「蒟蒻と卵、あとがんもを一つずつね」
「んじゃ、あたいは熱燗おかわりで」
「は~い、ちょっと待っててね~」
虫の声が飛び交う夜道の隅で、僕と小町は妖怪御用達の癒着店でお酒を呑み交わしていた。厳密に言うと呑んでるのは小町だけで、僕はこの店の料理を漁ってる。
「ん~、美味い。この八目鰻の串焼き、どんな秘伝のたれをつかってるの?」
「そ~れは企業ヒ ミ ツ♪知りたきゃ自分で研究あるのみ~」
この所々リズムに乗せた口調になる店主、頭悪いように見えるけど、しっかりしている。この店の味がそれを物語っているからね。頭悪い奴が作れるような味じゃない。
「やっぱりあたいの言った通りはまっちゃったね、トオル」
にひひ、と若干顔を紅く染めた小町が痛いところを突いてくる。
「それほどまでにこの店の味が僕の舌を唸らせたって事だよ」
「嬉しいこと言ってくれるわね~。はい、蒟蒻と卵とがんも、サービスでもう一個卵つけてあげるわ」
「ありがと」
店主からおでんの具の入った小皿を受け取り、まずは匂いを確認する。
うん、実におでんらしい匂いだ。まだ少し肌寒い日が続いてるから、こういった冬の風物詩の代表格を見てしまうとつい頼んじゃうよね。
「うん、出汁が染み込んでて美味しい」
こう、少し冷えた身体を芯から暖めてくれるような感じがする。真の冬嫌いである僕にとって心強い味方だ。
「具材とかどうやって集めてるの? 確かに練り物とかのおでんの具材なら人里でも手に入るけど……」
「鰻とかは自分で捕まえてるわ。流石に調味料とか手間暇がかかりすぎたり作り方がわからないやつは人里で済ませてるけどね~」
「ふーん、鰻とかは自分で捕まえてるんだ。よくそこまでして店建てようとか考えたね」
蒟蒻を口に含みながら何気ない質問をする。実を言うと僕はこの店のことに今かなりの興味心が湧いている。
今の質問以外にも、何故こんな所に店を構えているのかとかこんな道の隅に店を構えてるのかだとか。あと、見るからに鳥系の妖怪なのに卵とか出してもいいのかってことも聞きたい。
「それはやっぱり焼鳥撲滅のためよね~。仲間を食べられるのなんて耐えられないもの」
「ミスティアは健気だよねぇ。同種の為に態々こんな店まで建てて。
あたいとしちゃ旨い飯に旨い酒を出してくれたことに感謝してるけどね」
ミスティア、てこの子の名前かな?
それにしても焼鳥撲滅のため、か……うん、ちょっと罪悪感。昨日の夕飯鳥鍋でした。うわぁ、今後鳥肉を食べる時この子の顔が浮かんできて食べづらくなるな、これ。
「はい、熱燗。呑みすぎないようにね~」
「大丈夫大丈夫、あたいはこれでも酒は強い方なんだ」
「あ、僕お冷」
小町はがっつり呑んでるけど僕は飲めないから水で我慢。
隣で飲まれるだけでもほろ酔い気分になるほどお酒が弱いからね。
そう思いながら渡されたお冷を口にしていると、小町が呆れたようにため息を吐いた。
「はあ、ほんとに酒が呑めないんだね。ずっと冗談だと思ってたよ」
「お酒弱いから仕方ない。別に呑みたいとも思わないしね」
「そりゃ人生の大半を損してるよ。多少弱くてもずっと呑んでれば強くなるんだ。ほら、酌してやるから呑みな」
「無理無理、こんなところで倒れたくないよ」
「むぅ」
酌を断ると拗ねたような表情になる小町。
乗りが悪いのは分かってる。前にも茂と呑みに行ったとき同じような反応をとられた。
「あ、お酒と言えばこんなの作ってみたの!」
そう言ってミスティアはしゃがみこみ、下の物置の中から1つの酒瓶を取り出した。
「なんだい、それは」
「ふっふっふっ、これはあの伝説の雀酒よ。まだ試作段階だけど呑んでみる?」
「雀酒? 雀が墓に供えられていた米粒を青竹の切り株に置いて放っていたらできたっていうあの雀酒があるってのかい?」
「あ、その伝説知ってる。確か米粒の存在を忘れてたんだよね。それで水が溜まって発酵したぐらいに思い出して飲んでみるとあまりの美味しさに宴会になって連日躍り続けたんだよね」
「それをベースに作ってみたの~。まだちょっと味見したぐらいだけどとても美味しいわよ」
雀酒か。酒好きにはたまらないだろうその逸品。小町が自然に涎を垂らすほどだ。きっと旨いに違いない。しかし僕はアルコール度数の弱いお酒でも泥酔する程超お酒が弱い。
ミスティアが持っている雀酒に興味は十二分にあるのだけれども、どうしても体質がそれを拒んでしまう。
