「うわ、誰か倒れてる……」
いつもの仕事が終わり、帰路の上空を飛んでいたら、誰かわからないけど道端で倒れている人を見つけた。
「なんで里の外に____取り敢えず助けよう。もうすぐ日が暮れるし」
人里では妖怪も人に手を出せないという幻想郷のルールがあるから心配はないかが、こういう里から離れた場所だと、妖怪に食べられてしまう可能性がある。しかも夜は妖怪が活発になる時間だ。このままじゃ十中八九殺されてしまうだろう。
「んっ? ちょっとまって。あの服装、見たことあるような……」
僕はあまり目が良い方ではない。森近さんに眼鏡を頼もうか悩んでいるぐらいだ。
そんな僕には地上で倒れている人もぼんやりとしか見えない。
それでも少しだけ見える服装は僕の記憶の中でもどこか見覚えのあるものだった。
「あ、橙だ!」
近くまできて漸く倒れている人物が見えたが、やはり自分の知ってる人物、というより身内の妖怪だった。橙は幼少時代に一緒に過ごしていたからよく知っている。
それよりなんで服がボロボロなんだ……
「……誰かに襲われたのかな?」
「うっ……」
これは酷い。そこらじゅう怪我してる。
「とにかく家で手当てしなくちゃ!」
僕は怪我の手当てのため、橙を担いで急いで家にむかった。
ーーー
「ふぅ、取り敢えず手当てはしたわ」
「ありがと、霊夢」
家につくと霊夢が久しぶりに夕飯を作っていたーー恐らく遅くなったから痺れを切らしたんだな……
霊夢は僕におぶられている橙を見て、少々驚きながらもすぐさま救急箱を持ってきて手際よく手当てをしてくれた。
現在、橙は布団で寝かしている。
「なんで藍の式である橙が襲われたんだろう……」
「体中に弾幕による打撲痣となぜか噛まれた後があったわ。おそらく弾幕ごっこに負けて食べられそうにでもなったんでしょ」
「そうかなぁ」
確かに橙はあまり強い方ではない。でも藍さんの式で憑いているのは鬼神だ。そう簡単にやられるとは思えないんだよなぁ。
「うぇ? ……ここは…………?」
「あっ、起きたわよ」
「神社だよ。橙が道端で倒れてたから連れてきたんだ」
「倒れてた? …………ああああ!!!」
「うるさい」ポコッ
「霊夢痛い! ……それよりも思い出した! 私、あの氷の妖精と暗闇のなのかーって言うやつにやられたんだ!」
「え? 氷の妖精と暗闇の…………チルノとルーミアか!」
「そうそう、そんな名前だった! くそぉ、不意打ちじゃなきゃ絶対に負けなかったのに!!」
「不意打ち?」
「そうだよ、私が吸血鬼の根城がある湖にきて“立派な式になるための特訓″をしていたら急に氷の妖精が『アタイと勝負だー』とかいって襲ってきたあげく、なんとか勝ったと思えばいつの間にか腕をルーミアってやつが噛みついてて……」
「それはなんとも運が悪い……」
しかもルーミアなんかと会うとは……あいつは僕の天敵でもあるからね。
それよりもライバルのチルノを負かすなんて……僕なんてチルノに勝ったことなんて指で数えられるほどしかないよ。
「この事知ったら藍が激昂しそうね」
「たぶん、跡形も残らないだろうね、二人とも」
想像しただけでも恐ろしい……
「で、“立派な式になるための特訓″ってなんなのよ?」
「……! ふふふ、よくぞ聞いてくれた、霊夢! 教えてあげよう、私が密かに計画している作戦を!」
「密かに計画しているのに教えて良いの?」
「いいよ」
いいんだ……
──────────────────────
「……と、いうことだよ」
「ふーん、藍と違って結界の管理以外あまり役に立ててないから邪魔になってる、そうならないために特訓をするって? 馬鹿ね、邪魔な訳がないじゃない」
「そんなのわからないじゃん」
「それでなんで紅魔館のある湖なんかにいったの? 特訓の場なら他に良いところがあるとおもうんだけど」
「玄武の沢でもよかったんだけどあそこは色々面倒だったからね。あと、なんであそこの湖にしたかって言うとね__________水慣れだよ」
「み、水慣れ!? やめた方が良いよ! 昔も克服しようとしてお風呂に飛び込んだときも式神が剥がれたじゃないか」
式神が剥がれると姿は変わらないけどただの化け猫になる。
前にそうなった橙は僕にただただ引っ掻いたり噛みついたりしてきた記憶がある。
