東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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52話 乙女な魔法使い

 

 

 紫姐さんのものらしき髪の毛を発見した次の日、僕は淡々と汁だけが残った器を運んでいた。

 

 

「……」

 

 

 今は仕事中、週に三回しか行っていないこともあり、一日を懸命に頑張らなければならない。ならないんだけど……

 

 

「あっ、すいません」

 

「おう、気を付けろよ」

 

 

 どうしても昨日のことが引っ掛かって仕事に身が入らない。

 まだあの髪が紫姐さんのものであるという確証がない。

 それでももし、あのとき紫姐さんがいたとすればまずい事態だ。

 隠そうとしていた本人に聞かれたとなれば、秘密を暴くのを防ごうとするのは当然。今回の場合で言えば紫姐さんとの接触だ。

 そう簡単には紫姐さんと出くわすことが叶わなくなる。

 

 

「確証を得るには___あれしかないよね」

 

「あっ!! トオルあぶねーぞ!?」

 

「えっ……うわ!?」

 

 誰かの大声が背後から聞こえ、何事かと後ろを振り向こうとした瞬間、前の方向から誰かにぶつかる衝撃が走った。

 

 

「すいません! 大丈夫ですか、大和さん」

 

「あ、ああ大丈夫だ。持ってた皿を割ったぐらいで済んだ。それよりお前は大丈夫なのか? 汁がおもいっきり服にかかってるが」

 

「あっ……」

 

 

 ぶつかってしまったのは店の先輩である大和さんだった。

 でかい図体のわりにすごく優しくて面倒見の良い先輩だ。普通目の前に熊のような図体してる人、見たらわかる筈なんだけど……それほどまでに注意力が散漫していたということか。

 

 

「ああ、仕事着が……」

 

「トオル、とりあえず着替えてこい。替えが今全部洗濯に出してしまってるからすまないが自分の服で何とかしてくれ。その間接客は俺がする___おい女性客ども、何興奮した目で見てんだ! 絶対に店の奥覗くんじゃねーぞ!」

 

 

 店長の息子である道義さんが颯爽と現れ、タオルを被せてくれる。

 うっ、僕のミスで皆に迷惑かけてしまった。

 

 

「すいません……」

 

「謝るぐらいなら動け。ちょっと今日は仕事に集中してないぞ」

 

 

 ここは一旦頭の中をリセットせねば。この状態ではいつまでも道義さん達に迷惑をかけてしまう。やることも決まったことだしこれから僕の本領発揮を見せなきゃ!

 そもそも公私を分けられないで仕事なんかできるもんか!

 

 

「はい! 頑張ります! あっ、お帰りですか? お会計はあちら___」

 

「あっ! ちょ、着替え___」

 

 

 通りすがった客に服にかかった汁が飛んで又しても失敗してしまったのはまた別の話。

 くう、今日は何やっても上手くいかない気がするね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 月明かりが辺りを照らすとある森の中。太陽と比べれば大分劣る緩やかな光は、鬱蒼とした木々の葉によって遮断され、申し訳程度に舗装された道は漆黒に包まれ、何がどうなっているか目視することが出来ない。

 

 

「よくこんなところに住めるよなぁ」

 

 

 そんな感想を漏らしつつ、僕は真っ暗な森に浮かぶ一粒の光へと向かっていた。

 その光は近付くにつれ実態を露にしていく。

 

 それは少し古い洋風の一軒家だった。周りには色んな物が乱雑におかれており、中には少し焦げているものもある___あれ、これパチュリーさんとこの魔導書なんじゃ……

 

 

「魔理沙のやつ、パチュリーさんに殺されても知らないからね」

 

 

 とりあえず魔導書は回収しておいてまた今度パチュリーさんに返しにいこう。

 

 そう、僕は今、魔法の森の中にある魔理沙の家に来ていた。

 仕事帰りだからかなり暗い時間帯になってしまったが、魔法の森は妖怪が殆んどいない。といっても化け茸が放つ瘴気が妖怪にとって気持ちが悪い場所らしいからだ。

 それは人間にもいえることなんだけど、僕の場合能力で効かないからちょっとしたセーフゾーンとなっている。

 

 

「明かりもついてるし、いるとは思うんだけど……」

 

 

 ただ、何故か扉の前で僕の危機察知センサーが行く手を阻む。

 なんだろう。僕の脳が開けたら絶対後悔すると報せてくる。

 しかし、これまでの経験上でどれぐらいの危険度かはわかるようになった。

 その見分け方の中で一番顕著に分かるのが距離だ。距離が遠いところから危険を報せてくるときは僕の命に関わる重大なことーー異変のときとか。

 逆に距離が近いところで危険を報せてくるのは、あまり重大な被害が及ばない場合が多い。多いだけでそれが全て軽い被害で済んだわけではないけどね。

 

 さて、ここで選択肢ができた。

 真実を知るためにちょっとした危険を伴うか、痛いのを避けて尻尾巻いて帰るか。

 ……これ、最初から答えは決まってるよね?

