東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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リハビリなんかじゃなかった(´・ω・`)


閑話 エンドレス鬼ごっこ

 

 

 

 紅魔館は広い、紅い、薄暗い。

 その3つからするととてもホラーなイメージが持たれてしまう。

 それも無理はない。窓等の外からの光が差す所なんて殆どないし、館全体が趣味の悪い紅色だ。其処らに人骨が落ちていても不思議ではない程に薄気味悪い場所だ。

 

 

「パチュリーさん、こんにちは。今回も上手く魔理沙から魔導書取り返してきましたよ」

 

「ん、ありがと。小悪魔、紅茶とクッキー」

 

 

 しかし、通ってみれば中々に住み心地が良い。

 その中でも地下にある大図書館は僕にとっては楽園そのものだった。

 様々なジャンルの書物が壮大に立ち並び、とてつもなく広い図書館の7割近くを本で埋め尽くしている。

 そのうち半分近くは魔導書で、僕が読み解くのは困難なものばかりで読めたものではない。

 しかし、もう半分は歴史書然り、料理本然り、物語小説然り、興味をそそるような書物が数えきれないほど出展されている。

 こんな場所、本好きにとって楽園以外のなんと例えようか。

 

 

「んー、紅茶とお菓子を出すってことは____」

 

「ええ、そうよ。今日は()()の日、運が悪かったわね」

 

「はあ、最近収まってきたと思ってたのに……」

 

 

 この大図書館の管理をしているパチュリーさんの言い放った()()の日。

 紅魔館で月に1~5回はある少し変わった日である。

 それがわかるのは決まってパチュリーさんが僕に紅茶とお菓子を提供するときだ。

 

 

「それで、フランドールは何処にいるんです?」

 

「上で妖精メイド達を教育してたわ」

 

「ああ虐殺ですね」

 

「本人はそう思ってないでしょうね」

 

 

 その()()とは、今の会話から察するように、フランドールのことだ。

 当主の妹である彼女は月に1回以上、幼さ故か狂気的発想を考え付くことがある。

 実はフランドール自身の年齢は500近くあるという。なのに何故幼いというのは、レミリアいわくその時の大半を地下室で無為に過ごしていたからだそうだ。

 いくら長い年月を生きようと、なにもしなければ精神的に成長することはない。それどころか無駄に長い年月を生きているために歪んだ価値観を持っている。

 

 

「あっ、小悪魔さん。ありがとうございます」

 

 

 その歪んだ価値観が今回のような件に繋がっている。

 フランドールは今、教育と言う名の大量虐殺をしている。

 基本的には咲夜やパチュリーさんとかがフランドールが飽きるまで付き合っている。

 だが、こういった僕が来た日なんかは何故か僕がその役に回されるのだ。

 理由は勿論、フランドールの能力の影響を受けず、発想からでた狂気的行動を避けきり飽きさせることができる人材だから。

 

 

「その紅茶には体力増強、クッキーには騒音防止の効果つけてあるから」

 

「いつものですね」

 

 

 本当は僕だってフランドールから追い回されるのは嫌だ。しかし、この役回りを請け負うことによってこの大図書館の本を読ませてもらっている節がある。

 それを天秤に掛けられるとどうしても本が勝っちゃうんだよなぁ……

 まあ、パチュリーさんから貰う紅茶とお菓子にいつも一時的に付属効果を付与してくれるからーーていうかそれがないと普通に捕まって殺されるーーなんとか毎度乗り切ることができるし、そんなに悪い条件ではない。

 

 

「食べたら早速お願いね」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 フランドールの狂行。これまでの経験から破壊的衝動にかられることが多い。

 だから僕はあのとき、妖精メイドの教育と聞かされたときに虐殺だと判断した。子供が嬉々として蟻を潰すような感じに。

 妖精は壊れても自然に元に戻るから問題ないとか考えていそうだし……

 まあ、考えれば流石に虐殺まではないかな、とは思う。ちょっとこづいて頭を吹き飛ばす程度だろう。

 

 

「あまり激しい音はしないな」

 

 

 いつもは物が破壊されたりして煩いのに。

 

 ____なんだか嫌な予感がする。

 

 僕の危機察知センサーがそう告げている。

 殺意に対する反応ではない。

 殺意は僕のセンサーに最も敏感に反応し、狂気の帯びたフランドールは基本的に殺気があふれでていた。なのに今回はそれが殆どない。

 そういえば地下の図書館に行くまでの道程でもそんな反応は1度としてなかった。

 いつもならその殺気を感知してなんとなく察していたのに。

 

 ならこの嫌な予感はなんだろうか。

 

 なんかこう、身体的に傷つくわけではないが、不利益を被りそうな……そんな感じだ。

 

 

「……!」

 

 

 そんな不穏な何かを感じた僕は、浮遊を止めて、床に足をつける。

 

 ____今、何か音がした。

 

 パチュリーさんの魔法の(ドーピング)お菓子により、身体強化+騒音最小化がされたことにより、素早く角の壁に張り付く。

 やはりパチュリーさんの魔法は凄い。前にも何度かやってもらった事があるが、いつもの僕ならとっくに息切れして能力を維持することなんて出来ないほど避けても、魔法のおかげで全然平気でもはやいつまでも能力発動させててもいいんじゃないかと錯覚するほどだった。

 あっ、因みに僕の能力は『ありとあらゆるものを避ける』程度の能力。僕の意識しないもので不利益なものは自動で避けて特に疲れとかもないが、自分が意識して避けるときはとっても疲れる。無呼吸で全力疾走してるぐらいには疲れる。

 ほんと不思議が多い能力だ。自分に不利益なものって言っても風邪とかは普通にひくし。

 

 

「ねぇフラン。あいつがまたのこのこと来たそうよ」

 

「予定通りね、お姉様」

 

 

 あ、あれは_____スカーレット姉妹!?

