更新がほんと亀以下で申し訳ございません(・・;)
さて、今回もトオルの能力回です。ほんとはあんまりこういう回は好きではないんですが、物語の進行上避けて通れぬ回なんでなんとか終わらせました(実は今回のような回が三回ほど続く)。
人の賑わう里の本道。その脇には多種多様な店が出店されている。
洋風スイーツ店、茶屋、米屋、酒屋等々、家自体はどれも和風建築だが、その店の種類は和洋折衷と混同されていた。
「ああ、あのべっぴんさんかい? 昨日大量に油揚げを買っていったよ。ほんと、あの人は油揚げが好きなんだなぁ」
「そうですか……」
僕はその中の一店である、豆腐屋に来ていた。
勿論、豆腐屋なのだから豆腐を買いに来たのは間違いないんだけど、今回はもう一つの用件があった。
それは紫姐さんの式である大妖怪、藍さんの足取りを掴むためだ。
藍さんはよくこの豆腐屋にて油揚げを購入している。
そのことも踏まえてここに来たのだけれど、一歩遅かったようだ。
ただ、藍さんが昨日来たということは、相当ここの油揚げを気に入っているよね。紫姐さんには僕と接触しそうな場所には近寄らないように指示されているだろうに、わざわざ危険をおかして買いに来ているのだから。
これは油揚げのストックが切れてまた来るのを待ち伏せするのもありかもしれない。
「ありがとうございました。あっ、豆腐2丁ください」
「毎度!」
ーーー
日も暮れ、博麗神社へと帰って来た僕はため息をついていた。
「なんか今日のお味噌汁、豆腐多くない?」
「ていうか今日の夕飯、豆しかないじゃないか。どうなってんのさ」
当たり前のようにうちの食卓にいる萃香のために、今日は豆料理をふんだんに使った料理が卓上に並べられている。
「はあ……萃香、この煮豆いる?」
「馬鹿な冗談はよしてくれないかい」
マヨイガにもいったが、橙の姿も見当たらなかった。
八雲家は全滅って事だ。どうしようか……八雲家以外で紫姐さんの交遊関係なんて、そこにいる鬼か幽々子さんしか知らない。
……仕方ない。あまり頼りにしたくはないが、萃香に応援を頼もう。
「冗談だよ。ちゃんと台所に豆以外のおかず用意しているので振り下ろそうとしているその拳をおさめてくださいお願いします」
そう言って殴りかかろうとしてきた萃香を止めることに成功。
危ない危ない。間一髪で萃香からの暴力を避けることができた。
鬼に豆ネタは洒落にならないらしい。
「ほんと、私らにとって豆はトラウマものの一つなんだからね」
「節分とか?」
「あれは鬼にとって最悪の日だよ。別に鬼が厄災を操って人間達に害を及ぼしてるわけでもないのに、風評で勝手に私らのせいにして豆を投げつけてくる。病気になるのは人間の身体が軟弱なだけだってのに。ほんと、いい迷惑だよ」
節分のことを思い出してか、やけに苛ついてる萃香。
豆は神にお供えするほど神聖な食物だ。魔の権化である鬼からしたらたまったものではないのだろう。
「私は豆好きよ。この豆ご飯もいい味だしてるわ」
「わー! 近づけないで!」
相当なトラウマがあるようだ。
萃香を追い出すためと思って前々から多めに豆を買っていたのだけど、思いの外効果覿面なのはいい発見だね。
これから変に絡んできたら豆投げつけて撃退しよう。
ーーー
「んで、トオル。あんた私に用があるんじゃないのかい?」
食後の一時。
いつも通り霊夢が茶を啜り、僕が本を読んでいると、縁側で寝転がっていた萃香が、痺れを切らしたかのように発言する。
「あれ、なんで知ってるの?」
「私を誰だと思ってるんだい?」
「ただのストーカーでしょ。どうせ私達のやり取りでも見てたのよ」
「人聞き悪いよ。ここは私にとって我が家のようなもんなんだから、知っててもおかしくないでしょ」
「勝手に我が家にすんじゃないわよ!」
鬼の根城にされた神社って。ご利益どころか厄災がふりかかりそう……あっ、だから豆まきなのか。
「で、トオル。見返りはなんだい?」
「その言い方だと、手伝ってくれるってこと?」
「報酬次第だね」
鬼の望む物か____酒、酒……酒。だめだ、お酒しか思い浮かばない。
「さ、里で一番高いお酒はどうかな」
「あとは?」
「あと?」
「それだけで鬼をこき使おうなんて考えが甘いよ。鬼が好きなものなんて他にもあるでしょ。ほらこれ」
そう言って自らの細い二の腕を叩く萃香。
まさか……いやいや、まさか……でも、そのまさかなんじゃ。
「もしかして戦えっての?!」
「ん」