「試作品なんて問題じゃない。雀の作った酒なんだ。それは正真正銘雀酒だよ」
「あ、雀の妖怪なんだ」
「夜雀よ~♪」
「はあ~、ほんと、今日は思わぬ収穫だね。ますますここに通ってしまうじゃないか」
そう言いながら熱燗を飲み干す小町。
やけに上機嫌だね。まあ、伝説といわれているようなお酒があるんだ。無理もない。
……なんかほんとに自分の体質が嫌になってくるよね。いっそのこと酔い潰れる覚悟で呑んでみようか。
「はい」
「ん、ありがと」
自爆覚悟で呑もうか悩んでいるうちに、ミスティアが小町のお猪口に雀酒を注いでいた。
「貴方は呑まないの?」
「あ、う~ん……」
「呑みなよ、少し酒が弱いってだけで呑まないのは損だよ」
その少しで倒れるから危ないんだよね……
でもまあ___
「一口ぐらいなら」
「そうそう、一口ぐらいなら全然平気平気」
「それじゃ、これに注ぐね~」
そう言ってミスティアは竹で作られたコップに雀酒を注ぐ。
あ、ちょ、多い多い。絶対に呑みきれない。
「呑みきれなかったらあたいが呑んでやるからさ。ほら、ぐいっと」
小町はどれだけ僕にお酒を呑ませたいんだ……
お酒の入った竹のコップを受け取り、透明の液体が眼前に写る。
う~ん、ほんとに一口なら大丈夫なのだろうか。これが萃香の持ってるお酒と同じ濃度だったら確実にブラックアウトするね。
「くはあぁ~! これが雀酒かい! やっぱり他の酒とは一味違うねぇ」
僕が呑むのを待ちきれなかったのか、隣で呑み始める小町。
「ほら、トオルも呑みな。そんなに度数も高くないから、あんたでも大丈夫だと思うよ」
「う、うん……」
度数が高くないのなら、少し酔うぐらいで済むかな? お酒は呑みすぎると毒になるけど少しならストレス解消にもなるらしいしね。大丈夫、前に何度か呑んだことはあるんだ。
「いや、でもこの前も魔理沙と呑んだとき一口で倒れた記憶が…………」
「さっさと呑みな!」
「んぐっ!?」
全然呑まない僕に痺れを切らしたのか、小町は僕からコップを取り、口の中にねじ込んできた。
それにより入ってくる液体を僕は口内で受け取り、口いっぱいに何かが溜まる感覚に遭い、思わず飲み込んでしまう。
瞬間、喉に熱い感覚がし、お腹の辺りで静止する。
「っひく……小町、いきなりなにするんだ」
「ぐずぐずしてるからさ。旨かっただろ?」
「味わ……ひっく! う暇もなかったよ」
「うわ、顔赤!? 酒弱いの本当だったんだね……」
味わうことも出来ず、ただ酔う羽目になるとは……ああ、頭が痛くなってきた。
「大丈夫? お冷だそうか?」
「うん……あと梅干しある?」
「あるけど。どうして?」
「あれ食べると少し楽になるんだ……ひっく」
梅干しは酔いに効くとよく霊夢が酔い覚ましに食べていた記憶がある。僕は断然蜂蜜派だけど、この店には蜂蜜は無さそうだしーー偏見だけど。
それに霊夢が言っていたことが本当なのか試す事も出来る。これで酔いが治まらなかったら霊夢に文句いってやる。
「はい、梅干し単品だと酸っぱいだけだと思って大根もつけといたわ」
「ありがと……」
接客サービスもしっかりとしてる。この店は下手しなくても人里にある居酒屋の中でも一、二を争うレベルで良い店だよ。
そうしみじみに思いながら梅干しを箸で少し潰し、大根に塗って食べる。
「大将、僕、またこの店来るよ」
「大将? 私は大将じゃなくてミスティアよ」
「いや、大将と呼ばせて。ミスティアならこの幻想郷の中の居酒屋大将になれる! いやなるんだ! 僕はそれを見越して君のことを大将と呼ばせて欲しい! ……ひっく」
「お、それはあたいも思った。まだ発展途上だけどこの店はもっと良くなる。あたいもミスティアの事大将と呼ばせてもらうよ」
「そんな二人して……もう! 照れちゃうじゃない! あ~、今日は気分が良いわ~! お客さん達には特別に私の十八番の歌聴かせてあげる!」
「お~! 大将歌えるの?」
そういえば僕が引きずられているとき大将がなにか歌ってたような気がする。まあ、口調も時々歌ってるような感じになってたし、薄々気づいてたけどね。
「トオル、大将の歌を聴くの止めた方がいい。鳥目になるよ」
「鳥……ひっく目?」
「夜に何も見えなくなることさ。夜雀の歌を聴くと視覚を失うよ」
「大丈夫~♪そうなったら八目鰻食べれば治るから~♪」
