東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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60話 見えない常連

 

 

 母屋にある私の部屋の隣に、やけに本に囲まれた部屋があった。

 中にはパチュリー返納予定とメモ書きされたものもある辺り、魔理沙の仕業ではない。魔理沙は基本借りたものは返さないから。

 

 誰かが確実にいた形跡がある。

 本は別に嫌いではないが、部屋一面まで本にまみれさせるほどでないし、読んだ覚えのない本ばかりが並んでいる。

 

 

「げっ、これ……」

 

 

 今日が期限の本があるじゃない。

 貸出先は__________鈴奈庵か。よく()()()が贔屓にしてた貸本屋だったわよね。

 

 

「……あれっ?」

 

 

 私は今、誰の名前を呼んだ? 

 鈴奈庵、は貸本屋の名前よね。

 今確か無意識的に出てきた名前が……駄目だ、思い出せない。

 

 

「ほんと何なのよ」

 

 

 やはりこれも、透明人間が関係しているということなのだろうか。

 でも待って。ということはつまり、私と透明人間は同棲していたということになる。

 居候なら普通私の隣の部屋に置かないだろう。

 ということはつまり、つまり……

 

 

「……いや、ないわね」

 

 

 透明人間という証拠はまだない。

 誰かが私の知らぬ間に勝手に使っていた可能性だってある。ここの神社じゃ堂々と馬鹿共が屯しているから、可能性としては十分にあるだろう。

 

 

「兎に角、この本を返さなきゃね」

 

 

 仕事に出掛ける前の支度をしてた時に、ふと襖が空いてたから気になって入ってみただけなのに、わりと面倒くさい事になってしまった。誰が借りたかは知らないが、ここにあっては迷惑だし、貸本屋の店番にでも問い詰めてこの本の借り主を突き止めてやるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______________________________________________

 

 ーーー

 

 

「ここが最後か」

 

 

 スキマ妖怪から貰った資料を元に、目撃情報のあったポイントを転々と回ってる訳だが、一向に見つかる気配はない。

 そしてここ___________太陽の畑が最後のチェックポイントだ。

 

 

「あら、珍しい客人ね。お茶でもいかが?」

 

 

 そして花のある所には何処にでも出没する自称花妖怪が一匹。どこからともなく現れ、律儀にも私にティータイムの誘いを掛けてくる。

 

 

「おっ、気前がいいな。私は緑茶を所望する」

 

「ごめんなさい、今は紅茶かハーブティーぐらいしかないの」

 

「なんだ、気前が悪いな。緑茶好きな客人が来るってのを日頃から考えておかないと駄目だぜ」

 

「ふふっ、相変わらず図々しいわね、魔理沙。一応自家製の自信作なのよ」

 

「何言ってるんだ花妖怪。私は紅茶よりも緑茶が飲みたい。舌がもう緑茶! って気分だからな。あんたも別に飲みたくない相手に紅茶を出すのも嫌だろ。それに飲み物の材料として育った茶葉や植物達にも失礼だ」

 

 

 ほんとはただ幽香と飲みたくないだけなんだけどな。

 こいつといる時間だけ寿命が縮んでる気がするのは私だけではないはず。

 

 

「貴女が此処に来るというのは、予想出来ていたことよ。霊夢より先に貴女が来たのは意外だったけれど」

 

「ああそうかい。私達が来ることが予想出来てたってことは、その予想出来るアテがここにはあるってことだよな」

 

「貴女が望むものとは限らないけれど、確かに有益となりうる()()は持ってるわよ」

 

「何勿体ぶった言い方してるんだ。早く口を割った方が身の為だぜ」

 

「あら、どんな風に身を危険に晒すのかしら」

 

 

 やべっ、口が滑ってしまった。

 幽香に脅しまがいの発言は地雷みたいなものだ。

 喜んで脅しに乗って襲いかかってくる。

 

 ……どうしたものか。

 幽香は私らの求めている情報を察している。

 スキマ妖怪が此処に出没情報を明記していたぐらいだ。透明人間と幽香が出くわしている可能性は高い。

 そしてこいつの勿体ぶった口ぶり。

 無理に聞き出そうとすれば、必ずド壺に嵌るだろう。

 別に弾幕ごっこに興じる事を避けたいとかそういうわけではないが依然、透明人間に不意をつかれたとはいえ一杯食わされた経験がある。なるべくいつでも戦えるよう万全な状態で臨みたいのが本音だ。

 つまり、余計な戦闘は避ける。それに尽きる事はない。

 

 

「よし、舌が変わった。今猛烈にハーブティーが飲みたくなった所だ。立ち話もなんだし、そこの広場でティータイムでも決め込もうぜ?」

 

「生憎、今の私はもうそんな気分ではなくなったわ」

 

「はあ? 気分をコロコロ変えて自分の都合に合わせようなんて、自己中甚だしいぜ」

 

「その言葉、全力で貴女に返すわね」

 

 

 多分私の頭には今、人一人分の大きさのブーメランでも刺さっているだろうな。

 ……っと、そんな事はどうでもいいとして。

 この流れはまずいな。幽香の奴、日傘もどきを畳みやがった。

 

 

「貴女達が追っているであろう相手__________透明人間のおかげで、私は欲求不満が溜まっていてね」

 

「へ、へぇ、それを私にぶつけようと? そういうのは人様に迷惑を掛けずに解消するのが常識だぜ」

 

「ここは幻想郷よ? 常識だろうが非常識だろうが全てを受け入れるのよ」

 

