星の在り処   作:KEBIN

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学園祭のマドモアゼル(Ⅹ)

「ここが、我が王家がミラを恵んでやっている全寮学校か」

 独創的な髪型をした高価な身なりの中年男性に銀髪で黒の執事服を纏った初老の紳士の凸凹コンビが学園祭の門を潜った。

 アリシア女王の甥であるデュナンとお付きのフィリップの二人。校庭を埋めつくす来場者に混じった何人かの生徒が意味ありげな視線を彼らに注いでいる。

「こちら、クラブの8。目標のスペードのキングが、ようやく学園に到着しました」

「確認した。既にダイヤの2~9と、ハートの5~10は配置についている。ジョーカーも仕込みが完了次第、出向く手筈になっている。貴殿は手持ちのクラブ隊を率いて、さり気なく誘導するように」

「了解、全ては我等がクイーン・オブ・ハートの為に」

「「「「クイーン・オブ・ハートの為に!」」」」

 どこぞの秘密結社のような怪しげな音頭を取ると、何人かの男子生徒が人込みに紛れながら、あくまで自然を装ってデュナンとの距離を詰めていく。フィリップは一部の学生の奇矯な動作に勘づいたが、武術的には全員素人。閣下の御身を狙う刺客でもなさそうなので、敢えて放置する。

「ふふんっ、次期国王であるデュナン・フォン・アウスレーゼが直々に視察しようというのだ。生徒たちも光栄で身を震わせているであろう」

 自身を取り巻く不穏な空気をまるで知覚せずに、デュナンは呑気な発言をかます。欲目抜きで判断しても、市長クラスの上流階層ならいざ知らず、一般市民が自分らの生活圏に直接関わらない一公爵の存在を認知しているとは、フィリップには思えなかったが。

「そういえば知っているか? リベール王族の一人が現在、ルーアンに巡察に来ているって話」

 群衆の合間から自身の風評が流れてきたので、デュナンは驢馬のようにピーンと片耳を大きく逆立て聞き耳を立てる。

「デュナン・フォン・アウスレーゼ様だろ? あの御方をご存じないモグリがこの学園にいるわけねえぜ」

「あの女王陛下の信任も篤く、次期国王を確実視されている公爵様か」

「そうそう、あんな偉人が尋ねてくれば、うちの学園祭も箔かつくんだけどな」

 

「ぬっふっふっ、聞いたか、フィリップ? やはり世俗でも私が次期国王と持て囃されておるぞ。ふふんっ、公式行事にも滅多に顔を出さないクローディアルのような引き籠もりの小僧とは、やはり世間の認知度が段違いだな」

「はっ、さようで御座いますか」

 公爵のご機嫌を損ねないようフィリップは曖昧に言葉を濁したが、心中に沸き上がる違和感を抑えられない。

 導力革命以前でマスメディアが未発達の時期には最高権力者の御尊顔を存じない民衆すら珍しくなかったが、今時分の学生はそこまで王族の内情に詳しいものなのか。

「そうだ、デュナン公爵と言えば、『弱きを助け、強きを挫く』という御心ある方だ。もし、学園祭に顔見せしていれば、きっと寄進場に姿を現す筈」

「寄付の受付って本館後ろの裏道を通った建物だよな? 行ってみようぜ」

 やや棒読みな説明台詞で会話が打ち切られると、潮が引くように噂話は途絶えて、後には来客の喧騒だけが残された。

「寄付金か。そういえば陛下から、王家からの喜捨金を預かっていたな」

 別段、着服するとういう悪しき意図ではなく、単に福祉に無関心故にど忘れしていた懸案事項を喚起したデュナンは、「ならば、私の御名の元に庶民に大金を施してやるとするか」とある意味では猫ババよりもセコイ考えを巡らせながら、会場に足を運ぶことにした。

 

        ◇        

 

 二人が『寄付金受付場所』の立て札が掲げられた寂しい裏道を抜けると、古びた校舎が眼前に出没して、思わず首を傾げる。

 彼らは与り知らぬことだが、ここは本来なら立入禁止になっている旧校舎跡地。デュナンが正面玄関口から入ったのを確認すると男子生徒の一人が立て札を引っ込めって、鉄門に鍵をかけ裏道を封鎖した。

