東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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54話 動き出す歯車

 

 

 最近、僕は花に興味が出てきた。

 特に種類とかを調べるレベルではないが、道端に咲くタンポポだったりを眺めていたりするだけで1日を無駄にする日が続いている。

 

 

「このピンクの花、何て言うの?」

 

「手がかりが見つからないからって、現実逃避をするのもどうかと思うよ」

 

 

 萃香ったら、何をいってるんだか。僕はただお花の美しさに酔いしれているだけだっていうのに。

 

 

「因みにこれはキキョウソウって言うんだよ」

 

「知ってて聞くって質悪いね」

 

 

 萃香が僕の記憶を取り戻すのに協力してくれると言われたときは、正直に心強かった。

 己の身体を霧状にすれば姿を晒さず探すこともできるし、身体を疎いて分裂させれば広範囲での捜索が可能になる。

 なのに紫姐さんの手掛かりなんて1つとして掴めていないのが現状だ。

 

 

「で、あんたは私が探している間何してたわけ?」

 

「豆腐屋見張ってた」

 

「あんた馬鹿すぎるでしょ。なんでそんなとこ見張ってたの」

 

「ば、馬鹿だなんて失礼な。紫姐さんの式である藍さんが来るかどうか見張ってたんだよ」

 

「だから馬鹿って言ってんの。人里はあんたがよく行き来している場所なんだよ。そんなとこに式を行かせたりなんかしないだろうに。もし仮に行かせたとしても、紫の式は妖狐なんだ。他の人間に化けられたら豆腐屋見張ってたって判るわけないでしょ」

 

 

 うっ、それを言われたら……そうだ、藍さんは妖狐。しかも九尾だ。僕なんかでは到底判別できないほどの変化へんげすることだって不可能ではないはずだ。

 

 

「……ごめん」

 

「まあ私も他人のこととやかくは言えないけどね。お互い成果なしなわけだし」

 

 

 人里から少し離れた小さな池。水溜まりのようなこの池は僕と萃香が集まる隠れ家となっており、週に一度集まっては調査結果を報告しあうようになっている。

 今日で3回目、つまり3週間めとなるが、未だに手掛かりの手の字もみつけられていない状況が続いていてうんざりしてきた頃だ。

 

 

「幽々子さんのとこに行き着くまでは順調だったのになぁ」

 

「あんなにしらをきるのが上手い奴は初めてだよ」

 

「しらを切ってるふうには見えなかったけどなぁ」

 

 

 探し始めた時に最初に目星がついたのは、やはり幽々子さんだった。

 紫姐さんの数少ない友人である彼女には紫姐さんも何かしらのアクションを起こしていると踏んだからだ。

 だが、結果は悲惨にも何も得られずウチの食料の大半を失った。

 そもそも紫姐さんが自分の居場所をわざわざ露見するようなことはしないだろうし、教えたとしてもそれは紫姐さんがこの人なら口を割らないと信頼している証でもある。そんな相手に聞き出そうとしても無理な話だったのかもしれない。

 

 

「んで、これからはどうする。今まで通り各々で探しても見つけられないことが証明されたけど」

 

「う~ん」

 

 

 紫姐さんと関連がありそうなところは粗方探した。

 それ以外だって萃香が探してくれている。なのに全く手掛かりが見つけられないということは紫姐さんは外の世界にいる可能性があるか徹底的に証拠隠滅しているかのどちらかだ。

 うーん、どちらもあり得るし手のだしようもない。

 

 

「いっそのことあんたが死にかければ確実に紫も出てくるのに」

 

「痛いのは論外」

 

 

 死にかけるって、一体萃香はなにをしようとしていたんだ。

 

 

「は~あ。3週間でかけて成果なしだなんて、紫も中々やるなぁ」

 

「どうしても僕に会いたくないんだね、紫姐さんは会っても紫姐さんなら真実をはぐらかす方法はいくらでもあるだろうに」

 

「あんたがしつこい性格だからでしょ。自分の嫌なことならさっぱり切れるのに、興味があることには危険があっても手を突っ込むじゃん」

 

「な、何言ってんだ。僕は危険を侵してでも自分にメリットが多い時以外は危険には絶対手を出さないよ! 絶対に!」

 

 

 例えば本とか本とか、本とか……本とか。

 

 

「どうせ本とかその程度で動く、あんたはその程度のことで命を粗末にするんだ」

 

「ねえ、萃香ってたまに僕の心読むよね」

 

「あんたの思考が単純なだけだよ」

 

 

 つくづく癪に障る言い方してくるな。

 ま、まあ僕は? それぐらいで向きになるほど子供じゃないし? こんなロリ鬼の話なんて半分聞き流してれば済む話だし?