「それなら大丈夫だ! あははは!」
「(完全に酔ってるね……)トオルがそれで良いのなら何も言わないけど……」
鳥目なんて気にするもんか! まず僕の能力で身体に害を及ぼすものは無効化できるから大丈夫。安心して大将の歌声を聴くことが出来る。
「それじゃあいくよ~!」
「待ってました!」
「……後で痛い目見ても知らないよ」
ーーー
~夜道~
「うえ~、吐き気がする……」
「あの後調子に乗ってもう一杯雀酒呑むからだよ……というより目は大丈夫かい?」
「う~ん、見えづらいけど月明かりでなんとか見えるよ……うっぷ」
僕と小町は現在、大将の店を後にし、見通しの良い一本道を小町に肩をもたれながら進んでいた。
あと小町、目については僕の方が君が鳥目になってないことに驚きなんだけど。
「それで、次は何処に連れていこうっての? もう帰りたいんだけど」
「トオル、完全に約束のことを忘れてるよね」
「え? いつ約束なんてしたっけ?」
そういえば何か約束かなにかしたような記憶があるけど、頭がそれを思い出させる働きをしてくれない。なんだか今ふわふわした気分だし。
「あたいがあんたのことを妖怪だという理由を教えることだよ」
「ん? ん~……あ、そういえばそうだったね。完全に忘れてた」
「だろうね」
そうだったそうだった。そういう約束で今日一日小町の散策を手伝ったんだった。
ん? 小町が里の地理に疎いから僕が案内するって言ってたのに結局鈴奈庵しか案内してなかったんだけど……
「今から行く場所でその答えを教えてあげるよ」
「……なんで態々移動するの。今ここで言えば良いじゃないか」
「それじゃあ雰囲気がでないだろ?」
雰囲気の問題ですか。いやでも早く着いてくれないと僕寝てしまうよ? 歩きながら寝るという高等テクニック見せちゃうよ?
「うぷっ……」
と思ったら吐き気がしたから眠気が少し飛んだ。眠気と吐き気のダブルパンチなんてもう最悪だよ……どうしよう、もし寝てる間に吐いたら起きたとき凄いよね。だって起きた瞬間に異臭がして辺りを見回すと____いや、これ以上は考えただけで吐きそうだ。とりあえず眠らないように努めなければ。
「あと少しだから頑張りな。目的地___三途の川までもう少しだよ」
「……え?」
ーーー
~無縁塚~
「ちょっ、止めて!? 僕まだ死にたくないって!」
「なに怖がってんだい! 三途の川を見るだけで死ぬわけないんだよ!」
「渡らされたら二度と戻れないっていうじゃないか!」
あの小町の発言から数秒後、完全に酔いが引いた僕は逃亡を図った。
しかし予想通りと言うべきか、案の定小町に捕まり、担がれながら三途の川へ向かっていた。
今は無縁塚という変なガラクタが散乱しているし、彼岸花がちらほら生えてるし、紫色の桜が咲いているという摩訶不思議全開な場所の中を進んでいる。
「なんで三途の川!? まさか小町って死神!!?」
「やっと気づいたかい。大体の人はこの鎌を見れば一目でわかるんだけどねぇ」
「ってことは僕をお迎えにきたってことか! 連れていかれてるってつまりそういうことだよね!?」
「だから違うって。そもそもあたいはお迎え担当じゃないよ。あたいは三途の川で魂を比岸から彼岸へと渡す担当、つまり船頭をしてる死神だよ」
「ならなんで連れていってるの!?」
「だから三途の川へ渡らせはしないって。そもそも生者を彼岸へ連れていったら四季様に怒られる……」
四季様って誰だよ……
いや、それよりも小町の態度だ。見る限りじゃ本当に三途の川を渡らせる気はないようだ。見る限りではね。
でもまさか小町が死神だったとは……ただ者ではないとは思ってたけど、僕の予想の遥か斜め上をいってきたよ。
「小町、わかった。三途の川へ渡らせないってのは分かったから下ろして」
「逃げない?」
「うん、逃げない」
とりあえず下ろしてもらおう。流石に女の人に担がれてるところを知り合いに見られたら恥ずかしさで赤面どころじゃ済まないことになる。
「よいしょっと」
お年寄りの出すような声を発しながら腰を曲げて僕を下ろす小町。
ふぅ、漸く解放されたか。
______さて、と。
「じゃあね小町! 今日は楽しかったよ!」
「なっ!?」
解放された瞬間、僕は先程歩いた道とは反対方向へと逃げ出した。
ははは! 知り合ったばかりの人を信じるほど僕は馬鹿じゃないよ!
