進してくる上に裏麒麟で自慢の脚力を衰えさせているので、銃使い(ガンナー )からすれば格好の的である。

「ぐおおお!」

 それでも自分らとは異なり、カルナの武装は即死武器の実弾銃ではなかったので、特務兵はダメージ覚悟で何度も被弾しながらも前へ出る。ようやくエネルギー切れを起こしたカルナが導力バッテリーパックを取り替えるタイムラグを逃さずに、5人がかりでクルツに襲いかかったが。

「はあーい、残念でした。振り出しにもどーる」

 突風が巻き起こったかと思うと、突如特務兵達はクルツの目の前から遠く離れたポイントに瞬間移動させられる。アネラスが独楽舞踊を使ってクルツから敵を引き剥がした。

「方術・神速のこと麒麟の如し」 (SPD+50% AGL+50% MOV+4)

 この隙にクルツは二度目の方術を詠唱。お守りが今度は方術のプラス効果を吸収して、味方の機動力を底上げする。敵味方のスピード差が一気に三倍まで広がり、理屈上は一人で三人の敵に対処できる計算になる。

「えへへ、やったね…………って、あら?」

 喜んだのも束の間、自分の周囲に敵を集めた当然の代償として、アネラスは殺気だった特務兵にゼロ距離で取り囲まれている。アネラスは軽く冷や汗を流すと、「てへろぺろっ」とペコちゃん人形のように舌で左のほっぺたを舐めとるチャーミングなポーズで誤魔化そうとしたが。

「きゃいーん!」

 ……効果はなかった。5人の特務兵に四方八方から滅多斬りにされて、瞬く間に戦闘不能に追い込まれる。

「ふん、勝負あったようだな」

 気づくとアネラスの他にも、ユリアとルクス(彼も既にレッドで虫の息)以外の親衛隊員は全員地に伏しており、敵の指揮官は轟然と勝ち誇る。

 

情報部(生存者:39 戦闘不能者:11 SPD-50% AGL-50% MOV-4)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:5 戦闘不能者:8 SPD+50% AGL+50% MOV+4)

 

 戦力差は一気に八倍近くにまで広がり、あとは掃討戦になると情報部の誰もが勝利を確信したが、開幕からクルツが連続して表裏の麒麟を唱えたのには意味がある。戦闘で最も重要なパラメタは、何を置いても行動回数の増加を約束するSPD。敵の次行動の前に再びターンがまわってきたクルツは最高のタイミングでとっておきを披露する。

「方術・蘇ること朱雀の如し」

 戦闘フィールド全域に眩い光が広がる。次の瞬間、戦闘不能に陥った全ての親衛隊員とついでのアネラスがゾンビのような緩慢な動作でフラフラと起き上がり、特務兵達を仰天させる。

 

情報部(生存者:39 戦闘不能者:11 SPD-50% AGL-50% MOV-4)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:13 戦闘不能者:0 SPD+50% AGL+50% MOV+4)

 

「ば、馬鹿な……って、何だと?」

 蘇った刹那、親衛隊員が機敏な動作で特務兵に先制攻撃を加えて、更に敵指揮官を唖然とさせる。通常なら自己ブースト技は戦闘不能になると効果がリセットされるが、方術による弱化/強化(エンチャント)はクルツが生きている間は効果が永続されるので、親衛隊員は三倍速の速さで敵と渡り合う。

「ぜ、全軍反転! どれほどの犠牲を払ってでも、あの方術使いを仕留めろ!」

 特務兵全員がこの戦場で真っ先に潰すべきライフラインの存在を認識。今、目の前の敵を倒してもクルツが生存する限り鼬ごっこになるのは必定なので、中隊長の決断に不服はなく、手近にいる隊員を無視して遊撃士側に突進する。

「ふふっ、待っていたぞ、この好機を」

 裏麒麟の効果で速度があがらない特務兵の群れを三倍速の速さで後ろから追いかけてきたユリアが追い越して、「我が主と義の為に」と呟きながら剣尖で地面に図形を描きあげる。

「まずい、散開しろ!」

 中隊長は慌てて退避を促すが、地味に移動力(MOV)を減少させていた特務兵達は中々図面の外に逃げられない。まさに、その最悪のタイミングで。

「方術・猛ること白虎の如し」 (STR+25% ATS+25%)

