星の在り処   作:KEBIN

79 / 138
漆黒の福音(Ⅷ)

「はーい、皆さん、こんばんは。ツァイスラジオ局DJのヘイゼルです。今夜も人には言えない恋の悩み相談を受け賜っちゃいまーす。えーと、本日のお葉書はロレント在住のP.N『居酒屋看板娘』さんから」

 

『こんにちは、DJのお姉さん。私と親友の二人は幼馴染みの男の子がとても好きだったのですが、結局、私達は想いを告げることなく、もう一人の仲が良かった義妹と一緒に少年は故郷の町を出ていってしまいました。最近届いた手紙で、二人は街から街へと渡りながら色々と上手くやっているみたいで嬉しいやら切ないやら複雑な気分なのですが、問題なのは親友の方です。振られた(というか、そういう段階にすら達していなかったけど)ショックで自棄になったのか、最近私を見る目つきが奇しいのでとても困っています。更衣室でメイド服に着替える時にも、突然後ろから抱きついてきたりして。私にはそういう趣味も傷の舐め合いを演じる気もないので、どう対処したら良いか判りません』

 

「わおっー、これまたヘビーなお便りをありがとう。確かに友達だと思っていた相手に実は想われていたりしたら驚くわよね。特に同性だった場合は尚更恐いわよね。けど、義妹さんと手と手を取り合って駆け落ちするなんて、そのお義兄さんもやるわね。まさに愛の逃避行。ああっー、許されざる恋の悲劇…………はて? 義兄とか義妹とか前回の手紙と被るけどまさか同一人物…………なんて偶然あるわけないよね。そんな悩めるあなたを励ます為に『空の軌跡』を贈り…………えっ、前回もそうだけど全然恋の悩み相談になっていないって? こりゃ、失礼しました。あちゃー、時間がなくなっちゃったので『空の軌跡』の演奏はまた今度ね。以上、ツァイスラジオ局のDJにして中央工房受付の二足の草鞋を履くヘイゼルがお送りしました。それでは、また明日ー」

 

        ◇        

 

「ぜえぜえ。えーと、ここがレオパレスビルだよな?」

 期日内に何とか目標数として掲げた数を狩り集めるのに成功したエステルだが、ヨシュアのサポート抜きでの連戦は相当堪えたようで身体中に生傷が絶えない。

 「乱数が悪いのか装甲ウサギは中々食材を落とさないし、ミラに釣られてホイホイ引き受けちまったが、予想以上に面倒臭いクエストだぜ。コイツをクローゼから貰ってなければヤバかったかもな」

 全て無属性(フリースロット)の戦術オーブメントの中央メインスロットに嵌め込まれた水属性クオーツをチラ見する。

 『治癒』にはその名の通りに自己治癒力を高める効果が封じられている。元々回復力の高いエステルが装着すれば、多少の傷痕は移動中にかさぶたが塞いでしまう。

 やはりというかクローゼの所持するクリムゾンアイはヨシュアのお古らしく、別れ際のお返しの餞別として二人に手向けられ、漆黒の牙は戦闘スタイル的に傷を負うこと自体論外なので前衛特化型で負傷率の高いエステルに譲渡された。

 工房でも合成不可な中々に稀少なクオーツなのだが、学生さんはしばらく荒事に縁がないだろうし(※この予測は後に悪い意味で裏切られるのだが)、どのみち新型が出回れば旧式クオーツは全てゴミと化す。

 故に賞味期限の残されている中に現役遊撃士に有効活用してもらえるよう寄贈され、単独修行中のエステルは治癒の恩恵にあずかりっぱなしである。

「王都の聖誕祭でクローゼと再会したら借りを返さないとな。にしても、これだけ身体を張っても全然BPに結びつかないなんて、本当に結滞なクエストだな。まあ、三日仕事で一万ミラなんて高額クエスト並の稼ぎだから贅沢は言えないか」

 財布の紐は守銭奴の義妹にきつく握られ、貧乏兄貴が自由になる小遣い銭は少ない。こっそり着服してヘソクリにしようと依頼人のカリンの正体も知らずに皮算用したエステルは、中央工房玄関口右手前のお目当ての小ビルの変化に首を傾げる。