さっきは油断して捕まったけど次は能力をフル活用して逃げきってみせる!
「待ちな! 逃がさないよ!」
「いや、逃げられるね! 決心した僕はそう簡単には捕まらないよ!」
「決心するところが小さ過ぎるよ!?」
「それは言わないで!」
ーーー
「ほら、見えてきたよ」
「あれは……まるで彼岸花畑だね。彼岸花は深紅の花びらがとても綺麗だけどその反面全草有毒性で特に鱗茎は経口摂取すると酷い場合は死に至るらしいよ」
「それぐらい知ってるよ。前にそれで酷い目にあった」
僕と小町は今、彼岸花畑の前へと来ていた。こんなに彼岸花が咲いてるところなんてあったんだねーー異変の影響かもしれないけど。
無縁塚の入口付近にも結構彼岸花が咲いていたけどここは段違いに多い。
「いやぁ、それにしても流石は死神だよね! まさか瞬間移動してくるなんて! 驚きで開いた口が塞がらないよ!」
「あたいは二度も逃亡を図ったあんたに驚きだよ」
今言った通り、小町は僕が逃げてる途中に何度も瞬間移動をしてきました。ていうか距離を離したと思ったらいつの間にか目の前にいたりして気味が悪かった。小町の能力なのだろうか……
因みに瞬間移動されても何度か避けることは出来たけど、いつ飛んでくるか分からない恐怖やら普通に逃げる緊張感により息がすぐに上がってあえなく捕まりました。
「それにしても、てっきりトオルはあたいのこと信頼してくれてるもんだと思ってたよ」
「どこからそんな自信がつくんだよ……僕は会って一日の人をすぐには信じない質なんだ。特に知り合いの保証とかない人はそう簡単には信じない」
「それは悲しいね……」
悲しげな顔をされると此方としても気まずくなってしまう。
いや、でもこれは紫姐さん譲りだから……って紫姐さんを盾に使うのはよくないね。これは普通に僕の性分だ。
そんな会話をしながら彼岸花畑の中へと入った。
彼岸花畑の間には一本の舗装された道が一つあるのみで後は彼岸花で覆われていた。
「彼処のうっすら見える湖みたいのが三途の川だよ」
「あ、ほんとだ……」
薄暗くてよく見えないけど月明かりが反射してるからぎりぎり見える。
んー、確かに川っていうより湖だね。先が全然見えない。
「あの、もう一度聞くけど本当に三途の川を渡らせる気はないんだよね?」
「女に二言はないよ」
「それをいうなら男ね」
女に二言はないって……それが本当なら霊夢と魔理沙は二言をかなり言うから女ではないね!
「……」ビクッ!
