東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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花映塚突入です。


47話 小町と行く、幻想郷ぶらり旅!『上』

 

 

 

 ~博麗神社(境内)~

 

 ついに来た。僕の時代が来た。蛹から蝶へ変わるときが来たんだ!

 

 

「春が来たー!」

 

 

 そう、ついに長い冬が終え、春を迎える時季となった。

 もう本当に嬉しい。嬉しすぎて泣きそう。

 朝起きて凍りつくかのような寒さに苛立ちを感じることも、何度も手が乾燥割れして痛い思いをすることもなくなったんだ!

 

 

「僕の時代だー!」

 

 

 僕は冬に勝ったんだ。寒さに耐えて耐えて耐え抜いて、掴みとった勝利だ!

 

 

「はあ、花の良い香りだ」

 

 

 これだ。冬には見られなかった色とりどりの花々が咲き乱れている。神社の階段の下の桜の木からは桜が舞い散り、境内の周辺はスイセンやハス、パンジー、向日葵まで咲いている。

 

 

 ふふ、全部咲く時期が違うような気がするけどそんなことはどうでも良い。

 皆春を迎えることができたのが嬉しくて思わず開花してしまったんだろう。

 

 

「花達! 分かるよその気持ち!」

 

 

 

「なあ、霊夢。お前の弟がついにおかしくなったようだぜ。あれは脳みそ半分いかれてしまってるな」

 

「冬明けはいつもこんな感じよ」 

 

「いやいや、確かにテンションは上がってたがあそこまではなかっただろ。ほら見ろよあれ、あのトオルが興奮してる妖精達と弾幕ごっこしてるぜ」

 

「……ほんとだ。魔理沙の言った通りかも知れないわね。」

 

 

 なんだか縁側から失礼な会話をしているようだけど僕は気にしない。今の僕は寛大だからね!

 でも妖精さん方、なんでさっきから僕の後ろをついてくるの? ねえ、お願いだから弾幕張ってくるのやめてくれないかな。死ぬよ? 下手をしなくても僕死んじゃうよ?

 

 

「って霊夢、魔理沙!? 呑気に眺めてないで助けてよ!!」

 

 

 さっきまでは体力があったから無視できてたけどもう限界が近くなってきた。くそう、調子に乗らなければよかった!

 

 

「お、どうやら遊んでたわけじゃないらしいぜ。どうする?」

 

「そうらしいわね。まあでもトオル一人でなんとかできるでしょ。放っておいても問題ないわ」

 

「あるよ!? 問題ありまくりだよ!」

 

 

 妖精の弾だって当たりどころが悪ければ死ぬんだ。霊夢達が思っているほど弾幕ごっこは安全じゃない。

 くっ……と、とにかく、このままじゃじり貧だ! 反撃しないと! ……この状況的にじり貧ではなく絶命絶命の方が言い方的に適切だけどね!

 

 

「えーい! 霊夢、魔理沙! 後で覚えてなよ!」

 

「覚えてたらね」

 

「おいおい、トオルはいったい何に覚えてろって言ったんだ? 私にはさっぱりだぜ」

 

「奇遇ね、私もよ」

 

「とぼけるの早過ぎだよ?!」

 

 

 このあと、なんとか妖精達を撃退することが出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ねえ、今更ながら思うんだけどこれって異変なんじゃないかな」

 

「ほんとに今更ね」

 

 

 妖精を撃退し、呼吸が安定するぐらいまで回復したあと、僕は先程まで気にも止めなかった疑問を口にする。

 妖精と戦ったことで幾分か落ち着いたからこそ思うんだけど、この、時季を無視した四季折々の花々は異常だ。なんでこんな異常が起きている、もしくは起こしているのかはいつも通り不明。

 はあ、折角冬が明けたってのに穏やかじゃないなぁ……春の訪れぐらい純粋に楽しませてよ。

 

 

「なんで霊夢と魔理沙は異変解決に行かないの?」

 

 

 そういえば霊夢と魔理沙の様子がいつもの異変の時とは違ってのんびりしてる。いや、霊夢はいつでものんびりしているけども。

 そもそも霊夢は危機感が足りないんだよなぁ。ほら、今も異変が起きてるってのに縁側から足を出してぷらぷらさせながら欠伸してるし。

 

 そう霊夢の危機感のなさに対して心の中で咎めていると、一欠伸済ませた霊夢が口を開いた。

 

 

「ん、そうねぇ……なんだか勘が働かないってのも一つの行かない要因に入るわね」

 