 

 何故だ、狂気にかられているフランドールが平然とレミリアと肩を並べて歩いている。

 というかあいつって何? 僕? 僕のことなのか!?

 

 

「パチェが上手くやってくれたようよ」

 

「トオルも単純だよね」

 

 

 やっぱり僕のことだった!

 ということはなに? パチュリーさんもグルだったってことなのか。

 いや、そうであれば辻褄が合う。フランドールが大人しく歩いているのが何よりの証拠だ。

 

 

「さて、役者も揃ったことだし」

 

 

 ということは、この嫌な予感がするのは_____

 

 

「そろそろ“鬼ごっこ”を始めましょうか」

 

 

 そう発言すると同時に、隠れていた僕と目をあわせるレミリア。

 くっ、バレてたのか!?

 

 

「トオルみ~っけ!」

 

「おわっ!?」

 

 

 レミリアの紅い眼に動揺している隙に突進してきていたフランドールを身を捻って避け、そのまま先程まで来た道を全力で飛行する。

 何が鬼ごっこだ! 今の突進、諸に受けていたら肉塊になってたよ!

 でたよいつもの! たま~にあるんだ。僕を騙して暇潰しに使ってくるやつ。

 僕としたことが……このことを失念していたなんて!

 

 

「だけど! 今の僕は身体能力水増しでそう易々と捕まる玉じゃない! 捕まえられるもんなら捕まえてみなよ小学姉妹!!」

 

「ふん、すぐにその減らず口を黙らせてやるわ!」

 

 

 とりあえず煽っておく。

 どうせ避けられぬ道なのだ。彼方が飽きるまで付き合ってやろうじゃないか。

 

 ただ、良かった。レミリアありきなら命が奪われる可能性は限りなく0近くまで減る。

 狂気にかられてたフランドール相手はいつも死と隣り合わせだからね……あれ、よくよく思えば相当不釣り合いな役割引き受けてない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ふふ、やはりこうでなきゃね。簡単に捕まる相手じゃ暇潰しになりやしないもの」

 

「お姉様、見失った言い訳にしか聞こえないよ」

 

 

 ーーー

 

 

 ふふふ、流石は僕。吸血鬼の追跡を難なく退けることができた。

 僕からしたらこんなもの、容易きこと限りなしだね!

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、はあ……ごほっごほっ!!」

 

「満身創痍ね」

 

 

 それも仕方がない。だって吸血鬼姉妹から全力で追いかけられるんだよ? 並の人間じゃ1秒とて逃げることは叶わない。

 僕でさえ能力+身体能力水増しでボロボロになりながらもなんとか撒けたってぐらいなのに。

 

 

「ぱ、パチュリーさん。はあ、はあ、貴女、騙しましたね」

 

「失礼ね。私は一言も騙すようなことは言ってないわよ」

 

 

 来た道を遠回りして図書館まで帰ってくると、そこにはパチュリーさんに加え、先程までいなかった筈の咲夜が銀のトレイを両手に佇んでいた。

 

 

「私が言った()()の日とは、レミィの気まぐれのことよ」

 

「はあ、はあ……じゃあ、ふ、フランドールの、ことは?」

 

()()()わよ。昨日の話だけど」

 

「教育という名のお絵描き教室を開かれてましたわ」

 

「だぁあ!」

 

 

 パチュリーさんめ! 自然にどちらとも解釈のとれる言い回しをしてたな! 完全にしてやられた!

 これでは反論しようにも惚けられたらそれで終わりだ。これだから頭のいい人は……狡猾というかなんというか……!!

 

 

「はあ、はあ……ふう。それで、咲夜はなんでここに?」

 

 

 漸く息も整い始めたので、咲夜がここにいる理由を問う。

 まあ、この屋敷の者でなのだから何処にいてもおかしくはないのだけど。

 

 

「今回お嬢様が企画されたご遊戯『鬼ごっこ』の概要説明のためにね」

 

「概要なんてあるんだ」

 

 

 ただ単に僕を捕まえれば終わりなのかと思った……あれ、そういえば鬼ごっこって捕まえたら終わりとかではないよね? 捕まった人が鬼になって~みたいな。ていうかそれだと僕の勝ち筋がない。捕まるときには僕、満身創痍だし。

 

 

「勿論僕の勝ち筋もあるんだよね?」

 

「当たり前よ」

 

 

 ごっことはいえ相手は吸血鬼。捕まり方によっては僕の命に関わる問題となるのだ。僕とて体力がなくなれば呆気なく捕まる。

 それを阻止する方法と言えば飽きさせるまで隠れるか、僕に勝ち筋を作るかだ。

 従来の鬼ごっこでは僕には通用しない。僕がつかまるときといえば体力を使いきったとき、つまり身動きがとれなくなったときだ。そんな状態で逃げる吸血鬼を追いかけろなんて、ナメクジが深海魚を捕まえるぐらい無理な話だ。

 そんなの相手側だってつまらないはず。レミリアならそういうのも考えていると確信していたよ。

 

 

「お嬢様と妹様は現在、今回のご遊戯である賭けをしているの」

 

 

 ある賭けって。最初から僕を巻き込む気満々じゃないか。

 

 

「何を?」

 

「プリン」

 

「ぶふぉ!」

 

 

 咲夜の思わぬ発言に吹き出してしまう。

 あ、あの、500年生きているであろう吸血鬼が、プリン……高潔で誇り高き悪魔であるあの吸血鬼の賭けが……プリン!

