僕は休みの日に行く店がいくつかある。
饅頭屋『おんわ』や和菓子や洋菓子と多種多様なお菓子を売っている『わよう』、そして外来本を多く扱っている貸本屋『鈴奈庵』。
3つのうち、2つが食べ物系なのは仕方がない。何を隠そう、僕はお菓子好きなのだから。
けど、そのお菓子よりも好きなのが本、特に物語系の小説が大好きだ。
そして今日、僕は鈴奈庵へ行くべく支度をしている。
「あら、どっか出掛けるの?」
「うん、いつものところ」
「わかったわ……それじゃあ栗饅頭よろしく」
「買って来てもいいけど霊夢の財布から買うよ。栗饅頭あまり好きじゃないし」
「安心しなさい。今日で好きになるから。ということでトオルの財布から出してね」
「ここまで根拠のない安心はないね」
これまでに何度も食べたことあるけど、どうしても栗饅頭は駄目なんだよなぁ、なぜか……
……が、このあと霊夢のせがみに負け、僕が出す羽目になった。畜生、栗饅頭以外のを買ってきてやる!
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい……って、トオルなんで階段下りてるの?」
「え、なにをいってるの、下りないと行けないじゃないか」
「必要ないでしょ」
「必要あるにきまっ…………あ、飛べるようになったんだった」
「もう、しっかりしなさいよね」
おっといけない、いつもの感覚でだったから歩いて行くとこだった。
ということはいつもより早く人里に行けるってことだよね……それじゃあいつも以上に本を眺めておくことが出来るってことじゃないか!!
「ありがと! 霊夢!! ちゃんと栗饅頭買ってくるよ!」
「どういたしまし……ってさっきまで買うきなかったの!?」
先程の企みが露見してしまったので早々に立ち去ろう。
そう内心焦りつつ、僕は空に向かって飛んだ。
ーーー
「はあ~、空飛ぶって気持ちいいなぁ……」
今日は一番に鈴奈庵へと来た。まあ、理由は前に借りていた本の貸出期間が今日までで、鞄にずっと本が入っていたからだ。
ここで借りてそのまま読むもよし、借りた本をわようで紅茶を飲みながら読むもよし。
これから起こるであろう娯楽の一時を想像し、期待を膨らませる。
……おっと、そんなこと店の前で考える事ではないな。
では、早速入るとしようかな。
「失礼しまーす」
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私の名前は本居 小鈴。ここ、鈴奈庵という貸本屋で看板娘をしているごく普通の女の子。
挨拶はこの辺にして、今日はうちに来る常連客については話そうと思う。
この店には多くはないけど常連客がいる。その中には私と同じぐらいの歳の男の子が存在する。私が言うのもなんだけどあの歳で本にあそこまで熱中している人はこの人里では珍しい方だ。
その人の名前は博麗通。あの赤い通り魔と呼び声の高い博麗の巫女、霊夢さんの弟だそうな。聞いたときは開いた口がふさがらなかった。
「失礼しまーす」
「いらっしゃいませ!……あ、トオルくん」
「こんにちわ。小鈴ちゃん」
噂をすれば手提げ鞄を持ったトオルくんが入ってきた。
……やはり、いつみても好青年だ。その笑顔に惑わされた女も少なくはないだろう。
実はトオルくん、本人の知らないところでファンクラブができている程、人里の女子から好意を持たれている。
なんでそんなにモテモテなのかと言れば、それはやはり顔らしい 。話しているときにたまに見せる笑顔が最高とのこと。そして誰にでも優しく接し、家族のために態々神社から人里まで通う健気さをもつ性格。それに人里の女衆は堕ちたらしい。
……おっと、話が脱線してしまっていた。
兎に角話を戻そう。
最初にトオルくんがここを訪れたのは2年前ぐらいか。本人いわく、興味本意で入ってきたとのことだが、そこでここにある外来本にかなりの興奮を示したらしく、それ以来ここに来るのが楽しみらしい。
ここで働く者としてそういってもらえるとこちらとしても嬉しい限りだ。
でも初めて入ってきたとき、本を見て発狂されたときは正直に焦った。そのあと質問攻めにあって困ったし……
「はい、小鈴ちゃん」
「確かに受け取ったわ」