「ん、急に震えてどうしたんだい」
「ごめんなさいすいません。お二人ともご立派な女性です」ブツブツ
「?」
駄目だ、悪寒が止まらない。いや、ほんとあの二人を悪口言ったら大変な目に遭うね。まさかこの場にいないかつ声に出してもないのに悪口を察知して殺気を当ててくるなんて。下手しなくても人間業ではない。
「さて、そろそろ三途の川だけど」
「うん……」
「話すのはそこの岩場でいいかい?」
そう言って小町が指差した場所は一本道の脇に自然に置かれていた大きな岩だ。
「え、なんで?」
「ここがこの彼岸花を一望できる絶景ポイントだからだよ」
「どんだけ雰囲気を出したいんだよ小町は……」
男勝りな性格だと思いきやこういうロマンティストな一面もあるんだね。僕はそういうの全然気にしないから分からないや。
「さてと……漸く目的地に着いたわけだけど」
「はあ、まさかこんな夜中まで付き合わされるとは思わなかったよ」
「そりゃあ悪かったね」
まあ別に遅くなっても危険な目に遭わなければ大丈夫なんだけどね。
それに今思ったけど今日は帰れそうも無かったし。だって霊夢今日かなり怒ってたもん。
「……不思議なもんだね。力も外見もなんら人間と変わらないのに」
僕の方を凝視しながら大岩に腰を掛ける小町。
「一つ質問していいかい?」
「ん?」
「トオル、あんたにとって人間と妖怪の違いはなんだと思う?」
人間と妖怪の違い……なんでそんな質問をしてくるのだろうか。意図が分からない。
「人間と妖怪の違いね……生物の理を越えてるか越えてないかじゃない?」
ん、そうなると空を飛ぶ人は理越えてるから妖怪になってしまう。あ、またあの二人の顔が思い浮かんできた。
「まあ、そういう見方もあるね。ある人にとっては説明のつく者か否かだったり、また他の人は存在するか否かだったりと、人間と妖怪を区別してるかもしれない」
「……何が言いたいの」
「まあ、結論を焦るんじゃないよ。___それで、あたいなりの見解だけど、人間と妖怪は人としての理を越えているか否かだと思うんだよね。まあ、つまりあんたと
「そ、そう」
つまりは僕が空を飛べるから妖怪って小町は言いたいのかな? いや、確かに逃げるとき空を飛んだけど、小町は僕が飛ぶ前から妖怪だと言い張っていた。空を飛べるから妖怪だと言っている訳ではないだろう。
それに今、小町は僕の意見と『殆ど』一緒だと言った。殆どの部分をかなり強調していたから間違いない。恐らく、その殆どの部分が僕の意見と決定的に違うのだろう。
「人は強くなろうと思えば妖怪並みに強くなることが出来る。だけどね、そのような人外じみた力を得たとしても、『人間』の『枠』のままでは決して抗えないものがある」
「それは……?」
「寿命さ」
寿命?
「人の寿命は短い。妖怪からしてみれば瞬く間というほどにね。その短命はどうしても人間として生きていく限り切っては離せない存在なんだよ」
「妖怪と比べたらね」
紫姐さんや藍さんからはよく二人の昔話を聞かされたけど、どれも歴史上かなり古い年代物ばかりだったし。
「それで、小町は最終的に何が言いたいの?」
「今の話で察しはついただろうに」
察しも何も軽く信じられない気持ちに支配されていますが。いや、あり得な……くもないけど、それは流石にないでしょ。もし僕が今察したことが本当だとするよ? 僕の能力凄すぎでしょ。人の理越えちゃってんだよ? ーーていうかなんで僕って能力なんて持ってんだろうね。
しかし僕の力はそこまで強くはない。確かに相手の攻撃を避けれたり、自分にかかる異常を無効にしてくれる。
だけど疲れたら物理攻撃は当たるし、酔いや風邪とかの日常的な状態異常は普通にかかる。そんな理想的なのか現実的なのかわからないような能力なのに、
そうそう、あり得ない。意図的に僕がしたのならまだわかるけどそんなこと僕はした覚えがない。長く生きたいなぁとは思ったことはあるけど、実行はしていない。何故ならそれは生物の性だからね。だから能力を駆使してやったことはない。
だからあり得ない。僕の察しは検討違いだ、そうに違いない。
だとすると小町は本当に何が言いたいのだろうか。あ、もしかして僕が人里以外のところで住んでるからってことなん_____
「あんた、寿命が無いんだよ」
「なんで言っちゃうかな!?」
なんで言うの!? 今僕その事を検討違いだと処理してたじゃないか! もう少しぐらい希望を持たせてよ!
