「タケノコを取ってこい、ですか?」
「そうじゃ。なんか急に筍ご飯が食べたくなってのぉ。」
仕込みのためにいつも通りお日さまが出てくる頃に来ていた僕に珍しく一番乗りの店長が僕に向けて筍ご飯が食べたくなったから筍を取ってきてくれと頼んできた。
「確かにタケノコご飯は美味しいですよ、ええ。僕も春頃になるといつもアク抜きの面倒くささに嘆きつつも作りますよ、はい。……しかしですね店長。僕は仕事をしに来ているんですよ?店長の私的な事で仕事をほったらかすってのはどうかと思うんですけど……」
「いいんじゃよ。ここはワシの店じゃ。ワシが何しようと自由じゃ。たとえ雇い人を仕事中に筍狩りに行かせようとな」
「職権乱用とはこのことだ!?」
ということで今日の仕事は筍狩りになりました。
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「うわぁ、いつみても凄いなぁ……」
店長の気まぐれにより僕は幻想郷の中でも5本の指に入る危険スポット『迷いの竹林』に来ていた。
前にも何回か来たことはあるけど入るのはこれが初めてだ。
なにしろ一度入ると二度と出られなくなるという噂があるからね。
……ったく、なんで店長はそんな危ないところに僕をいかせたんだか。
まぁ、僕の能力があればそう危険な目に会うことはないけどね。
……ほんと、こういうときには役に立つ能力だよ。とばっちりは避けられないけどね
「さて、道具の確認をしてから入るとするか……タケノコを入れる籠と鍬、スコップ。
これぐらいか。」
よし、それじゃあ早速タケノコ狩りに行くか!
そう思いながら僕は『迷いの竹林』へと足を踏み入れた。
5分後
「はぁ、涼しいな。今度から夏は涼みにここへ来ようかな?……一生ここで暮らすことになりそうだけど」
はい、今の僕の発言から察する通り入ってすぐさま方向感覚が無くなって迷いました。
どうしてだろうね?迷わないように慎重にいってたんだけど……
「これが『迷いの竹林』と言われた由縁……!」
さすがは紅魔館に並ぶ危険スポットだ。
「ま、取り敢えずタケノコを取らないとね。そのあとのことは……うん、なんとかなるでしょ」
と、超楽観的な僕。
でもここでうじうじしてたってなにも始まらないしまずは当初の目的を達成しようかな。
そういえばさっきから上の竹の光景ばかり気をとられていて下の方はおろそかになっていたけどタケノコは地面の方を見ないとわからないんだ。下を向いて歩こう。
「……って、滅茶苦茶ある!」
さ、流石は迷いの竹林!少し見ただけでタケノコが2桁を越える数ほどあった。
「よし、じゃあ店長から教わった通りタケノコの周りを掘ろうかな」
ここからは筍採取の作業だ。
籠一杯に取るぞ!
まずはタケノコの周りを鍬で掘って、タケノコの根本の赤いぶつぶつみたいのがでてきたらスコップで_______
《昼頃》
「さて、どうしようかなぁ」
結構な時間をかけて籠一杯にタケノコを取った。
のはいいんだけどあとのことを考えるのを忘れてた
「ここからどうやったら抜けられるんだろうか……」
筍掘りに没頭していたせいで完全に忘れていた。
「手とかも土だらけだし。手を洗おうにもあるのは水筒の水ぐらいだから洗えない……」
どうしよう。
「あー、お腹も減ってきた。」
むぅ、仕方ない。ここは一か八か。ただひたすら真っ直ぐ歩くしかない!