 以前は廃ビルに思えたこの建物が、綺麗に模様替えされている。正面入り口には『エジルお好み焼き店』と縫われた暖簾が掛かり、近日オープン予定の貼紙まで貼られている。

「以前、ヨシュアが口にした新装開店するお好み焼き屋のことか? 店名からすると、あのお好み焼きを作ったのはエジルさんなのかよ?」

 半信半疑のまま暖簾を潜ったエステルを、見知った懐かしい面々が出迎えてくれた。

「あらっ、エステルさん。ボースではお世話になりました。義姉のヨシュアさんとは一緒じゃないのですか?」

「やあ、エステル君。ツァイス市にようこそ。俺はしばらく副業に専念するつもりなので、市の平和を宜しく頼むよ」

「まあ、エステルさん。クエストで頼んでおいた食材を届けて頂けたのですね? 今ちょっと手が離せないので、そちらの棚に置いておいて下さい」

 業者による化粧直しでお好み焼きとたこ焼き専用の鉄板が埋め付けられた厨房で、法被に鉢巻きを巻いたエジルが球状の穴凹がたくさん空いた鉄板に油を引きながらたこ焼きの調理方法をレクチャーして、顔馴染みの女性二人は熱心に手順を学んでいる。

「カリンさん…………それとカトリアさんまで、何でエジルさんと一緒に?」

 そう尋ねてはみたが、事態は明白。私服姿の女性たちは暖簾と同意匠のエプロンを身につけており、店の従業員なのだろう。

 なぜボースのカステラ屋のお姉さんがツァイスにいるのか不明だが、この店舗はエジルが興したらしい。あの無骨な先輩遊撃士がヨシュアを上回る一品物を作れるとは驚きだ。

「君らのような料理上手には今更釈迦に説法かもしれないが、俺は小麦粉の他に少量の浮き粉を混ぜることにしている。そうすると表面がスーパーボールみたいな弾力を持ち、歯応えが良くなるのさ。他にも生地を柔らかくする秘密が…………」

「まあ、手の内のレシピを包み隠さず晒してくれるなんて、旦那様はフィネルよりも遥かに太っ腹ですね。もっと色々と教えてくださいましね」

「こんな小さなたこ焼きの粒にこれほどの創意工夫が秘められているとは目から鱗ね。けど、エジルさん。あまり気前良く隠し味の製法を公開すると後々後悔する羽目に……」

 調理実習に夢中になっている三者を邪魔するのも何なので、エステルは手配物を指定された場所に置いて退散しようとしたが、その背中にカリンが声を掛けてきた。

「ご苦労様です、エステルさん。報酬は食材の数を勘定してからキリカさん宛に振込みますが、それとは別にもう一つ…………そんな警戒した顔しないで下さい。今度はクエストとは無関係にお好み焼きを食べて感想を言うモニター役をお願いしたいだけですから」

「えっ、マジ?」

 先の依頼に纏わる苦労体験から少しばかり防衛本能を働かせたが、カリンの甘言にあっさりと釣られ身を乗り出す。

 エステルが収集した魔獣食材を使ったお好み焼きの試食会だそうだ。旨い物をロハで鱈腹食べられるとか比喩でなくこんな美味しい話は他にはない。

「『世の中、只より高いものはない』と良く言うし、性根のひん曲がった義妹が持ち込んだ話なら頭から疑ってかかったけど、清楚なカリンさんならその心配は…………って、何で皆笑っているんすか?」

 エジルとカトリアは互いに表情を見合せながら、必死に笑いを堪えている。

 カリンは表面上微笑みながらも頭にぷんすかマークを複数個張り付けていたが、エステルは別段気にせずに「ティータもここのお好み焼きのファンだから、連れてきて良いですか?」と能天気に催促する。

 「可愛い坊やにも頼みたいことがあるので、是非ご一緒に」とカリンは快く承諾してくれたので、エステルはスキップするようにレオパレスビルを退出する。

 「実験段階の試作品なので、味は保証できないけど」とサラリと付け加えられていたが元々よりエステルの胃袋には食の貴賤はなく、ヨシュアの手料理に限らず全ての食材を敬う博愛主義者。よほどのゲテモノでない限りは美味しく頂ける口だ。

 三日後の試食会が今から待ち遠しくて仕方がない。当日はお腹を好かす為に張り切ってツァイス中を駆けずり回ってクエストに励もうと心に誓う。

 