「萃香あんた、馬鹿でしょ。トオルが勝てるわけないじゃない」
少し癪に障るが、霊夢の言うとおりだ。これまで僕が萃香に傷を負わせたことなんて皆無に等しい。そんな相手と戦えなんて条件として不釣り合いなんじゃ……
「あの花妖怪の猛攻を避けきったんでしょ? 」
「花妖怪?」
「……あんた、あのときも覗いてたのね」
「いやいや、あれは偶然だよ?」
「ねぇ、花妖怪ってなにさ」
花妖怪の猛攻を避けた? 花の妖怪……ん~、知り合いの妖怪にそんな華やかな奴はいないな。全員血気盛んな野蛮人だからね。
「要はさ、記憶が戻れば強くなるってことでしょ? だからもしトオルの記憶が戻ったら私と戦いな」
「強くなるって。記憶が戻ったくらいで強くなるわけないでしょ。肉体的に変化がある訳じゃあるまいし。ていうかさっきから言ってるけど、花妖怪って誰のこと?」
花妖怪という聞き慣れぬワードについて萃香に問い詰めようとしたとき、僕と対面に座っていた霊夢が___
「萃香、ちょっときて」
そう言って萃香の襟首を掴んで居間から去っていった。
「えっ、ちょっと霊夢!?」
萃香の戸惑う声もお構いなしに居間から離れていく二人。遂には足音すら聞こえなくなってしまう。
……なんだろう、今霊夢の声、怒ってるように低い声だった。
何か萃香がやらかしたのだろうか。
ついでにぼこぼこにされてきたらいいのに。
……ていうかさ。
「目の前で気になる光景見せておいて、内緒話なんてタチ悪いよ」
そう言って僕は読みかけていた本に栞を挟み、その場を立ち上がる。
___よし、盗み聞きしようか。
______________________
母屋から少し離れた場所にある納屋。あらゆる物が雑多に置かれ、あまり掃除もされていないからか、少しの動作で埃が舞う。
ここは炬燵やら敷物など、四季や行事によって使う雑貨品の保管庫として使用されるため、あまり人の出入りはない。
「あんた、私と紫の話を聞いてたんでしょ」
「ああ、聞いてたよ」
そんな小屋に、巫女と鬼が姿を現す。
「ならトオルが記憶が戻ったら、存在が消えるかもしれないってことも知ってるわよね?」
「あー、その事ね。霊夢が怒ってるのは」
苛立ち気な態度の巫女と違って、至って冷静な鬼。背丈から見れば、姉に叱られても悪びれない妹かのような光景だ。
「私がその事も考えないであの失言じみたこと言ったと思う?」
「思ったからここにつれてきたんだけど」
「信用ないなぁ」
巫女は鬼の言葉をばっさりと斬り、信用のなさを示す。
その言動に少し傷ついた鬼は、それを悟られぬよう話を続ける。
「紫のは予想だよ予想。可能性の範疇に過ぎない」
「……つまりはなによ」
「紫が何故『ありとあらゆるものを避ける』程度の能力と命名したのか。私も予想の範疇だけど、おそらく紫はトオルの能力を過大評価していて、トオル自信を過小評価している」
「過大評価?」
「能力が暴走して、あいつ自身の存在が消えるのを危惧してるんだよ、紫は。私はそうは思わないけどね」
トオル自身の能力の暴走___それによってもたらされる存在の否定。
それが実際に起こるかなど、誰も検討はつけられる筈がない。そんなに被害は出ないのかもしれないし、それ以上の酷い状況になるのかもしれないのだ。
「トオルの記憶が戻ったら、能力が暴走するって……なんでそんなことがわかんのよ」
「それもまた可能性、私自身もそこら辺はよくわかってないよ。でも、紫のあの様子からだとおそらくトオルの能力は覚醒する。
私達の知らない何かで、紫がなにかしらに手を打っていた可能性が高い」
「可能性可能性って、予想での話しか出てないじゃない! 確実に分かることはなんなのよ!」
可能性の話しか出ていないことに、霊夢は額に青筋を浮かべていた。
そんな様子の霊夢を静めるように、萃香は霊夢の前に人差し指を立てる。
「一つ分かるのは______トオルの記憶が戻ったら『なにかが起こる』ってことだよ」
「なにかが起こる……?」
「トオルの能力が暴走するかもしれないし、覚醒するだけかもしれない。花妖怪と戦った時の記憶を取り戻してトオル自身のなにかが起こるかもしれない。
ただ、紫のあの様子から何も起きないのは1%も満たないだろうね」
何がが起こるという萃香の確信。その根拠である紫の態度。
不確かな確か。そんな矛盾を帯びた理論であれ、その中に紫が介入すればあり得る話であると、霊夢も思わず納得してしまう。
「だから私はあいつを手伝うよ……それに」
「それに……?」
