「よし、霊夢とトオルを人里へ行かせましょう!」
「人里? 大丈夫なんですか?」
トオルを引き取ってから2年が経った。霊夢の方は普通に話すことが出来るようになり、少しならば霊力を操ることが出来るようになっていた。博麗の巫女になる日も近いわね。
トオルの方は歩くことが出来るようになり、“ら″行の所以外大体喋れるようになっている。……親の気持ちが分かった気がする。
これ程までに子供の成長を喜べるなんて……この子達に会うまでは考えもしなかった事だわ。
「もうそろそろあの子達にも知ってもらっていた方が良いと思うの」
「ですけど……霊夢は兎も角トオルはまだ歩くのがやっとなんですよ」
「獅子は子を谷に落とすのよ」
「……それも確かに一理あるんですけど……」
「大丈夫よ、ちゃんと霊夢もいるし、私達もスキマから見張っていればいいんだから」
「……そうですね。まだ不安は残りますがこれも成長の第一歩、見守ることにしましょう」
「あら、藍も親らしいこと言うようになったじゃない」
「霊夢達の身の周りの世話はいつも私がやってきたんです。おそらく紫様より愛着はあると思いますよ」
「……私に喧嘩売ってるの?」
「じょ、冗談です!」
取り敢えず霊夢とトオルの所へ行きましょうか。
ーーー
「はあ? なんで私がそんな面倒なことしなくちゃいけないのよ」
「ぼく、家でおりゅすばんする」
どちらにも否定された。霊夢は兎も角トオルまで…………紫姐さん寂しいわ。もっと自立心を持った子だと思っていたのだけれど。
「そう、行かないのね……」
「!! ひとざとにいく! ひとざといきたい!」
と、少し寂しげな表情を見せてみた瞬間、トオルが行くと即答する。
トオル、ちょっと優し過ぎるわ!
「ほら、トオルは行くって言ってるわよ。まさか姉である貴女がまだ歩き始めたばかりの弟を一人で行かせる訳がないわよね?」
「ちっ……ああ、分かったわよ! 行けばいいんでしょ行けば!」
ふふ、トオルを此方に引き込めば大抵霊夢は落ちるってことは分かってるのよ。
「姉がこんなに優しくてよかったわねぇ、トオル」
「うん! れいむありがとう!」
「うっ、べ、別にあんたのために行くわけじゃないんだからね!」
どこかで聞いたことのあるようなツンデレ発言をする霊夢。やはりなんやかんやいってトオルのこと大事に思っているのね。
「それじゃあこのスキマに入ってちょうだい。人里の門前まで通じてるわ」
そう言って私は人一人分は余裕で入るほどのスキマを作り出した。
「ええ、スキマぁ? まあ、いいけど。……あとさ、今頃思ったけど私達人里行って何すればいいのよ」
「そうねぇ、それじゃあお金をあげるから好きな茶菓子を10個ほど買ってきてくれるかしら」
「言わなきゃよかったわ。面倒事が増えた」
「れいむぅ! 早くいこー!」
「あー、はいはい。わかったから。ちょっと待ってて」
「それじゃあいってらっしゃーい」
「うわっ!?」
霊夢をスキマに向かって突き飛ばした。さて、二人の初めてのお使い。ソワソワする反面、少し楽しみだわ。
~人里(入り口前)~
「いたたぁ、紫のせいで尻餅ついたわ……」
「あははは! れいむがこけたぁ!」
「紫のせいよ! だから笑わない…………いだっ!?」
落とされたことにより痛めたお尻を擦っていると急に空から何か降ってきて、運悪く私の頭に落ちてきた。
もう! なんなのよ!
