東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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※閏冬月さんの作品『無音』とのコラボ回です!


番外編 裏山の住人

 大地を燦々と照らす日光に嫌気がさし、半袖短パンの状態で団扇を扇いでいる今日この頃。

 夏真っ盛りの気温というものは耐えがたいものがある。

 まず汗! なんでこんなにも出るんだ! 体温調整にも程がありすぎる! 何回洗濯させれば気が済むんだ!! 

 

 

「あ、暑い! なんでこんなに暑いんだ!」

 

「だらしないわね。私を見習えば?」

 

「見習うどころか、こんな暑いなか熱いお茶を啜ってる霊夢の神経を疑うよ」

 

 

 霊夢だって大量の汗かいて巫女服の色がより一層濃くなっているというのに、なんで熱いお茶が飲めるんだ。見ている此方が暑くなってしまう。

 

 

「にしても、確かに今日は一段と暑いわね」

 

「もう紅魔館に避難でもしようかな……」

 

「それも良いかもしれないけど、めんどくさい連中が多いでしょ、彼処」

 

「レミリア以外は皆良い人達だよ。たまに人体実験の材料にされかけたり、破壊されそうになるけど」

 

「それで良い人達というあたり、姉として弟の精神状態が心配になってきたわ」

 

 

 うん、僕も言ってる途中からヤバい人達だなと再認識しました。

 

 

「そんなトオルに朗報よ。涼しくて静かで、本がいっぱい置いてある場所があるわ」

 

「何その楽園。そこに今すぐ移り住みたいんだけど」

 

「駄目よ。トオルは私の世話係なんだから」

 

「僕はいつから霊夢の世話係になったのか、原稿用紙4枚で回答してもらっても良い?」

 

「私のものは私のもの、トオルのものも私のものよ」

 

「ジャ◯アン!?」

 

 

 霊夢がジ◯イアンになってしまっていることに悲しみを感じるたが、前々からそうだったことを思い出したので、悲しみも速攻で消え失せた。

 

 

「話を戻すけど、“いろは”の家ってあんた知ってたわよね」

 

「いろは……?」

 

 

 いろは、という人は確か____そうだ。博麗神社の裏山に住んでる子だった筈。度々霊夢が暇潰しでその子の家に遊びに行ってるのは知ってるし、一度だけ会った事もある。

 そういえば確かに博麗神社の裏山は年中肌寒い記憶があるし、妙案かもしれない。

 

 

「霊夢にしては良い案だね」

 

「私だから良い案が出せたのよ」

 

 

 まだ一度しか面識がないので、あまりいろはさんと仲が良いわけではない。

 だけど、これを機会にご近所さん同士仲を深めるのは良いことだし、それを名目に人の家で涼みに行くのは決して悪い行いではないと思うんだ。うん、悪くない。

 

 

「それじゃあ早速行くわよ」

 

「えっ、霊夢も行くの?」

 

「あんたと二人にしたら、いろはが危ないでしょ」

 

「霊夢といる方が危険な気がするのは僕だけかな?」

 

 

 僕に襲う勇気も度胸もする気も更々ないからね。

 ていうか、弟に対して野獣扱いするのは流石に失礼だよね。いや、霊夢の事だから失礼という意味を理解していないのだろう。僕はもうそう割り切るよ。

 

 

「あんた今失礼なこと考えなかった?」

 

「その失礼が霊夢にとってどこまでの定義に当てはまれるかによるね」

 

「よくわからないけど、とりあえずトオルが失礼なこと考えてると断定して一発拳骨するわね」

 

 

 ふっ、こうなることも何となく想像できてたさ。

 いろはさんに会うときは大きいたん瘤作って会うことになりそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ____博麗神社の裏山。

 

 幻想郷の最東端にある博麗神社の更に奥にあるこの山は、外の世界を隔てる博麗大結界が各所で張り巡らされており、妖怪は皆その特殊な磁場を嫌い寄り付かないという。

 

