東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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過去編+初めて?のバトル回です。
今後バトル回が増えるかもしれません。


56話 追憶の末 前

 

 

「はっ!」

 

「もう少し力みを抜きなさい。余計に体力を使ってしまっているわ」

 

 

 今から数年と前、マヨヒガの庭にて年端のいかない少女と妖怪が巫女となるための修行をしていた。

 

 

「ねえ紫。こんなことしてなんになるのよ。霊弾なんて適当にばーっと出せば良いじゃない」

 

「そんなんじゃ直ぐにバテるわよ。必要最小限で生成しつつ必要に応じて威力の強弱をコントロールする。それだけで体力や霊力の消耗を防ぐことができるの。無駄なんかじゃないわ」

 

 

 隙間から上半身だけをだし、扇子を扇ぎながら指導をする妖怪___八雲紫と、巫女修行真っ只中の少女___博麗霊夢。

 今は夏、うんざりするほどの日差しの下、蝉の鳴き声が煩わしく感じるこの季節は、霊夢にとって最悪であった。

 

 

「(暑い、暑い、暑い!! さっさとお風呂に入りたいわ……)」

 

「ほら、サボってないで再開しなさい」

 

 

 そんな二人を縁側で覗く三人。

 一人は八雲紫の式である八雲藍、二人めはその八雲藍の式の橙、そして最後が最近漸く“ら”行の呂律が回るようになったトオルである。

 その三人は二人の修行風景を見学しつつスイカを頬張っていた。

 

 

「藍さま! これ美味しいね!」

 

「可愛いなぁ橙。ほら、私のも食べて良いぞ」

 

「ありがとうございます! 藍さま!」

 

「……」

 

 藍が橙可愛がっている最中、トオルはスイカを食べる手を止め、二人の姿をじっと見つめていた。

 

 

「んっ? どうしたトオル。食べるてが止まっているぞ。私が食べさせてあげようか?」

 

「いや、大丈夫」

 

 

 スイカに口をつけていないトオルに気付いた藍が話しかける。

 しかしトオルはそっけない返事だけをし、目線は修行中の二人に釘付けであった。

 その姿を見て藍はあることに気付く。

 

 

「もしかして、トオルも修行をしたいのか?」

 

「うん!」

 

 

 トオルの元気な返事に藍は顔がほころぶ。

 己の子同然で育ててきたトオルが此方に向かって満面の笑みで返事をしてきたのだ。普段も甘々な藍はトオルの返事に対して自分も乗り気となり、

 

 

「よーし、それじゃあスイカを食べたらちょっと教えてあげようか。ついでに橙も一緒にやるぞ」

 

「やったー!」

 

「えー、暑いのやだ!」

 

 

 橙と共にトオルは修行の真似事をすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「トオル、霊弾を出すのはイメージだ。自分の中にある霊力を外に出す。例えるならポケットの中から丸いビー玉を取り出す感じだ」

 

「やってみる!」

 

「弾ぐらいなら私もうできるもん!」

 

 

 藍のレクチャーにより、トオルは霊弾をだすイメージをする。

 元よりトオルは霊夢並みに霊力量はあり、本人は気づかぬうちにそれを溢れさせていた。

 藍も霊弾とはいかないまでも放出するぐらいは出来るだろうと踏んでいた。

 

 

「あっ、出来たよ! ビー玉!」

 

「おお! 凄いじゃないか!」

 

 

 そう考えていた矢先、トオルは難なくビー玉サイズの霊弾を出現させた。

 それを見て藍は驚きと共に喜び、トオルを高い高いする。

 

 

「ん~、でもこれすっごく疲れる……」

 

「それは仕方ない。まだ霊力を出すのに無駄な体力を使ってしまっているからな。これから力の使い方を覚えていけばいずれ霊弾をいくら出しても疲れなくなるはずだ」

 

「分かった! さっき紫姐さんが霊夢に言っていたことだね!」

 

 

 藍とトオルの修行はこれより始まった。

 この事が能力の覚醒に繋がるということも知らずに___

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 それから一ヶ月の月日が流れた。

 夏の暑さも影を潜め、外で過ごすには丁度良い季節の変わり目になった今日この頃、トオルは飽きずに修行を続けていた。

 

 