「って財布か。普通に渡せっての」
なんで態々私の頭に落とす必要があったのかしらね。後であいつに問いただした後に叩きのめしてやるわ。
「ねー、早くいこ」
「そうね。この財布の中身が空っぽになるまで食べてやりましょ」
「やったー!」
さっきから私の扱いが酷いお返しよ、紫。
ーーー
「ふーんいろんなのがあるわねぇ」
「うん。…………でもすこしつかりぇた。やすみたい」
「そうね、丁度近くに団子屋もあるし行きましょうか」
そう言って私はトオルを連れて団子屋へ向かおうとした。
しかし、その歩みは次の瞬間止められた。
「親父なんてだいっきらいだ!こんな家出ていってやる!!」
「あ、こらまて魔理沙! 話はまだおわっとらんぞ!」
と、妙にでかい道具屋から、箒を持った少女が大声を出しながら逃げていった。そして後から出てきた親らしき男が店前で頭を抱えながら溜め息をついている。
「なんだりょうね、ありぇ」
「さあ、親子喧嘩じゃないの? まあ、私達には関係ないし、行きましょう」
「……うん」
なんかトオルが複雑な顔をしている。親子喧嘩を間近で見て怖がってるのかしら。ほんとトオルはビビリなんだから。
そのあと私とトオルは団子屋に行き、団子を食べた。さっき言った通り全部食べるつもりだったけどトオルがあまり食べなかったので結局包んで持って帰ることにした。
~帰り道~
「トオル、私が持つから良いわよ」
「いい!ぼくがもつ!」
さっきからトオルの様子がおかしい。団子を自分で持つと急に言い出し、少しだけということで渡したらそれっきり離さなくなってしまった。それとなぜかさっきから辺りを何回も見回しながら歩いてる。まるで何かを探しているかのように。
「あ、いた!」
「ちょっ、急にどうしたのよ!」
トオルが何かを発見し、急に走り出した。
その行き先を予測して見てみる。
あ、あれは……
さっき団子屋付近で大声を出してた奴! 人里の出入口付近で泣いている。
「ねぇ!」
「ん……なんだ? 私は今お前のようなガキんちょにかまってる暇はないんだ。どっか行ってくれ」
「ちょっと!そんな言い方ないんじゃ……「これあげる!」え?」
トオルがさっきまで持っていた団子を泣いていた少女に差し出した。
……ま、まさかこのために食べなかったというの?
「……いらない」
「あげりゅ!」
「いらないって……」
「こりぇたべれば、げんきでるよ!」
「ふん、私はいつも元気いっぱいだぜ……」
「……さっきまで泣いてたじゃない」
「な、泣いてなんかない!」
「いいから! これたべて!」
何度も、何度もトオルは少女へ団子を差し出す。それを見た少女は痺れを切らしたのか、急に立ち上がり___
「ああもう! わかったから! 食べればいいんだろ!」
そう言ってさっきまで泣いてた女の子はトオルから差し出された団子を受け取り、そして一気に全部口に放り込んだ。
「ごほっごふっ!?」
「ほら、いっきに食べるから」
「ふぁいふぉいふは!(大丈夫だ!)」
「なに言ってるかわかんないわよ」
無理矢理口いっぱい入った団子を咀嚼し、直ぐに飲み込んだ少女。
喉に詰まって死んでも知らないわよ。
「ほら! 食ったからさっさと行け! 今は一人になりたいんだ!」
「はいはい。さあ、トオル。行きましょ」
「うん! おねぇちゃんもげんきでね!」
そう言って私とトオルは出入口から人里をでた。
「…………ありがとう。元気がでたぜ……」
~スキマから~
私は柄にもなく号泣していた。
何あの天使? 人に分け与える精神を既に持ち合わせてるのなんて天使以外の何物でもないじゃない!
なんで教えてもないのにそんな事が出来るのよ。やはり普段からの私の姿を見ているから出来た子になったのね。
「トオルええ子や……」
「紫様、ハンカチです」
「ありがとう…………ってこれびしょびしょじゃない!」
「すいません……私も耐えきれなくなって」
「まあ、今回だけは許してあげる」
これは今日の晩御飯はよりをかけて豪勢にしなくてはならないわね。ふふふ、今からでも容易にトオルと霊夢が喜ぶ姿が目に浮かぶわ!
ーーー
「ねぇ、トオル」
「なに?」
「そういえばいつの間にか"ら”行の所、噛まなくなったわね」
「すごいでしょ!」
「うん、大きな進歩ね」
「……」
「……」
「……」
「あとさ……いつ迎えに来るんだろうね」
「わかんない」