「記憶がないって結構辛いもんだからね。出来るのなら取り戻させてやりたい」
萃香にも思うところがあったのか、その言葉には重みがあった。
しかし、そんな憂いに満ちた発言にも、霊夢はお構い無く吐き捨てる。
「で、本音は?」
「強いやつと戦いたい。上手くいけば紫とも戦える」
「でしょうね」
はあ、と溜め息をつき、その場にあった木箱の上に腰を下ろす霊夢。
何かを諦めたかのような深い溜め息に、萃香は笑みを溢す。
「あんたのねじ曲がった理屈のおかげで、もうどれが正しいのか分からなくなってきたわ」
「どっちでもいいさ。私のように新しいなにかを探求するか、紫のように保守的で足踏みするのも」
「自分をよく言ってる感じが凄いわ……はあ、分かったわよ。あんたがやろうとしていることに口は出さない。限度を越えない程度はね」
「そうこなくっちゃね!」
ついに霊夢が折れ、萃香はガッツポーズをとる。
「ただ、幽香のことはトオルに秘密にして。あいつとトオルが接触したら、ただじゃ済まないだろうし」
「それはね。あの花妖怪が逃した獲物をそのままにしておくとは思えない」
そう言って腕の鎖に繋がれていた伊吹瓢を取りだし、中の酒を喉に通していく。
「ぷはぁ……そういえばトオルの消えるかもしれない可能性もない件だけど。確率を0%にはできないけど、限りなくなくす方法はあるんだ」
「……! なによ」
そういえばそのことが! 、というふうに思い出した霊夢は、慌てる素振りを隠すようにぶっきらぼうに答える。
「トオル自身の能力と向き合わせる。心身ともにね。能力なんてのは生まれもった自身の才能ってのが殆んどなんだ。霊夢のも然り、紫のも然りでね。魔理沙のように努力で身に付けるのもあるけど、トオルは前者に当たるだろうね。
前者の場合、努力せずして手に入れた分、感覚で使われることが多い。霊夢の瞬間移動だったりね」
「そんなのしたことあったっけ?」
「結構してるよ……それでいつの間にか手に余って事故を起こす例は結構妖怪の間ではあるんだよ。炎を操る者が自身の炎で焼け死ぬとか、念力を使う者が要領を間違えて自身の脳を破壊したりとか。どれも自分の能力の限度を弁えず暴走させてしまった結果だった」
「中々物騒ね」
「だから、あいつが自身を消してしまうほど能力が暴走する前に私が扱い方をレクチャーする。そうすればトオルが消える確率はぐーんと減るよ」
萃香の思わぬ提案に珍しいものを見たような目になる霊夢。
「……なんか心外だよ、その視線」
「いやいや、あんたがそんな面倒見が言いわけないじゃない。修行と託つけてトオルを弄んでたし」
「あれは本当に修行なの! 人ってのは何度転ぼうと立ち上がることで成長する生物なんだ。私はそれを修行に取り込んだだけだよ」
そんな反論にも霊夢は半信半疑に首を傾ける。
それも無理はない。トオルとの修行をしているときの萃香の表情は玩具を与えられた赤子のように嬉々としていたのだ。
今のような深い理由があったとは到底思えない。
「もういいよ、それについては。
とりあえずさ、あのときの修行のような雑なやり方はしないよ。次は遊びじゃ済まない事態になりかねないからね」
しかし、今の萃香の顔は真剣そのものであった。
過去がどうであれ、今回の件は覚悟を決めるように___
「はあ……そんな面倒なこと、わざわざ起こそうとするなんて理解ができないわよ」
霊夢は話し疲れたように区切りをつける。
もう話したとして意味はないということを判断したのだろう。
「やっぱり霊夢も保守派か」
「面倒事が起きないことに越したことはないわ」
「ぶれないねぇ」
「私はあんたの方が不思議よ。戦いたいって理由だけでは割りにあわないことしてるわよ」
そんな霊夢の質問にも、萃香は微笑んだ。
妖怪の賢者や大妖怪を退ける力を持つ者と戦うには安いものだ、と言わんばかりに。
____しかし、それは萃香の考えとは違っていた。
「言っただろう? トオルの記憶を取り戻させてやりたいんだよ」
_______________________
ーーー
霊夢と萃香の後を追おうとする最中、僕は思わぬ伏兵に足を止められていた。
「だからさあ、見てくれってこの茸! 凄いんだぜこれ! この青い部分食べると五感が鋭くになって、こな茶色のを食べると身体能力が大幅に上がると来たもんだ!」
「いやそれただのドーピングじゃないか! ていうか退いて! 僕は行かなきゃいけないんだ!」
奴の名は茸中毒者こと霧雨魔理沙。