        ◇        

 

「はうー、またあのお好み焼きが食べられるなんて楽しみです。けど、ツァイス市のほとんどの女性と面識がありますけど、カリンさんという女人とは初顔合わせです。僕に頼みたいことって何でしょう?」

「さてな、ヨシュアならどんな性的悪戯を強要されるか判ったものじゃないけど、カリンさんならそのあたりは大丈夫だろ? それよりも、ティータ。お前さらっと、とんでもないこと言ってないか?」

 クローゼの時のように時間は掛かったものの、ようやく初対面で植え付けられた苦手意識が抜けたので、野郎同士で仲良く連みながら朝食を抜いてきた二名は暖簾を潜る。

「わあ、天国だあー」

「ひゃっほぉー。テーブルがお好み焼きの山で埋めつくされているぜ」

 店に入った欠食男児が目の色を変えたのも無理はない。一階は二十人程が座れる大型のカウンターテーブルと団体客用の三つの四人用テーブルで構成されているが、そのカウンター上の『A』~『T』までの二十個のラベルが貼られたお皿に、出来立て熱々のお好み焼きが載せられている。

「エステルさん、ティータ君。ようこそいらっしゃいました」

「まあ、この子が中央工房アイドルのティータ君ですか? カリンさんがおっしゃるように思わず拉致欲求に駆られるぐらい可愛い男の子ですね」

 エプロン姿の賄い二名が出迎えてティータの頭を代わる代わるナデナデしたが、エジルは家族客用の四人用テーブルの一つにうつ伏している。体力に自信がある正遊撃士も異なる食材を使い分けての短時間での二十個焼きはきつかった。お疲れの店主に代わってカリンが試食方法を解説する。

「グルメ番組みたいな細かい品評はしなくて良いので、美味しかったお好み焼きのアルファベットを選抜して下さい」

 二人に評価シートが配られる。空欄が三つあるので、トップスリーのお好み焼きを記入しろということだ。

「アルファベッド毎のお好み焼きはそれ一個だけなので、仲良く切り分けて試食して下さい。実はもう一人声を掛けたのですが間に合わなかったようなので、これより試食会を始め…………」

「はぁはぁ、お、お待ちください、ヨシュ…………いえ、カリンさん。わたくしはちゃんとここにいます…………ぜぇぜぇ…………」

 聞き覚えのある声色で試食に待ったが掛かる。半分に千切った『A』のお好み焼きを口元で停止させたエステルが不承不承振り返ると、そこにはボストンバッグを抱えて息を切らせたメイベル市長と仏頂面のメイドが佇んでいた。

「メイベル市長。なぜ、ここに?」

 社交辞令として一応そう尋ねてみたが、事態は先より更に明白。ようするに意外と食い意地が張った市長さんが、恐らくはボースで縁のあるカトリアさん経由でエステル達と同じ立場で招待されたのだ。

 その為だけにヴァレリア湖の反対側に位置するボース市から態々飛行便で尋ねてきた執念には頭が下がるが。

「カリンさん、この度は面白そうな試みにお招きいただき感謝します。不肖ながらお好み焼き検定上級合格者のメイベルが採点させていただいますわ」

「お嬢様、今夜にはカルバードに入国しなければならないのに、こんな所で道草を食うのは如何な物かと。当初の予定通りに商談の帰り道で寄られれば、ちょうど新装開店と時期が…………」

「まあまあ、リラ。本日作られた試作品の九割はもう日の目を見ることはないので、こういう試行錯誤の段階の味を試食出来るのはとても貴重な体験なのよ。あっ、エステルさん。わたくしの胃袋は小さいので端っこの方を少しだけ残しておいてくれれば十分です」

 メイベルはそう牽制しながら、団体用テーブルにゆったりと腰を落ち着ける。リラがカウンターテーブルの上のお好み焼きにナイフを入れて、皿に載せた一口サイズの切り身を恭しく主君へと差し出す。