 

 

「カリスマってなんなんだろうね」

 

「可愛いげがあるじゃない」

 

 

 プリン、プリンか……確かに咲夜の作るプリンは極上だ。

 うっすらと焦げをつけて固形状にされたカラメル、スプーンですくえば感触が殆どないほど柔らかなカスタード。1度口に入れば舌にとろけ、口内どころか身体の芯まで幸せで包んでくれるような感覚に陥る。一口食べれば口が緩み、二口目にはにやけが止まらなくなり、食べ終わる頃には身体全体が腑抜けて一時の間余韻で動けなくなる。

 1度だけ霊夢と来たときに食べさせてもらったが、霊夢でさえ腑抜けてその日一日中机上から顔をあげなかったぐらいだ。

 最初はプリンという少しお子様なワードに吹き出してしまったが、咲夜の作ったプリンとすれば話は別だ。いくら吸血鬼とはいえ、あの合法麻薬には抗えないだろう。

 

 

「でもそれだと余計納得がいかない。僕だって咲夜のプリン食べたい」

 

「食べれるわよ。そもそも今回のゲームでの貴方の勝ち筋はプリンを食べること。それだけよ」

 

「へっ?」

 

 

 プリンを食べれば勝ち……? どういうことだ。

 

 

「もうちょっと詳しい説明下さい」

 

「プリンを作ったのが昨日。いつもの食後のデザートとして作ってたのだけれど、材料が余ったから余計に1つ作ったのよ」

 

「わかった。それが発端か」

 

「そう、その1つのプリンにお嬢様と妹様とで喧嘩になってね」

 

 

 プリン1つで喧嘩になるなんていかにも子供っぽいな……カリスマ笑。

 

 

「そこでパチュリー様がこうおっしゃったの。

 もうすぐ“玩具”が来るしそれで決着つけたら、と」

 

「パチュリーさん、何か言うことはありませんか」

 

「事実よ」

 

 

 めちゃくちゃ失礼なこと言いよりましたよこの方は。

 

 

「そしたらお嬢様が今回のご遊戯を提案なされたの。今日貴方が来たらの話だったのだけれど」

 

「くそう!!」

 

「ルールは簡単。お嬢様と妹様のどちらかが1時間という制限時間内に捕まえた方がプリンを食べる権利を得る。しかし、捕まえる前に貴方がこの屋敷のどこかにあるプリンを食べれば強制終了、1時間逃げ切った場合も同様で貴方の勝ち、つまりプリンを食べられるの。

 お嬢様と妹様はプリンを食べられず途方に暮れることになる」

 

「レミィが後者のルールを設けたのは、そうでもしないと貴方が簡単に捕まろうとすると踏んだからよ」

 

「初めからその遊戯に乗ってなかったら?」

 

「乗らざるを得ない状況をつくってあるから今更逃げることは不可能よ。この屋敷内には出られないよう魔方陣を張ってあるし」

 

「用意周到ですね!!」

 

 

 くっ、だが今の話を聞いてみれば、こちらに圧倒的な不利があるというわけではないようだ。

 思えば最初から巻き込むつもりだったというのに、パチュリーさんは僕に身体強化の魔法をかけてくれたし、ちゃんと今回のゲームにも勝ち筋がある。というかはっきりいって此方としては勝ちゲーに近い。

 一番の難関である見つかった後の追いかけっこ。それさえ撒いてしまえば、後は危ないと感じた場所をとことん避けて行動すればいい。

 

 なにこれ、楽勝じゃん。

 

 

「ふふふ、いいよ。乗ってあげようじゃないか。僕を見失ったのが運の尽き、あとはゆったりと隠れさせてもらうよ」

 

「余裕そうね」

 

「余裕だもん。相手が見失ってくれさえすればこっちのものさ」

 

「あ、因みに___」

 

 

 何か不服そうにしていた咲夜を横目に、パチュリーさんが何かを言おうとした瞬間___

 

 

「説明は終わったかしら?」

 

「__レミィ、ずっと入り口付近にいたわよ」

 

「それを先に言いましょうね!?」

 

 

 なんでいるんだよ! さっきまでの余裕を返せ!

 

 

「レミリアさんよ。あんたも人が悪い。いるならいるっていってくださいな」

 

「そしたらあんた、一目散かつ無様に逃げ出すでしょ」

 

「勿論。レミリアを罵りながらかつ弾幕を部屋に撒き散らしながら逃げるよ」

 

 

 そう言いつつ、バレないよう後退りをして逃げる準備を着々と進める。

 よし、この態勢。

 

 

「この私に向かってよくいうじゃない」

 

「プリン1つ妹にやれないお子様がよく言うよ」

 

「あれはただのプリンじゃないのは、あんたの足りない脳でもわかるでしょ。あれは易々と手離せる代物じゃないわ」

 

「その賭けで僕を参加させるなんて、易々と手離させるのと同意だけど」

 

「くく、わかっていないのはあんたよ。私が態々リスクを高くするなんて愚行、するわけないじゃない。あんたは呆気なく私に捕まるのよ」

 

 

 つまり初めから逃して僕にプリンを食べられる心配は全くしてないと。

 舐められたものだ。その薄気味悪い笑顔を崩してカリスマブレイクさせてやる。

 さて、逃げるのに適した態勢は整った。いつでも逃げれる。後はレミリアの気を逸らせばあっという間に目前から姿を眩ませることができる___

 

