あと座敷わらしちゃんでます。
よくよく思えば思い当たる点は幾つもあった。
まずは名前。あの場所で会った子は『ルナサ』と名乗った。そして妹達の事を『メルラン』『リリカ』と呼んでいた。
人里でそんな名前の人はそうはいない。
そして何よりもルナサが持っていたものだ。″ヴァイオリン”、それはここ幻想郷でも珍しい道具の1つ、僕は森近さんの店で見たことがある(壊れかけだけど)からわかったけど人里のほとんどの人はヴァイオリンという楽器の存在をしらないだろう。それを持っている時点で疑問に思うべきだったんだ。
それに秘密の場所と言えど妖怪がたまにとおるような危険な場所だ。普通の人が気軽に行けるような場所じゃない。
「伏線……沢山あったんだなぁ」
「おい、トオル!なに余所見してんだ!下向いてる暇あったら演奏聴こうぜ!」
「あ、うん……あと茂、演奏中は静かにしようね。」
現在、プリズムリバー三姉妹の公演ライブの真っ最中だ。
人里のちょっとした広場に簡易的なステージが立てられ、各々が持ってきた椅子に座ってる人や地べたに座る人、あるいはプリズムリバーファンクラブのように立って聴く人で賑わっている。
普通、人里の殆どの人は灯りの灯火となる油が勿体ないからと日が落ちるとともに寝る人が多いんだけど、この日はプリズムリバー三姉妹の公演ということもあり、殆どの人が起きて、この公演を見に来ている。
まさかこんなに聴きに来ている人がいるだなんて……なんかこの前にもあったらしい公演ライブ見逃したの惜しくなってきたな。
そして今聴いている場所なんだけど……殆どのプリズムリバーファンクラブは前の方を陣取って聴いているんだけど僕はなんだか気が乗らなかったので後ろの方で立って聴いている。茂は僕が後ろの方で聴くと言ったら自分も後ろで聴くと言い出したので茂も僕の隣で聴いている。……別に気にしなくて良いのに……
「あれ?トオルくん……あと茂くんも」
「あ、小鈴ちゃん」
「おー、小鈴か!小鈴もプリズムリバー三姉妹の公演ライブを聴きにきたのか?」
「うん。本当は阿求と一緒に行こうとしたんだけど体調悪くしたらしくてね……あと茂くん、演奏中は静かにね」
「お、おう……」
「え?阿求ちゃん大丈夫なの?」
「大丈夫だって。ちょっと熱をだしたみたいで今日は安静に寝てるらしいよ」
「そう、それはよかった」
阿求ちゃんとはあまり関わってないけどやっぱり知り合いが病気とかになると心配になるね……
「まあ、それは兎も角聴こうよ。ほら、前奏終わったよ」
「あ、本当だ。」
「よぉし!皆静かにしろよ!」
「「しっ!」」
「あ、すまん……」
ほんと茂の声って頭に響くんだよなぁ……
それからは凄かった。
まずはプリズムリバー三姉妹の長女であるルナサによるソロ演奏。
ルナサの奏でる音はなんだか落ち着き、活気だっていた観客は静まり返り、一時の安らぎの時間となる。茂によればあの音は『鬱の音』といい、程よく聴くと荒ぶった感情も落ち着かせられることができ、聴きすぎるとなにもする気が起きなくなるくらい落ち込むらしい。なのでルナサによるソロ演奏はあまり長くなることもなく終わる。
お次はプリズムリバー三姉妹の次女であるメルランのソロ演奏。
メルランの奏でる音はルナサとはうって変わって気分が上々し、観客も大盛り上がりとなった。こちらも茂情報によるとあの音は『躁の音』といい、程よく聴くと気分がよくなり、聴きすぎると狂ったようにテンションが上がるらしい。なのでこちらも長すぎないくらいにソロ演奏は終了する。
メルランの演奏により観客が盛り上がり、活気がで始めた時、ついにクライマックスの三姉妹の演奏が始まった。このときの観客の盛り上がりは最高潮に達した。
ルナサ、メルランのどちらも扱い方に苦労しそうなものだけどその姉達の音を上手く纏めて耳障りの良い音にしている三女のリリカ。リリカの奏でる音は(※茂情報)『幻想の音』といい、今いった姉達の音を上手く纏め、感情を高ぶらせたり、どんよりした気分になることなくなる普通の演奏にしている。この音には本当の効果があるらしいが演奏に集中してあまり聞き取れなかった。
この演奏は前の二人のソロ演奏よりは長かった。いつもなら誰もが寝ている夜中に賑わう人里。たまにある里の年恒例にある行事でもここまで賑わっているのを見たことがない。酒盛りついでに来たおじさんたちはお酒を飲むことを忘れ、演奏前までは泣いていた赤子は笑みをこぼし、プリズムリバーファンクラブ(前の席)はルナサのソロ演奏でもハイテンションで演奏を聴いていた。