「勘て……」

 

 

 まあ確かに霊夢の勘は凄い。異変の元凶へはいつも勘で突き止めてるし、僕の秘密の隠し場所を作る前までお菓子の隠し場所をことごとく勘で見つけて食べられていた。たぶん、霊夢がその気になれば僕の秘密の隠し場所も容易く見つけられると思う。勿論勘で。

 

 

「てことはつまり今回の異変に元凶がいないってこと?」

 

「おうおうトオルさんや、話が飛びすぎだぜ。なんで霊夢の勘が働かないからって元凶がいないことになるんだ」

 

「僕の危機察知センサーでも幻想郷内の危険度はいつもとあまり変わらないからさ。いつもの異変なら元凶がいるところはその周辺は危険度が上がるはずなんだ」

 

「ほう、トオルにそんな能力があるのか……いいこと聞いた」

 

 

 と、魔理沙がにやりと笑みをこぼす。

 はて、魔理沙さんは僕の話を聞いて何故笑ったのでしょうかね? ……とりあえず異変があるときは魔理沙に出くわさないようにしよう。

 そんな決意をしつつ、僕は話を続ける。

 

 

「んで、僕の能力でも元凶の居所がつかめていないのにも加え、霊夢の勘も働かない。だからもしかしたら異変の元凶は存在しないんじゃないかってね」

 

「それってつまり、この異常な現象が自然に起きたってことか?」

 

「そういうことになるね」

 

 

 四季折々の花がここまで咲き乱れるなんて僕の人生の中で一度も体験したことは無いけどね。ていうかこんな現象、お伽噺以外で聞いたことないよ。

 まあでも……

 

 

「幻想郷だからなぁ……」

 

 

 昼に謎の濃い霧が覆う湖や、冥界につながる空の割れ目、切っても切っても生えてくる竹林など、幻想郷は不思議な現象が常日頃に起こるような所だ。もしかしたら今も僕が知らない未知の現象が幻想郷のどこかで起きているかもしれない。

 ……考えてみると今日のような現象が起きても不思議ではないね。

 

 

「自然現象か……確かにありえないこともないか。んでも妖精は異変の時と同じように騒いでるぜ」

 

「それは僕に聞かれても分かりかねるよ」

 

 

 確かに森のあちらこちらで弾幕が飛び交ってる。

 異変の時によく見る光景だ。いや、異変の時ではなくても結構よく見る光景だけども。よくそれに巻き込まれるけども。

 

 

「自然現象、ねぇ……それってつまり私達いらないんじゃない? いらないでしょ。いや、いるはずないわ。だって自然現象だもの」

 

「自然現象って決まったわけじゃないけどな」

 

「なんで霊夢はそんなにこの現象を自然現象って言い張るの?」

 

「だって自然現象なら態々解決しにいかなくて済むじゃない」

 

「うわ、異変解決を生業としている者としてはあるまじき発言」

 

 

 ほんと、なんでもめんどくさがるんだから……

 

 

「でもこんなに妖精が暴れてるんだよ? 博麗の巫女としては看過できないことなんじゃないの?」

 

「ふふ、妖精達も春の訪れに喜んではしゃいでるだけよ。それだけで退治されるなんて妖精達が可哀想じゃない」

 

 

 おう……さっき境内で騒いでた人と似たような事いってる。

 い、いや、そんなことより……

 

 

「れ、霊夢お前、本当にそう思ってるのか? ただ歩いてただけの妖怪を問答無用で退治する赤い通り魔であるお前が?」

 

「妖精に思いやる心があるなんて……」

 

「い、いやいや、トオル。これは霊夢の戯言だ。霊夢にそんな感情あるわけないだろ。あの霊夢なんだから。あったら天変地異ものだぜ」

 

「そ、そうだよね! あの霊夢だし、相手を思いやる気持ちなんてないに等しいよ!」

 

「因みに、さっきから『あの』って言ってるけど、それはどういう意味の『あの』なの?」

 

「無慈悲」

 

「非人道的」

 

「よし、あんたら、退治してやるから表に出なさい。お望み通りぎったぎたのぼろっぼろにしてやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~人里~

 

 

 結局、色々な事があって霊夢と魔理沙は異変解決に行った。

 色々は色々だ。いや、ほんと色々と、ね?