 

 ___やばい!!!?

 

 

「やっぱり避けるかぁ」

 

「あっ、ぶなぁ!」

 

 

 瞬時に大音量で鳴らされた危機察知センサー。脳内で報された危険を感知した僕は何も分からずただ横に転んだ。

 突如として来た耳を覆いたくなるような激突音から察するに、今の判断はおそらく正しかったようだ。

 

 

「お姉様、捕まえるのは私よ。プリンも私のもの。お姉様は全部私に奪われるの」

 

「よく言うわねフラン。いつまでその減らず口が叩けるのかしら」

 

 

 僕が先程までいた場所には悪魔の妹、フランドールがひざまづいていた。

 その膝のついた床にはクレーターができている。おそらく空からそのまま突進してきたのだろう。ほんとフランドールは突進が好きらしい。

 本気で勘弁してほしいところだ。

 

 

「パチェ、後何分?」

 

「43分」

 

「余裕ね」

 

 

 まずい、まさか二人とまた出くわしてしまうなんて……

 しかもまだ40分以上ある。これは危機的状況であることは間違いない。

 

 これを脱するにはやはり___口で時間を稼ぐしかない!

 

 

「ふふふ、二人とも。実は僕に提あ……」

 

「もう無駄話もこれぐらいでいいでしょ。さあ、その大口を体現して見せなさい」

 

 

 駄目でした。

 

 不適な笑みを浮かべながらレーヴァテインとグングニルを生成しだした二人の悪魔は、これ以上僕の話を聞く事を拒否してゲームを早々に再開させんといった感じだ。

 

 

「ねえ聞いて? さっきレミリアお前43分なんて余裕っていってたじゃないか。少しぐらい僕の話を聞いてもい……いっ!?」

 

 

 それでもなんとか抵抗しようとしたが、投擲されたグングニルが真横を通過すると共に、本当に無駄なのだと理解する。

 

 

「私は今、『プリン』がどうしようもなく食べたいの。わかるでしょ?」

 

「知るか幼稚園児!!」

 

 

 ああもうどうにでもなれ! 咲夜の作ったプリンは僕のものだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 ~残り37分~

 

 

「ねぇトオル。どうして逃げるの? 私に捕まってくれれば一口分けてあげるよ。だから大人しく捕まってよ」

 

「大人しくしてほしければその弾幕張るの止めてくれる!?」

 

 

 後ろから迫り来る弾幕だけでも辛いのに、時折神槍を超スピードでの投擲も混ぜて来るから、神経と体力をすり減らしてなんとか避け続けている状態で精一杯だ。隠れる暇なんて微塵もない。

 殺意があまりにも高い。これだよ、フランドールはただ捕まえようと必死になっているようだけど、それが無意識の殺意に繋がっていることをフランドールは知らない。だからこんな狂行に出られるのだ。

 

 

「大人しく死になさい!」

 

 

 姉の方は意識的に僕を殺しにかかって来ていたようだ。

 姉がこれだから妹も成長しないんじゃないかなと僕は思うんだ。

 

 

「なんだこれ。随分と賑やかだな」

 

「魔理沙!!」

 

 

 そんな高密度弾幕を避け続け、疲労と体力の限界が近付いてきていた僕に、一筋の希望が姿を現した。

 

 

「魔理沙助けて! あそこの吸血鬼がいじめてくる!」

 

 

 外は結界が張られているのにどうやって入ってきたのかは不明だが、これは好機だ。

 魔理沙に助けを求め、最悪の場合魔理沙を盾にしてこの場を凌ごう。

 

 

「ははは、あ、遊んでるようにしか見えないぜ。じゃあな!」

 

 

 そう言って、乗っていた箒の端にミニ八卦炉を装着し、そのまま目にも止まらぬ速さで姿を豆粒にまで小さくしていく魔理沙。

 

 

「あの魔法使い逃げおった!」

 

 

 なんだったんだ! 何故姿を現した!? 最初から助ける気がないなら現れないでよ!

 

 

「くくくくっ、可哀想ね! あんたにはお似合いよ!」

 

「私は見捨てないから大丈夫だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~残り25分(回廊)~

 

 

「ぜぇ、はぁ、はぁ! どう、した? つか、まえるの、余裕なんじゃ、なかった、の?」

 

「遊んであげてるだけよ!」

 

 

 やばい、もう体力が尽きる。

 くっ、レミリアめ。僕の体力が切れるまで弾幕を張り続けるつもりだ。

 そうして僕が隠れるのを阻止しているのだ。こんな長時間弾幕を張り続けるなんて化け物並の体力と霊力の持ち主でないと到底できる事ではない。

 僕が同じことをしたならば5分も待たずに疲労で倒れる自信があるね。

 

 ……まあ、その勿体ない使い方をしても汗1つかかないのは、流石吸血鬼といったところか。

 おかげで僕は隠れることよりも避ける事に頭がいっぱいで、こんなにまで避け続ける羽目になってしまっている。救いなのはフランドールが5分ほど前から攻撃を緩めている事だ。

 何か考えがあるのかどうかは定かではないが、攻撃が緩んだことには素直に嬉しい。

 

 

「こんなのフェアじゃないなぁ」

 

 

 フランドールが攻撃を緩めたことに感謝をしていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 

 

「何を言ってるのフラン?」

 

 

 やはり今のはフランドールか。

 その声に反応したレミリアは弾幕を張る勢いが減り、更に僕への負担が減った。

 だからといって集中解いたらあっという間に蜂の巣だけど。

 

 