あのときは泣いた。痛かったもん。
「そうよ、式神が剥がれたら藍に頼まないとずっと化け猫のままなんでしょ。面倒事増やしたらそれこそ藍の邪魔な存在になるわよ」
「いや、藍さんなら橙のその行動に感動して涙ぐむと思うんだけど……」
「そんなんじゃダメなの!」
「そういうもんかなぁ」
「とにかく! 一刻も早く弱点の水に慣れて藍さまの役に立てるようにしなく…………」グウゥ~
「……ご飯にしようか?」
「……うん」
「私が作ってあげたものだから格別よ」
「手当てしてたとき火を消し忘れてて少しだけ焦げたけどね」
ささ、橙もお腹が空いていることだし、ちょっと遅めのご飯にしようか。
「ぷは~、美味しいかったぁ」
「凄い食べっぷりだったね、霊夢と張るぐらいだ」
「私もあそこまでは食べないわ」
「ご飯を4杯もおかわりしたやつがよく言うよ。
折角炊いた米も空っぽだ」
まったく、幽々子さんもだけどなんで太らないんだよ……
「それじゃあ僕はお風呂沸かしてくるからから」
「はいはい。一番風呂は私ね」
「うーん……」
~外~
「げほっ……げほっ! …………やっぱこういうときに魔理沙がいないとお風呂沸かすのも一苦労だな」
うちは木桶風呂だ。だから薪を焼いて沸かす必要がある。
このとき魔理沙のミニ八卦炉があれば簡単に沸かせるからこういうときには居てほしかった。
「もうそろそろ良いかな。ちょっと湯加減を確かめに戻ろうかな」
バシャアアン! キャアー!!!
「え? なに?!」
中から急に叫び声が……まさか!
「やっぱり……」
「ごめんなさい、お茶を足しに行ってたらもうこの状態だったわ」
「にゃ~ん」
予想が見事的中した。
さっきの返事がどこかぎこちないと思ったら風呂に飛び込んだか。どんだけ弱点を克服したかったんだよ……
しかも勢いよく飛び込んでるし。お陰でお風呂の湯が結構もってかれたよ……
「で、どうすんの? 完全に化け猫になってるわよ」
「姿は変わらないのにね」
「シャアア!」
「いてっ、やめて橙! それに怪我してるんだからあんまり動かない方が……」
「無駄でしょ。今の橙の知能は人並み以下よ。私達の声は届かないわ」
「いたっ、いてっ、ちょ、まって橙! なんで僕にばっかり引っ掻いてくるんだ!」
「力の差をわきまえてるんでしょ」
バタンッ
「よぉ! 霊夢、トオル。飯食いに来てやったぜ…………ってこの状況はなんだ?」
こんなときに限って魔理沙はよく来るんだよな……
「ただのじゃれあいよ」
「これがただのじゃれあいにみえる?!」
「シャ!!」
「いだっ!?!」
「うむ、ただのじゃれあいだな。ということで霊夢。トオルはマヨヒガの黒猫とお楽しみ中だからご飯を持ってきてくれ」
「ないわよ」
「は?」
「見てくればいいでしょ。見事に全てなくなってるから」
「主に、霊夢のせ、いだけどね……」ドサッ
「あ、トオルが力尽きた。と、それよりも飯がないのは困ったな。うちの食料庫が空になってたから来たってのに。……ふあぁ、そういえば今日、朝からずっと本を読み耽ってたから眠いな」
僕は……僕は泣かない。たとえ自分より小さい子から馬乗りにされながら顔面を中心に引っ掻かれたって僕は泣かないんだ!
「トオル、そういうことで私のためにご飯を作ってくれ。あと今日はここに泊まるから」
「それじゃあ……橙をどかしてよ……」
「ん? 橙っていうのか。んでも私がどかそうにももう寝てるぜ。余程疲れてたんだな」
「えっ? ……ほんとだ」
「……んぅ……」
「橙も寝たことだし私もお風呂に入るとしようかしらね」
「私の夕飯作ってくれよぉ。お腹が空きすぎて今すぐにでもぶっ倒れそうだ」
「わかったよ。橙を布団に寝かせて引っ掻かれた傷を手当てしてからね」
はぁ、今日はいつも以上に疲れた。こんなに疲れてるのに明日も仕事があるのか……苦痛だなぁ。
今日はさっさとお風呂に入って寝よ。
このあと、霊夢がお湯が少ししか無くなって冷たいとクレームがきてまた沸かしなおすことになったり、なんで僕が作らなければわからないけど魔理沙の夕飯を作る羽目になったり、漸く寝ようとしたら橙が目を覚まして態々僕の部屋まで引っ掻きにきた。
くそぅ、結局あんまり寝れなかった!