星の在り処   作:KEBIN

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FirstChapter~ボース編~
消えた飛行船の謎(Ⅰ)


 遊撃士の資格取得の旅に出たエステルとヨシュアの二人は、東ボース街道を西に向かって半日程歩き続けて、ようやく目的地の商業都市ボースに辿り着く。

 入口のゲートを潜ると、市の中央に翡翠の塔の如く聳える高立方体の建造物が目に入る。

「おー、懐かしい。ボースデパートじゃないか。前に遊びに来たのは、五年前だったからな」

 おのぼりさん宜しくエステルが指差した建物。先代市長がオーナーとなり、ボースマーケットの上階を拡張して建て増したデパートメント。

 外資系の呉服、家具、化粧品、宝石類などの高級店舗を店子とし、主に外国からの観光客を相手に商売している。

 地元の人間は全面ガラス張りされた、一、二階の吹き抜けの部分をマーケット。中央エレベーターから登った三階から七階のビル部分をデパートと呼んで峻別する。

 開店当初は庶民向けの屋内市場とセレブ御用達の総合百貨店の併合に危惧を抱く者も多かったが、やり手オーナーの敏腕手腕もあり、まるで居酒屋キルシュと高級レストラン・アンテローゼのように上手く客層を棲み分けさせるのに成功し、今に至る。

「ねえ、エステル。ちょっと中を覗いていかない?」

 ウィンドショッピング大好きな年頃の少女の例に漏れず、瞳をキラキラと輝かせたヨシュアはデパートに後ろ髪を引かれるが、エステルに襟首を掴まれて猫のように宙に持ち上げられる。

「ミラに余裕がないのに、買えもしない馬鹿高い洋服や装飾品を眺めてどうすんだよ? ほら、下らないことほざいてないで、さっさと転属手続きをしに行くぞ」

「あーん、エステルのいけずぅー」

 両腕をブン回して子供のような我が侭を宣ふヨシュアを、エステルがズルズルと引きずりながら正論で窘めるという極めて物珍しい光景を晒しながら、二人はボース支部の門を叩いた。

 

        ◇        

 

「始めまして、ルグランさん。ロレント支部から参上した準遊撃士のヨシュアとエステルのブライト姉弟です」

 扉を潜る半瞬の間にキリッという擬音を発して、駄々っ子モードからクールビューティーにキャラを切り換えたヨシュアは、受付に腰掛けた老人男性に挨拶する。

 異性を前にしての変わり身の速さにエステルは呆れる。教授に絶望したナイアルと異なり、猫かぶり対象に特に年齢制限は設けていない模様。更にはドサクサに紛れて、エステルを義弟と紹介。見知らぬ土地でロレントで成し得なかった夢を成就させるつもりだ。

「おお、お主らがカシウスの伜達か。ワシはボース支部を預かるルグラン爺じゃ。よろしくな」

 孫のような年代の兄妹を前に、好々爺っぽいルグランは破顔する。ヨシュアは面識のないお年寄りの名前を呼んだが、彼は、五十年程前に遊撃士協会(ギルド)が発足した当時からの初期メンバーの一人。この世界では生き字引のような存在だ。

 ブレイサー手帳のギルドの歴史にも功労者と記されている。エステルは恐縮したが、「単に長生きしているだけじゃよ」と親しみやすい態度で二人に接し、転属手続きの書類にサインさせた。

 これで二人は今日からボース支部の所属になる。特別な事情がない限りは、推薦状を手にするまで、この都市から離れられなくなった。

 

「そんじゃまあ、一丁景気づけにクエストをバシバシこなすとするか」

 グルグルと左肩を回しながら、掲示板の確認に行く。

「あっ、それなんじゃが」

「平気、平気。どうせ大した依頼は残ってないんだろ? でも、今の俺らはミラが入り用だから、猫探しや石ころ探索でも何だってやるぜ。まあ、実入りのいい魔獣退治が余っていたら理想的なんだけど」