 

 どうしたわけか、十年以上前に廃館になった校舎にしては内部は意外と綺麗に片づけられており、多くの生徒が忙しく動き続けて何らかの活動に従事中。

 二階渡り廊下前の中央にデスクが置かれ、生徒会の腕章をした三人の男女が座っていて、まばらに並んでいる来場者に丁重に頭を下げて赤い羽根を配っている。ここで寄付金の受理をしているらしく、デュナンも列の後部に並ぶと瞬く間に彼の順番が回ってきた。

「真にありがとうございます。えーっと、お名前は?」

「デュナンだ。間違えぬようにな」

 先の一件で己の著名人振りを過信し、敢えて王家のファミリーネームを公開せずに相手側の出方を待つ。

「次期国王当確のデュナン・フォン・アウスレーゼ公爵様ですね? お会い出来て本当に光栄です」

 受付の女生徒が手を握り、他の一人が共同募金を意味する赤い羽根を公爵の胸元につけてくれる。期待通りのリアクションにデュナンは気色を良くするが、三人目の眼鏡学生の一言は想定外。

「デュナン様の寄進額は、十万ミラで現在七位ですね」

 ピクリとデュナンの眉が動く。妙に不快な数値が飛びだしたように感じたので、弁明を求めるが、生徒たちは悪びれることなく途中経過を報告。

「有り難いことに、今年は閣下を初めとして太っ腹の男性が多くて、物凄い勢いで寄付金が集まっているのです」

「ですから、特別にベスト10まで掲示板に張り出して、栄誉を讃えることに決定しました」

「更にはトップの御方にはリベール一の伊達男として、『白き花のマドリガル』の上演前に講堂で花束の贈呈式を取り行う予定です」

 恵まれない子供たちに多大な貢献を成されたのを大々的に広報する旨を確約するも、デュナンは膨れ顔。学生らは名誉と称したが、何事も一番でなければ気が済まない性質の彼がこんな中途半端な順位を衆目に晒し者にされるのは屈辱以外の何物でもない。

(はて、些か妙で御座居ますな)

 憤慨する公爵と異なり、第三者視点で一連の遣り取りを伺っていたフィリップは、再び発生した違和感の連鎖に眼鏡の奥の細い目を更に糸のように細める。彼は毎年の寄付平均額を把握している訳ではないが、いくら上流階層が集う学園祭といっても、そうポンポンと十万単位の大金が投じられる筈はない。

 ましてや、まだ開場してから一時間も経過しておらず。色んな意味で根回しが早すぎる上に善意の寄付をランクづけするなどモラルにも欠けており、えも言わぬモヤモヤとした不快感の黒雲が彼の心中を覆い尽くす。

 これらのフィリップの疑惑は全て正しい。

 実は本来の寄付金の受理は、本館正面入り口の受付係のファウナが館内の案内と並行して執り仕切っている。この旧校舎はデュナン公爵個人を招き入れる為にとある人物によって臨時に用意された劇場そのもの。

 当然、この場にいる人物は全員、謎の黒幕クイーン・オブ・ハートの息がかかった桜。これから『白き花のマドリガル』とは別種の裏公演が催されようとしている。

 デュナン自身も、本人に自覚のない俳優の一人。ある意味フィリップはこの喜劇に招かれた唯一人の観客であるが、この演目のフィナーレは脚本家のクイーン・オブ・ハートも把握しておらず、全てはスペードのキングとジョーカーという二人の主演男優のアドリブに託されていた。

 