 メイベルはお行儀よく頬張ると、独自に持ち込んだ評価シートにスラスラと手書きで所感を書き込み、その間にメイドがアルファベット順に次の切り身を用意する。

 彼女を誘ったのはカリトアでなくカリンみたい。二人の関係性はともかく、凝り性の市長さんは全てのお好み焼きに長文の感想文を添えるみたいである。

「はうぅ、何か凄そうなお姉さんが来ましたけど、あんな本格的な審査をされると肩身が狭いですぅー」

「気にするな、ティータ。元々美味いのを三つ選べばいいのだから、俺たちは当初のルール通りやりゃいいだけだ」

 新たに登場する度に微妙な評価修正を迫られるボース市長のペースに惑わされることなく、エステルは扇の角度に三分割した大きめの切り身を一呑みする。

 味の保障は出来ないと脅していた割には、どのお好み焼きも中々の絶品具合。

 使用されたメインの具の食材が異なるので味付けに個性差はあるが、エステル基準でどれも店に並べても恥ずかしくない出来栄えで、悩みながらも何とか三つのアルファベットを絞り込んだ。

 

「ここまで見解が統一されると、選別に迷わずに済むので有り難いわね」

 二時間後、カウンターテーブルを埋めつくしたお好み焼きは全て三者の胃袋に押し込まれた。評価シートを見比べたカリンは顔を綻ばせる。

 一位と二位のお好み焼きのアルファベットは三人とも一致している。三位だけが各々の好みに応じて別れただけなので、どれを正式採用するかもはや議論の余地もない。

 尚、メイベル市長の提出したシートには二十個全てのお好み焼きの論評がきめ細かに掲載されており、『こってりとした味わい』とか『まったりした口溶けの』などの蘊蓄が山程語られていたが面倒なので破棄することにした。

「少しはお役に立てたようで、態々ツァイスまで寄り道した甲斐がありました。ところで興味本位でお尋ねするのですが、不躾ながらこのお好み焼きを幾らで販売するつもりなのですか?」

 丹精こめて書き込んだ点数表がダストシュートに直行したとは露知らず、そう尋ねたメイベルの耳元にカリンはゴニョゴニョと耳打ちし途端に市長の顔が険しくなる。

「志は立派だと思いますが、正直、同じ商売人として感心しません。商いにはバランスシートという言葉があり、適正価格より安すぎるのも暴利を貪るのと同じぐらい罪深いことなのですよ」

 メイベルの忠言にカリンは無言で返す。

 元々お好み焼きは飲食物の中でも原価率が極端に低く、平均20%前後と言われている。(※一般的な飲食物の原価率は大凡30~35%)

 つまり単純計算で、お好み焼きを一個五十ミラで販売すれば四十ミラの儲けとなる。(※人件費や細かい経費は除く)エジルの場合、仲卸を通さないずぼらな買い付けに黒豚のような高価な具をふんだんに投入した上で同業者よりも格安で提供するので、高級食材の相場次第では原価割れを起こし売れば売るだけ赤字になるケースすら有り得た。

 経営コンサルタントも兼ねたカリンが杜撰な営業形態の徹底した見直しを図り、安価で良質の食材ルートを新規開拓して経理の無駄を節減。ようやく黒字収益が見込める所まで持ち直せたのだが、最後の聖域のお値段にだけはメスを入れることすら叶わなかった。

「大体のことは君に任せるが、価格設定だけは譲れない。ギルドが誰でも気兼ねなく依頼を頼めるのと同じように、街の子供達がなけなしの小遣いで俺のお好み焼きを食べられる……そういう店をやりたいんだ」

 厳しい現実を何度も目の当たりにし自らの器と限界を思い知らされ正業に夢を見出せなくなった分だけ、せめて副業だけは甘い理想に拘り続けたいと望んでいる。

「男の人って、本当にロマンチストが多いわよね。けど、そういう不器用な馬鹿は私は嫌いじゃない」

 当初カリンが取り決めようとした値札も十分に良心的だが、他でもない店主当人の御意向とあれば従う他ない。

 これで肝心の商品が凡作なら匙を投げるしかないが、カリンが知る限り大陸随一のお好み焼きを焼ける御仁なので、そういう身の程知らずの野望を掲げるだけの資格はある。

「決意は固いみたいですね。故無いことを申し上げました。差し出がましい口を叩いたお詫びというわけではないですが、これを差し上げますので役立てて下さい」

 ペンダントのように首もとにぶら下げていた『商売繁盛のお守り』を取り外し、カリンに手渡す。

 紐で口を閉じて吊り下げた袋状のアミュレット。東方の商人が招福や厄除けの縁起担ぎとして保持している。実は魔獣の落とすアイテムの取得率がアップする隠れた特殊効果があり、とある理由からカリンが喉から手が出るほど欲していた装飾具(アクセサリ)