「あたいの眼は特別でね。人の寿命が見えるんだよ」
自らの眼を人差し指で差しながら寿命がないと言い切れる根拠を言う小町。
さすがは死神。そんな特殊能力をお持ちなんて少し羨ましいです。
……ていうかやっぱり僕の予想は正しかったのか。
僕に寿命がないってことが。
でもどうしてなんだろうか。さっきも言った通り僕は自らそう仕向けた覚えない。
「妖怪にも長いが一応寿命というものはある。なのにトオル、あんたはそれすらないんだよ。いったいどんな妖怪なんだい?」
「そんなの、僕に聞かれても……ていうか僕人間だよ」
もしかして能力が自動的に発動していたのだろうか……確かに老化はマイナスの状態異常だ。でもそれは仕方のないことであると思うんだけど。
そういえば老化を避けているのを止める事って出来るのかな? 一回やってみるか。
「はっ!」
「ん、なにやってんだい?」
「どう? 今僕の寿命」
「変わらず何も見えないよ」
駄目か。んー、どうしようか。別に困ることでもないけど、小町から妖怪呼ばわりされるのはなんか癪だ。
「いや、ちょっと待てよ。霊夢にこの事知られたら殺されるんじゃ……」
親族に妖怪がいたら博麗の名が穢れるわ! って言われて消されるかもしれない。……流石にそこまではないか。少々ぼこぼこにされて骨の十本程折られるぐらいだと思いたい。
あ、想像しただけでも恐ろしいや。
「あ、寿命見えた」
「え?」
まじですか。霊夢効果絶大過ぎるよ……
「どうなってんだい。寿命が消えることはあっても消えてるものが現れるなんて、死神人生の中でも初めてのことだよ」
心底驚いたように眼を開く小町。手を顎に当て、まじまじと僕を見ている。
「まあ、僕は常軌を逸した存在だからね」
「あんた、その言葉の意味分かってるのかい? 自分のこと常識外れって言ってるんだよ」
「あ……」
特別な存在って言おうとして間違えてしまった。
まあよくあることだ。
「んじゃ、事も済んだことだし帰るね」
「あたいとしてはこのあとまた一緒に酒を飲みたいんだけどね」
「勘弁して。折角酔いが覚めてきたのに」
ほんと、今日ってただ遊んだだけだったね。結局異変の原因のわからないまま一日が過ぎていった。別に捜していた訳ではないけど。ほんと、今回の異変ってなんなんだろうね。
四季折々の花が咲くなんて。
そう思いながら僕は先程まで歩いていた道をそのまま戻ろうとした。
そう、戻ろうとした。だけど、その動作は次の何者かの怒号によって遮られた。
「小町ぃー!!!」
「ひっ!? あの声は……四季様!」
「四季様?」
そういえばさっきも小町、四季様がー、とか言ってたような。誰なんだろうね。小町が怯える四季様って。
「やっと戻ってきましたね!小町!」
そう言って三途の川の方面から駆け寄ってくる一人の少女。
うわ、いかにも閻魔様(女ver.)っぽい衣装って感じだ。緑色の髪が全体的に右側の方が長いし、カットに失敗したのかなって心配になる。いやでも何故かそのよく分からない髪型でもあの子にマッチしている。何でだろうね、美少女ならなんでも合うってことなのだろうか。身長は僕と同じぐらいで、何かの紋様の書かれた笏を持っている。
……この人が小町の言っていた四季様で間違いないようだ。目の前にいる小町がとてつもなく怯えてるし。
「し、四季様。なんでこんなところに……」
「全然魂が運び込まれてこなかったからに決まってるでしょ! それにこの魂の数! 貴女はいったい何を考えてるんですか!?」
「きゃん!」
小走りからのジャンピング笏アタックを小町の脳天に決めた少女は、そのまま倒れた小町に馬乗りになり身動きを取れなくする。
「この花々をよく見ればわかるでしょう!」
「えっと___あ……」
花を見た小町はそのまま顔色が驚愕に染められたまま制止する。
ん、花に何かあるのかな?