 

 

「うん、帰ろ」

 

 

 痛いのは嫌だ。確かにここまで来て帰るのはどうかと一瞬思ったが、無駄足ではない。パチュリーさんとこの魔導書が手にはいっただけでも大きな収穫だ。これを種にまた多くの本を図書館で読むことができる。

 それにまず魔理沙は週5でくるほどうちに入り浸っている。

 今日だってそのまま家に帰るか魔理沙の家に行くかどうか迷ったし。

 なにも此方からいかなくても勝手にあっちからくるだろう。

 

 これを踏まえたら僕の選択に間違いはないと改めてわかる。

 

 と、踵を返して魔理沙の家のドアを背に向けようとした瞬間___

 

 

「どわはぁぁ!!?」

 

 

 ___ドアを突き破って誰かが僕に衝突してきた。

 それだけでも僕の態勢を崩すには充分だというのに、だめ押しとばかりに爆風が僕ともう一人の誰かを巻き込んで吹き飛ばした。

 あー、うん、なんとなくこうなることわかってた。ここまで来て無事に済むわけないですよね、はい。

 

 

「いでっ!!」

 

「うっ……」

 

 

 木の根本に背中を打ち付け、漸く転がる身体を止めることに成功。犠牲として背中にいた誰かが僕のクッションとなった。

 

 

「まさか魔理___アリス!?」

 

 

 木と僕のサンドイッチを食らった人物から即座に離れて誰なのかを確認してみたところ、ここのわりと近所に住んでいる自称都会派魔法使いのアリっさんが木の根元でのびている光景が目に映った。

 

 

「こ、これは中々に見られない光景だ! いつもクールぶってるアリスが目を回してお惚けな顔を晒してる!」

 

 

 ああ、こんな時に射命丸さんのカメラがあればフィルムが尽きるまで撮るのに……

 

 

「おーいアリスー。大丈夫か……ってトオル、なんでいるんだ?」

 

「あっ、魔理沙」

 

 

 アリスの普段では決して見られない姿を目に焼き付けていると、煙が吐き出されている玄関から家主の魔理沙が出てきた。

 

 

「ほら見てよ魔理沙。アリスがアホ面晒してる」

 

「おっ、ほんとだ。写真撮って人里にばら蒔いたら面白そうだな」

 

 

 おっと、魔理沙は僕の更に上をいってきたか。中々のゲス野郎だ。

 

 

「あんたら、労るって気持ちがないの……」

 

「あっ、起きた」

 

「もうちょっと気を失ってても良かったんだぜ?」

 

 

 気にもたれ掛かりながらなんとか立ち上がるアリス。

 まだ視界がぼやけているようで、ふらつきながら頭を抱えている。

 

 

「で、トオルはなんでここにいるんだ?」

 

「うん、ちょっと魔理沙に聞きたいことがあってね。立ち話するのもなんだし家に入ろうよ」

 

「その前にあんた達肩を貸すぐらいしなさいよ。こっちは背中と頭をうって今にも倒れそうなのに」

 

「そうだな。トオルの台詞は完全にこっちが言う事なんだがまあいい。とりあえずアリス肩貸すぜ」

 

 

 僕も最初からそのつもりだ。打つ威力を増させたのは僕みたいなもんだし。

 

 

「ごめんね、アリス。君がダイナミック抱擁を受け止められなくて」

 

「そんなわけないでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「い、いやぁ、派手に荒れたなー」

 

 

 魔理沙の家に入った矢先、僕は溜め息を吐いた。それが家の中の散らかりようを見ての感想であることを魔理沙も分かったようで、慌てて誤魔化した。

 

 

「元々このぐらい散らかってなかった?」

 

「埃が舞った程度でさっきと大差ないわね」

 

「二人して酷いぜ」

 

 

 あのときのアリスを吹き飛ばした爆風が、新種の茸の実験の最中による事故だということはこの家に入る前に聞かされたーー因みにアリスはその新種の茸の発見者で実験を手伝っていたとか。基本的には魔法使い同士で研究とかはしないそうだけど、アリスいわく食べられる茸かそうでないのかを聞きに行ったら手伝わされた、とのこと。