「凄かったねぇ。心が穏やかになったり上がったして、ほんの一時間程度だったのに沢山の感情が入り乱れた感じだよ」
「そうだろ!小鈴!お前わかってるじゃないか!どうだ、小鈴もプリズムリバーファンクラブに入らないか?」
「遠慮しとく」
演奏というのを生で聴いたのは始めてだった。だから他と比べようがないけど、おそらくあの演奏は三姉妹にしかできない、最高なものだと思う。まず、感情が高ぶったり落ち込んだりする演奏なんて普通の人間にはできないし、それを纏めるなんて並の所業ではない。
なんで皆あんなに楽しみにしたり、ファンクラブが出来たのか疑問に思ってたけど、あの演奏を聴いてその疑問は綺麗さっぱり晴れたね。
「ん、なんだトオル?ぼーっとして」
「……いや、なんでもないよ」
いかんいかん、完全に余韻に浸ってた。帰っている今でもさっきの演奏がリピートしてる……
「それじゃ、私はこっちだから」
「お、じゃあな小鈴」
「じゃあね小鈴ちゃん」
「うん、二人ともおやすみー」
そう言って小鈴ちゃんは僕達の進んでいる道の左の方へと曲がっていった。
よし、一旦余韻に浸るのは止めよう。ずっとぼーっとしてちゃ、茂に迷惑だ。
「んじゃ帰るか、俺ん家。″あいつ”も心配してるだろうし」
「あいつ?茂って一人暮らしじゃなかったっけ?」
結構前にしか茂の家に行った覚えしかないけど、確か親元から離れて一人暮らしをしていたはずだ。それに茂に彼女や妻ができたなんて浮いた話なんて聞いたことないし……もし彼女がいるなら僕泣きます。
「んあ?そういえばまだトオルにはいってなかったな。
俺ん家、″座敷わらし”飼ってんだよ」
「ざ、″座敷わらし”!?」
座敷わらしってあのみたら幸運になれるっていう子供の精霊みたいなやつ?!
「この前俺ん家で偶然見つけてよ。そこでなんか物投げたりして部屋荒らしてたから取っ捕まえてやったんだ」
「それでなんで一緒に暮らしてるんだよ……」
そういえば座敷わらしは悪戯好きという妖精みたいな一面もあるらしいからね。
「いやほら、座敷わらしのいる家って座敷わらしがいなくなるとボロくなるっていうだろ?」
「まあ、そうだけど……」
「だから捕まえた。中々力が強くてよ、飯をご馳走するって油断させて脅かして気絶させた」
「いや、捕まえるまでの行程なんてしらないから。ていうかなに怖がらせてんの」
「まあ、起きたあと腹パンされて俺も気絶したからお互い様だろ」
何馬鹿なことやってるんだ茂……
「おっと、あいつの話してる間に俺ん家着いたな」
今茂が言った通り、ここは茂の家だ。
茂の家族は代々大工で、この家も昔、茂の祖父が建てた家らしい。
「なんか入りたくないんだけど」
「座敷わらしがいるからか?」
「違う、茂とその座敷わらしが仲良さそうだから」
「ん?それのどこが悪いんだ?」
「考えても見てよ?ただでさえ頭に響くような茂の声に乱暴そうな座敷わらしが加わるんだよ?寝ることすらままならなくなりそうじゃないか」
「まあまあ、そう言わずに入れよ。じいちゃんの建てた家だぞ?住み心地は保証してやる」ガラガラ
僕は別に茂のお祖父さんの家に不満があるわけじゃないんだけど……
と、茂の勘違いに心の中で訂正している間に茂は家の中へと入っていく。
……はあ、まあいいか。泊めてもらう身でもあるんだし文句なんて言ってられない。
そう思いつつ僕が家の中に入ろうとすると____
「ぐがっ!?」ドサァ
茂が玄関から飛び出てきた。
「ど、どうしたの!?」
「どうしたもこうしたもないわよ!」
「え?」
茂が倒れたのを起こそうとしていると玄関から幼い声が聞こえてきた。それに気になって玄関の方を見てみるとそこには5,6歳くらいの女の子がいた。
髪は黒のおかっぱで頬には服装は赤いちゃんちゃんこを着ており、前に本で読んだ通りの格好をしている。
お、でも本に描かれていた絵の座敷童子よりずっと可愛い。怒っているようだけど全然迫力がない。赤い頬を膨らませている姿がまた可愛らしさを引き立てている。
「いてて……いきなり何すんだ″どうこ”!」
″どうこ”とはこの座敷わらしの名前だろうか……座敷童子の童子は『どうじ』ともいうから『子』の部分を『こ』に変換したのか。なんだか手抜きっぽい名前だなぁ……あ、ごめんどうこちゃん。
「あんた、また夕飯作るの忘れてたでしょ!」
「あ……」
「今日で4回目よ!もう家にいれてあげないから!」バシッ