 何か言い辛そうにエステルを引き止めようとしたルグランに、ロレントで培った懐の深さを披露するが、掲示板を覗いた途端、動作をフリーズさせる。

「どうしたの、エステル?」

「ない。クエストの依頼が一つもない」

 エステルが指差した通り、掲示板は真っ白で、ぺんぺん草一本生えていない。

「やっぱりね」

 何か心当たりでもあるのか。ヨシュアは得心したが、義妹の思わせぶりな態度を無視して、ルグランに食ってかかる。

「おい、爺さん。ボース市は子供の依頼もないぐらい平和な町なのかよ?」

「いや、むしろ今は平時よりも、依頼は多いぐらいじゃよ。知っていると思うが、正体不明の空賊が頻出して、流通が混乱しているからな」

 無言の儘、互いに目配せする。そいつらはロレントで結晶を狙ったジョゼット達カプア一家の可能性が高かったが、ヨシュアに思うところがあったので、その情報はクエストの報告書に記載せずにギルドに伏せられていた。

「つい先日、定期飛行船『リンデ号』がボース地方で消息を絶った。だから、依頼が一つも残っていないのですね、ルグランおじいちゃん?」

「ああ、そういうことじゃ。その若さに似合わず聡いの、お前さんは」

 『お爺ちゃん』という魅惑のフレーズを噛み締めた後、ヨシュアの見解を肯定するが、エステルには何のことやら判らない。

「おい、ヨシュア。そりゃ、俺だって、リンデ号の話は耳にしているぜ。ここ数日、ロレントのニュースは、その話題で持ち切りだったからな。けど、それとボースから依頼が消える関連性を、お利口さんだけで会話を完結させないで、お馬鹿な俺でも判るように説明してくれ」

「ああ、済まん、済まん。確かに途中の主語と述語を省きすぎていたな」

 ルグランは軽く謝罪すると、今度はエステルにも理解できるように本筋をかい摘んで説明する。

「今、このボース地方には、正規のブレイサーが十一人。見習いは、お前さん達を含めて三人おる」

「おいおい、何だってそんなに?」

 遊撃士の供給過剰振りに目を丸くする。エレボニア帝国やカルバード共和国のような人口密集地ならともかく、リベールのような小国のましてや一地方に、二桁を数える遊撃士が集うなど偶然でも有り得るのだろうか?

「リンデ号の消失事件が起きたからよ、エステル」

 ここでようやくヨシュアが、二つの事象の因果関係を結び付ける。

「うむ、十年前にエレボニアとの講和条約が結ばれて以後、目立った国際紛争もなく、リベールは概ね平和だった。じゃが、今回の事件は百人以上の乗客の生死すら判明しておらず、ここ数年の国内では例のない未曾有の大惨事じゃからな。各地で不遇を囲っていたブレイサーが、こぞってボースの地に集結したわけじゃ」

 ギルドが独自に掴んだ極秘情報によれば、リンデ号の失踪は単なる墜落事故ではない。既にモルガン将軍率いる王国軍が出動して、ボース上空を全面封鎖した上で軍の警備飛行艇で大規模な探索を行っているのに、未だ墜落した形跡は見当たらず。更には帝国との玄関口であるハーケン門を始め、ボースから他の地方への関所に検問を設けて、入出国者を厳しく審査している辺り、何やらキナ臭い匂いがする。

 依頼人がいないので正式なクエストとしてギルドに認定された訳ではないが、これだけの大事件を独力で解決したとなれば上位ランクへの昇進は確実だし、リベール王家から多額の報奨金が貰える可能性すらある。

 多くの民間人の生命を救わんとする正義感と、英雄として脚光を浴びたいと望む功名心。参戦動機の配分は各々の遊撃士によって異なるだろうが、いずれにしても事件の謎を説き明かさんとする強い意志を以て、皆精力的にボース各地を歩き回っている。