 ……余談はさておき、僕はこれまでに何度か魔理沙の家に入ったことがある。

 しかし、爆発が起きた今と、この前来た時とあまり散らかりようがまるで変わっていない。

 床に散らばる服や紙切れ、どこからか拾ってきた珍品、書棚に入りきらずテーブルの上に積み重なった本の数々、まだ洗われていない食器の山ができた台所。

 生ゴミ等はちゃんと捨てているようだけど準ゴミ屋敷といっても過言ではない。

 

 

「ていうか魔理沙、そこら辺に落ちてるものを拾いすぎだよ。もはや家に入りきれてないでしょ。だからパチュリーさんとこの魔導書も外に置く羽目になったんじゃないの?」

 

「魔導書? 魔理沙あんた、魔導書を粗末に扱うなんて魔法使いとして失格よ。ま、私はあんたを魔法使いと認めてないけど」

 

「ち、違うんだ! 魔導書を外に置いてたのは部屋に入りきらなかったんじゃなくて、部屋で実験するから危ないと思って外に避難させたんだ!」

 

「ほんとに?」

 

「嘘じゃないぜ。私の魔法使いとしてのプライドに誓ってない」

 

 

 魔理沙のプライドってあってないようなもんでしょ、と言ったら流石に殴られそうだったので心の中で留めておく。

 

 

「まあいいや。別に僕は魔理沙の家をボロクソに貶すために来た訳じゃないし」

 

「いや、ほんとはもっと整理してたんだぜ? トオルとアリスが来たタイミングが悪かっただけだ」

 

「ちゃんと整理してるときっていつなのよ」

 

「アリスとトオルが来てないときはいつもな」

 

「つまり掃除してないと」

 

 

 はあ、折角『手土産』も持ってきたのに……これは渡す前に大掃除だね。

 もう外も暗くなってきてるけど、ちゃんと一度家に帰って霊夢に許可をとったから遅く帰っても問題はない。

 

 

「……掃除するか」

 

 

 そう言って僕は床に落ちたゴミを拾い上げる。

 これはやりがいがあるとは言えないぐらいのゴミの量だ。一時間でゴミを纏めあげられるかどうか……まあ、三人いるし早く終わるだろう。

 

 

「そうね、このまま帰ってしまったから夢に出てきそうで嫌だし」

 

「おいおい、勝手に他人のうちを悪夢扱いするのは良くないんじゃないか?」

 

「そう扱われたくないならちゃんと物の整理ぐらいしなさいよ」

 

「家が大きければ仕舞えるスペースが空くんだがなぁ」

 

「大きくても一緒でしょ」

 

「お? なら試してみるか? アリスそういえばお前の家_____」

 

 

 結局二人の口論は僕が一人でゴミを外に出し終えるまで続いた。そのせいで予想以上の時間がかかってしまったけど、これは僕怒ってもいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「そういえばトオル、お前ずっと持ってるその箱なんだ?」

 

 

 掃除を終え、一息つくため椅子にもたれ掛かっていると魔理沙がそんな質問をしてきた。

 その怪訝気な眼は僕の前に置かれた長方形の木箱に釘付けだ。

 ふふ、そうだろう。魔理沙が興味を持つのも無理はない。爆風で吹き飛ばされてなお肌身離さず抱えていたものなんだから。

 

 

「ふふ、これの中身はお酒だよ。それもちょっとお高いやつ」

 

 

 名前は分からないが酒屋の中でも指折りのお値段のするお酒を買ってきた。だからなのか木屑入りの木箱に包装されて渡されており、いかにも高級そうな雰囲気をかもちだしている。

 

 

「トオルそれ、こいつの前に出したってことは……」

 

「うん、これを魔理沙にあげる」

 

「うお! ほんとか!」

 

 

 目を輝かせて僕の目の前にある木箱を手に取る魔理沙。中から取り出した酒瓶を見て再度驚き、にやけ顔で頬擦りしてる。

 

 

「いいのか? これもらっちゃって。こんなの霊夢の奴に知られたら暴君と化すんじゃないか?」

 

「大丈夫、僕のポケットマネーで買ったから」

 

 

 普通ならば絶対にこんなことには使わないだろう出費。だが、僕には解きたい謎がある。それを知るためにはまず、魔理沙の力が必要だ。

 幸い僕はお菓子類以外にあまり小遣いをつかっていなかったため、お金には余裕がある。最悪お菓子買うのを我慢すればいいし。まず備蓄が十分すぎるほどあって食べきれない。

 

 

