星の在り処   作:KEBIN

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ジェニス学園の黒い花(Ⅶ)

 紺碧の塔三階の巨大な渡り廊下の中央位置。三人の男女が揃って犬のように床下に手をつき、地面に這いつくばる。ジェニス王立学園の制服を着たヨシュアにクローゼと考古学者を自称するアルバ教授と名乗る中年女性。

 クローゼと教授はヨシュアに解体され屍を晒した大型マッドローパーに嬲られた名残。頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませ青息吐息している最中だが、ヨシュアは違う。

 病み上がり戦闘で無茶して傷口を悪化させた訳ではない。「あと、もう一枚だけ」、「今度の一枚で最後」、「本当に今度の一枚で終わり」、「本当の本当に今度の一枚で、私は正道に立ち返る」と何らかの誘惑に負けた凡人の言い訳そのものの台詞を連呼しシャッターを切り続けて、気づくと感光クオーツを全て使い果たして仕事の撮影分のフィルムが残されていない現実にショックを受けた。

「この私がこんな馬鹿げた理由でクエストに失敗するなんて、全てはクローゼがあんな所やこんな所を弄られて私を狂わせたのが悪いんだわ」

「ヨシュアさん、意味不明な責任転嫁しないでその感光クオーツをこちらに渡して下さい!」

 制服の乱れを直しながら、泣きそうな顔をして己が痴態の証拠のネガを引き渡すよう催促するが、ヨシュアは頑に拒む。

「それは駄目よ、クローゼ。この中には王立学園女子生徒全員の夢と希望が篭められているのよ」

「さっきから、おっしゃっていることが全然合理的じゃなく、あなたらしく」

「あのー、お取り込みの所、申し訳ありませんが、わたくしのことを忘れていませんか?」

 写真撮影後、クローゼのついでに助けられてから、ずっと放置状態のアルバ教授は控え目に自己アピールしたが、ヨシュアは冷ややかな目で一瞥し教授を怯ませる。

「お久しぶりね、アルバ教授。まさか翡翠の塔に続いて、紺碧の塔でも魔獣と戯れているとは思わなかったわ」

 別人格のカリンが又聞きした所、琥珀の塔でもマッドローパーと遊んでいたみたいで、次はツァイスの紅蓮の塔で触手魔獣と一緒にお出迎えというオチになるのか?

「わたくしにも何で行く先々で、こんな変な魔獣に襲われるのか、さっぱり判らないのよー。だから苛めないで下さい、ヨシュアさん」

 疑惑の眼差しで自作自演を勘繰るヨシュアに、教授は涙目で冤罪を訴える。アラサーおばさんの泣き顔にクラっとくる人間は男性でも極々少数派。ましてや、クエストの失策で苛立っているヨシュアの同情を買うのは難しかった。

「ヨシュアさん、こちらの女性は? よろしければ、紹介してもらえると有り難いのですが」

 共に魔獣に操を散らされてシンパシーを感じた訳ではなく、元来のフェミニスト体質から教授を気の毒に思ったクローゼは、場の雰囲気を和らげる為に横から口を挟む。両者と面識のあるヨシュアが、各々の出自を双方向で媒介した。

「まあ、クローゼさんはジェニス王立学園の生徒さんで、ヨシュアさんと一緒に屋上のアーティファクトの発光現象を調査しに来たと。ならば、目的はわたくしと一緒ですね」

 旅の道連れが出来たことに、ぱっと表情を輝かせる。護衛役の遊撃士と一緒に行動すれば、この先、魔獣の襲来に怯える心配がない。

「そのつもりだったのですが、人の身では乗り越えるのは不可能な不慮の事故で、撮影を断念せざるを得ないので、正直凹んでいます」

 「だから、残されたこの感光クオーツはパンドラの箱の希望そのもの」と芝居がかった大仰なポーズで涙ながらに哀訴したが、当然ながら少年の琴線には何も響かない。

「希望とは、あらゆる災厄が封じられたパンドラの箱の中でも最も性質が悪い魔物だという学説もありますが、僕は今まさにそんな心境ですよ。頼むから意地悪しないで、感光クオーツを渡すか破棄するかして下さい」

「この携帯カメラにセットされたフィルムの所有者はカルノーさんだから、最低限、彼の裁可を得ないことにはクエストで預かった物品を第三者に引き渡すことはできないわ」

 キリッという擬音を発して、遊撃士としての口上を述べたが、依頼とは無関係な撮影で台無しにしたのはどこの誰なのか?