「閣下、ちょっと宜しいで……」

 フィリップが自分の感じた矛盾点を公爵に告げようとした刹那、ジャンジャッカジャーンと勇ましい音楽が扉の外から響いてきた。

 舞台は強引に次幕へどんどん進行していき、見物客に落ち着いて思考する隙を与えようとせずに、公爵とは別のもうひとりの主賓が登場した。

「ふっ、ここが寄付金の受付会場か。このような手狭な所は苦手なのだが、多くの恵まれぬ者を救済する為には止むを得まい」

「「きゃあー、オリビエ様。素敵ですー」」

 両隣に女子生徒を侍らせて、リュートとは思えぬ大音量で『帝国行進曲』の軍歌を演奏しながら、洒落た白の燕尾服を華麗に着こなした金髪の青年が入場してきた。

「おい、あれって愛と平和の伝道師、漂白の旅人オリビエ・レンハイムじゃないか? こりゃまたとんでもない大物が現れたものだぜ」

「聞いたぜ、宵越しのミラを持たずに、ボースではとある少女との距離を5アージュ縮める為だけに、一晩の公演で稼いだ百万ミラを全額寄贈したんだってな」

「ミラにも常識にも法律にも束縛されない生粋の風来人かよ。くぅっー、男として一度は真似してみたいよな」

 二階の渡り廊下の部分も含めて、何時の間にか会場全体を埋めつくしていた生徒から、ご丁重な説明台詞が飛び出し、デュナンは突如出現した奇抜な帝国人の正体を看破した。

「距離を5アージュ縮める……百万ミラ……そうか、こやつが不届きにもあの遊撃士兄妹が私と見比べようとした道化者か?」

 リュートの演奏を取り止めたオリビエはデュナンの敵意の視線に全く頓着せず、彼の脇を堂々と擦り抜けると、一万ミラ紙幣の札束を無造作にデスクに投げ入れた。

「ふっ。ロレントの田舎町の巡業では帝国大劇場ほど稼げなかったので、五十万ミラぽっちの端金だか受け取ってくれたまえ」

「あのー、お客様。ご冗談は程々にしてください。こんな莫大なミラの寄進者は前例がありませんし、態々偽札を用意してまでからかわれるなど、慈善を侮辱する行為……って、ほ、本物ー?」

 全ての紙幣に透かしが入っているのを確認した女生徒は、念の為にデスクに置かれたZCF製の偽札発見器に翳してみるが全て真札と判定。

「大変、ご無礼をしました。お許し下さい」

 三人の受付係はペコペコと頭を下げながら、オリビエの胸部にダース単位で赤い羽をつけ始め、寛大なオリビエは恐縮する生徒を窘めながらリュートを一曲献上する。

 『それ見よ我が元気』という明るくコミカルな曲。かつてとあるキタラ弾きが絶望に打ちひしがれるスラム街に活気を取り戻させた伝説のメロディーで、周囲をホンワカとした愉快な気分にさせる。

「本物の紙幣で御座居ますな」

 至近からミラの真贋を確認したフィリップは、困惑の表情を隠せない。

 ついさっきまでは、デュナン公爵を担ぐドッキリ企画か何かと勘繰っていたが、投入さたれミラは到底学生に用意できる金額ではなく、眼前で繰り広げられている光景の真意が読めなくなる。

「おやおや、そちらにおわすのは、もしやデュナン公爵ではあるまいか?」

 ふと、オリビエは初めて公爵の存在を気に留めたかのように、ただ一人『それ見よ我が元気』の恩恵を受けられずに憤慨していた隣の中年男性に目を向ける。更にはデスク上の寄付金ランクの彼の金額を覗き見して、哀れむように見下した。

「あなたの勇名は我がエレボニア帝国にも雷鳴のように鳴り響いていた。次期国王を確実視され、今時珍しい男気に溢れた人物と聞き及んでいたが、いやはや人の噂とはまるで当てにならないものだ。まさか自国の寄付でこのような少額しか支払えぬしみったれた小物を国王に仰ぐことになるとは、リベールの臣民に同情せざるを得ないね」

「な、なんじゃと?」

 ふっ、と小馬鹿にしたように鼻で笑われて、デュナンはにがトマトのように怒りで顔を真っ赤にする。オリビエは急に何か悪戯を思いついたようにニヤリと悪者顔で笑うと、恭しく形だけ謝罪する。

「いや、失礼した。考えてみれば、これは貴重なチャンスであるな。一国の王を出し抜ける機会などそうそう巡り逢えるものでなし、デュナン公爵よ。あなたには漂白の詩人オリビエ・レンハイムの永遠の道化役として、僕が奏でる物語に出演して頂くとしよう」