「そうかそうか、トオルのポケットマネーか___っておい、トオルお前……」

 

「魔理沙、それ……」

 

「ああ、そうだよな。それしか考えられない」

 

「んっ、二人してどうしたの?」

 

 

 あれ、二人の反応が思ってたのと違う。魔理沙の事だから意気揚々にらっぱ飲みしだすと思ったんだけど。

 

 

「まさかトオル」

 

「ねえ、もしかしてトオル」

 

「ついに私に手を出そうと!?」「毒盛った?」

 

「……は?」

 

 

 なんか同時に聞き捨てならないような気がする……いや、気がするんじゃなくて二人ともはっきりと聞こえた。

 

 

「はっ、はああぁぁ!!? 毒って、手をだすて!!? そんなわけないでしょ!!」

 

 

「いや、だってさ。こんな夜に独り暮らしの女の家に酒持ってくるってそれ、絶対夜這いする気しかないだろ。それにトオルがわざわざ高い酒を私に買うメリットがない」

 

「魔理沙のは論外だけど私のは信憑性あるでしょ。日頃の恨みで下剤を盛ったってところね。それにトオルが魔理沙に高いお酒を買うメリットがないし」

 

「なっ!? 論外ってなんだよ!」

 

 

 なんか二人とも最後だけ同意見なんだけど。魔理沙に至っては自分で言ってて悲しくならないの?

 

 

「確かに魔理沙のは論外だよ。でもアリスのも検討外れだ。そもそも僕がそんな陰湿なことするわけないじゃないか!」

 

「と、トオルまでいうのか……!」

 

 

 陰湿なんて僕から最もかけ離れた存在だよ。僕は全うに生きて___

 

 

「この前霊夢から聞いたわよ。喧嘩したその日の夕飯に異物を混入させてくるって。それのどこが陰湿な嫌がらせじゃないと言える?」

 

「うっ、それは……」

 

 

 あっ、うん。全うに陰湿なことしまくってた。

 確かに喧嘩したときは、卵の殻やら灰汁をわざと霊夢のお椀にいれたり、量を減らしたり、果てには汁物に親指を突っ込んで渡したりしているけど……いやでも霊夢だって……やめとこう。言い訳にしかならなそうだし。

 

 

「そ、それについては認めるけどさ。下剤は盛らないよ。酒瓶を見ても栓を抜いた形跡もないでしょ」

 

 

 魔理沙から酒瓶を取り、栓が目の前にくるようにアリスの顔に近づける。下剤を盛るにしても栓を変えるなんて面倒な真似までしてやらない。なるならコップにこそっと入れる……やらないけどね!

 

 

「……ん、確かにそうね。それじゃあ尚更トオルの行動が意味不明だわ」

 

「さっき言ったと思うけど、僕が魔理沙の家に来たのは聞きたいことがあるからだよ。このお酒はもし魔理沙が渋って駄々こねだしたとき用の交渉材料として持ってきたんだ」

 

 

 お酒がちょっとお高くなったのは気紛れなんだけどね。

 まあ、魔理沙への日頃の感謝の印にってことで……あれ、魔理沙に感謝することってあったっけ?

 

 

「聞きたいことねぇ。魔法についてとか?」

 

「いや、些細なことなんだ。魔法使いなら得意分野と思って」

 

 

 そう言って僕は腰につけていた小袋から黄金色の髪の毛を取り出す。

 

 

「この髪の毛って誰のか分か……」

 

「げっ、妖怪の賢者の髪じゃない。トオルあんたそんなもの持ち歩いてたの? 趣味悪いわよ」

 

「……ん?」

 

 

 あまりの回答の速さに思わず固まる。

 えっ、なんでそんな即答できるの? ていうかアリスが凄く嫌そうな顔してる。止めたげて、紫姐さんが可哀想。

 

 

「なっ、なんでそれが……」

 

「そんなの、あのスキマ妖怪の残り香が残ってるからに決まってるじゃない。その程度なら魔法使いどころかその辺の化け狸でも分かるわよ」

 

「そうなんだ……」

 

 

 残り香って……この髪からは匂いなんて全然しないんだけど。

 妖気という意味でだろうか。

 

 

「そうか、やっぱりこれは紫姐さんの……」

 

「やっぱり? 何か心当たりでもあったの?」

 

「いや、なんとなくね。誰もいない神社にあがるのなんて萃香ぐらいだし。僕が部屋を空けた少しの間に出入り出来るのなんて紫姐さんぐらいだからね」

 

「ふーん、一応搾りはしていたのね」

 

「でも確証がなかった。だから魔理沙の家に来たわけ」

 