「お姉様とトオルがやりあって、弱ったところを一気に頂こうと思ってたんだけど」

 

「な、何!?」

 

「でもこれじゃあつまらない。これは三つ巴の戦いなんだから、私がお姉様と組むのはフェアじゃないと思うんだよね」

 

 

 そう言ってレーヴァテインをレミリアに向けるフランドール。

 

 

「フラン、考え直しなさい。ここで無駄に争ってあいつを逃がしたら、残り時間で見つけ出すのは困難よ」

 

「大丈夫、トオルが隠れそうな場所1つずつ破壊していくから」

 

「私の屋敷を壊すのはやめて!?」

 

 

 なんか奥の方で言い争ってるおかげで弾幕が止んだ。

 今なら逃げられる気がする。そ~っと行けばもしかしたら___そんな望みをかけ、僕は音を立てないようゆっくりと飛行状態から床まで降下しようとしたその時、僕は自身の身体状況を初めて把握した。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 身体が、言うことを聞かない……!

 体力の限界を越えて避け続けたのか、それとも能力の酷使による代償なのか……原因はおそらく両方だろう。プラシーボ効果みたいなものだ。パチュリーさんの魔法を過信して限界を越えてもその場では気づかず、後になってツケが回ってきた。

 

 おかげで緊急事態だ。もしあの二人が口論を止め、僕に襲いかかってきたら為す術がない。

 呆気なく捕まるかぐちゃぐちゃにされてしまう。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……(頼む、まだ二人とも動かないでくれ!!)」

 

「そう、フランがその気なら私は構わないわよ。勿論抵抗するけど」

 

「ふふふ、お姉様ったら。私に勝てる気でいるなんて可愛いね」

 

 

 うん、大丈夫そう。今にも戦闘が勃発しそうな雰囲気だ。

 この間に安全なところに避難して体力を回復させる事ができる。

 この勝負、僕の勝ちだ!

 

 

「ひゅ~、ひゅ~、はあ……ごほっ!」

 

 

 と思いつつも、今は満身創痍。ゆっくりと降下するので精一杯だ。その少しの動作でさえ、力士が僕にのし掛かっているのではないかと感じるほどに身体が重い。

 

 

「これに、勝てば……プリン……!!」

 

 

 いや、プリンだけではない。遊戯とはいえレミリアに勝てば今後の弄る種になる。これまでの暇潰しでは相手側が飽きて止めるパターンばかりで、正直勝ったとはいえない。だが、今回はちゃんとしたルールのもと、僕は正々堂々と挑んでいる。

 

 これほど極上のネタはそうそうない。レミリアの悔しそうな顔が目に浮かんできてとてつもなく滑稽だ。

 んっ? 下衆野郎だって? 大丈夫、レミリア限定だから。

 

 

「おっ、トオル。また会ったな……ってどうした? 汗凄いうえに息が荒いぜ?」

 

「ま、りさ」

 

 

 僕が少しずつ降下している最中、中身の詰まった風呂敷を背負った魔理沙が悠々自適に近付いてきた。

 この薄情者め。よくもノコノコと現れたな。しかもどうしたんだその風呂敷。さっき会ったとき背負ってなかったじゃないか。やったのか、またやらかしたのかこの魔法使いは。

 

 

「あっちの二人はいまにも爆発しそうだな」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「……とりあえず巻き込まれないよう移動するか」

 

 

 魔理沙が僕を箒に乗せ、その場から離れていく。

 こ、これは……!

 

 

「……!」

 

「なんだ? 急に親指なんか立てて」

 

 

 ナイスって意味だよ魔理沙。全然動けなかった僕を運んでくれた。

 言い方は悪いが、このまま魔理沙を足として使えば残り時間逃げきることは可能だ。

 

 

「げほっ! げほっ!!」

 

 

 限界を越えて身体を酷使させたせいで一向に息づかいは荒いままだが、先程よりかはだいぶましになった。

 この調子ならいける! あの生意気なカリスマ吸血鬼に勝てる!!

 

 

「おいおい、だいじょう___うわっ!? ついに爆発したか!」

 

 

 後ろの方でえげつのない爆発音が響き渡り、耳から聞こえるのはキーンと甲高い音で埋め尽くされる。

 おうおう、何をすればそんな大爆発が起きるんですかね。

 あんなのに巻き込まれたら燃えカスしか残らなさそうだな。

 

 まあ、せいぜい二人で足を引っ張りあっていることだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______________________

 

 

 ーーー

 

 

 ~残り17分~

 

 

 レミリア達から離れ、屋上付近の廊下まで移動した僕と魔理沙は一息ついて床に着陸する。

 

 

「んで、なんでトオルは吸血鬼姉妹なんかに追いかけられてたんだ?」

 

「はぁ、はぁ……そ、それは、ね」

 

 

 途切れ途切れだが、なんとか会話ができるまで落ち着いた僕は、今回の遊戯ーー鬼ごっこの概要を説明した。

 

 

「賭けで鬼ごっこか。それに半ば無理やり、もう半ばは自ら参加したって感じでいいんだよな?」

 

「そう、だけど」

 

「ふーん。あの慎重の塊でできたようなトオルが自ら参加させた賭けとは。一体どんなものなんだ?」

 

 

 魔理沙に言っても良いのだろうか。めちゃくちゃ笑われそうだな。そんなことのためにあんな頑張ってたのか! みたいな感じに。

 まあいいか。笑いたければ笑えばいい。

 

 

「プリン」

 

「ぷぷぷ、プリン?!」

 

 

 思った通りのキョトンとした表情になる魔理沙。どうせこのあと笑いが込み上げてくるのだろう。

 