「なっ、道化者め、それはどういう……」

「ふっ、地位も名誉もない身一つのさすらいの演奏家にすら劣る狭量な国王の逸話を詩曲にして、吟遊詩人のように大陸各地に歌い回るだけの話だよ。歪められたあなたの実情を正しく世に伝えようというのだから、むしろ感謝してもらいたいものだね」

 慇懃無礼を絵に描いたようなとんでもない宣告に、デュナンは目を白黒させる。彼が行く先々でトラブルを引き起こして、その都度住民から煙たがられているのは事実だが、今回はまだ何らの悪行も重ねていない。

 強いて粗探しするなら、公庫から支払われた王家の喜捨金をあたかもデュナン本人の懐から差し出したように偽ったことだが、それにしてもここまで酷い仕打ちを受ける程の咎ではない。そんな彼の絶望に止めを刺すように、リュートの題目が『死刑執行』という過激な演奏へと切り替わり、周囲の人間の心を肌寒くする。

「おいおい、マジかよ。あの帝国人。善意の募金額の大小で、公爵閣下の全人格を否定しに走ったぞ」

「けど、寄付金であのスケコマシ野郎に遅れを取ったのは事実だから、悔しいけど嘘じゃないんだよな」

「ということは公爵閣下が正式に王位を継がれた日には、隣国エレボニアの帝国時報社(インペリアルクロニクル)はこの件を引き合いに出して、陛下を大々的に晒し者にするつもりかよ?」

 再び周囲が騒然とし、特に最後の可能性に思い当たったデュナンは顔面蒼白になる。スキャンダルに飢え他人の粗探しばかりしているのは、宮廷の重臣も帝国の大貴族も何ら変わりはない。彼奴にとって重要なのはことの真偽でなく、他者を貶める単なる口実のみ。

 確かに今回の一件はハイエナ共が群がるには恰好の餌。将来の禍根となる公算は高いと己の即位と周辺諸国への知名度を微塵も疑っていない自意識過剰な公爵は皮算用する。

「畜生、帝国の奴ら、デュナン公爵の人となりも知りもしないで、手前勝手なレッテルを張って、陛下を生涯に渡って笑い者にするつもりかよ」

「馬鹿言え、デュナン公爵がこのまま終わる人間だと思うか? きっと、あのいけ好かない帝国野郎にギャフンと一泡吹かせてくれる筈だ」

「皆、俺達でデュナン公爵を応援しようぜ。あっそれ、デュ・ナ・ン!」

「「「「「「デュナン! デュナン!」」」」」」

 二十人近い生徒から男女の垣根なく、溢れんばかりのデュナンコールとウェーブが巻き起こり、公爵は呆然とする。

 人一倍神経が図太い彼は、周囲から鼻つまみ者扱いされても別段心を痛めたことはなかったが、ここまで目に見える形で喝采を浴びたのは生まれて初めての体験。だが、オリビエは周囲の必死さを嘲笑うかのように、『人生の落伍者』という締まりのない脱力感を誘うフレーズをリュートで奏でて、衆目を憐れんだ。

「ふっ、無駄だよ。所詮、彼は紛い物であり、君らの期待に応えられるような甲斐性など持ち合わせては…………」

「ふっふっふっふっふっ」

 デュナン公爵から、くぐもった笑い声が聞こえる。オリビエは思わず、滑らかに滑らしていた二枚舌と同時にリュートの演奏を停止させる。

 この舞台に参加した俳優の意見が完全な統一を得たのが、後に判明する。

 この時の公爵閣下の御尊顔には、普段まるで感じることが出来なかった王族の威厳が篭められており、その渋目が入った中年のダンディな横顔に受付の女生徒も演技でなく不覚にも時めいてしまったと。