「大分上達してきたな。どうだ、以前と比べて疲れなくなっただろ?」

 

「うん、これなら霊弾をたくさんだしても平気かもしれない」

 

 

 この一ヶ月でトオルは霊弾を頭一つ分の大きさまで拡張し、霊弾を出すときに使う体力を大幅に減らすことまで成長していた。

 

 

「それじゃあ一度、橙と模擬戦でもしてみようか」

 

「トオルなんて私の敵じゃないですよ!」

 

「なにおう! 僕だって橙なんかに敗けやしないよ!」

 

 

 トオルの修行の成果がいかほどのものかを計るため、藍は橙との模擬戦を企画する。

 これにより橙にも良い刺激を与えられれば、相乗効果を得られるかもしれないと踏んだからだ。

 

 

「空を飛ぶのはまだトオルが出来ないから弾をだすときに必要な動作以外では禁止。殴り蹴りも怪我をするかもしれないから無しだ。妖弾、霊弾どちらかが一方に当たった時点で終了だ」

 

 

 藍が二人の前で事前説明をしていると、修行を終えた霊夢と紫が側を通りかかる。

 霊夢の手には汗拭き用のタオルが握られており、絶賛顔を拭いている最中である。

 

 

「貴女達集まってなにやってるの?」

 

「おお紫様と霊夢ですか。よかったら紫達様も観ていってはいかがですか? これからトオルと橙で模擬戦をするんです」

 

 

 そう藍が話すと紫は「へぇ」とだけ返事し、トオルと橙を見やる。

 その姿を見て、紫はある違和感に気付く。

 

 

「ねえ藍。トオルの霊力、元からあんなだったかしら」

 

「……? あんな、とはどういうことでしょう?」

 

 

 大妖怪である藍ですら分からないほど微妙な霊力の変化、それを紫は見逃しはしなかった。

 

 

「見てわからないの? 少しだけど以前より霊力の質が変わってるじゃない」

 

「霊力が、ですか…………考えられるのはここ一ヶ月、私はトオルと橙に稽古をつけていたことですかね。それによりトオルは特によく成長してくれましたので、もしかしたらその成長による変化かもしれませんね」

 

 

 藍の回答に若干の疑問を残すが、確かに合点はいく。

 霊夢の霊力も以前の霊力と比べればより質が良くなった。短期間の修行とはいえ、今の霊夢なら大妖怪にも十分通用するだろう。

 

 

「(だけど、トオルのはなにか違う。質が良くなったというより、薄くなったような____)」

 

「何考え込んでんのよ。邪魔でしょ」

 

 霊夢の叱咤に考えを停止させる紫。改めて前を見ると苛立ちを隠そうともしない霊夢が立っていた。

 

 

「そう、ね。途中で止めてしまって悪かったわ。私達は縁側で観てるから、始めてしまっても構わないわよ」

 

 

 そう言って紫は霊夢を連れて縁側へと歩を進める。

 再び思考を再開させようとする紫に霊夢は、

 

 

「ほんと、あんたはトオルに対して過保護過ぎよ。ちょっと霊力の質が変わるのなんて大した問題じゃないでしょ」

 

「ふふ、トオルに嫉妬してるの? 大丈夫よ、霊夢も過保護対象だから」

 

「そんなもんいらん!」

 

 

 再び怒る霊夢に、紫は扇子を仰いで微笑む。

 

 

「(まあ、私の思い過ごしでしょう)」

 

 

 

 

 

 

 

「それでは___始め!!」

 

 

 藍の発声により戦いのゴングが鳴る。

 橙は余裕の表情でトオルに挑発する。

 

 

「トオル~、降参するなら今しかないよ? 私は妖怪でトオルはたかだか人間の子供、“馬力”ってもんがちがうのよ“馬力”が!」

 

「“ばりき”? それってなに?」

 

「わかんない!」

 

 

 慣れない言葉を使うんじゃないと藍に叱られつつ、橙は改めて戦闘体勢に入る。

 それにつられ、トオルも回りに霊弾を生成させる。

 

 

「トオルの弱っちい霊弾なんかじゃ私の妖弾は防げないよ!」

 

「うわっ!?」

 

 