「そうか、これは60年に1度起こる幽霊の増加によるものだったね……完全に忘れて綺麗だとしか思わなかったよ……」
60年に1度起こる幽霊の増加? 何それ初めて聞いた。
「そもそも貴女が仕事をサボらなければ済む話だったんですよ!」
「ひいぃ!」
「今日一日何をしてたんですか! いや若干お酒臭いからどうせ癒着店巡りでもしていたんでしょう! まったくこの頃の貴女の行動には目が余りすぎる! なんですか? そんなに私に怒られているのですか!? もうこれ以上は私も貴女を見ていられませんよ! 本当は私だってこんなには言いたくはないんです。しかし貴女が何度言っても聞かないから言わなければならなくなるのですよ! 休暇だってちゃんと与えている筈です。なのに職務怠慢を犯すのはなんでなんですか!! 今回の異変については、行動もタイミングも最悪です! 金輪際休暇を与えなくしてもいいんですよ!」
「ごめんなさい、許してださい~」
「いいえ許しません! 今日という今日は私の堪忍袋の尾も切れました! 貴女は今回の異変の事態が収まり次第クビにします!」
「そ、そんな!?」
お、おう。僕は今見てはいけない瞬間を目の当たりにしているのではないだろうか。
「ちょっと待ってください。小町をクビにしないでください!」
「トオル、あんた……!!」
さすがに一日限りとはいえ、友人となった小町がクビにされるところを黙って見て置くわけにはいかない。
「部外者は黙ってなさい!」
「あ、はい。口出ししてすいませんでした」
「トオル、あんた……」
小町さん、絶望に染められた顔を此方に向けないでください。
いや、だってこの人の顔、まるで閻魔大魔王のような形相でとてつもなく怖かったもん。一瞬向けられただけで汗が止まらなくなった。
「ん、貴方は博麗通ですね。丁度良かった。貴方にも用事があったのです」
「え、僕に? ていうかなんで僕の名前を……」
「まあ、取り敢えずそこに正座しなさい。話はそれからです」
「正座って……土の上に?」
「座りなさい」
「はい!」
いかん、この人の睨みは全ての思考を停止して従ってしまいそうな眼光だ。今も思わず従ってしまい、その場に正座してしまった。
僕が正座したのを見て少女は小町から退き、僕の前に立つ。
何とも言えない緊張感。小町は退かれた瞬間正座の体勢に入り、僕は思わず唾を飲む。
「まずは自己紹介をしましょう。
私の名前は四季映姫・ヤマザナドゥ。四季は姓、映姫は名、ヤマザナドゥは役職名です」
「は、はあ……知ってると思いますけど博麗通です」
「さて、自己紹介を終えたので本題に入りましょう」
な、何を言われるのだろうか。僕と映姫さんは初対面な筈。でも何故かこの人からは何でもお見通しというかのような迫力、オーラがある。
「貴方は人生を何だと思っているのですか?」
「はい?」
「貴方は今、寿命が____え……ある?」
あ、この人、もしかして小町と同じこと言おうとしていたのかな? それなら今言おうとしたことが詰まったのにも頷ける。
「あ、何故だか分からないんですけど、小町が言うには寿命が現れたらしいです」
「そ、そうなんですか……ならばそれを踏まえて言わせてもらいます」
「はい……」
「貴方はあまりにも楽観的過ぎる。別に楽観的であることが悪いというわけではありませんが、度が過ぎれば話は違います。貴方は自分が置かれている環境を理解していない。博麗の巫女がいるから、自分に能力があるから、等と高を括り、あの神社にずっと住んでいては、自立出来ない上、自分の生存率を下げる事にも繋がります。自らの身体を大事にしない事は決して良い行いとは言えません。
そして今の寿命についても同じことが言えます。おそらく寿命についてのことを楽観視していたのでしょう。だから能力を使ってころころと寿命の変更を行えているのです。もっと自分の人生と向き合いなさい。そうすれば自ずと生きる意義を見いだす事ができ、寿命が変更されることもないでしょう。人間が理を犯すことは大罪です。貴方はその大罪を知らぬ間に一度犯している。それを拭う事は出来ませんが、今よりましにする方法はあります。それは善行を常日頃から心掛けて行うことです。そうすれば彼岸で審判を下される時、今よりましな審判を下されるでしょう。
そういえば楽観的以外にもまだありました。そう、貴方は自由奔放過ぎる。そのせいで厄介事に何度も巻き込まれていますよね? もう少し自重しなさい。相手の身になって行動出来るようになれば上出来でしょう。
他にも貴方は______」
「…………」
言われ放題だ。でも思い当たる節があるから言い返せない。なんで映姫さんは僕の事こんなに詳しいんだ? まさかストーキングを……いや、それなら気づく筈だ。こんな圧倒的な力の持ち主なんて、いたらすぐに分かる。
映姫さんの能力かなにかだろう。もしかしてこの人、萃香の言っていた覚妖怪が何かかな?