遂に薬物に手を染めてしまったらしい。
手に持っているのは以前アリスと研究していた新種の茸。遂に服用した際の作用が分かったらしい。どうやって調べたのかはあえて聞かないでおこう___
「ふっふっふっ。実はこのドーピング茸の副作用、身体への影響はほんの少しで、服用後の翌日に倦怠感と吐き気、あと全身筋肉痛を起こすだけなんだ」
「影響及ぼしまくってるじゃん!?」
___と思ったが、副作用の効果に心配になってきた。
魔理沙、まさか自分で……
「いやぁ、ラットで試しただけだから人間が試した場合は分からないぜ? 今度辺り迷いの竹林にいる蓬莱人にでも飲ませようかと思案中なんだけど」
「あっ、そうなんだ」
そんな僕の心を読み取ったように被験者を語る魔理沙。
こんなのに動物実験として使われたのだから、ネズミも不憫でならないだろう。
ていうか蓬莱人って誰のことだろう。蓬莱、蓬莱……たしか誰かの名前にそんなのが入っていたような気がする。さて、誰だったか。
「ってそんな事に時間を食ってる場合じゃない!」
今は蓬莱人等とどうでもいいことに時間を使っている間ではない。
霊夢と萃香がこの家のどこかで内緒話をしているのだ。早くその場所を突き止めて聞き耳を立てなければならない。
「ああそうだな。早くこの茸を品種改良して世界初のリスクないドーピング茸を開発してやる!」
そう言いつつも魔理沙は前を退こうとしない。
「ねえ、退いて? そこ通りたいんだけど」
「な~んか怪しいんだよな。悪巧みでもしようとしてるんじゃないか?」
「!!」
何故それを!? と思わずボロがでそうになったが、寸でのところで息を止めて制止させる。
どうして、なんで分かった。ただ単に魔理沙が通行の邪魔して苛ついてる風に装っていたのに。
「やけに急いでるのはななんでだ? 私が来たときも部屋中何かを探しているようだったし」
「ま、魔理沙には関係ないよ。」
「ほお? 私に関係ないってのなら言ってもいいよな? 大丈夫大丈夫、誰にも言わないから」
「それは言う人の台詞だよ」
魔理沙の奴、絶対勘づいている。
いつも悪さばかりしているような奴だ、直感で同類だと見抜いていても不思議ではない。
「魔理沙、僕はただ知る権利を行使しようとしているだけなんだよ」
「なに?」
「さっきまで萃香と霊夢とでの3人で会話をしてたんだ。そしたらなんと2人は僕を省いてどっかで内緒話をしにいったんだ。そんなのおかしいでしょ、僕は認めない。断固として知る権利を行使する」
「あー、つまり乙女同士の話を盗み聞きしようとしてるってことか?」
言い方が悪いな。もっとオブラートに包んだ言い方ってものがあるだろうに。
僕はただ実際に知るべき事実を究明しようとしているだけだ。
「……乙女? あの2人が乙女じみた話なんかするわけないじゃないか。世間話なんてお酒のことばかりのおじさんじみたことしか話さないってのに」
「ほう……おっ」
あの2人が乙女なお話? 考えただけでも爆笑ものだ。
大笑いをして
「そんなもはやおっさん話に花を咲かせるような2人を乙女とは言わない。中年のおじさんだよおじさん」
「へぇ、そうなんだ」
「霊夢、私らおっさんらしいよ」
___________……あれ?
なんか今聞き覚えのあるような声が後ろから聞こえてきた気がする。
……駄目だ、確認しようにも突如としてきた恐怖による金縛りのせいで首を動かせない。
「女に対しておじさんは失礼だよなぁ」
魔理沙の奴あっさり寝返った! いや、正確には返ってはないけど!
「霊夢、早速修行つけていいかな?」
「いいわよ。いつもの雑なやつで大丈夫だから。あと私も混ざる」
「りょうかい。んじゃトオル、表でようか」
駄目だ、殺される……! ズタズタのボロボロのぼろ雑巾のようにされてしまう!
ていうかなんてタイミングで出てきたんだよ! ちょっと愚痴を言っただけじゃないか、なんでこうも最悪なタイミングで2人は現れてしまうんだ!?
いや、弁明を。何とかして半殺し程度までに留めてもらえるよう弁明をしなければ……!!!
「お、お二人とも大和撫子のようにお美しいですよ_____」
その日の記憶は、今の発言したときが最後だった。
なんかちょっとだけ見えた2人の顔は、あの、般若のようでした。
ほんと、陰口は言うものじゃないね。誰がどこに聞いているのかわかったもんじゃないし。
あと、爆笑しなくてもぼこぼこにされちゃったね、うん。
読了お疲れ様です。
次話はリハビリも兼ねて紅魔館の閑話にします。