「それじゃ、掲示板に依頼が一つも残っていないのは」

「ああ、正規のブレイサー達が全部持っていった」

 彼らとしても、長い間ボースに滞留するのには先立つものが必要なので、調査のついでにささやかでもクエストをこなせれば、ミラも稼げて一石二鳥ということ。

「どんな状況でも、クエストの優先順位は常に正遊撃士の側にある。生憎じゃが、このヤマが峠を超えない限り、どんな些細なクエストもお前さん達の手に渡ることはないじゃろうな」

「そんなぁー」

 早くも見切り発射で旅を始めたツケを支払わされる羽目になったエステルは、へなへなと床下に崩れ落ちた。

 

        ◇        

 

「正遊撃士でも報酬だけで食えるのは一握りで、大抵は副業で食い繋ぐってか。けど、まさか準遊撃士の内からクエストすら受けられなくなるとは思わなかったぜ」

 素朴な正義感の所有者のエステルは百人を越す乗客の安否が気になったが、さりとて見習いの身分で差し出がましい口を挟める訳でもない。これだけの数の遊撃士がいれば直ぐに事件は解決するだろうと己に言い聞かせ、この案件を先輩方に託して、まずは自分たちの生活基盤を築く所からスタートする。

 二人はフリーデンホテルを拠点に日銭を稼ぐために、エステルはマーケットとデパートを掛け持ちで、ヨシュアはレストラン・アンテローゼでアルバイトに精を出す。

 力自慢のエステルは通常リフトを使わないと運べないような重いコンテナ荷物でさえも軽々と担げるので、一部の店舗から重宝される。並みの日雇い労働者の三倍の効率で、配送作業をこなしている。

 ヨシュアの方はアンテローゼに面接にいって、その場で合格を貰う。容姿端麗で完璧な作法で給仕をこなし、厨房の味付けの手伝いもOK。更にはピアニストの伴奏に併せてオペラ歌手さながらの歌唱も可能な逸材など、そうそう見つかるものではない。面接当日から、あらゆる職種にフル可動で働き続け、納得いかないことに重労働のエステルの倍近いミラを稼いでいる。

 ついでに高級レストランでの出会いを機に、早速、スポンサーを幾人か捕まえた。デパートの高級呉服屋や宝石店で、リッチマンっぽい見知らぬ男性と一緒にいる姿をバイト中のエステルは幾度も見かけている。色々と貢がせているであろうことは疑いなく、ロレントの田舎町から商業都市ボースに移り住んでも、プレイガールの生態に変化はない。

 

        ◇        

 

「ねえ、見て見て、エステル。手帳がこんなに埋まっちゃった」

 フリーデンホテルの自室のベッドの上で、ヨシュアは子供のようにはしゃぎながら、ギッシリと書き込まれた『レシピ手帳』の戦果を見せびらかす。少女は五百近いレパートリーを保持しており、この手帳でちょうど五冊目。ただ、ロレントの料理はあらかた制覇したので、ここ最近レシピ数が頭打ちになっていたが、バイト中に貪欲にもアンテローゼのメニューを盗み始めた。この調子だと六冊目の新しい冊子が必要になるのも時間の問題。

「おー、よしよし。って、こんな真似して寛いでいる場合じゃないだろ、俺たちは」

 大食漢の癖に『料理のさしすせそ』すら覚える気がないエステルにとって、特級料理人の義妹の存在は有り難い。反射的にナデナデしたが、現在の境遇を思い出し声を荒らげる。兄妹がボース支部に籍を移してから既に十日を数えるが、ここの所バイト三昧でクエストとまるで縁がない。

「確かに毎日のホテルの宿泊費用も馬鹿にならないわよね。良く昔の船乗りは『港々に女あり』と謳われて、海を隔てた国ごとに現地妻を抱えていたそうだけど、各地方に無料で泊めてもらえる顔馴染がいたら便利よね。私もそういう男の人を作ってみようかしら。まずはこのボースから」

「それも何か違う。サラッと恐ろしいことを言うな。というか、不本意だけど今はそこまでミラに困ってないだろ」

 ヨシュアなら本当に五大都市全てに愛人宅を確保しかねないと戦慄しながら、脱線を遮る。一部の高額クエストを除き、もともとギルドの報酬はそこまで儲かる代物ではない。複雑な心境だが態々零細クエストを求めるよりも、今のバイトを続けている方が懐具合は豊かたったりする。