「なんだその、何にでも使えそうな万能言葉は」

 

 

 ここは一旦退避して誰か適当な相手をあてがう作戦に変更せざるを得ないな。

 アリスなんかどうだろう。あいつなら丁度いいぐらいに幽香の欲求を満たしてあげられるんじゃないか。

 

 

「おっけー。それじゃあお前に打って付けな相手を見つけて来てやるから、そこで待ってろよ」

 

「もう私の口は魔理沙、貴女になっちゃったの」

 

「私は美味くないぜ? 香辛料たっぷりの激辛で食べられたもんじゃない」

 

「それはそれは、さぞかし刺激的なんでしょう」

 

「……舌が使い物にならなくなっても知らないからな」

 

 

 どうやら、こいつは私を逃す気はないらしい。

 ここまで臨戦態勢に入られた状態で逃げ出すのは、私の性に合わない。あっ、物を借りに行く時とは別腹な。

 作戦は破綻したが、別に今日中に透明人間と出くわすとは限らないしいいか。下手に体力を温存しようと立ち回っていると、手に入る情報も手に入らないしな。

 

 ……ったく、気軽に太陽の畑に入るもんじゃないぜ。タイミングも悪かったんだろうが、一時の間はもう一人でこの場所に行くのは懲り懲りだな。

 

 

「その根暗な笑みが素敵な泣きっ面になっても知らないぜ……!」

 

「貴女の減らず口から、命乞いを聞くのが楽しみだわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________________________________________________

 

 ーーー

 

 

「貴方は____________」

 

「あっ、こんにちわ」

 

「こ、こんにちわ」

 

 

 年中霧に囲まれた湖に聳え立つ紅魔館。その地下にある大図書館の一角にて、私__________パチュリー・ノーレッジはいつも通り読書及び魔術研究に勤しんでいた。

 そんな折、休憩にと顔を上げ、首を回していると少し離れた読書台で本を嗜む少年を発見する。

 

 この私が、目視するまで存在に気付けなかった……? 

 小悪魔は何をしているというの。

 私も人の事を言えた口ではないが、彼女はこの図書館の管理を任せている。侵入者がいればすぐにでもテレパシーで私に報告が行くはず。

 それがないということはつまり、私がそこの人間を目視するまで、誰も彼を見つけられていなかったという事。

 ここまで気配を殺せる者が、私の側まで接近してきているなんて心臓に悪いわ。

 

 

「すいません、パチュリーさん。ほんとは一声掛けたほうがいいかなと思ったんですけど、なんだか集中してるみたいだったんで待たせてもらってました」

 

 

 そして私の名も知っていると。

 まあ、私は高名な魔法使いとして幻想郷に名が轟いていても不思議ではないから、彼が私の名を知っているのは不自然はないわね。

 

 

「私に何か用? 侵入者さん」

 

「侵入者といえばまあ、侵入者になりますね」

 

「小悪魔、咲夜を呼んできて頂戴」

 

「ま、待って待って! 別に荒事を起こそうなんて思ってませんよ」

 

「そう思うのならまず紅魔館へ入ってこない事ね」

 

「それはごもっともなんですが……」

 

 

 要領を得ないわねこの子。

 魔理沙みたいにこそ泥にきたという感じではないし、一体何が目的なのかしらね。

 

 

「ただ本を読みに来ただけですよ。ここの管理を任されているパチュリーさんに断りを入れるのが筋だと思いまして」

 

 

 変に律儀なのね。此処に来る連中は大抵、私に断りを入れに来る連中なんていないわよ。だからといってそれを肯定しているわけではないけど。

 

 

「好きにしなさい。ただし、この館の主に見つかっても私は知らないわよ」

 

「勿論! ありがとうございます!」

 

 

 そう言ってそそくさと奥の本棚へと歩を勧めていく少年。

 見られたくない魔導書等を避けて普通のゴシップ本がある本棚を物色している。

 迷いの無さから、まるで初めてじゃないみたいな動きね。

 本当は何度かこっそり入ってきてるのではないだろうか。

 ま、盗んだり荒らしたりしている様子もないし、問題ないでしょう。

 

 

「さて、私も作業の続きに____________」

 

 

 あれ、今私は誰と会話をしていたのだろう。

 

 確か先程までここに誰かいた筈なのだけど……

 

 辺りを見回すも私の使い魔以外の気配はない。

 

 

「……気のせい、かしら」

 

 

 ここの所あまり休憩をしていなかったから疲れが溜まっているのかもしれないわね。

 たまにはレミィとお茶会を開くのも悪くないわね。彼女の高飛車な絵空事はいつ聞いても飽きないもの。

 

 

「私を呼んだかしら? パチェ」

 

「いいえ、呼んでないわよレミィ」

 

 

 レミィも余程暇なのね。

 噂をすれば光の速さで駆け付けてきたわ。

 

 

「丁度良かった。今から貴女の所へ行こうとしていたの」

 

「奇遇ね。私も散歩ついでにパチェを呼びに来たの。咲夜が栽培している植物でまた美味しい紅茶の茶葉が採れたみたいよ」

 

 

 考える事は同じって事ね。

 性格も方向性も全然違うのに、昔から変に気が合うのよね。何の悪戯かしら。

 だから今も良好な関係を続けられているのでしょうけどね。

 

 

「ほら、早く行くわよ」

 

「はいはい、すぐ行くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、僕が関わろうとしなければ見ることさえ出来なくなるのか__________」

 

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