そんな事を思いながら僕は、延々と続く映姫さんのありがた~いお話(説教)を聞いていた。
うん、これいつまで続くんだろう。
ーーー
~朝~
「それでは、私は戻ります。小町、貴女の処罰は今回の異変の働き次第で決める事にしてあげます。あと通、貴方はしっかりと善行及び注意したことの改善をすること。
分かりましたか?」
「「は、はい……」」
そう言って映姫さんは帰っていった。
いったいどれぐらいの時間説教されてたんだ……駄目だ、絶望感と疲れが相まって物凄く眠たい。
「すまないね、あたいのせいであんたまで巻き込んでしまって」
「ほんとだよ。まあ、長かったけどとてもためになる説教だったからいいけど」
「そうかい。あたいはもう聞き飽きたよ」
聞き飽きるほど説教受けてるのか。そりゃあ映姫さんも怒る筈だね。
「うっ……」
ああ、駄目だ。目眩がしてきた。今なら目を瞑れば一瞬で寝られそうな気がする。
「小町、もう僕帰るね……」
「うん、そうした方がいい。顔色が絶望的に悪いよ」
絶望的に悪いって。今の僕、どんな顔してるんだろうね。調べようにも鏡がないから調べられない。
まあ、それも眠れば元に戻るだろう。
「ふあ~」
映姫さんの時は幾度となく噛み殺してきた欠伸をかき、背伸びをする。
よし、後は帰って寝るだけだ。帰路は曖昧だけどとりあえず東を向かえば辿り着くと思う。
そう考えながら小町に手を振り、飛ぶ体勢に入ろうとした____その時、
「!!」ピクンッ!
「!!」ピクンッ!
何かの衝撃が脳裏に走った。特に痛みは感じない。しかし、底辺まで下がりきっていた高揚感がとてつもない速さで上がってくる感覚がした。
「な、なんだろう。これ」
「トオル、まさかあんたも身体に異変が起きたかい?」
「小町も?」
「ああ、何故だか心が踊るような、そんな気分になってくる」
まさか小町もか。本当になんなんだ? 何か変なものでも食べたのだろうか……
「うっ!」ピクンッ!
「!!」ピクンッ!
また一段階高揚感が……これは……これは……!!!
「……小町」
「……なんだい?」
「一緒に踊ろう! なんだかとても踊りたい気分なんだ」
「お、丁度あたいも踊りたい気分になったんだ」
「ふふ、小町は僕の踊りについてこられるかな?」
「ははは、望むところだ。ダンス勝負と行こうじゃないか!」
そう言って僕達は型もへったくれもない各々の滅茶苦茶なダンスを繰り広げ始めた。
ははは! さっきまでとは段違いに気分がいいなぁ! こんな踊りたくなるほどいい気分になったのは初めてだ!
「言い忘れた事があったのです、が____はあ!?」
「あ、映姫さん!」
「四季様! 一緒に踊りましょうよ!」
またもや三途の川の方面から現れた映姫さんは僕達の姿を見て呆気に取られた。そりゃあまあそうだろうね。説教した相手が数分後にウキウキで踊ってるんだから。
「ちょ、何馬鹿な事をいってるんですか! 小町! 今すぐその訳の分からない踊りを止めて魂を……」
「そんな固いことを言わずにほら! だいかいて~ん!」
「きゃああ!?」
説教されそうなところを小町が映姫さんの両腕を掴み、振り回すことで回避。
「く、クビです! 絶対にクビにしてやる!」
「それは困りますよ~」
「ならま、まず回すのを止めなさい!?」
「いいぞいいぞ~、もっとやれ~」
映姫さんが本当の焦り顔してる! 先程までの厳格な姿とは大違いだ! 楽しいな~!
このあと、映姫さんの本気の拳骨をくらい僕と小町の意識は仲良くブラックアウトしました。反省してます、ちょっとだけ。
ほんと、なんで急に踊りたくなるほど気分が良くなったんだろうね、不思議だ。
とにもかくにも、この日を境に四季折々の花は消えていくこととなった。
嬉しいような悲しいような……まあ妖精が暴れまわらなくなる事については少なくとも嬉しいけどね。
花映塚終了です!
いやぁ、13000文字も書くことになるとは思いませんでした。
最後の踊りについては雀酒を飲んだからです。
トオルの能力についてはいずれ言及します。