 クルツの次なる方術がユリアの攻撃性能をアップさせ、それが最高の追い風になる。ほとんどのSクラフトのダメージ判定はSTR依存だが、ユリアの場合は更に魔力(ATS)も上乗せされる仕様なので、物理と魔力の相乗効果で威力が格段に増幅される。

 一筆書きのラストの線を繋げようとした刹那、隊員のグルドが絵図内に取り残されているのに気づく。ユリアをアシストしようと敢えて死地に留まって5人の敵を足止めしていた。

 一瞬ユリアの表情に迷いが浮かぶも、目が合ったグルドは笑みを返す。ユリアは選択を間違えない。「済まない」と微かに囁くと、躊躇うことなく五芒星(ペンタグラム)を完成させる。

「覚悟! ペンタウァクライス!」

 ペンタグラムに秘められた闘気と魔力の混合ダメージが巨大な光の柱となって内部の者に降り注ぎ、敵味方含めて16人の人間を次々と宙に舞い上げて戦闘不能に追い込む。

 

情報部(生存者:24 戦闘不能者:26 SPD-50% AGL-50% MOV-4)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:12 戦闘不能者:1 STR+25% ATS+25% SPD+50% AGL+50% MOV+4)

 

「見事な親衛隊魂だ、グルド。この戦の最大の功労者はクルツ氏だが、影のMVPはお前だ」

 ユリアは敬礼しながら、満足そうにリタイアした部下の献身を讃えたが、その功績は決して過大評価ではない。彼一人の自己犠牲で5人もの敵を道連れにした。何よりもグルドは魔眼の認識操作でスパイ化して仲間を窮地に陥れた件を気に病んでいたが、今回償いの機会が与えられたことによって、その心理的負担も幾らか軽減されただろう。

「馬鹿な、こんなことが……」

 今のが、この一連の戦闘の分水嶺。生存比率が逆転して、特務兵の士気が大幅に下がる。更に追い打ちをかけるように。

「方術・深遠なること青竜の如し」 (ターン毎にHP+10%が自動回復)

 再びクルツが方術を唱える。これで親衛隊はHP回復ボーナスを手に入れた状態になる。その上で三倍速の差があるので、特務兵にターンが回ってくる間に三割弱の体力を回復させられる計算になる。

「へへっ、この態勢まで持ち込めたら、もうこっちのもんだぜ」

「確かに、あとはゆっくりと掃討するだけだよね」

「この調子だと十絶陣を全て披露する前に終わっちまうかもしれないね」

「油断するな、皆の衆。半分近い敵が残っていることを忘れるな」

 やや楽観に傾いた遊撃士チームの雰囲気を窘めるように、慢心とは無縁のクルツが喚起を促し三者は気を引き締め直す。

「判ってるぜ、不動の旦那のように、誰一人としてここは通さないから安心してくれ」

 防御、迎撃、敵誘導とクルツを守護するトリニティは頼もしそうに宣言し、クルツは次の方術の詠唱に入る。

 まだ倍の兵力差があるとはいえ、この戦いの帰趨はほぼ定まった。

 

        ◇        

 

情報部(生存者:9 戦闘不能者:41 STR-25% ATS-25% DEF-25% ADF-30% SPD-50% AGL-50% MOV-4 ターン毎にHP-10%が削られる)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:9 戦闘不能者:3 STR+25% ATS+25% DEF+25% ADF+30% SPD+50% AGL+50% MOV+4 ターン毎にHP+10%が自動回復)

 

 勝敗は完全に決した。生存者の数は同数だが、十絶陣が完成したことによって、連合軍は全ての能力値が満遍なく増幅されているのに対して、特務兵のパラメタは軒並み酷いことになっている。

「く、食らえ……か、影縫い」

 裏白虎でSTRを削られてへろへろとした勢いのクローが親衛隊員のお腹を抉るが、表玄武で鋼の腹筋と化した敵に効果はなく、何とダメージゼロ。

「おりゃ、そりゃ、うりゃ!」

「ぐわっ!」

 逆に表白虎でSTRアップした親衛隊のレイピアが、裏玄武でヨシュア並の紙装甲に貶められた特務兵に三撃連続で叩き込まれて戦闘不能になる。ここまで差があると掃討戦というよりは虐殺……というか単なるイジメだ。