 そんな不思議な裏山、というより樹海に近いこの場所には一つだけ少し目立った二階建ての一軒家がある。

 そこが、今日お邪魔するいろはさんの家だ。

 

 

「着いたわね」

 

「ほんと涼しいねここ。只でさえ肌寒いのに汗が乾いて余計寒いよ」

 

 

 先程まで嫌というほど聞かされた蝉の鳴き声や、これでもかと大地を照らす太陽が恋しくなってくる。

 

 

「確かに冬場にはあまり来たくはないわね。でもまあ、家の中はわりと快適よ」

 

「その“わりと”って所、家主が言うことだよね」

 

「細かいことは気にしなくて良いの」

 

 

 霊夢の失言はともかく、普段は人妖問わず辛口な霊夢が褒めているとなると、いろはさんの家はそれほど居心地がいいってことなんだろうな。

 

 

「そんなことよりも早く入るわよ。私はもう歩き疲れたの」

 

「飛んでたでしょ」

 

 

 僕の突っ込みを無視しつつ、霊夢は玄関のドアの前に立ち、深呼吸をする。

 何故深呼吸を……と、疑問に思ったのも束の間、

 

 

「いろはー! 入るわよ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 普段はあまり聞かない霊夢の張り切った声でいろはさんの名を呼び、玄関のドアを勢いよく叩きつける。

 その姿はさながら、闇金の集金の催促のごとく。友人の家に遊びに来る行動ではない。

 その勢いのあるノックは、ついには蝶番のネジを外し、そのまま家の中へと倒れていく。

 

 

「……我ながら凄い力ね」

 

「何やってんの。奇行に走るにしても限度があるでしょ」

 

「と、とりあえず助けてもらっても良い?」

 

「いろはさん?!」

 

 

 霊夢がドアを倒したことに対して咎めようとしたら、その倒れたドアの下から助けを求める声が聞こえてくる。

 いろはさんは確か独り暮らし、そしてドアの下から聞こえてきた声も以前に聞いた声と酷似している辺り、この家主本人であることは間違いないようだ。

 

 

「なんでドアの目の前なんかにいたのよ」

 

「あ、ありがと。だって外で話し声が聞こえてきたから、気になっちゃって」

 

 

 助けようとドアの近くまで走ったが、流石は霊夢の馬鹿力、片手でドアを持ち上げ、下敷きになったいろはさんを救出する。

 

 

「ごめんね、うちの駄目巫女が迷惑かけてしまって」

 

「貴方は……トオル、さん? 霊夢と一緒に来るなんて珍しいね」

 

「久しぶり」

 

 

 なんだろう、この感覚。

 以前一度だけ会って、そのままお泊まり会をした仲だと言うのに、しばらく会わないとどうも少し他人行儀になってしまう。

 前はどうだったっけ、お互いさん付けで読んでいたかさえ曖昧だ。

 

 

「これつまらないものだけど、はい」

 

「えっ! これって『わよう』のお菓子だよね? こんな良いものもらっちゃってもいいの?」

 

「いつも姉がお世話になってるみたいだからね。お詫びの意味が大きいかな」

 

「何を言ってるの、私がお世話してあげてんの」

 

「「どの口が言うか」」

 

 

 とりあえず、いろはさんの家でくつろぐ前にドアの修理をするのが、第一優先だね。はあ、一度戻って工具持ってこないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「トオルさんって大工もできるんだね」

 

「たま~に人里で建設業の手伝いしてるからね」

 

「それにしては未だに身体はひょろっちいのね」

 

「霊力使うとどうも筋肉をあまり使わなくてね。霊夢達だってそうでしょ」

 

 

 ドアの修理を終え、漸く一息ついた僕は、いろはさんにお茶を貰いつつ居間で雑談をしていた。

 

 こう聞いてて思ったけど、いろはさんの声はとても落ち着く。

 なんて言うのかな、普通の人の声とは似て非なるもので、プリズムリバー三姉妹のように歌い手の音響に近いものを感じる。

 きっと歌ったらとても心地好い音色を奏でてくれるんだろうなぁ。

 