 しかし、当たり前の話だがアルバイトにBP(ブレイサーズポイント)は設定されておらず、仮初めの職場でどれだけ働いた所で推薦状には結びつかない。

 リンデ号の事件が解決し、現在ボースにたむろしている正遊撃士が引き上げればエステル達にもお鉢が回ってくる筈だが、調査は難航している。掲示板は未だに閑古鳥状態が続いており、このままでは徒に日々を費やすばかり。

 

「ボースの登録を取り止めて、恐らくは手薄になっているルーアン地方から先に片付けるという裏技もあるけど、あまりお薦め出来ないわね」

 ヨシュアが最善とは程遠い選択肢を提示してみたが、本人さえも乗り気でない。推薦状も手にしない内に一端登録した地方を放棄したら、根性なしだと見縊られ遊撃士としての適正そのものを疑われかねない。これは本当に最後の手段だ。

「こんなことなら地理的な要因は無視して、最初から遠方のルーアンを目指すべきだったわね。多くのブレイサーが雪崩込んできて、クエストが枯渇するのは予測がついたけど、こうまで膠着するのは想定外だったわ」

 素直に得意の合理的な思考フレームに計算違いが生じたのを認めたが、別段エステルは咎めるつもりはない。ただ、こうなってくると、未だに行方知れずの乗客の安否が気懸かりで仕方がない。

「なあ、ヨシュア。俺達もこのクエスト『定期船失踪事件』に参加しようぜ。多数の民間人の生命が危険に晒されているのに、それを他人任せにしようとしたのが、そもそもの誤りだったんだ。まずは互いのバイトを調節して、調査の時間を捻り出して」

「落ち着きなさい、エステル。決断が早いのはあなたの長所だけど、すぐに結論を急ぐのは悪い癖よ」

 深夜にも関わらず、今すぐにでも街の外に出発しかねない性急さをヤンワリと窘める。尚、依頼者が存在しないにも関わらず、ギルドではこの案件を便宜上『定期船失踪事件』のクエストとして扱っている。

「先輩諸氏が真面目に捜索に取り組んでいる中、大きく出遅れた私達が何を見つけられるというの? 見習いの片手間で探せる程度の手掛かりなら、彼らがとっくに発見しているわ」

 そう諭されるとぐうの音も出てこない。確かに単純な戦闘ならともかく、地道な聞き込み捜査で正規の遊撃士が駆け出しのエステル達に遅れを取る道理はない。

 

「けど、これだけの数のブレイサーがいて、未だに手詰まり状態が続いているというのも解せないわね」

 ヨシュアは顎先に親指を当てて訝しむ。試験官の裁量次第の感がある玉石混合の見習いとは異なり、リベールの正遊撃士は五大都市から全ての推薦状を集めるのに成功した精鋭揃い。そうそう無能が雁首を揃えている筈がない。

 何か裏があるような気がするが、準遊撃士の二人は情報取得レベルに制限がかけられており、正遊撃士が掴んでいるギルド独自の情報すら伏せられている。それとなく色香を交えてルグランにアプローチしてみたが、枯れた年寄りには効果が薄く、公私混同を弁えた爺様は申し訳なさそうに首を横に振るだけ。一時期、窃盗目的の準遊撃士による犯罪が横行した所為で、正遊撃士に比べて見習いの権限は大幅に弱められてしまい遣り難いことこの上ない。

 

「とにかく焦っては駄目よ、エステル。ロレントでは上手く行き過ぎていただけだから」

 二人が準遊撃士の資格を取得してから、一月もしない内に推薦状を手にしたが、元々地元は他の地方に比べれば基準が甘いのだ。何しろギルドの受付と顔馴染の場合が多く、推薦者が人柄を掌握しているので、アイナのようにBPが足りなくても多少の融通をつけてくれる。