「ふっ、済まないね、お嬢さん。一桁ばかり寄付金の額を間違えてしまったみたいだ。フィリップ、例のものを」

 公爵の催促が小脇に抱えている小型バッグの内包物だと覚ったフィリップは、心中の動揺を押し隠して忠告する。

「閣下、このミラは例の別荘を購入する手付けとして用意した資金ですぞ。それと僣越ながら、恐らくこの一連の流れは閣下を陥れる茶番劇」

「ええい、次期国王としての私の器量が問われておるのだ。貸せ、フィリップ」

 薄々ながら何者かの筋書きに踊らされている現実を達観したフィリップは再度警告したが、デュナンは意に介さずバッグをひったくると、ガサゴソと中の紙幣の束を取り出しデスクの上に叩きつけた。

「リベール王国公爵のデュナン・フォン・アウスレーゼ。改めて百万ミラを寄進する」

「「「「「うえええぇぇぇー!?」」」」」

 演技ではなく、周囲がこれ以上なく騒然とする。

 ここに集められた生徒たち自身、芝居の効能に対しては半信半疑のまま、今回の舞台に参加したが、回収できたギャラは想像以上。仕掛け人のクイーン・オブ・ハートの合理的な思考フレームによる高速未来演算でさえも、ここまでの大成功は予測してはおるまい。

「ば、馬鹿な。そんな馬鹿な……こんな不条理が有り得る筈が」

 一瞬、素の驚愕の感情を露見させた素人役者の学生諸君と異なり、きちんと自分の役柄を弁えているジョーカーは舞台の最後の締めに入る。デュナン公爵と目を合わせた刹那、「ひっ!」と情けない悲鳴を上げて腰を抜かす。

「なんという気迫。なんという神々しいオーラ。これがリベール次期国王デュナン公爵の真実の姿。僕なんかが到底及ぶ御方ではない」

 小物臭全開の余裕のない表情で自分が寄進した五十万ミラを必死に搔き集め、制止する女生徒の手から強引にひったくった。

「ちょ、ちょっと、お客様、何を?」

「逆に引き立て役にされると判っているのに、こんな大金を手離せるか。畜生、デュナン公爵と張り合おうとした僕が馬鹿たった。僕はもう降りるぞ」

 オリビエは『負け犬の遠吠え』という惨めったらしい音程の曲をリュートで奏でながら、這いつくばる様に四つ足でこの場から惨めにトンズラした。

「皆、見たか? 帝国野郎の情けない態を。陛下をおちょくれないと判った途端、一旦寄付したミラを未練たらしく回収しやがったぞ?」

「けっ、何てケツの穴の小さいチンケな野郎なんだ。あの屑の方がよっぽど虚仮じゃねえか」

「けど、どっちが真玉で、どちらが路傍の石なのか。これで誰の目にもハッキリと真贋を見極められたわよね」

「きゃあー、本当に素敵です。デュナン公爵様」

 

「ふんっ、私の威光を思い知ったか、道化者め」

 オリビエの醜態を虫けらのように見下ろしながら、鼻息荒く息巻いていた公爵に再び喝采が巻き起こる。さっきまでオリビエに入れ込んでいた女生徒もデュナンに鞍替えしてチヤホヤし、彼の衣服がインディアンの酋長衣装のように赤い羽根で埋めつくされた。

「閣下、本当によろしいのでしょうか?」

 周りのボルテージが沸騰すればするほど、逆にフィリップの心は瞬間冷凍のように冷え切っていく。達観から諦観の境地に達しながらも、ルーアンの今後の活動の支障をきたしたのを訴える。

「別荘宅の頭金のミラに手をつけたことか? それなら、何ら問題はない。何しろこの次期国王のデュナン本人が保証人となるのだ。生き馬の目を抜く世知辛い世の中で、これ以上信頼できる担保は他にあるまい」

「はっ、左様で御座居ますか。閣下御自身がご満足頂けたのなら、これ以上申し上げることは何もありますまい」

 現金などなくてもダルモア市長は納得するだろうと都合の良いように脳内解釈したデュナンに、執事は社交辞令的な返答に終始する。

 ここまで来れば事態は明白だが、それでも普段の放蕩三昧に比べれば慈善の寄付は幾らかマトモなミラの使い途なので、敢えて忠言せずに公爵の気の済むままに任せる道を選んだ。

 

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