 ヨシュアの本音は透け透けだが、法知識に精通し屁理屈に長けている分だけ、真っ当な言葉遊びでは分が悪い。止むなくクローゼは強行手段に訴える。

「ヨシュアさん、いい加減にしないと、温厚な僕でも怒りますよ。こうなったら力づくでも……うっ?」

 今の手負いの彼女なら素手でも勝てるだろうと、柔術の腕前を知らないクローゼは見縊り強引に詰め寄ろうとしたが、あらためて鑑賞すると今の格好は中々にふしだらで赤面する。

 傷は治癒しても破れた衣類までは修復できる筈もない。制服の胸元からスカートの一部が切り裂かれたままで、乳房の下半分からお臍までの地肌と下着のフリルが丸見え。

 殿方の視姦からミニスカートの中身を守ってきた謎の絶対領域も、スカートそのものが破損しては意味がない。何よりもズタボロに引き裂かれたジェニスブレザーというシチュは実に背徳的で、クローゼは目のやり場に困って顔を背けてしまう。

「んっ? どったの、クローゼ? 暴力で無理やり私を手込めにするんじゃないの?」

 クローゼの微妙な眼球運動から事情を察すると、にやーと小悪魔的な笑みを浮かべる。露出した部分を隠そうともせずに、むしろ一段と強調しながら、逆にクローゼへと詰め寄る。

 助平道十段のエステルは、お義姉様のセクシャルポーズにも淡白な反応しか示さないが、まだ入門初心者のクローゼの初々しいリアクションは実にからかいがいがあり、嗜虐心をそそられる。

「ヨシュアさん、その辺りで許してさしあげてはどうですか? クローゼさんも困っているみたいですし」

 教授が苦笑いしながら仲裁に入る。意外にもヨシュアは素直に受け入れて、クローゼから距離を取り彼を安堵させる。感光クオーツを死守する目処がついたことに満足したみたい。今の強姦被害者じみた姿態のヨシュアの対応如何では色々と不味い立場に追い込むのも可能なので、市内に戻ってまたゴネ始めた時の保険としては申し分ない。

「本当に可愛い外観に似合わず困ったお人ですね、ヨシュアさんは。でも、お気持ちは大変良く判りますわ」

 隣で触手に嬲られる美少年の艶姿を至近距離で見せつけられて、年甲斐もなく興奮してしまったと素直な心情をカミングアウトする。

「そりゃ、シャッターを切る手が止まらないのは必然で、フィルムを使い果すのも宜なるかなですわ」

「判ってくれますか、アルバ教授?」

「ええっ、それと安心して下さい、ヨシュアさん。実は予備の感光クオーツをわたくしは持っていたりします」

 通常サイズよりも小さめの携帯カメラ専用のミニ感光クオーツを懐から取り出して、ヨシュアを驚愕させる。徹底した合理主義性を貫いて必然的な勝利を積み重ねてきた彼女が、このような予期せぬ偶然の手助けで先のしょーもない失態の埋め合わせが叶うとは、まさに捨てる神あれば拾う神あり。

「アルバ教授。そのフィルムを本当に頂いてもよろしいのですか?」

「はい、ただし、わたくしは今、とっても、とーっても、お腹が空いているのです」

 教授は指を銜えたままじーっと、クローゼが左手に抱えている五段重ねの重箱を物欲しそうに眺めている。一見、ドロシーと同族に見せながらも、年の功だけきちんと等価交換の法則を弁えているようで、ヨシュアは苦笑する。