 ただ霊夢をからかうのはよくない。三途の川を見る羽目になる。

 

 

「はあ、はあ…………ふぅ、やっと落ち着いてきた」

 

 

 今、僕は人里にいる。勿論逃げ……じゃなくて、こんな異常な現象が起きたせいで、里の皆が混乱していないか確かめるためだ。

 まあそれは杞憂でなんだかいつも通りの人里だったんだけどね。

 ちょっと昼にしては人通りが少ない程度だ。

 

 

 さて、これからどうしようか。他の店は普通に営業中だし、回るのも良いけど……

 

 

「……お腹減った」グゥ~

 

 

 そういえば朝から何も食べてない。もうすぐ昼になるし、まずは腹ごしらえをしておこう。考えるのはそのあとだ。

 

 そうと決まればどこで食べるのか決めなきゃ!

 

 

「……あ」

 

 

 と、その場で立ち止まり、飯屋を探そうと辺りを見回すと、目の前に僕の仕事場であるうどん屋があった。

 ……急いでたからわからなかった。

 

 んー、自分の働いてる店でお昼か……

 

 まいっか。そういえば最近、作ってるわりにうどん食べて無かったし。今日はここでお昼にしようかな。

 そう考えた僕は店の暖簾を潜った。

 

 

「へいらっしゃ……お、トオルか。お前が客でくんのなんて珍しいな」

 

「こんにちは、大和さん……ああ、結構混んでますね。手伝いましょうか?」

 

 

 そして暖簾を潜った先には、図体が僕の2倍以上ある大和さんと、ほぼ満席になるほどの数のお客がいた。異変中なのに繁盛してるなぁ……

 

 

「なーに、休みの日までトオルに働かせられるかって。しかもお前は客で来たんだろ? 尚更働かせる訳にはいかんさ」

 

 

 そういって自分の胸を叩いてみせる大和さん。威勢がいいのはいいけどこの人、接客と会計以外、何も出来ないんだよなぁ……

 

 

「やっぱり手伝いま……」

 

「ほらほら、行った行った! 今空いてる席は……あ、あの赤い髪のねーちゃんとこが空いてるからあそこに座ってくれ」

 

「ちょ、大和さん!?」

 

 

 手伝おうと志願しようとしたら大和さんに背中を押されて奥まで行かされてしまった。

 いきなりのことだったのでちょっとよろめいて転けそうになる。

 

 

「大和さん! いきなり……」

 

 

 転けそうになったことについて大和さんを咎めようとしたが、大和さんの気はとっくに僕から逸れ、会計に勤しんでいた。

 

 

「はあ……」

 

 

 気づいてないのならそのまま手伝ってやろうかと考えたけどやはりやめた。どうせ調理場にいこうとすればまた大和さんに止められて揉めることになる。今の忙しい状況で揉めたりしたらお客さんだけでなく道義さん達にも迷惑がかかる。

 ここは素直にお昼を済まさせてもらおう。

 

 

「すいません。お隣良いですか? 他が空いてなくて……」

 

「ん? ああ、あたいは構わないよ」

 

 

 部屋の隅の席へと行き、そこに座っている女性に一言断って隣の席に座る。

 

 

「ん~……」

 

「どうしました?」

 

「いや、ちょっとね。ここの店初めてだからさ。何にしようか迷ってたんだよ」

 

 

 初めて? ……そういえばこの人、始めてみる顔だな。この店というより人里内ですら見たことがない。赤髪のツインテールで、着物っぽい服装に腰巻きと、こんな変わった人見たら忘れないと思うし。まあ、変わった人なんてこの幻想郷には巨万といるけど……

 

 

「そうですか……よければおすすめとか教えましょうか?」

 

「いいのかい?」

 

「はい、僕、ここで働いてるんでとびっきりのおすすめとか教えちゃいますよ」

 

 

 ついでにここのPRも出来るしね。

 

 

「おお、それは頼もしい。それなら是非とも…………あ?」

 

「ん? どうかしました?」

 

「あ、いや、ちょっと驚いてね_____こうも巧妙に人間に化けた妖怪がいたなんて」

 

 

 …………え?

 

 

「は、はあぁ!? ぼ、僕が妖怪!? そんなわけないでしょ!」

 

「他は騙せてもあたいには分かるんだよ。この眼でね」

 

 

 と、自らの紅い眼を指差す女性。

 意味が分からない。その眼には僕が妖怪に見えるってことなのか?