一方その頃・うどん屋
「トオルを一人で『迷いの竹林』に行かせた!?あんた馬鹿か!彼処に入ったら幸運の兎か竹林の案内人に会いでもしないとでられないんだぞ!」
「そんなのわかっとるわい。だがトオルなら大丈夫じゃろう」
「どこにそんな根拠があんだよ?」
「トオル、空飛べるじゃろう。どんなに複雑な場所でも外ならば飛んで抜け出せる」
「あ……」
「道義、お前は心配しすぎなんじゃよ。トオルは頭の良い子じゃ。今頃もう筍掘りを終えて帰ってきているかもしれんぞ?」
「ま、まあ確かにトオルは頭は良いけどよ………と、兎に角!お前の気まぐれでトオルは危ない目にあってるんだ!金輪際こういうことがないようにな!!」
「わかっとるわかっとる。これからは自重する……たぶんな」
「あ?なんかいったか?」
「いやぁ~、別にー」
迷いの竹林
「全然ダメだー。いっこうに出られる気配がない……」←(飛ぶことを忘れている)
ほんと、同じところをぐるぐる回っているかのようだ。自分の感覚では真っ直ぐ進んでいても本当に真っ直ぐ進んでいるのか分からなくなる。
「ずっと同じ光景……最初は良いところだと思ったけどこうもずっと同じだと飽きてくるな……」
いい加減独り言も虚しくなってきた。
なんかこう……いつも誰かといたからいざ一人になると寂しくなるなぁ
だ、だからって泣くことはないよ!?僕はそんなに幼くないんだ!一人でだって難なくやっていける!!
ガサッ
「ん?」
自分で自分に心の中で一人でもやっていける!!っと言い聞かせていると後ろの方から枯れ笹を踏む音が聞こえた。
そしてその音に反応して後ろの方へ顔を向けると
「……兎?なんでこんなところに……」
兎がいた。ちっちゃくて可愛い。あ、そういえば阿求ちゃん兎の肉美味しいっていってたなぁ……
ガサガサガサッ
「あ、ちょっと待って!」
兎が身の危険を感じたのか逃げ出した。
う、やっぱり野生の勘ってやつなのか?一瞬兎の肉がどんなのか試したくなったのがいけなかったのかもしれない……
ガサガサガサッ
「う、中々速い……でも!」
兎に走りでは勝てないと踏んだ僕は空中を飛んだ。これなら走るより断然速いし、荷物で移動の妨げにもあまりならない。よし、逃げた兎にもすぐに追い付けるぞ!……まあ、追いかけても意味はないんだけどね。兎の肉には興味があるけど今追いかけている兎を食べようとは思わないし。ただなんか触りたい。もふもふしたい。
「よし、あと少しで……」
必死で逃げる兎との距離が1メートルを切ったぐらいで僕は兎の方へ手を伸ばした。
あと少し……あと少しであのもふもふを味わえ……
「……て今の僕の手、土だらけじゃないか。こんな手で触ったらあの純白の毛が汚れてしまう」
手を伸ばしたことにより自分の手が筍掘りによって汚れていたことを思い出し、空を飛ぶことを止め、地面に着地した。
うぅ、これじゃあ兎にさわれない……
そんなことをおもっていたら兎を見失ってしまった。
「触りたかったなぁ」
仕方ない。もふもふすることは諦めよう。
そんなことをしてる場合でもないし……
「はぁ、どうやったらここを抜けられるんだ?」
と、僕はその場に座り込む。
どうすれば……いっそのこと弾幕だしてみようかな?
いや、でもそんなことしたらここらいったいに被害が出るし……
そう思案に明け暮れているとそよ風が吹いてきた。
あ、涼しい。
「そういえばここ。夏なのになんだか居心地がいいな。暑くないし、寧ろ少し肌寒いぐらいだ。居ててなんか落ち着く……」
荷物を下ろし、座っている状態から大の字になって倒れてみる。
うん、竹と竹の隙間から見える日差しがここをより幻想的にさせてくれている。
耳を傾けると微風によって笹が靡き、すれあう音が聞こえる。
「こんなに落ち着けるのか……」
なんだか眠たくなってきた。そんな状況じゃないのにね……
「あんた、ここでなにしてんの?」
「んー、……昼寝……」
ん?今誰かに話しかけられたような気がしたぞ?……ま、いいか。たぶん、幻聴だろう。
「うちの兎が酷い目に会うところだったって言うから仕方なく出てきてみれば……呑気に昼寝とはね」
「…………いや、幻聴じゃないじゃん」ムクッ
「やっと起きたか」
やっぱり人がいた。………ていうより妖怪だね。頭に兎耳がついてる。兎が妖怪化したのかな?