「判ったわ。それじゃ、屋上に辿り着いたら、例の発光現象を見物しながら、三人で仲良くピクニックといきましょうか」

「わーい」

 諸手をあげて万歳すると、あっさりと交渉物品のフィルムを譲渡。クローゼから重箱をひったくって小脇に抱えると、「お弁当、お弁当、嬉しいなー」と妙な鼻唄を口ずさみながら率先して塔を駆け昇っていく。

「ヨシュアさん、アルバ教授は外国の偉い学者さんなのですよね?」

「偉いかどうかは知らないけど、ああ見えて考古学者としての見識は確かで、七の至宝(セプト=テリオン)の一つ、輝く環(オリオール)の秘密がこの四輪の塔にあると睨んでいるみたいね」

「なるほど。オリオールなんて単なる御伽噺と思っていましたが、単身、それも女性の身分でその謎を説き明かそうとするなんて凄いバイタリティですね」

 とはいえ、現在の教授の頭の中は、古代叡知の探究心と重箱の中身のどちらの優先順位が上回っているかは、それこそ神のみぞ知る所であるが。

 

        ◇        

 

 意外にも、あれから一度も魔獣に襲われることなく、一行は屋上に辿り着いた。

 カラクリは準遊撃士五級の褒美、『陽炎』クオーツを、ヨシュアが戦術オーブメントにセットしていたからだ。この幻属性クオーツには魔獣から認識され辛くなる農園や孤児院の灯柱と同種の迷彩効果が封じられている。

 塔内の探索効率を上げる為に、まだBPが五級に足りてないヨシュアが、今回のクエストを受ける交換条件としてジャンから前借りしてきた一品。口車に乗って早々と彼女を降ろしたのをクローゼは少し後悔したが、その先には教授のサブイベントを待ち構えていたのであまり堪能時間に変化はない。

「さてと、発光現象が始まるにはもう少し時間があるわね。そろそろ夕飯時でもあるし、お食事にしましょうか」

 腕時計で今現在の時刻を確認したヨシュアは、重箱を包んでいた風呂敷包みを解いて、ござのシート替わりに地面に敷いて腰を落ち着けると、重箱を解体する。

 流石は料理の鉄人が手掛けただけある。五つの重箱の中には、海の幸、山の幸、陸の幸など、俗に言う『小満漢全席』三十二珍がふんだんに盛り込まれていて、業者に依頼すれば軽く五千ミラはふんだくられる豪奢な造り。

「随分と奮発なされましたね、ヨシュアさん。あなたのことだから自作されたのでしょうが、材料費だけでかなりの出費でしょうに」

 腕もだが、それ以上に使われている素材は伊勢海老に松茸や松坂牛などどれも一級品ばかり。教授はさっきからダラダラと涎を零し、彼女やエステル程グルメでないクローゼでさえ、重箱から齎される神々しい輝きに目を奪われた。

「言ったでしょう、デートだって。これでも出来る限りの埋め合わせはするつもりだったのよ」

 開港都市のルーアンは、他の街に比べて海産物が豊富。特に『築地市場』と呼ばれる漁師の寄り合い所に足を運べば、新鮮で質の良い魚介類がボースマーケットよりもはるかに格安で手に入る。ヨシュアはクエストの合間に入り浸って、得意の猫かぶりで海の漢衆と仲良くなり、生きの良い魚を優先的にまわしてもらえるように根回しした。

「エステルも本当はブレイサーよりも、釣り技術と有り余る体力を活かしてマグロ漁船に乗り込んで、海人(うみんちゅ)を目指した方がよっぽど向いていると思うけど、こればっかりは本人の意志が固いからどうしようもないわね」

 予めクローゼに持たせた二つの魔法瓶を駆使して、お吸い物とお茶の液体物を完成させると二人に手渡して、花見を開始する。

 カルバート共和国の東方人街に伝わる、数日かけて百種類を超える宮廷料理を制覇するという贅の限りを尽くした『大満漢全席』には及ばないが。三十二珍を欠かすことなく盛りつけた小満漢全席の弁当は以前のアンテローゼの大晩餐会に勝るとも劣らない至福の時を二人の同行者に提供した。ただし、安物でもワインを用意し損ねたのが、酒豪ランクA+を誇る不良少女の唯一の心残り。