 

「ぼ、僕、人間ですよ。もし僕が妖怪ならもうちょっとのびのびと生きてます」

 

 

 そうそう、妖怪の殆どが人間よりも身体能力が高いんだ。僕ならそれを活かした職に就くね。

 

 

「ふぅん」

 

 

 と、テーブルに肘をつきながらジト目で見つめてくる女性。これは完全に信じてない顔だ!

 

 

「な、なんですか。嘘ついてませんよ。大体僕が嘘をいってなんの利点があるんですか? 人里は友好的な妖怪なら受け入れられてるし」

 

「それでも妖怪だとなにかと不便なものさ」

 

「妖怪じゃありませんって」

 

 

 そうかいそうかい、と女性はにやにやと笑いながら受け流してくる。くっ、冗談じゃないのに……

 ていうかこの人ってほんと何者なんだろうか? あの人の眼になにか特殊能力らしきものがあるというのなら間違いなく普通の人ではないだろう。よく見たらこの人の横の壁になんかでっかい鎌かけてあるし……絶対普通な人じゃないよ、下手しなくても変な人だよ。

 

 

「なぜあたいがあんたの事妖怪だって言いきってるのか知りたいのかい?」

 

「ま、まあ、はい」

 

「よし、んじゃ、今日一日あたいに付き合いな。そしたら教えてやる」

 

「はぁ!? なんで僕が……」

 

「なーに、ちょうど話し相手が欲しかったところだったんだよ」

 

「貴方、僕の事を妖怪って言ってるのにそんな奴に付き添いを頼むなんて……はっきりいって異常です。もしほんとに僕が正体をひた隠しにしている妖怪だったらどうするんですか。口封じに殺されるかも知れないんですよ?」

 

「ほほう、そりゃ怖いねぇ」

 

 

 と、けらけら笑う女性。

 くっ……この人、完全に僕の事なめてるな! ……くそう、なめられてると分かっててもやり返せそうもない僕が恨めしい……

 

 

「んで、どうするんだい? あたいの提案に乗るか乗らないか」

 

「乗りません」 

 

「え、え~……そこは乗ろうよ、ノリ的にもさ!」

 

 

 …………あれ?

 

 

「……今の、掛けましたか? 場の空気の『乗り』と提案についての『乗り』を」

 

「…………偶発だよ」

 

 

 まあ、今のが意図的に言ったのかどうかなんてどうでも良いんだけどさ。

 ……あ、いや、ある。今この女性は若干だけど狼狽えた。

 さっきの仕返しだ。僕が妖怪だって散々言ってきたからね。僕の声に耳を傾けないこの女性にちょっと悪戯してやろう!

 

 

「いやいや、今さっき貴方若干どや顔で____」

 

「おいトオル、注文は決まったか?」

 

「え? ああ、まあ、はい」

 

 

 女性に対して問い詰めてやろうとした瞬間、ちょうど良すぎるタイミングで大和さんが注文を伺いに来た。

 

 

「お嬢ちゃんもさっきまで悩んでたようだけど何か決まったか?」

 

「ああ、この坊やと同じのにするよ」

 

「お、そうか。てことはこのべっぴんさんの舌を唸らせるのはトオルの注文次第ってこったな」

 

「いや、厨房にいる道義さんと店長です」

 

「うどんの種類だって人によって良し悪しがあるもんだろ?」

 

「うちのうどんはどれも美味しいです」

 

「おう、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 

 

 ちょっと身内贔屓をしてるけどね。少なくても僕はこの店は里一番のうどん屋だって思ってる。

 

 

「んで、あんた……トオルだっけ? トオルは何を頼むんだい? あたいお腹空いたよ」

 

「あ、はいはい」

 

 

 そういえば僕もお腹が減ってたんだった。

 

 

「よし、それじゃあ_____」

 

 

 

 この時点での僕はまだ知らない。

 

 ___うどん屋で出会ったこの女性のせいで、とんでもない目に遇うということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____________________

 

 

 ~無縁塚~

 

 

 とある川のふもと、水の流れに揺らぐ小舟を呆然と眺める少女がいた。

 

 

「……」

 

 

 それから暫く時間が経った頃、少女が両手に持つ笏が小刻みに揺れ、顔を俯かせ、顔色がみるみるうちに紅く染まっていく。

 

 

「小町……」

 

 

 そして、普通ならば目の前の小舟に乗り、幽霊を運ぶ仕事をしているはずの船頭の名を呟き___

 

 

「今日という今日は……絶対に許しません!!」

 

 

 無縁塚の隅まで届くかのような怒号を鳴り響かせた。

 

 

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