 

「場所は、はあ、わからないんだけど。この屋敷の、どこかにあるプリン、をとれば僕の勝ちごほっ!」

 

「そ、そうなのか。へえ、まさかトオルお前、プリンのためにあんなに懸命に逃げてたんだなぁ!」

 

 

 ……ん? 何故だろう。今の魔理沙の言動に何かしらの違和感が感じる。

 

 

「まあ、咲夜のプリンは絶品だったからな。トオルが普段はしない努力をするのも頷ける」

 

「う、うん……」

 

 

 良かった。プリンときいて馬鹿にされるかと心配していたが、杞憂に終わったようだ。

 

 

「んでもあれだな。そんな戦いに私が割り込むのはフェアじゃないと思うんだ。だから私はこれ以上トオルを助けないぜ」

 

「そうだよね……」

 

 

 本当は残り時間足として使おうとしていたが、止めておこう。フランドールだって公正に規するために姉とぶつかったのだ。僕だって少しだけ回復した体力で残り時間を逃げ切ってやろう。

 

 

「ありがとね、魔理沙」

 

「礼には及ばないぜ……ホントに」

 

「ん?」

 

「あ~いやなんでもない。そうだ! もしこれにトオルが勝ったら茸鍋ご馳走してやるぜ? 魔法の森で採れた色んな茸を入れてさ」

 

「魔理沙、それ闇鍋」

 

 

 魔法の森の茸なんて、どれも得たいの知れない危険なやつばかりじゃないか。

 食中毒ぐらいで済めばいい方なレベルだ。

 

 

「それじゃな! 私はそろそろおいとまするから」

 

「あっ、そういえば」

 

「んっ、なんだ?」

 

「魔方陣で、結界が張ってあるってパチュリー、さんが」

 

「あ~、それか。平気平気、ブレイジングスターで破壊してくから」

 

 

 野蛮極まりないなこの魔法使い。突撃でぶっ壊すなんて力任せなやり方を選ぶとは……魔法使いなら知的に解除する方法とかあると思うのだけど。

 

 

「それじゃ、健闘を祈るぜ」

 

「ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「はあ、はあ……」

 

 

 無限に続くかのような長い廊下を亀のようなペースで歩いていく。

 やはり疲労が溜まっている。少し歩いただけでも目眩と眠気に襲われ、その度に頬を叩いてなんとか歩き続ける。

 

 

「はあ、はあ、見つけたわよ」

 

「……」

 

 

 危険が迫っているのはわかっていた。だが、そこから即座に離れるための体力は残っていない。

 甘んじて見つかるのを容認するしかなかった。

 

 

「レミリア、まさかお前が勝つなんてね」

 

「当たり前よ。私はこの子の姉よ?」

 

 

 廊下の中央に立つのは、がボロボロになったレミリア。片手には襟首を捕まれたフランドールが力なく伏せている。

 僕の予想ではフランドールが勝つと思ってたのだけどーーまあ、レミリアが肩で息をしているあたり接戦であったことは確かなようだ。

 

 

「チェックメイトよ。大人しく私に捕まりなさい」

 

「何を言ってるの? 僕がなにも考えずレミリアに姿を晒すと思う?」

 

 

 本当は隠れる場所がなかったから。

 それはこの先の見えない廊下を歩く前から薄々気づいていた。

 そう、歩く前からである。

 だからこそ僕は空も飛ばずにゆったりと歩いたのだ。

 ___残り時間を避けるのに使うために。

 

 ……いや、ほんとはあわよくばこのまま見つからなければなあって思ってただけなんだけどね。

 

 

「世迷い言を。死にそうな顔してる時点で虚勢にしか聞こえないわよ」

 

「レミリアだって肩で息してるじゃないか。袖も切れてるし、何回か腕もがれてるでしょ」

 

「4本は流石に効いたわね」

 

「4本!?」

 

 

 腕を4回ももがれたというのか。やはり化け物の感覚はおかしい。僕だったらたとえまた生えてこようと1本めで死ねる自信がある。

 

 

「さて、無駄話はこの辺にして食事としましょうか。血を流しすぎてお腹空いたの」

 

 

 こいつ、プリンだけでなく僕の血まで吸うつもりだ!

 

 

「なおさら捕まるわけにはいかないな」

 

「その覚悟は私に見つかる前にしておくべきだったわね」

 

 

 さあ、残り時間は少ない。後は気力で逃げ切るしかない!

 

 

「来てみなよ吸血鬼! 人間の底力みせてやる!!」

 

「虚勢ほど虚しいものはないわよ、人間!」

 

 

 そしてついに、レミリアは僕に向かって駆け出し、僕が避ける体勢に入ろうとした______その時。

 

 

「あれ?!」

 

「えっ?」

 

 

 僕の前にいた筈のレミリアが消え、後ろの方からすっとぼけた声が聞こえてくる。

 

 

「咲夜、貴女……」

 

「ご遊戯の最中に水を指すことをお許し下さい、お嬢様」

 

 

 そうか、レミリアが僕を通りすぎたわけではない。咲夜が時間を止めて僕かレミリアを移動させたんだ。

 もし違っていたとしても、後ろから聞こえてくる会話から咲夜が割りいったことは間違いないようだ。

 

 

「時計の砂は落ちきりました。ご遊戯の時間はおしまいです」

 

 

 少し大きめの砂時計を取りだし、須長下に落ちきった証拠を見せる咲夜。

 

 

 

「なんですって!?」

 

「……えっ、てことは」

 

「残念ながら、貴方の勝利よ」

 

「やっったああ!」

 

 

 1時間、僕の体感では半日以上経過した気分だ。

 だが、その長い長い時間も今このときをもって経過した。

 そして待ちわびていた勝利という名の2文字。それをついに手にしたのだ。あの吸血鬼から!