 「商いが成功するのをエイドスにお祈りしています」と告げてから、市長とメイドのボースコンビは再び定期飛行船に乗り込んで共和国へと旅立った。

 

        ◇        

 

「色々と妙な性癖の持ち主だけど、市長さんの目利きは確かよね。まあ、私の方でも打てる手は出し惜しみなく全て打ち尽くしているけどね」

 カリンは厨房で、一位二位の票を独占した食材を愉快そうに見下ろす。

 第二位に選ばれた『G』のお好み焼きは実は普段エジルが使用している黒豚そのもの。オリジナルとの比較検証の為に、モニター役には素知らぬ顔でこっそりと魔獣食材の中に忍ばせておいた。

 そのカルバート名産の黒豚を差し置いて満場一致で一位票を獲得したのは、『魔獣の豚肉』と呼ばれる食材を用いた『P』のお好み焼き。先入観抜きの公正な審査の結果、元祖の味わいを上回ったのが立証された。

「これで迷うことなく、割高な黒豚からメインの具をシフトできるわね。味もそうだけど魔獣食材の一番の魅力は自給自足が可能な点よね」

 目下、ツァイス地方には魔獣の豚肉を落とす魔獣は三種類ほど確認されている。どれも一般人の手に負えない獰猛な魔獣だが、正遊撃士のエジルであれば何ら支障はない。生態系を壊さない程度に乱獲を抑えて定期的に狩り続ければ、今後高級食材の費用の捻出に頭を悩ませる必要はなくなる筈。

 ただ、エステルの報告ではこれらの魔獣がアイテムを落とす確率はあまり高くないそうだが、首尾よく入手できた商売繁盛のお守りがあればハンティング効率を大幅に向上させられる。

「とはいえ、今からじゃ一週間後を予定した開店日までに所定の魔獣の豚肉を狩り集めるのはちょっと無理よね」

 話題作りとリピーターを呼び込む為にオープン初日は特別セールを行う予定なので、相当な客の込み具合が予想される。

 いずれは自給自足で賄うシステムを確立させるとして、急場を凌ぐ為に大量の魔獣の豚肉を臨時購入する必要があるが、魔獣系の食材を扱っている変人などこのリベールでは……。

「一人だけいたわね。確かオーヴィドさんとか言ったっけ?」

 ロレントのクエストで奇縁を囲ったゲテモノ食材マニアとも言うべき人材。『オーヴィド商会』なる魔獣食材専門店を立ち上げると誇らしげに語っていたのを思い浮かべた。

 あの人物を媒介にすれば、普通のルートではまず入手不可能な魔獣食材を仕入れられる公算は高い。駄目元で連絡してみるとしよう。

「エジルさん、カトリアさん。ちょっと宜しいでしょうか?」

 方針が完全に定まったので、改めて二人を交えて協議する。本番までに煮詰めておかなければならない懸案事項が、まだまだ山積みされているからだ。

 

        ◇        

 

「はい、出来たです、お姉さん。これで良いですか?」

「ありがとう、ティータ君。助かるわ」

 三階の事務室で、中央工房から払い下げた旧式の端末にキーボードでカタカタと打ち込んでいたティータは、ディスプレイのモニターに『エジルお好み焼き店』のホームページを表示させる。

 トップページには客寄せのカリンとカトリアの写真が大きく貼られており(※店主のエジルは端っこに小さめに)、各リンクにはメニューや店舗の地図などの必要情報が掲載されている。

「『インターネット』と言いまして、元々はエレボニア帝国が発見し軍事に利用していた回線をオズボーン宰相の指示で民間に無料提供されたシステムのことを差します」

 このネットワークは大陸全土に張り巡らされている。誰がこのような大規模導力通信網を構築したのかは不明で、恐らくは古代ゼムリア文明の遺産と推測されている。

 確かなのは大陸中の各国がこぞってネット世界に参入して、情報の共有化は図っていること。リベール王国ではツァイス市がこのネットワークに試験的に加入している。

「ツァイスチャンネルの掲示板に、『エジルお好み焼き店』のスレッドを立てたです。早速、反応が来ているみたいですよ」

 