 向きになるだけ無駄さ、無駄無駄…………。

 

 

「ふっ、どうせ萃香だってお酒の事しか頭に入ってないんでしょ。お互い単純思考同士仲良くしようじゃないか」

 

「あんたと一緒にしないでよ。私はお酒以外にも考えてることなんて巨万とあるからね」

 

「そ、そんなこと言ったら僕だって……」

 

「今の発言は、自分は単純思考ですって認めてるようなもんだよ。それに私を巻き込もうとしたようだけど、墓穴掘っただけに終わっちゃったね」

 

「う、うぐっ」

 

 

 ほらね、どうせ言い負かされるんだ。向きになるだけほんと無駄だ……ん? 萃香の言った通り墓穴掘ったからではって? ははは、作り話をする際、瞬間的に矛盾のない会話を延々とするのは普通の人にとって至難の技なんだよ? 最初は大丈夫だったとしてもいずれボロがでて結局同じ結果にたどり着くだけさ。

 萃香に限らず、幻想郷の実力者はその揚げ足を取るのが上手なんだよね。

 

 

「はあ……僕はこれから里で喫茶店寄るけど、萃香もくる?」

 

「おっ、なになに。私をデートに誘おうっての?」

 

 

 イライラするときは糖分をとって解消させるのもストレスを溜めないコツの1つだ。

 本当は一人で行っても良いけど、何分喫茶店なんてお洒落な店、女性層が多く僕一人では中々入りにくい。だから仕方なく萃香を誘ったってのにデートと間違われては困る。

 

 

「んなわけないだろ。なんか疲れたから甘いものとって癒されようかと思ってね」

 

「は~ん、言い負かされて拗ねるかと思ったけど、負けた相手を食事に誘うなんてトオル、あんた成長したね。よし、褒美にデート付き合ってやろうじゃないか」

 

「デートじゃない」

 

 

 そんな僕の声も虚しく、萃香に背中を叩かれながら人里へと向かうのだった。

 くっ、このまま何も言わず別れればよかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「えっ! ここお酒ないの!?」

 

「あるわけないでしょうが。ここ喫茶店だからね? 酒屋とは違うんだよ」

 

「ねえトオル。少しは女心ってもんを分かろうよ」

 

「真っ昼間からお酒を所望する女の心なんて分かろうとする気は毛頭ない」

 

 

 人里の大通りに建ち並ぶ店の中でも、一際洋風なイメージのある喫茶店。珈琲や紅茶、サンドイッチやホットケーキ等、西洋チックな飲食物がこの店の主流だが、裏メニューにはお団子や緑茶があったりもする。

 こういった洋風なお店はできた当初は敬遠されがちだったが、お洒落な点において他の店を凌駕されており、次第に若い女性層を中心に人気を博していった。

 

 勿論、お酒なんてものは置いてない。

 

 

「お~さ~け~お~さ~け~!」

 

「煩い! これでも飲んで静かにして!」

 

「なっ……苦っ!! なに飲ませるんだい!?」

 

「珈琲さ。大人って感じでしょ」

 

「さてはあんた、頼んだはいいけと自分では苦くて飲めないからって私に飲ませたね!」

 

「うっ、そんなわけないじゃないか。何言ってんだか? 僕はただ萃香を有効的に黙らせる方法を取っただけさ」

 

 

 萃香のやつ、やはり鋭いな。甘党な僕が格好つけて珈琲なんて苦いもの頼んでいることを見抜いている。

 

 

「はあ、まあ伊吹瓢さえあれば店になくても関係ないけど……あれ?」

 

「店内飲酒禁止だよ」

 

「あー!」

 

 

 こんなこともあろうかと、萃香が駄々をこねてる隙をついて伊吹瓢を取っておいたーーと言いつつも伊吹瓢は鎖に繋がれているから、相手から引っ張られたら終わりなんだけどね。

 

 

「返せ! それは私の宝だ!」

 

「返したら飲むでしょ! この中にいる間は絶対返さないよ!」

 

 

 案の定己の繋がれた鎖の1つを引っ張る萃香。それを止めじと僕も伊吹瓢を引っ張り、なんとか彼方側に行くのを阻止。

 対面に座る男女が、両手を股下に下げプルプルと震えるという奇妙な光景が喫茶店の一角で繰り広げられていた。

 

 

「トオルのくせに中々やるじゃないか……!」

 

「ぐぬぬっ!」

 

 

 僕は萃香の伊吹瓢を此方側に引き寄せたとき、足を使って机下から手繰り寄せてきた。

 だから鎖は必然的に机の下となり萃香が気付いて引っ張ってこようとも体勢が悪くて上手く力も込められないはず。そして僕は伊吹瓢と鎖の継手部分を両太腿で挟み両腕でガッチリと固定させている。

 つまり圧倒的僕が有利な状況だ。なのに、なのにだ。今にも両太腿の封印は解かれ、僕の元から伊吹瓢が旅だとうとしている。

 

 