 橙の言う通り、橙の放った妖弾はトオルの横を掠り、隣に生成させていた霊弾が音を立て霧散する。

 

 

「中々やるなぁ。

 でもこれは当てれば勝ちなんでしょ。威力はそんなに関係ないよ」

 

「馬鹿だなぁ、トオルは。

 威力が高いってことはつまり____適当に弾幕張るだけでトオルは押しきられて負けるんだよ!」

 

 

 そう言い放ち、人一人分の高さまで飛ぶと、橙は回転をし始め、その回転に応じて無数の妖弾が放たれた。

 

 

「防御手段の霊弾も橙の妖弾には通用しない。だからこその下手な手を打たずごり押しの弾幕。橙にしては悪くない戦法ね」

 

「ただ考えてないだけでしょ」

 

 

 戦いの場から少し離れた縁側で観戦する紫と霊夢。

 端から見てもやはりトオルは絶望的な状況が窺える。

 

 

「どうすんのよ。あの弾幕じゃ一発どころか数十発当たるわよ」

 

「平気よ。一発当たった時点でトオルをスキマに引き込むから」

 

 

 そういう紫の右手は既にいつでも引き込めるようスキマの中に入っていた。

 

 

「橙! やりすぎだぞ! 少しは加減をしろ!」

 

 

 藍が弾幕を張る橙を叱る。

 これでトオルが重症でも負う可能性が極めて高いからだ。

 何も特徴もない妖力量に任せた妖弾の集合体。

 その弾幕が今にもトオルの目の前まで迫っていた。

 紫の右手にも汗が流れる。

 

 

「危ない! これ死ぬやつだって!?」

 

「えっ!?」

 

 

 しかし、橙の弾幕はトオルに着弾することなく、みるみるうちに通り過ぎていく。

 不格好ながら、トオルは身体全体を使って全てを避けていたのだ。

 

 

「このっ! 当たれ、当たれ!」

 

「あ、当たってたまるもんか!! 僕だって反撃してやる!」

 

 

 避けながらなんとか霊弾を生成したトオルは反撃にでる。

 霊弾を生成するには集中力が必要なため、四発程度の量ではあるが、その霊弾を橙に向かって放った。

 

 橙の弾幕はまばらで確かに隙間は多い。だからといって決して少なくはない量、そんな中威力の劣るトオルの霊弾は呆気なく霧散するのが道理である。

 しかしトオルの四発の霊弾は弾幕を掻い潜り弾幕元である橙まで辿り着いて見せた。

 

 

「なっ、危なっ!」

 

「惜しい!」

 

 

 まさか全ての弾が弾幕を掻い潜るとは予想だにしていなかった橙は回転を止め、慌てて避ける。

 

 

「今の、あまりにも偶然が過ぎるんじゃない?」

 

「そうね、トオルの霊弾は別に操作されているわけでもなく、ただ真っ直ぐに飛んでいた。なのに全ての弾が橙まで辿り着くなんて不可能に近いわ」

 

 

 霊夢と紫が縁側で考察する中、模擬戦は続いていく。

 

 

「これでも食らえ!!」

 

「うわっ、わっと!?」

 

 

 慌てて避けたことにより、橙の弾幕が止まり隙が出来た。

 その隙をトオルは見逃さず更に十発の霊弾を放ち追撃する。

 

 

「トオルのくせに調子に乗るな!」

 

「調子に乗らせた橙が悪い!」

 

 

 体勢を崩しながらも橙は妖弾でトオルの霊弾を撃墜していく。

 そのままの勢いで橙は弾幕を再展開させるが、トオルは又も危なっかしくではあるが避け、霊弾をお見舞いする。

 

 

「はあ! はあ!」

 

 

「息が荒い……無理もないわね。あの弾幕を避けるのに相当の集中力を削いでいるはず。それに加え霊弾まで生成して応戦しているのだから、疲弊して当然だわ」

 

「でもおかしいわよね。明らかに当たる弾とか、死角から来る弾までトオルは避けてる。しかもそのときだけ危なっかしさが微塵も感じない、まるで最初から分かっていたかのような動きなのよね」

 

「あら、予測を立てて動けば不可能なことではなくてよ、霊夢。ただ___それには莫大な経験と知識が要るのよ。霊夢のような天性の才能でない限りはね」

 