 

「あら、もうこんな時間じゃない。夕飯時ね」

 

「時計霊夢の後ろにあるのに、よくノールックでわかったね。どうせお腹減ったから適当に言ったでしょ」

 

「お土産をほぼ一人で平らげてたのによく入るよね」

 

 

 ほんと、霊夢は自重と言うものを覚えてほしい。

 いろはさん用で持ってきたお土産を躊躇いもなく平らげるんだから。

 

 

「霊夢にトオルさん、今日食べていく? 良ければ作るけど」

 

「はなからそのつもりよ」

 

「図々しいけど、お願いしてもいい? 勿論、僕と霊夢も料理の手伝いするよ」

 

 

 この前もご馳走になったのだが、いろはさんに任せっきりにしてしまったのが、後になってちょっと心残りになった。

 今回も夕飯を頂く事になるが、手伝いをしないと気が済まない。

 あっ、そうだ。今度いろはさんを博麗家の食卓に招待しよう。たまに酒好きの鬼とか魔法使いもどきがくるけど、食事時は比較的静かにしてくれるので驚異にはならないだろう。稀に幽々子さん来るときがあるけど、その時は御愁傷様ということで。

 

 

「ありがと! 霊夢や魔理沙は全然手伝ってくれないんだよね」

 

「おっ、呼んだか?」

 

「うわっ!」

 

 

 噂をすれば現れるのがそう、泣く子も黙る魔法使いの魔理沙だ。

 いつの間に玄関から入ってきたんだ。

 

 

「なんか良い匂いがしてな。寄ってみたんだ」

 

「まだ作り始めてすらいないんだけど……」

 

「匂いの勘ってやつだぜ」

 

「霊夢と魔理沙の体内時計が一緒なだけでしょ」

 

 

 どうせ魔理沙もお腹が空いたからたかりに来ただけだろう。

 

 

「まあいいや、皆で食べた方が美味しいし、居間でゆっくりしててよ。今から作るから」

 

「そこがトオルと違うとこだよなぁ。トオルだったら帰れって追い返してくるもんな」

 

「それはあんたがいつもうちにたかりに来るからでしょ。只でさえ私で食費かかってるんだから、これ以上トオルの負担を増やさせるんじゃないわよ」

 

「霊夢、自分で負担をかけていると自覚しているなら、もう少し食べる量減らすか一緒に働いてくれない?」

 

「嫌よ、お腹空くじゃない」

 

 

 いやまあ、分かってたよ。霊夢はね、もう妖怪退治だけしてくてればそれで十分だ。たまに里の人からお供えもらえるし。

 

 

「そこのぐーたら達は放っておいて作ろ。早くしないと夜になるよ」

 

「そうだね、動かないのなら罰として具なしにすればいいし」

 

「それは卑怯だぜ、いろは。具がないと何を食べれば良いって言うんだ」

 

「霞でも食べてれば良いじゃない。私達は美味しい食事を頂くから」

 

「あっ! 霊夢裏切ったな!! わかったよ、手伝うからちゃんとしたのを食べさせてもらうからな!」

 

 

 いろはさんの発言に瞬く間に反応した霊夢は、いつの間にか台所でお皿を取り始めていた。

 そんな霊夢の変わり身の速さに驚きと呆れの半々を感じる今日この頃ではあるけど……僕が具なしにするなんて言っても絶対二人は動かなかったよね。これがいろはさんの発言力か……! 

