_______霧の湖。
そこは昼には決まって霧に包まれるという不思議な現象が起こる湖である。年中肌寒い霧に湖には多くの妖怪や妖精が集まるということで危険度は中々に高い。それに加え、付近には紅魔館や廃洋館(行ったことがないからわからないけど)が建ってあるため、危険度はさらに高くなっている。
それで、なんで僕がその霧の湖の話を今しているのかというと……
「トオジ!見つけたわよ!あたいと勝負しろ!」
「チルノ、邪魔だから道を開けて」
「通すもんか!」
こういうことです。紅魔館(の中にある図書館)に用のある僕は週一でこの霧の湖を通る。危険度が高いといっても僕の能力があれば問題は無かったんだけど今回は違った。
チルノ(と大妖精)に出くわした。僕の危機察知能力はチルノにはあまり効果がない。何故かというと僕の危機察知能力は相手の感情に左右されているからだ。相手の殺意や敵意に強く反応し、僕の脳に危険信号を送る。しかしチルノの場合は勝負しろ勝負しろっていうが実際はただ遊びたいだけという単純な発想なのであまり反応がない。感情以外にも妖力や魔力、霊力にも反応はするけど、チルノは僕よりも力自体は少ないため、反応も当然薄い。
つまり、チルノが接近しても僕の危機察知能力はちょ~っとしか作動しないんだ。実際は会えば十中八九面倒な相手だというのに……
「チルノちゃん、やめようよ……」
と、チルノの後ろで言う大妖精こと大ちゃん。
そうだ!大ちゃんの言う通りこんな馬鹿なことは止めるんだチルノ!
「ふふふ、大ちゃん。今回は秘策があるから心配しなくてもいいよ!」
「いや、大ちゃんはそういうことで止めてるんじゃなくて……」
「その名も!……“鬼ごっこ”!!」
僕の話をガン無視して対戦の種目を発表するチルノ。自由かお前は!こんな横暴無視してやる! 、と言おうとしたものの……本当に無視したらかなり面倒なことになるしなぁ……うちの食料を凍らせにくるとか。
そんなことされるぐらいなら構ってあげた方がまだましだ。
という感じでいつも僕は妥協してチルノと出くわす度に勝負という名の遊戯をしている。面倒だけど仕方ない、捕まった僕が悪いんだ。“腹を括ろう″!
「なに、鬼の真似事でもすんの?本物の鬼なら今頃うちの縁側でお酒飲みながらぐーたらしてるだろうから呼んでこようか?」
「え……鬼!?」
ということでチルノを困らせて僕に興味を逸らした後、逃げようと思います。興味を他に向けさせれば逃げても食料を凍らさせてくることもないだろう。……え、なに?腹を括ったんじゃなかったのかって?やだなぁ、ちゃんと括ってるよ……トンズラする腹をね。
いつもは遊んではいるが今回ばかりは違う。今日は図書館で読みかけていた本を全て読み終わらせるというミッションがあるんだ。こんなところで無駄足を踏んでいる暇はない。
チルノも鬼の恐さは身に染みて感じているはずだ。鬼との飲み比べに負けたチルノは潰れているというのにお酒を飲まされ続けられ、アル中により1度ピチュっているところを僕は見たことがある。あのときの萃香は遠くからみた僕ですら恐怖を感じた。妖精は一時すれば自然に復活しはするが、1度死んでいる。
つまりチルノは萃香に殺されているんだ。生き返るとしても僕だったら1度殺してきた相手と会いたいなんて思わないだろうな、ていうか関わりたくない。
そういう事からチルノは少なからず鬼に恐怖意識を持っているはずだ。僕が連れてくる素振りをすれば尻尾を巻いて逃げ出すにちがいない。
ほら、現にチルノ、俯きながら体を小刻みに震えてる。
「鬼……ってあの角の生えた?」プルプル
「うん、そうだよ。恐いよ~」
「……」
よしよし、あと一息。相手のトラウマを呼び覚ませるという我ながら最低な考えだけどこの際構ってられない。あとで詫びるから許してね!いや、ほんとごめん。
そう心の中で謝罪をしていると、チルノが下に向いていた顔をこちらに向け、予想外な事を言った。
「望むところだ!この前のリベンジしてやる!」
「え……!?」
え、まさかチルノは殺した相手に立ち向かおうとしているのか?!