「ならあいつも天性の才能ってやつじゃない? トオルは私の弟なんだから、それぐらい出来ても可笑しくはないわ」

 

 

 別に血が繋がっている訳ではないので霊夢の発言は勿論の事違う。

 しかし、現にトオルが避けているのも事実。紫はその事実を踏まえたうえで、トオルと橙の模擬戦を見る。

 

 

「拮抗しているわね」

 

「橙は無駄に弾幕を張って妖力が枯渇気味、対してトオルは霊力にこそ余力を残しているけど、体力面で大分疲弊してきている。どちらもいつ当たってもおかしくないわ」

 

 

 トオルは避けつつ最小限の弾で応戦、橙は妖力量にものをいわせた物量戦で勝負を仕掛け続ける。

 

 

「(橙、いつまでそんな手にこだわり続ける! このままでは妖力が尽きてしまうぞ!)」

 

 

 橙の主である藍は内心焦っていた。

 今回の模擬戦はトオルだけではなく、橙の成長具合も測るために企画したものであった。

 藍の修行は何も霊力弾の効率的な生成方法だけでなく座学にも力を入れていた。

 特にその場その場での己の立ち回り方には藍との仮想戦闘も含めて教えていた筈だった。

 現にトオルはその教えに乗っ取り、己の有利な状況へ運ぶよう立ち回っている。

 だというのに橙はあくまでもごり押しでの勝利に固執している。

 不利を承知でごり押すことは、最もしてはいけないと口を酸っぱくして言っていたというのに。

 

 

「はあ! はあ! 橙、そろそろ、妖力も尽きるんじゃ、ない?」

 

「トオルこそ顔が青いじゃない! 一発当たれば楽になるよ!!」

 

 

 橙の弾幕が一層に激しくなる。

 トオルもより神経をすり減らし避けるのに集中する。

 

 

「馬鹿ね。これじゃあ妖力が尽きるよりも先に終わってしまうわ」

 

 

 霊夢がそう呟くと、紫が扇子に口を当て苦笑いをする。

 

 

「橙はもう少し頭を鍛えさせた方がいいわね。相手の戦闘分析も出来ないようじゃまだまだね」

 

 

 二人が橙をダメ出ししているのには理由がある。

 高密度の弾幕による視界不良、対して相手の霊弾は悉く弾幕を切り抜け本体へと向かってくる。

 この状態で視界を悪化させるような行為は愚作に等しい。

 

 

「____あっ」

 

 

 その二人の予想は的中し、トオルの霊弾が目の前に近付いてくるまで全く気付いていなかった橙に、霊弾が見事肩に命中した。

 

 

「はあ、はあ、はあ…………あれ、弾幕が、止んだ……?」

 

 

 自分が当てたことに気付いていないトオルは何故弾幕が止んだのか理解できていない様子。

 そこへ藍がトオルの元まで来て肩を叩いた。

 

 

「トオルの霊弾が橙に命中した。つまりトオルの勝ちってことだ」

 

「わ、私はまだ負けてません!」

 

 

 橙が慌てて敗けを否定する。

 しかし、トオル以外の者は皆命中した事実を目撃しているのだ。

 

 

「橙、後でお前は補修だ。今回のは立ち回りが酷すぎるぞ」

 

「そ、そんなぁ」

 

 

 息を切らし、その場に膝をつくトオル。

 相手にダメージを与えは出来ずとも、妖怪に勝ったのだ。

 疲労困憊である筈なのに、笑みが自然と溢れる。

 

 

「トオル、よくやったわね。私が見ていない間にこんなに強くなっていたなんて」

 

「紫、姐さん?」

 

 

 突如としてトオルの目の前にスキマができ、その中から紫が顔を出す。

 

 

「どう、霊夢と一緒に私の修行を受けてみない? もしかしたら霊夢と張るだけの力を得られるかもしれないわよ」

 

 

 急な紫からの提案に目を見開かせるトオル。

 霊夢と張るだけの力____すなわち、博麗の巫女と肩を並べる力を得られるということ。

 トオルは特に力に固執するような性格ではなかった。しかし、今回の勝利の美酒に味を占めた彼は____

 

 

「うん!」

 

 

 ____と、二つ返事を返した。

 

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