 特務兵側も隙を見ては、ちょくちょくセラスの葉で仲間を蘇らせているが、半死半生の状態で生き返っても直ぐに倒されてしまい、酷い時には復活したそのターンに裏青竜のダメージ効果で即黄泉逝きになる。逆に連合軍側は寿命を縮める表朱雀を使わずに、敢えて戦闘不能者を放置するぐらいの舐めプすら可能。

 勝利は目前だが、ユリアの表情は険しいままで緊張感を維持する。とはいえ今から勝敗を引っ繰り返られるのを危惧している訳ではない。全ての敵を屠り尽くす前に果たさねばならない重要なミッションがあるからだ。

(あいつが適任のようだな)

 ユリアの鷹のように鋭い視線が中隊長の隣にいる若い特務兵を射抜く。彼はほとんど戦いに参戦せずに敵大将の側を離れなかったが、参謀として助言している様子はない。

 恐らくは今回が初陣の配属されたばかりの新兵。実戦経験を積ます為に参加させられたのであり、ならば仕込みが見抜かれる可能性は限りなく低い。

 ユリアが目線でルクスを催促する。

「へへっ、了解ですよ、中隊長殿」

 上司の思惑を了承したルクスはレイピアを構えると、敵指揮官の隣で狼狽するターゲットをロックオンする。

「いくぜ、バインドスマッシュ!」

 ルクスは一本突きで若い特務兵の胸元をつついて、派手に吹き飛ばす。このクラフトは敵を大きくノックバックさせた上で麻痺の状態異常にする追加効果がある。特務兵は遠く離れた草むらの影まで飛ばされて、意識を保ったまま金縛りにあう。

 敵が一人戦闘エリアから離脱したが、なぜかユリアは素知らぬ風を装い、そのまま殲滅戦へと移行。特務兵の側も今の戦況に対応するのが手一杯で、ルーキーが一人消えたことに意識を避ける余裕はない。

「こ、こんな……こんな馬鹿なことが…………かはっ!」

 数分後、とうとう最後の生き残りとなった中隊長が裏青龍のターンダメージによって、皮肉にも敵の手にかかることなく戦闘不能になる。戦闘エリア外に弾かれ、そのまま放置中の唯一人の例外を除いて、全ての特務兵が地に伏した。

 

情報部(生存者:1 戦闘不能者:49 STR-25% ATS-25% DEF-25% ADF-30% SPD-50% AGL-50% MOV-4 ターン毎にHP-10%が削られる)

遊撃士・親衛隊連合軍(生存者:9 戦闘不能者:3 STR+25% ATS+25% DEF+25% ADF+30% SPD+50% AGL+50% MOV+4 ターン毎にHP+10%が自動回復)

 

「やったぁー! 見たか逆賊ども、これが俺たち王室親衛隊の底力だ!」

 親衛隊の面々が互いに手を取り合って勝鬨をあげる。長期間、雌伏を強いられ中で初めて掴んだ大金星なので、勝利の美酒も格別であろう。

 目先の勝ち星に浮かれる部下たちと異なり、ユリアの顔に笑みはない。エルベ離宮の攻略が成功しない限り救出作戦は完了しないし、その前準備として自分の支持者の奥方たちに強いた犠牲を思うと素直に喜べなかったからだが、高まった士気に態々水をさすこともないので黙っている。

「へへっ、王都からの増援がなかったとはいえ、まさかこの兵力差で本当に完勝しちまうとはね」

「いえ、援軍がなかったからこその勝利でしょう。皆気分が高揚していますが、これ以上の戦闘は不可能です」

 上官の意を正しく汲んだ副長二人は隊員の輪から外れてユリアの隣に来ると、現在の状況を報告する。気力は既に限界の上にそろそろ方術による反動ダメージが肉体に降りかかる頃合いなので、今敵に襲われでもしたら全滅必至。

 体力が限界なのは遊撃士側も同様。4人は地面に腰を下ろすと、ようやく緊張感を解いて談笑する。

「ふうっ、やっとこの暑苦しい防弾チョッキを脱げるんだ……って、弾丸が三発もめり込んでる? コレ着てなかったら、私やばかったかも」

「全く、こっちは導力銃で加減してやってるのに、本当に遠慮なくズバズバと火縄銃を撃ちやがって。そういえば、グラッツ。あんたの重装甲防弾盾、あれだけの銃弾を浴びて傷一つついてないけど、その防御力なんか奇怪しくないかい?」