あ、ありえない……あのチルノが……というより妖精が勝つ確率がミジンコ以下という最強な敵に自ら戦おうというのか!
……いやいや、流石にそれはない。どうせチルノのことだからあのときの記憶が曖昧だから恐怖が薄れているだけだろう。
「チルノ、ほんとにそれいってる?あれだよ?君をアル中でやっちゃった相手だよ?怖くないの?」
「怖い?なにいってんの!このあたいが怖れるものなんて怒ったときの大ちゃんぐらいよ!」
「え、わ、私!?」
な……怖いものがない(大ちゃん以外)というのか、チルノ……
僕には怖いものが一杯あるってのに……本を読んでるときにたまにネタバレしてくるレミリアとか角が生えた慧音先生が頭突きしてこようとしてきたときとか……
考えただけでも鳥肌が立つ。
ていうか思い出してみると沢山出てきたぞ、怖いもの。
だというのにチルノに怖いものがないっていう……なんか負けた気分だ、悔しい。
「よし!それじゃあ早速あの鬼を探して鬼ごっこに誘うのよ!」
「え、ほんとに萃香誘うの?」
「当たり前よ!トオジのついでにあの鬼にも勝ってやるわ!……あれ?これって一石二鳥なんじゃ……あたいってやっぱり天才ね!」
「いや、馬鹿だよチルノ……」
僕のついでに萃香に勝つて……ついでの方があきらかに難易度が違うでしょ。月とスッポンぐらい違う。
いや、それよりもどうしよう。脅しのつもりで萃香を出したのにまさか乗り気になるなんて……もし萃香が加わったりしたらそれこそ今日1日潰すことになってしまう。そしたら今日まで楽しみにしていた本の続きが読めなくなり、次の休みまで我慢しなければならなくなる。別に楽しみをとっておくのも良いんだけどそれはもうこの前良いところで読むのを止めたときに使ったからもう無理だ。今日だって起きたときからずっと楽しみにしていたんだから!
「今回は萃香を誘うのは止めとこう。そういえば僕が出たとき寝てたし」
兎に角萃香を呼ぶのは駄目だ。でまかせを言ってチルノを引かせよう。よくよく思えば萃香朝から暇だ暇だーとかいって霊夢に勝負をせがむくらい暇をもて余してたからそれで鬼ごっこでもしようなんて言ったらルールを知ってようがお構いなしに弾幕ごっこに発展するだろう……
「そんなの無理矢理にでも起こせば問題ない!」
と、チルノの命知らずな発言。また死にたいの?
「チルノちゃん、流石にそれは可哀想だよ……」
からの大ちゃんからの助け船。よし、良いぞ大ちゃん!もっといってやって!
「優しく起こさなきゃ」
あ、起こすのは確定なんですね。まあ、起きてるんだけど……
「よーし!早速あの鬼に勝負を申し込みに行くわよ!」
「頑張ってチルノちゃん!…………どうか死なないで……」
そう言って二人は僕のうちに向かって飛んでいく。……大ちゃんのあの発言からして大ちゃんはわかってるんだね、チルノが1度言い出したら聞かないってこと……
あれ、思えば二人が背を向けてるうちに僕逃げられるんじゃないか?……いや、駄目か、あとあと面倒なことになる。
はあ……あのとき萃香連れてこようかなんて言わなきゃ良かった……
「ほら!トンビ!さっさと来ないと置いていくわよ!」
「トンビ!?」
チルノ、僕の名前間違え過ぎだよ。なんだよトンビって……漢字にしたら鳶じゃん……あ、でも鳶ってかっこいいよね。
いや、今はそんなどうでもいいことに頭を使ってる暇はない。一刻も早く解決策を探さないと!