 

 まあ、魔法使いでなくとも分かってたのなら来る意味もあまりなかったけどね。

 それにしても紫姐さんの残り香がある髪……魔除け効果でもあるかもね。大妖怪である紫姐さんに近付こうとする物好きなんてそうはいないだろうし。

 

 

「良かったわね、魔理沙。こんなことで良いお酒が飲めるなんて。ていうか私が答えたんだから私にも飲ま___魔理沙?」

 

 

 魔理沙に話しかけたアリスが魔理沙の方を見て疑問符を浮かべる。

 ん? そういえば魔理沙、途中から全く会話に入ってこなかったな。

 何故だろうか……もしかして魔理沙、この髪の持ち主がわからなかったんじゃ! ……そう思いつつ僕もアリスと同じ方向を向いてみると、

 

 

「……」

 

「……えっ、魔理沙どうしたの?」

 

 

 椅子を外に向け、旦那を失った老婦人の如く哀愁に満ちた雰囲気で窓から見える夜空を眺めていた。

 なんで僕とアリスが話しているうちにこんな劇的に態度になってるんだ。さっきまで飄々としてたのに。

 

 

「いや、な。ちょっと私自身に思うところがあってな」

 

「貴女に思うところなんて巨万とあるわよ。主に悪いところね」

 

「ああ、そうだよな。アリス達のさっきの発言でつくづく思い知らされたよ。

『私って女としての魅力が皆無なんだなぁ』って」

 

「……!」

 

「それは……」

 

 

 魔理沙の今の発言___それは先程、魔理沙が検討外れの考えを二人して論外扱いしたことに傷ついたのだろう。

 考えてみればそれは一人の女性として傷つかないわけがない。

 さっきの僕とアリスの発言なんて、夜這い=論外=する価値がない。と言ってるようなものだ。

 自分に魅力がないと感じてあんな悲しそうな顔をしてるんだ。

 

 

「い、いや違うんだ! ほら、僕からして魔理沙ってもう姉みたいな存在でしょ? そんな姉弟なのに夜這いするなんてありえないって意味でさっきは論外って言ったんだよ」

 

「そうそう。そもそもトオルが夜這いする度胸なんてないじゃない」

 

「ちょっとまって。アリスそれは僕が傷つくやつ」

 

 

 僕が根性なしって言ってるようなもんじゃないか。

 

 

「それに魔理沙、トオルを使って自分の女らしさを測ったって無駄よ。乙女の家に朝っぱらから玄関を叩きまくるぐらい無神経なんだから」

 

 

 ぐっ、アリスめ。まだあのときのこと根に持ってるな……

 確か二日酔いの薬を届けるときにお茶目なことしたときのことをいっているのだろう。

 まったく、アリっさんもめんどくさいんだから。

 

 

「……くふっ、まさかアリスに励まされるなんてな」

 

 

 そう魔理沙が笑い、此方に顔を向けると、

 

 

「そうだよな。トオルなんかで自分を測っちゃ駄目だよな」

 

 

 とんでもない失礼を吐いてきた。

 

 

「魔理沙さん? それ結構僕に失礼じゃ___」

 

「あーもう! 悩んで損したぜ。トオルなんかで悩んだ私が馬鹿だった。さっ、酒だ酒。今日は飲むぞー!」

 

 

 ああ、魔理沙はてんで失礼だとは思ってないらしい。

 ちょっと下剤盛りたくなった。

 そんな僕の考えとは裏腹に魔理沙は部屋の奥から三、四本の酒瓶を持って戻ってくる。

 

 

「折角アリスもいるんだし皆で飲もうぜ」

 

「あら、話がわかるじゃない。勿論、つまみもあるのよね?」

 

「ふふ、うちにはつまみの茸が腐るほどある」

 

 

 二人でなんだか盛り上がってるけど、分かってるのかな? 僕お酒飲めないからただの茸試食会になるんだけど。

 

 

「勿論トオルも飲むんだぜ? ちゃんと水みたいに薄い酒も持ってきてやったんだから」

 

「因みにそのお酒は?」

 

「私特製、茸焼酎だ」

 

「帰ります」

 

 

 

 

 

 

 

 結局半ば強引に魔理沙特製のお酒を飲まされました。

 うん、確かに酔い潰れるほどではないけど、普通に不味かったし翌日腹痛でトイレから出られなくなった。

 もしかして魔理沙、下剤盛った?

 

 まあ、魔理沙に差し出されたものを受け取る事と同情は必要はないって教訓を得たことは確かだ。

 

 




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