「ああ、こいつは実は琥曜石(アンバール)の龍脈を取り入れているから常時アースガードを張っているみたいなもんだぜ。ほら、盾が黄色に光ってるだろ? この延長コードで俺の戦術オーブメントと繋げて導力(EP)を補充している間は無敵に近い寸法よ」

「なるほど、王様ペングーのような魔獣は体内に七耀石の力を取り込んで、擬似的な土壁状態を生み出すというが同じ理屈か。流石は天才博士が作っただけはあるな」

 

「へへっ、彼方さんは実弾講義で盛り上がっているようですけど、今回の作戦の肝になったのは間違いなく方術使いの旦那ですよね」

「何と言うか本当に集団戦闘向きの逸材ですよね。是非とも王国軍にスカウトできませんかね?」

 ルクスは連合軍に奇跡を呼び込んだ十絶陣を称賛し、リオンも相方の見解に同意するがユリアは軽く首を横に振る。

「野暮を抜かすな。我々が国を護る志故に士官学校の門を叩いて王室親衛隊に誓いを立てたように、クルツ氏にも力なき庶民の味方である遊撃士(ブレイサー )に譲れぬ誇りがあるのだろう。だから無粋なことを言うものではない……どうした、二人とも?」

 何とも言えない表情をしている二人にユリアは怪訝がる。普段はこれほど聡明で思慮と度量に溢れる中隊長殿が、なぜあの黒髪天使(二人の中ではそうなっている)が絡むとあれほどの視野狭量を引き起こすのか不思議に思った。

「ユリア中尉、飛行艇のロック解除が終わりましたので、何時でも飛び立てます。それと離宮と通信が繋がりましたが、救出班は無事に王太子殿下の身柄を確保されたそうです」

 戦闘に余裕ができたので、途中で戦線を離脱して一人で解除作業を行っていた紅一点の女隊員が上官に経過を報告する。

「んっ、ご苦労だったな、エコー。そうか、殿下は無事に保護されたか」

 ユリアは労いの言葉をかけると初めて安堵の溜め息を漏らす。クローゼの身命を最も気にかけているのは彼女に相違なく、僅かばかりに頬を緩めると周囲を見回す。此処彼処で死屍累々で横たわっている特務兵をどう処遇するか思案する。

「中隊長殿、どうしますか?」

「放置しておけばグランセルに帰還して、情報部の兵力増強に力を貸すようなものだ。とりあえずエルベ離宮に連れ帰って、その後で纏めて処分する」

 その冷酷な一言に草むらがザワッ揺れたが、ユリア達はその方角を振り返ることなく会話を続ける。

「へへっ、処分ですか」

「レイストン要塞ならともかく、離宮のような場所に五十名、いや留守隊も含めれば八十名もの手練の捕虜を監禁するなど現実的ではないからな。反乱を起こされたら手に負えなくなるし、今は非情にならざるを得まい」

 再び草むらが騒めくが、気配に敏感な筈の職業軍人がなぜか気にも止めずに決断を下す。

「ブレイサーの中に爆弾魔(ボマー)がいたが、そいつの爆弾を使おう。誤爆した事故ということにすれば親衛隊の名誉に傷がつかずに済む」

「ならば、離宮にいる一般人を人払いして、明日の正午ぐらいに時限爆弾をセットしますかね」

「へへっ、クーデターに失敗すれば、遅かれ早かれ死刑になるんだし、こいつらも覚悟はできてるだろ」

 そう細部を煮詰めると、親衛隊員は鹵獲していた護送車に瀕死の特務兵を次々と放り込み、飛行艇と連れ立ってエルベ周遊道方面に向かった。

 

        ◇        

 

 全ての人間が消え去り、大規模戦闘が行われたとは思えぬ程静まり返った周遊池に一つの影が動く。乱戦の中で戦闘外エリアに弾かれて、ようやく麻痺状態が解除された特務兵はヨロヨロと立ち上がると、仮面下の表情を青ざめさせる。

「大変だ、このままだと先輩たちが全員殺されてしまう。急いでカノーネ大尉に伝えて救出しないと」

 これだけの兵力差がありながら破れるとは大誤算もいい所だが、運良く自分は敵に拿捕されるのを免れたのでこの窮地を伝えられる。

「これぞ、まさしくエイドスのお導き。今仲間を救えるのは俺だけなんだ」

 そう信じ込んだ若い特務兵は強い仲間意識でそう決意すると、フラフラとした足どりでキリシェ通りを進んで王都グランセルを目指した。

 

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