~博麗神社~
「萃香のやつならさっきどっかに行ったわよ」
「よっし!!」
「くっ、せっかく相手してあげようと思ったのに……さてはあたいに恐れをなして逃げたな」
「ははは……(良かったねチルノちゃん)」
家に帰ると霊夢が境内の掃除していた。そして萃香の姿がなかった。それについて霊夢に聞いてみるとどうやらどっかに出掛けたらしい。なんてタイミングの良いことやら。思わずガッツポーズをとってしまったよ。
「それよりもトオル、あんたが妖精と一緒にいるってことはまたつまらない意地の張り合いでもしてんの?」
意地の張り合いっていうか我儘につきあってあげてるだけなんだけど……
「な、なにを~!霊夢!まさかあたいとトオジの真剣勝負を愚弄するつもり?」
あ、霊夢の名前は間違わないんだ。一体チルノの脳はどうなってるんだよ……霊夢と通ってどっちも3文字だし覚えやすい名前なのにさ。
「真剣勝負もなにも、端から見たらただ遊んでるようにしか見えないんだけど」
「……ほう、わかった。それじゃあ霊夢、あたいと勝負よ!あたいとトオジがいつもどれだけ真剣なのか身をもって教えてやるわ!」
おう……
ほんっとチルノって怖いもの知らずだなぁ……霊夢にまで喧嘩を売るとは……
「……はあ、今日はなにかと勝負を挑まれる日ね……まあいいわ、食後の運動程度にはなるでしょ」
「ふん、そんなことをいってられるのも今のうちよ!」
「チルノちゃん頑張ってー」
そして霊夢とチルノは博麗神社に被害が及ばないところまで飛んでいった。
「…………」
これ、結果オーライじゃない?完全にチルノの興味は霊夢に移った。つまり、今僕がいなくなっても問題は無いということだ。
「よし、紅魔館行こ」
一時間程予定はずれたけど許容範囲だ。だって半ば諦めかけてたのに本を読むことができるんだよ?本を読めるのなら大抵は許せるね。
よしよしよし、邪魔はあったけど無事行くことができるぞ。
待ってて!マイスイートブック達!
~紅魔館・図書館~
「あれ、フランドール?」
「……」
無事紅魔館に着き、レミリアにバレないように図書館に入り、パチュリーさんに一言断った後、僕はいつも本を読む席まで移動していると本を読んでいるフランドールがいた。どうやら本を読むのに集中しているようで僕には気づいていないようだ。
ここは黙っておいた方がいいかな。
そう思いつつ僕は読みかけの本を探しにかかる。確かいつも座っている席の近くの本棚にあったはず……
「あれ?」
僕が読みかけの本を入れておいた本棚にはちょうど1冊分空いており、その空いていたのは僕が読みかけの本を入れていた箇所だった。
「もしかして……」
と、フランドールの読んでいる本を見てみるとそこには僕が読みかけていた本の題名が書いてあった。……まじか、フランドールが持っていたのか……
ま、まあページ数からみてもあと10ページぐらいだから我慢するか。
~10分後~
「ん~!終わったー!……あれ、トオルいたの?」
と、背筋を伸ばした拍子に僕に気づいたフランドールが話しかけてくる。
お、漸く終わったか。
「1週間ぶり、フランドール」
「ねぇトオル!この本凄いんだよ!」
「え?」
「最初はただの日常ストーリーでなんだかほのぼのするなぁっと思ったけど最後の方では死を覚悟して仲間の無念を晴らす主人公が凄く良くて……で、最後ボスキャラと刺し違えて死んじゃうっていう少し変な終わりかただったんだけどおまけページでは死んだ仲間達と……」
「え、ちょっとまってフランドール」
「ん?」
「もしかして今その本のオチを言ったの?」
「え?…………あ。ごめん、トオル……この本読みたかったの?」
いや、たしかに読みたかったのは読みたかったんだけど……
「あ、……えっと……ごめんなさい」
「え?いや、大丈夫だよ。いやぁー、フランドールが絶賛する本かぁ~、そりゃ見てみたいなぁ!」
「……そう?それじゃあ貸してあげる!」
「うん、ありがとね!」
「えへへ、どういたしまして。はい……それじゃあ私はまた他の本取ってくるね!」
そう言ってフランドールは羽をパタパタと揺らしながら本を探しにいった。
そして残るのは静寂と僕とオチのわかった本。
「あは、あははは……は……」
やっぱり姉妹だなぁ……
そう思いつつ本を捲ってみる。
「うん……うん……フランドールの言った通りだ、うん。」
あれ、なんだろう。なんだか目から透明な液体が……
ごめんね、チルノ。君を置いて本を優先させてしまったお陰で(精神的に)痛い目にあったよ。
今度からはちゃんと遊ぶね。
そう僕は涙を袖で拭きつつ決意した。