・ティータ君ファンクラブPart24(123)

・【七の秘宝】【輝く環】オリオールは存在する(221)

・噂の遊撃士姉弟はどっちが兄姉か徹底検証する(573)

・【受付嬢】【DJ】ヘイゼルさんの笑顔について語る(343)

・釣公師団ってキチガイの巣窟だろ(722)

・ティータ君ファンクラブPart23(999)

・空賊事件を解決したのは実は王国軍でないという噂は本当?(544)

・【身喰らう蛇】ウロボロスって実在するの?(77)

・【キチガイ】【マッドサイエンティスト】ラッセル博士を国外追放しろ(877)

・【執行者】【蛇の使徒】俺、結社からスカウトされたんだけど……(3)

・【ギルドの受付】キリカ様の笑顔写真のアップきぼんぬ(88)

・ツァイス市の未来について語るPart5(566)

・ヨシュアきゅん(´Д`;)ハァハァ(777)

・【高速巡洋艦】【銀の翼】アルセイユについて語る(942)

・『エジルお好み焼き店』新装オープンのお知らせ(15)

 

 様々なスレッドが乱立してる。気になる題名もいくつかあったが、とりあえずは「『エジルお好み焼き店』新装オープンのお知らせ」のリンクをクリックしてみる。

 

01:新しくお好み焼き屋を始めました。

   リンクを張っておくので是非来訪して下さい。

   ※開店初日チラシをご持参の方は、お好み焼き一個無料。

02:2get!

03:この店、知ってる?

04:エジルってあの無愛想な遊撃士だろ?

   あれじゃ客寄りつかねえよな。

05:それより売り子がスゲエ可愛いよな。カリンたん、(´Д`;)ハァハァ

06:カトリアたん、(´Д`;)ハァハァ

07:あー、あの目茶苦茶美味い屋台とうとう店出すんだ。

   隠れた名店を独占する優越感に浸りたかったら、

   敢えて口コミしなかったのに、残念。

08:俺もあの屋台知ってるよ。もう潰れたかと思っていたけど。

09:>>07 美味いってマジか? 俺お好み焼きには目がないんだけど?

10:>>09 もう隠しても意味ないから、ぶっちゃげるけど、

       多分、ほっぺたが落ちるレベル。

11:>>10 マジかよ、どうせ一個はロハで食えるんだし、是非行こっと♪

12:けっ、あんな陰気な奴が作った物なんて、不味いに決まってる。

13:>>12 同業者のヤッカミ、乙。

14:>>12 そうそう、一等地に店持たれたからって、

       僻まない、妬まない。 (・∇・)ニヤニヤ

15:神よ、私は美しい…………。

 

 その後もレスがレスが呼び、スレッドは瞬く間に全レス埋めつくされて、当日中にPart2が立てられた。

 レスの幾つかはティータ本人が適度にカキコして、人為介入でスレのペースを意図的にヒートアップさせた。こういうのを業界用語で『自作自演』と言うらしく、見習いとはいえ工房の技術者に直に手伝ってもらったのは正解のようだ。

「ねえ、ティータ君。君みたいな携帯端末を所持している人は皆、このホームページを参照できるのかな?」

「はいです。インターネットが普及して早三年。リベールはまだ未開地ですが、中央工房の屋上に巨大なアンテナが建てられていたですよね? あれの有効範囲に入れば、ノートや携帯を持ち歩いている海外旅行者とかもネットに繋げられるので、何時でも閲覧可能になるですよ」

 とすれば、今頃ロレントでティオのブルマを愛でている帝国人がこの情報をキャッチし、今度はツァイス市に流れてくるかもしれない。

 エジルはコマーシャル活動にも無頓着だったが、その点カリンに抜かりはない。現地での無料呼び込みチラシの配布の他にも科学都市の最新設備のネット環境をフル活用して大々的に宣伝し尽くすつもりである。

 

        ◇        

 

 エステルとヨシュアの二人が、ツァイス市に腰を落ち着けてから、ちょうど二週間後。

 『エジルお好み焼き店』が高らかと新装オーブンし、開店当日は長蛇の列に見舞われた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。