 

 

「どうだレミリア! 僕の勝ちだ! あれだけ余裕と言ってた癖にこの様なんて呆れを通り越して笑いしかでないよ!」

 

「ちょっと待ちなさいよ! まだ時間は残っている筈よ!」

 

 

 レミリアが醜くも時間が経ってないと抗議するが、咲夜は申し訳なさそうに首を横に振るのみ。

 どんなに嘆こうがガラスの中にある砂が上に戻ることはない。

 

 

「ねえねえ、今どんな気持ち? 馬鹿にしていた人間に負かされるのって屈辱? ねえレミリアさん?」

 

「くっ!!」

 

 

 これまでにないほど苛立たせるような態度でレミリアを煽っていく。

 今、レミリアから暴力を受けることはほぼない。敗北を喫した直後に暴力に走ってしまえばみっともない負け犬同然だ。

 無駄にプライドの高いレミリアがそんな行為をするのは考えにくいし。

 

 

「まあまあ、人生負けることなんて腐るほどあるんだから気にするだけ無駄だよ? 気楽に構えなよ」

 

「同情するつもり?」

 

「まあ僕は後世まで傲った吸血鬼を返り討ちにしたって伝えるけどね」

 

「そうなったらあんたの遺伝子を根絶やしにしてやる!」

 

 

 吠えてる吠えてる。

 レミリアもさぞ悔しいだろうな!

 

 

「お嬢様、今回はプリンを諦めてください。それにお考えください。この程度の遊戯に勝っただけで威張る輩の方が小物だと思いませんか? それにムキになっていたらお嬢様も同等となってしまいます」

 

「違うわよ咲夜。こんな小物に負けたということ自体、高貴な血統を持つ私達吸血鬼にとっては屈辱なの」

 

「えっ、なに僕、すごい言われようじゃない?」

 

 

 流石は主従関係。コンビで僕をディスってきたか。

 

 

「まあいい。それじゃあ勝利の美酒ならぬプリンを頂きに行くからね。レミリアは指をくわえて見てればいいさ」

 

「ほんとあんた、人の神経逆撫ですんの好きよね。まあいいわ。プリン程度咲夜からいつでも作ってもらえるもの。たかがプリン一個ぐらいくれてやろうじゃないの」

 

 

 咲夜のせいでレミリアも冷静さを取り戻したか。これでは弄ったところで軽く一蹴されるだけだ。

 

 

「プリン一個で妹を手にかけてたよね?」

 

「……さっさといきなさい。私の機嫌が変わらないうちにね」

 

「は~い」

 

 

 もういいか。これ以上レミリアを弄っても暴力しか生まれない。正直この状況下では逃げ切れないし。

 こっちは大人しく勝利の美プリンを味わうとしよう。

 

 

 

 

 そう思いつつ、僕は勝利の喜びを噛み締めるのであった______咲夜が砂時計に細工をしたことも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________________________

 

 

 ーーー

 

 

 僕が見ているのは現実なのだろうか。

 いや、そんなはずはない。幻想だ、僕は今一種の幻覚をみているのだ。

 

 

「ないわね」

 

 

 咲夜から案内された厨房の中心に、銀のトレイが置かれている。

 その上にはまたも銀の皿が置かれているのだが____

 

 

「あら、誰か食べたのかしら」

 

 

 上にある筈のプリンがそこにはなかった。

 あるのは銀の皿にこびりついた残骸のみ。

 

 

「妖精メイドの仕業?」

 

「いえ、この辺りは妖精払いをしていたので来ることはありません」

 

 

 何故だ。半分以上はこのときのために頑張ったというのに。

 あの極上の快楽、犯罪的至福。あのプリンを食べるために、諦めることもなくここまで来た。

 なのになんで、どうして……こんなの、あんまりじゃないか。

 

 

「少なくても、館の者の仕業ではありません。皆今回のご遊戯について周知していましたから」

 

「てことは外部の仕業ね」

 

「今日の来訪者はトオル以外はいないと認識してますが」

 

「こいつが食べた……てことはないわよね」

 

「食べてたらあんなくだらない遊び、とっくにおさらばしてる……」

 

 

 皿の裏をみても、銀のトレイを退けても、保冷庫の中を開けたとしても、プリンは見つからなかった。

 紅魔館の者でないとすると、一体誰なんだ!

 今回の遊戯の事を知らず、門番の目を掻い潜り紅魔館へと入り込んだ輩というのは!!

 

 

 ___________んっ?

 

 

「魔理沙……?」

 

「魔理沙?」

 

「あっ、そういえばあいついたわよね。弾幕張ってるの合間に見た気がするわ」

 

 

 門番である美鈴さんの目、あるいは実力行使で掻い潜り、今回の遊戯を知らない人物。それに加え、厨房にあった食べ物を勝手に食べる横暴さ。

 それにあたる人物は一人しか想像できない。

 

 

「魔理沙あの野郎……!!」

 

 

 そうか、さっきの違和感はこれだったのだ。

 いつもの魔理沙なら幼稚な賭けをしていたら絶対にからかってくる。

 なのにもだ。先程奴は焦ったかと思うと頑張れとエールを送って早々に立ち去った。

 よくよく考えれば不自然すぎる。普段しないことをしたからというのと、まさか賭けがプリンだったことを知らなかったのだろう。焦って判断を早めてしまった。

 もう少し上手く立ち回っていれば、まだ疑いの段階で終わっていたかもしれない。

 だが残念、僕の記憶力が魔理沙の同行を忘れてはいなかった。

 

 

「咲夜、運動後のティータイムよ」

 

「かしこまりました」

 

 

 魔理沙も悪気は無かったのだろう。

 たまたま通った厨房、そこには美味しそうなプリンが。そんな状況、誰だって食べたくなる。

 ここらの人外達なら皆絶対食べてる。霊夢ならなおのこと食べる。

 

 

「だが許さん!」

 

「何言ってんのこいつ」

 

「さあ?」

 

 

 食べ物の恨みは本当に怖いということを思い知らせてやる!