手提げ鞄本を私に渡したトオルくん。そういえばどんな本を借りてたのだろうか。
そう思い手渡された本を確認してみる。
「ほうほう、やっぱり探偵ものか。こういうの好きだよね、トオルくんって」
「まあね。こういうのが自分の想像力に花を咲かせやすいからね。犯人を自分なりに考察したりとか」
「ふぅん。確かにそういう点に関しては頭を使うね」
「まあ、今日は久しぶりに他のを借りようと思って来たけどね」
「へぇ、どんなの?」
「う~ん、そこまではまだ考えてないかな。おすすめとかある?」
「あるよ!」
「うわ!?」
おっと、思わず席を勢いよく立って顔を近づけてしまったせいで驚かせてしまった。失敬失敬、あっ、ファンクラブの方々もすいません。
「実は結構前から集めている本があるの!」
「へぇ、どんなの?」
「ふふ、これよ」
そういって私はカウンターの引き出しから1つの本を取りだし、トオルくんに見せた。
「…………っこれって……」
「おっ、トオルくんもわかるんだね。これは『妖魔本』よ」
私のコレクションであり、生き甲斐とも言えるこの妖魔本は、親も知らない。だが、本好きであり、一応妖怪とも精通しているトオルくんなら理解してもらえるはずだ。
「これって危ないんじゃ……」
「大丈夫! そのときはそのときよ!」
「なにこの娘怖い!?」
この本も含めても妖魔本は結構な数がある。これまで私が頑張って集めたコレクション。貸すには惜しいけど常連さんになら貸さないこともない。
「どうする?」
「やめとくよ。この本はあまり危なくはなさそうだけど。小鈴ちゃんの後ろの棚にある本のいくつかは危なそうだから読むのはよした方がいい」
「え? なんで後ろにもあるってわかったの?」
「いや、よく観察してみたらなんか妖怪特有の嫌な感じなのが出てたからさ。たぶんそうかなと」
「へ、へぇ。これはいいことを聞いたわ」
これはまた読みがいのあるということ。楽しみが増えた。
「…………」
「ん、どうしたの?」
「いや、今物凄く嬉しそうな顔してたから…………まさか、見る気?」
「え!?」
何故わかったの! そんなににやついてたかな?
「はぁ……親にはこれのこと隠してるんでしょ。」
「な、なんでそれもわかるの?……」
「こんな危なっかしい本、親が放置するわけないでしょ。普通なら即捨てるか他のところへ移すべきなんだよ」
「うぅ、確かにそうだよ。でもこれは私がこれまで頑張って集めてきた物なの! 捨てるわけにはいかないわ!」
「…………」
う、これは選択を間違えた。やはり他の人に妖魔本を見せるべきではなかった。これを私の親にでも告げ口されれば私がこれまで苦労して手に入れてきた宝物達がすべてお釈迦になってしまう……
「はぁ……わかった。それじゃあ僕からの提案。こういうのは一人で見るのは危ない。だからさ、僕がいるときに見なよ。そうすれば少しは守ることができるし」
「え!」
「だから、一人で見るのは危険だから僕が来るときに見て」
「え、あ、うん」
告げ口されるかと覚悟してたらどうやら違ったようだ。確かに前、妖魔本からへんな妖怪が出てきたことがあったりもしたことがあったから一緒に見てくれるのならありがたい。妖魔本をみる時間がかなり短くなるけど……こっそり見ようかな?
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「それじゃあ今日はこれを借りるよ」
「はい、ありがとうございましたー」
「小鈴ちゃん、くれぐれも僕が危ないといった妖魔本は僕がいないときに開いちゃ駄目だからね!」
「うんうん、わかってるって。」
このあと色々渋られて、結局本当に危険そうな妖魔本以外は僕がいなくても見てもいいということになった。
う~ん、なんか僕、霊夢のときといい押しに弱いのかな?
「それじゃ、また来るね」
「じゃあね」
そして僕は鈴奈庵を出た。
昼ぐらいに来たというのにもう辺りは暗くなりはじめている。
「ありゃあ、これは長居し過ぎたかなぁ……」
これははやく帰った方が得策だ。一人で暗い中、人里を出るのは危ないからね。暗くなる前に帰らないと。
「まあ、飛べるしすぐつくか!」
いやぁ、ほんと飛べるっていいなぁ!
この日頼まれていた栗饅頭を買うのを忘れていた僕は霊夢に怒られた。