と、どうこちゃんは玄関の引き戸を思いっきり閉める。
「…………あちゃ~、追い出されちまった……久々にあんな怒らせたな。正直驚いた」
「……僕は座敷わらしがあんな可愛い子供だったことに驚いてる」
~1時間後~
「お客さんがいるのなら先に言ってよね!」
「言う前に腹を殴られたんだが!?」
「茂煩い、今夜中なんだよ」
茂が10分間説得したが虚しく声が響くだけの結果となり、どうしようか考えた結果、僕が説得しようということになり、玄関に聞こえるように話しかけた瞬間、驚いた顔をしたどうこちゃんが出てきて、漸く入ることができた。
今は遅めのご飯を食べ終わったところだ。
「あ、紹介するのが遅れたな。こいつは″どうこ”っていうんだ」
「よろしく、トオルさん。あなたのことはこの阿呆からきいてるわ」
そう言ってどうこちゃんが僕の方に手を差しのべめてくる。
「よろしく、どうこちゃん」
その差しのべられた小さな手を僕は握り、握手をする。
うわぁ……小さい。某吸血鬼姉妹や某鬼の手も小さいけどそれよりもたぶん小さいな。まあまずあいつらとは握手なんてしないから手の大きさなんておおよそなんだけど。
「それにしても……」
改めて茂とどうこちゃんを見てみる。茂は僕より二つ年上だ。それに加えて大工という仕事柄、体格は僕よりも遥かに良い。ていうかゴツゴツしてる。そしてその横にいるどうこちゃんは茂のお腹辺りの身長で華美で細い体型……その二人が一つ屋根の下で暮らしているとは……
「うん、犯罪の匂いがプンプンだ」
「なにいってんだ?」
「?」
おっと声に出してしまった。……まあ、茂も流石にこんな子に手を出すなんて事はしないだろう。
「んじゃ、明日も早いしさっさと寝るか!」
「あ、うん、そうだね。僕も明日仕事あるし」
「ってことは明日俺ん家からそのままうどん屋に行くのか?」
「そうだよ。だから着替えこの前茂に渡しておいたじゃないか」
この前とは僕がプリズムリバーファンクラブになった次の日だ。
「あ!?」
「それって……」
と、二人が急に詰まった声を出す。……え?なに?
「あんた、この前親戚の子に服渡してたよね。俺には小さくてはいんねぇからって。……それってまさか……」
「があー!完全に忘れてた!なんで俺ん家にサイズの合わない服があるなぁ~って思って渡してしまった!」
「おい馬鹿茂!なにやってるんだ!?」
しかも小さいて……小さいて!!確かに身長は男にしては小さいよ!この前やっと霊夢を越したぐらい小さいよ!でもそれを言うことはないじゃないか!とてつもなく失礼極まりないよ!!←(身長低いことを気にしてる)
「す、すまんトオル。代わりに俺の服を……あ、サイズがでかすぎるか。トオル小さいもんな」
茂くん。僕に喧嘩売ってるのかな?
「こら阿呆!人を馬鹿にするようなこと言うな!」ボカッ
「いだ!?……はぁ?別に馬鹿にしたわけじゃ……」
「口答えするな!」ボカッ
「いで!?!」
と、2発茂がどうこちゃんに拳骨を食らう。
……ありがとう、どうこちゃん。少し報われた。さっき手抜きな名前だとかいってごめんね?
「んじゃ、寝よっか」
「くぅ……そうだな。まだプリズムリバー三姉妹の演奏が頭に残っているうちに寝ときたい」
ちょっとした騒動がおきたけどまあ、いいや。服は明日、早めに仕事場に行って仕事服に着替えればいいか。少し汚いけど仕方ない。我慢しなきゃ。
「え、川の字で寝るの!?」
「あお、そうだが?」
「てことは僕がいない時、いつも二人で同じ部屋で寝てるの!?」
「そうだけど……それがどうしたんだよ」
またもや犯罪の匂いが……
~~深夜~~
「ぐがああぁぁぁ!!」
「ぐおおぉぉぉぉ!!」
「……」
なんてこった。二人ともいびきが滅茶苦茶煩い。あとどうこちゃんのいびき、完全に声に出してるし……ほんとに寝てる?
ま、まあ人の寝方なんて人それぞれなんだし僕がとやかくいうことではないね。
取り敢えず枕を耳栓代わりにして寝よう。それで少しはましになるだろう……
「ぐおおぉぉぉぉおおおぉぉぉ!!」
「ぐああぁぁぁぁ!がああぁぁぁぁ!」
「いかん、増した。寝れない」
プリズムリバー三姉妹の演奏を頭の中で思い出しても二人のいびきで全てがかき消される。
……もう、僕に寝る手段は残されているのだろうか?……いや、諦めるのはまだ早い!なんとしてでも寝てみせる!
この日、殆ど寝れませんでした。ちくしょう……
ていうかよくよく考えればあの部屋から出ればよかったですね、はい。