 

 食事を開始して三十分。箸を休めず食べ続けても、重箱の中身は一向に減る気配を見せない。良く考えずとも悪飲みだが食が細いヨシュアに、標準の食欲体のクローゼの二人にこの分量は多すぎる。無意識に大食漢のエステルの存在を面子につけ加えていたものと思われ、そういう意味では万年金欠教授の飛び入り参加は色んな意味で僥倖だ。

「そろそろ始まる時間かしら」

 腕時計がちょうど夜の八時を示し、全員が一端箸を止める。

 「もう寮の門限には間に合いそうもないな」とクローゼは諦観しながら、ヨシュアとの貴重な一日と秤にかけて悔いはないと、寮長から罰則の覚悟を決める。

 やがて、既に機能停止した筈の大型のアーティファクトが、うっすらと青白い光りを放出し始める。

 闇夜に円形の青い光りが浮かび上がる様は、なかなかに幻想的な光景で、クローゼや教授は息を飲む。ヨシュアでさえも一瞬見惚れかけたが、自分の仕事を思い出し、慌てて計測機器の傘の部分を展開させて、導力値の測定に入る。

「よしっ、壊れてないか心配だったけど、キチンと作動しているみたいね。クローゼ、カメラでの撮影の方をお願い」

「判りました」

 ヨシュアがオーブメントのダイアルを弄くりながら、三脚の足を広げて位置を固定している間、クローゼは例のアーティファクトの発光現象の現場写真を、正面からカメラに納め続ける。

 アルバ教授でさえも、降ろした箸を動かすことなく、アーティファクトの変化をじっと見つめている。光りが正面から眼鏡に反射して、サングラスのように目の表情を確認出来ないが、ふと口元だけを悪戯っぽく歪めると、二人にとある提案をした。

「ねえ、折角だから、アーティファクトの輝きを背景に、若い二人で写真を撮ってみてはいかが?」

 「僣越ながら、わたくしがカメラマンを務めてさしあげます」と年長者らしく気を利かせたが、写真に『ある免疫』を所持するヨシュアはあまり乗り気でない。

「悪いけど、私は写真が苦手で」

「お願いできますか、ヨシュアさん?」

 断ろうとしたが、当事者の一人のクローゼが乗り気満々なご様子。ダンボール箱の中の捨て犬のような期待と不安に入り混じった瞳で見つめ、ヨシュアを嘆息させる。デートというのは単なる口実であったが、ここまでその気になられては誘った方としては付き合わない訳にはいかない。

「不躾な質問で恐縮ですが、ヨシュアさんは、エステルさんとクローゼさんのどちらが本命なのですか?」

 クローゼの側に向かおうとしたヨシュアを、カメラを手渡された教授が呼び止める。確かに無粋な問い掛けで、二股を揶揄されていると感じたヨシュアは後ろを振り返ることなく冷やかに答える。

「以前お話した通り、エステルは私の義弟でクローゼは只のお友達です」

 写真スポットの前でそわそわ待機しているクローゼが聞いたら凹むような真意をヨシュアは告げるが、鴨と切り捨てられなかっただけまだマシか。

「まあ、若い中は色々体験するのもいいかもしれないですわね」

 どっち付かずな発言をキープ宣言と解釈したが、教授は別段、ヨシュアの気の多さを咎めるつもりはないようだ。

 だが、次の瞬間、金縛りにあったように足が動かなくなる。謎の拘束現象はこれで二度目、ゾクリとヨシュアの背筋が震えた。

「遊びで何人かと付き合うのは全然有りだとわたくしも思いますけど、心の聖域に住まわす本命の殿方は常に一人よ。ヨシュアさん、それだけは絶対にお忘れにならないようにね」