「させるかあ!」

 

 

 腕に全身全霊で霊力を込め、瓢箪の窪みに掴みかかる。

 ここはお酒を飲むような場所ではない。この店のマナーを守らせなければ僕がここを出禁になってしまう。

 本当に萃香を連れてきたのは失敗だ。いくらアル中の萃香であれ、一般常識ぐらいはあるだろうと軽んじた判断をしてしまった。いや、あるにはあるんだろうけど、そもそもその常識を守ろうとする必要がないんだ、この鬼。だってこんな洒落た店、酒臭い萃香が来ることなんて万一にないのだから。

 

 

「飲みたきゃ他所に行ってよ! 何度も言うけどここは飲み屋じゃないんだ!」

 

「折角洒落た店にきたんだ。雰囲気を楽しみながら飲むのも乙でしょ?」

 

「萃香のせいで雰囲気ぶち壊しなんだよ!!」

 

 

 駄目だ、手と足に力が入らなくなってきた。いやでも、ここで離してしまったらここを出禁になる!

 なにが、なにがなんでもこの四肢を伊吹瓢を離すわけにはいかないんだ!

 

 

「お遊びもこれまでだ。いい加減返してもらうよ!」

 

 

 しかし、そんな僕の全力も鬼の前には無力。萃香の今の一言を境に鎖を台の上へとずらしていく。

 

 

「んぐぐっ!」

 

 

 勿論僕は抵抗している。が、そんなものは空しく、遂には台の上に鎖がいってしまった。

 

 まずい、これは_______

 

 

「ようしょぉお!」

 

 

 萃香の掛け声をした次の瞬間、僕は自分が宙に浮いていることに脳が追い付かなかった。

 

 

「えっ___」

 

 

 あれ、僕は今……飛んでる? なんで? 伊吹瓢は手にないし___もしかしてこれ……萃香の引っ張る勢いにふっ飛ばされたんじゃ……!!!?

 

 やばいやばいやばい! 飛ばなきゃ飛ばなきゃ!?

 地面に当たったらただじゃ済まない、打ち所が悪かったら最悪死___

 

 人は己が死の危険に直面したとき、回りがスローモーションに見えることがある。

 だが、脳は別で普通に稼働している。だから短い間にもここまで思考を張り巡らせることができるのだが、如何せん身体はそれについていけない。

 霊力を集中させようにも時間が無さすぎる。

 僕はただ目の前に見える出入口のドアに向かって突っ込んでいくしかない。

 せめて頭だけでも! 頭だけでも守れれば死は免れるかもしれない!!

 間に合え、僕の腕!

 

 

「へえ、こんなところに喫茶店なんか出来___あら」

 

「あっ___」

 

 

 ドアへ突っ込む覚悟を決め、頭をなんとか腕で守った僕は言わば即席の人間ミサイルだ。

 勿論突っ込む際に人が入ってくる事なんて微塵も考えていなかった。というかそんな余裕あるわけがない。

 

 そんな予期せぬ事態に対応する間もなく、僕はドアを開けた人ーー恐らく女性とあえなく衝突した。

 

 

「うぐっ!」

 

 

 鬼によって吹っ飛されたおかげで、中々のスピードで女性に突っ込んだ僕であったのだが、僕に来た衝撃はクッション当たったぐらいの軽いものであり、その後に床に落ちた衝撃の方が余程痛かった。

 ……あれ、というか僕がぶつかった相手、倒れてなくない?

 普通の人だったら避けるかぶつかって後ろに倒れると思うのに。

 

 

「まさかこんなところででくわすなんてね」

 

「いたた……えっ?」

 

 

 床にぶつけた箇所を庇いつつ、僕はぶつかった女性を見上げた。

 そして一瞬にしてある思考が脳裏を過った。

 

 

 

 ____この人と、会ったことがある。

 

 

 

「ほう、まさかあんたもこんな洒落た店に来てたんだね」

 

「来るのは初めてよ。ただ気になったから来てみただけ___それよりも、会って早々酷い歓迎じゃない?」

 

 

 僕がぶつかった女性と萃香は顔見知りのようだ。

 店全体が騒然としている中、悠々と普段通りの会話を続けている。

 しかし、僕はそんな事よりもとある疑問がしこりのように残っていて、店がどうこうとかぶつかった女性に謝罪の一言だとか言っている場合ではなかった。

 

 なぜなら僕は、この女性を知らない。

 なのに僕はこの女性を見た瞬間に確信した。

 それが僕の勝手な理屈だとしても、そう感じてしまったのだ。

 

 この人と何処かで会ったことがある、と。

 

 そしてその思考の可能性を一押しする発言を、萃香により聞かされることとなる。

 

 

「事故だよ事故。私がタイミングを見計らってあんたに人間を投げつけるもんかね。

 ______ねぇ、()()()()

 

 

 

 

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