「それで?うちのもんの落とし前、どうつけてくれる?」
「うちのもん?」
「さっきあんたが追いかけてた兎のことだよ。」
うわぁ、これめんどくさいやつだ。
たぶんこの娘、僕が兎を襲おうとしたことに怒ってるんだ。僕はただもふもふしたかっただけなんだけど……
よし、ここは本当のことを話そう。別にやましいことじゃないんだ。
「ああ、あの兎のことか。うん、確かに追いかけたよ。でも別に襲おうしたわ……」
「問答無用!」ベシッ
「痛い!?」
弁明する前にビンタされた。ほっぺがジンジンする……
「……って言うのは冗談で」
「冗談?!……全然冗談では済んでないんだけど」
「まぁ、そんなことはどうでもいいよ。
なんたってうちの兎をもふもふしようとした不届きものに制裁しただけなんだから」
「あ、わかってたんだ……って別に良いじゃないか!もふもふしたって!」
「駄目、ここの竹林にいる兎達はあたしの大事な手下達なんだよ。もふもふする権利は私にのみ有効なのさ」
「えー……」
「それよりあんた、なんでここで居眠りなんかしてたの?」
「あ、いや、ちょっとここが心地よくてね。ちょっとうとうとしてた。」
「チッ、起こさなければ面白いことが出来たのに」ボソ
「ん?なんかいった?」
「べつにー?」
変なやつ。あ、そういえばこの娘なら……
「ここへの帰り道知ってる?」
「ん?ああ、勿論。ここはあたしのテリトリーだからね」
「おお!それは良かった!実は僕、道に迷っちゃって帰れなかったんだ。道案内してくれない?」
「(あれ?あの兎からの情報からすると空を飛べるんじゃ…………いや、これは絶好のチャンスかもしれない!)いいよ。」ニヤッ
「ありがとう!」
よかった。このまま抜けられないんじゃないかと思ったけど僕も運が回ってきたね。こんな優しい妖怪に出会うなんて
「それじゃあまずはあっちの方へ行って」
「わかった」
と、指をさされた方へ進んでみる。
「ちょっとまてよ。なんだかこの先、嫌な予感がするんだけど……」
「(ば、ばれた!?)き、気のせいウサ!この竹林を熟知しているあたしが言うんだから間違いないウサ!」
「そ、そうかなぁ」
まぁ、この娘がいうなら従うか。道を教えてくれるって言ってるんだから
そう思い、歩を進めると
「うぎゃ!?」スボッ
「ぷふっはは!ひっかかった!」
「……まじですか……」
やっぱり自分の能力を信じるんだった。まさか落とし穴があったなんて……
「いやぁ、歩を止められたとき一瞬焦ったよ。まさか落とし穴に勘づかれるなんてこれまで生きてきた中でもそうなかったからね」ゲラゲラ
「……く、くそう……」ムクリッ
「ま、でも次は引っ掛からないだろうね。
だからおしまい。じゃあねー」
「え?ちょっとまって!?案内は?」
まさか落とし穴に引っ掛けるだけして案内してくれないって、流石にそれはないよ……
「ああ、それのこと?仕方ない、『渡して』あげるか。面白いの見させてもらったしねぇ。鈴仙の反応も最近飽きてきたし」
「鈴仙?」
「こっちの話。ま、取り敢えず渡したよ。これであんたはここを抜けられる、はず。それじゃあねー」
そう言って兎の妖怪の女の子は走り出した
「渡したって……あ、ちょっと待って!名前まだ聞いてないよー!」
「あ、そういえばまだだったね。」
と、少女は走る足を一端止めて再度こちらを向き、
「私は因幡 てゐ。兎のトップに立つ者さ!」
「あ、うん。僕は博麗 トオル。一般人です」
てゐ、ね。覚えたぞ。
自己紹介を済ませたてゐは俊敏な足取りで竹林の奥へと走り去っていった。
「さて、『渡した』って言うのはよくわからなかったけどてゐの言う通りならここを出られるはずなんだよな。」
それじゃあさっきてゐ指差した方へ進んでみようかな。
結果的には迷いの竹林から出ることは出来ました。
しかし、しかしですねぇ……
「道具のみならず、筍も全て、竹林に置いてきた、じゃと……?」
「すいませんでしたー!!」
落とし穴に引っ掛かったとき、道具類とタケノコ全てを置いてきてしまいました。
そして空を飛べばあんな迷う必要もなく抜けられたと言うことを店長に知らされ、自分はどれだけ無駄な時間を過ごしたのだろうと嘆いたね。
ほんと、上手くいかないよ、人生って。
今回は全面的に自分のうっかりが原因なんだけどね