 発光現象の光りが月に乱反射して、目の前の地面に教授の影を浮かび上がらせる。暗がりの女性のシルエットに、四角い眼鏡の形だけが白く刳り抜かれるというグロテスクな影絵を目の当たりにし、ヨシュアの魂にズキリと痛みが走る。

 なぜか、アルバ教授に苦手意識を抱く契機となった翡翠の塔での過去を思い出し、「分かっています」と掠れたような声を絞り出す。

「んっ、よろしい」

 何時の間にか教授はヨシュアの前面に回り込んでいる。恐る恐る眼鏡の中身を確かめたが、人の良さそうな円らな瞳でヨシュアを見下ろしている。

 やはり先の怪物じみたシルエットは目の錯覚? 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の格言通りに恐怖心が生み出した幻想だったのか?

 気づくと足が動く。身体を戒めていた呪縛が再び解かれたのを確認したヨシュアは、逃げるように大慌てでクローゼの側に駆け寄った。

 

「はい、それじゃ二人とも笑って。もっと、ぴったりと引っついて」

 二人はアーティファクトの前に仲良く並んで立ち尽くす。衣服の破損が写真に写らないように、ヨシュアは両手の位置を調節して露出箇所を隠そうと努力したが、物理的に無理がある。どうやってもどこかの素肌がはみ出てしまう。

 クローゼの方はやや緊張した趣で、所在無さげに手をぷらぷらさせた後、軽く溜息を吐き出す。ヨシュアの肩を抱こうか悩んだ挙げ句、その勇気を絞り出せなかったようで、殿方の仕種に機敏なヨシュアは「意外と意気地がないのね」と思いながらも、とある事情からクローゼの左腕に自らの両腕で抱きつくサービスを施した。

「ヨ、ヨシュアさん?」

「動かないで、クローゼ。ほらっ、こうやって身体の半身をぴったりくっつけると、ちょうど制服の切れ目を上手く誤魔化せるでしょ?」

 蠱惑的な瞳で微笑みながら、胸囲の部分を強く押し付ける。夢見心地のクローゼは今という瞬間が永遠に続くことを、エイドスに祈らずにはいられなかった。

(本当に可愛いわね、クローゼは。そうそう、忘れずにステルスを解除しておかないと)

 これも七十七の特技の一つなのか、かつて所属していた組織で隠形を生業としていた少女は意図的に写真や防犯カメラなどの映像媒体から己の姿を消去するのを可能とする。

 以前、ハンスの盗撮写真で幽霊扱いされたのも、この能力を行使した結果。デートの記念写真に男性一人はあまりに気の毒なので、普段オートで常時展開しているステルス機能を今だけ一時的にオフにする。

「うっはぁー、本当に大胆ね、ヨシュアちゃんは。はい、チーズっ。アレ? 何か光りがどんどん強くなっているような?」

 パシャッとストロボを焚いて、おしどりカップルの姿をカメラに抑えた教授が、光量の増加に小首を傾げ、その動揺が被写体の二人にも伝染する。

「ねえ、クローゼ。さっきから、やけに眩しい気がするのは気のせいかしら?」

「ええ、僕もそんな気が……って、ヨシュアさん。後ろを」

 クローゼの言に釣られてヨシュアは後方を振り返って、驚愕する。

 さっきまで蛍光灯のイエローランプのような、ひっそりとした光りを齎していたアーティファクトが、ナイター照明のような眩いばかりの灯火を発散しているからだ。

「ヨシュアさん、これは一体?」

「私にも判らないわよ、けど、どんどん輝きが増していって……」

「ヨシュアさん、クローゼさん!」

 まるで意志を持つ生物のように、どんどん光が膨張して二人の姿を飲みこみ、教授は思わず悲鳴を上げる。

 やがて光りの勢いが衰え、アーティファクトが元の穏やかな青白い光りを取り戻した時には、ヨシュアとクローゼの姿はまるで神隠しにあったかの如く、その場から消失した。アルバ教授はへなへなとその場に崩れ落ちながらも、薄いルージュを塗った唇の端を微かにつり上げて微笑んでいた。

 

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