 だが、ボース地方ではそうはいかない。それこそ『定期船失踪事件』を独力で解決でもすれば話は別だが、基本的には長い時間をかけて人格と能力を把握してもらうしかない。その目安に使われるのは、クエストの難易度に応じたブレイサーズポイントの積み重ねのみ。

「今はアルバイトに専念して、少しでも多くのミラを貯めておきましょう。そのうち、きっと新しい風が吹き込んでくると思うから」

 

        ◇        

 

「それで、これがお前のいう新しい風なのか?」

 呆れたような目で、ブランド品の整理をしているヨシュアを見下ろす。

 翌日の深夜、エステルがバイトから帰参すると、床一面に中身を取り出したダンボール箱が散布していた。クローゼットの上に高そうな靴やドレスに、ネックレス等の装飾具(アクセサリ)、さらには高級っぽい化粧品の数々が奇麗に並べられている。

「私達がバイトで稼いだミラを注ぎ込んだ訳じゃないから、安心してエステル」

「当たり前だ。どうせ例の金持ち達に貢がせた贈物が今日届いたんだろ?」

「ピンポン、ピンポーン」

 全く悪びれることなく、両手をポンっと併せる。ふとドレスについている値札をチラ見すると、ゼロが四つも並んでいて、クラリと目眩がした。

「エステル、私、これからしばらくアルバイトを休むから、生活費の工面を宜しくね」

 店のレシピを盗み尽くしたか、それとも欲していたブランド品を入手して満足したのか。いずれにしてもアンテローゼでの目的を達成したらしく、休業宣言すると寝間着に着替える。

 素材は抜群に良いので、薄いキャミソールでも纏えば色っぽいのだが、今のヨシュアは愛用の等身大の猫の着ぐるみパジャマを着込んでいて、コミカルこの上なく脱力を誘う。

「それじゃ、お休み。エステル」

 黒い塊が白いシーツを被って、ベッドの上をゴロンと転がる。シーツの隙間から零れたフードの猫耳と綿が詰まった黒い尻尾が、どのような原理なのかヒョコヒョコ蠢いている。

 もはや何も訴える気力が失せた。明日のバイトに備える為、自分も床に就くことにした。

 

        ◇        

 

 それから宣布通り、ヨシュアは仕事をお休みして、ニート生活に突入する。

 ホテルの滞在費用をエステルの稼ぎに一任。自身は健康と美容をスローガンに、真っ白な顔パックのまま昼間から熟睡。三時間もじっくりと浴槽に浸かって、玉のお肌に磨きをかける。クエストが受けられなくて、自暴自棄になったとしか思えない投げ遣りな態度に何度となく苦言を呈したが、一向に生活習慣を改めることなく更に三日が過ぎる。

 

        ◇        

 

「そろそろ頃合いからしね」

 草木も眠る丑三つ時。猫の着ぐるみ姿で就寝していたヨシュアの、フード内の目がパチッと見開く。隣のベッドでは、寝そうを崩したエステルが大鼾をかいている。

「子供みたいなあどけない寝顔ね」

 軽くほっぺたを抓る。「うーん」と唸るだけで、起きる気配はない。

「よほど疲れたみたいね。ゆっくりお休みなさい、エステル」

 琥珀色の瞳が、普段は見せない労りと友愛に満ちている。

 律儀にもヨシュアの分まで食い扶持を稼ごうと、密かにバイト量を増やしていたのを知っている。本当に彼女の義弟は馬鹿みたいに不器用でいじらしく、そして愛おしい。

 エステルが床下に蹴飛ばしたシーツを拾い、身体に掛け直す。どうせまたすぐに弾かれるのは目に見えているが、せめてもの配慮という奴だ。

 

 着ぐるみを脱いで下着姿になると、化粧室に籠もって支度を始める。

 『定期船失踪事件』の捜査は未だ暗礁に乗り上げたまま。調査が捗らずに、正遊撃士達もさぞかしストレスを溜め込んでいるだろう。

 だからこそ、ヨシュアは彼女にしか成し得ない戦いをこれから開始する。

 

「待っていて、エステル。私があなたの夢の手助けをしてあげる」

 

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