 それも何もせずして手にいれているところが腹立たしさを倍増させる。僕は服がボロボロのびちゃびちゃになるまで頑張った。それぐらいしてもまだ足りないくらいの価値があのプリンにあったからだ。

 なのに……くそう、くそう!!

 

 

「レミリアは悔しいと思わないの!?」

 

「確かに私が食べるものだったら悔しい。でもあんたのってなると、にやけが止まらなくなるわ」

 

「この陰湿野郎!」

 

「あんたには言われたくないわよ」

 

「さっきまで散々お嬢様を煽ってましたしね」

 

 

 ほんとにこの二人揚げ足を取ってくるな! ……自分の事は棚にあげたりなんてしてないよ?

 さて、どうしてくれようか。あの似非魔法使いに目にもの見せてやる方法は____

 

 

「あ~、いったたた。パチュリーのやつ、あんなに頑丈に作る必要ないだろー」

 

 

 厨房の外から響いてくる、聞き慣れた男勝りな口調の声。

 あの声は____間違いない!!

 

 

「魔理沙ぁ! このやろう!!!」

 

「うわ、トオル……あっ、やべ」

 

 

 完全に黒だ! 僕が怒って厨房から出てきたのを見て完全に察したな! プリンを食べたのがバレたって!!

 

 

「僕のプリンを食べたの魔理沙だろ!」

 

「僕のって事はあれか? トオルお前レミリアに勝ったってことか。そりぁめでたい。さっそくウチで茸鍋ご馳走してやろうか?」

 

「いるかそんなもん! 今絶対話逸らそうとしたよね? どうして、ねぇどうして?」

 

「ど、どうしたもこうしたもないぜ? 」

 

「うるさい! ど~せいつもの言い訳だろ? もう聞き飽きたんだよそう言うの! たまには正直になりなよ! ほら、僕に何か言うことあるよね?!」

 

 

 犯人を見つけ、自分が珍しく荒れているのが分かる。魔理沙につめより、一挙一動が大袈裟になっているのは、今の気持ちを伝えようと必死になっているのだ。

 それに怒りが混じればもう荒れ放題になるのは必至だろう。

 

 

「う……」

 

 

 さあ魔理沙、謝れ。謝っても許す気は毛頭ないが、刑は軽くしよう。境内の草むしりと茸1週間分の献上でなんとか手を打たないこともない。

 

 

「う? うがなんなの?」

 

「う、う……」

 

 

 う、のあとに謝る単語ってあったっけ?

 いや、でも見るからに謝るような感じではある____と、心の中での僕の考えは、魔理沙の次の一言で全てが砕け散った。

 

 

「うまかったぜ、あれ!」

 

「……!!!」

 

 

 そうか、そうだったな。魔理沙はそういうやつだった。自分の行動に悪びれないところは凄いと思うよ、うん。

 

 

 

 とりあえず目の前にいる魔理沙に向かって弾幕張りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハ! 魔理沙! もっといけるでしょ? 私を楽しませてよ!!」

 

「しつこい! 借りた本が傷つくだろ!」

 

「私の本返せ!」

 

 

 あれから一時の間が過ぎ、僕は服が大の字になって紅色の床に倒れていた。

 

 

「あんたのせいで屋敷がめちゃくちゃよ」

 

「発端はレミリアでしょ」

 

 

 僕が不意に魔理沙に弾幕を張ったはいいが、簡単に避けられ、反撃され、返り討ちにされ、泣いた。

 まあおかげでフランドールは起きたし、本を盗まれていたパチュリーさんが駆けつけて魔理沙迎撃に勤しんでくれている。

 僕の行動は無駄ではなかった。

 

 

「何やりきった感じ出してんのよ。ほらみなさいよ、折角の私の屋敷がそこらじゅう穴だらけになってるじゃない。どうしてくれんのよ」

 

「これを機にリフォームしたら? 赤色なんて目に悪いよ」

 

 

 プリンは食べられなかったけど、なんだかスッキリした気分だ……プリンは食べられなかったけど。プリンは食べられなかったけど!!

 

 

「んじゃ、僕帰るよ。帰って夕飯作らないと」

 

「帰さないわよ。これ直すの手伝いなさい」

 

「いやいや、僕なんかいても足手まといなだけだよ。紅魔館なんてよく壊れてるんだからこれぐらい平気でしょ」

 

「半壊は流石にない。いいから手伝って」

 

「無理」

 

「消すわよ」

 

「……」

 

「……」

 

 

 崩れ落ちる瓦礫、声高に笑う少女の声。

 お互いの頬に一粒の汗が伝う。

 そしてその汗が顎から落ちたとき____

 

 

 

「さよなら!」

 

「帰すか!!」

 

 

 

  ____鬼ごっこが再開した。

 

 




咲夜が砂時計に細工をしたことについて言及はありませんでしたが、それは各々のご考察にお任せします!
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