 

 とりあえず四人もいればスムーズに進みそうだ。

 これなら暗くなる前に出来上がるね。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「後は盛り付けだけだから三人はもういいよ。手を洗ったらそこの居間で寛いでて」

 

「へーい」

 

「その素麺みたいなのが今日の夕飯なの?」

 

「うん、これスパゲッティって言うんだって。人里の洋食販売店で売ってたんだ」

 

 

 霊夢はスパゲッティを知らなかったのか。

 僕は以前一度だけ紅魔館で食べたことがある。その時に妖精メイドが間違えて血の混じったナポリタン出されて吃驚したのは記憶に新しいよ。

 なんともまあ、その時の苦い思い出であるスパゲッティが、今回の料理と大分似ているので、見ているだけで舌が鉄っぽい味がしてくるんだよね。

 

 

「ま、美味しければなんでも良いわよ」

 

 

 そう言って霊夢も魔理沙のいる居間へと向かっていく。

 

 

「まだ茹で卵の殻破ってないから、ついでにサラダの盛り付け手伝うよ」

 

「ありがとね。それじゃあお願いしようかな」

 

 

 今日はナポリタンみたいなのとサラダの盛り付け、あとはコンソメスープか。

 これで霊夢のお腹が満たされるのだろうか……と、あれ。

 

 

「よく見たらこのスパゲッティのソース、肉入ってない?」

 

「これミートソースパスタだよ。ほんとはカルボナーラっていうピリ辛のパスタにしようと思ってたんだけど、それじゃ霊夢達満足しないだろうなって」

 

「へえ、これナポリタンじゃないんだ」

 

「混ぜたら少し似てるけどね。それにナポリタンは日本風にアレンジした料理らしいよ」

 

「そうなんだ、結構ややこしいね。スパゲッティって」

 

 

 なんでスパゲッティなのにパスタって言ったりしてるのかも気になるし、今度本で調べてみるか。

 

 

「ねぇ、まだー?」

 

「もうちょっとだよ~」

 

 

 台所から出て1、2分と経たずに霊夢から催促が来る。

 あの猛獣らが待っている手前、早めに盛り付けを終わらせなければ。

 

 

「おー、なんかいろはとトオルって、並んで見ると兄妹みたいだよな」

 

「えっ?」

 

 

 魔理沙が顎に手を当て、僕といろはさんを見て神妙そうな表情でそう呟く。

 兄妹、兄妹か~、僕もこんな妹が欲しいよ。傍若無人な姉ではなくて。

 

 

「そうすると私は二人の頼れる姉って訳ね」

 

「いや、霊夢は近所に住むたかり上手な貧乏人だな」

 

「それはあんたでしょ!」

 

 

 散々な言われようだね、霊夢。これを機に己を見直すと良いよ。ちゃんと良いところはあるんだから。

 

 

「そうだなぁ、私も姉ちゃんかお兄ちゃんが欲しいと思った時期あったなぁ」

 

 

 魔理沙の茶化しに思い更けるいろはさん。

 そうだよね、誰だってないものねだりをすることはあるもんだ。邪な感情あるなしは関係なくね。

 

 

「ああ、でも____トオルさんのようなお兄ちゃんがいたら、毎日甘えてしまうかもね」

 

「!!!?」

 

 

 ___完全に油断していた。

 駄目だこれは、急にそんなことを、可愛い女の子から言われてしまったら______

 

 _____キュン死してしまう!! 

 

 

 

 

 ていうかしました。膝から崩れ落ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ……というのは冗談で、この後いろはさんも自分が言った事が大分恥ずかしい事だと分かり、お互い顔が真っ赤になった事をここに記しておきます。

 

 

 そんな一悶着を挟んでの食事ではあったが、いろはさんの料理の腕はやはり目を見張るもので、 あまりの美味しさに瞬く間に皿にあった料理が全て胃袋の中へと収まっていた。

 

 それから4人で談笑をしつつ、夜が更ける前においとましました(魔理沙は泊まるそうです)。

 

 

 今日は中々に楽しい日を過ごせて、色々と満足したね。

 今度はいろはさんをうちに呼んで、博麗家の味をお披露目しなければ! 

 

 

 

 

 

 

 

 そう帰路で霊夢と話していたのだが、結局ある『異変』により、いろはさんと食卓を囲むことは遂にはなかった。




最後のトオルの発言は、冬月さん作品の『無音』を読むと判明しますので、これを見て『無音』に興味をお持ちになった方がいましたら是非、お手に取られてはいかがでしょうか!

因みに、『無音』だけでなく、姉弟録にも言えることでもあったりします。
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