東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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62話 時既に

 

 

「さて、一段落したところで、本題といきましょうか」

 

「もうとっくに5分過ぎたんだけど」

 

「5分を過ぎてもいいから団子を奢れと言ったのは貴女でしょう」

 

 

 近場の茶屋へと赴き、個室の部屋へと案内された私と映姫は、みたらし団子を食べ終え、優雅に食後の緑茶を啜っていた。

 仕方ないじゃない。一人で美味しそうなものを注文しだすんだもん。誘惑に負けてもそれは仕方がないとしか言い様がないわよね。

 

 

「話を戻しますが、私が休日に態々貴女の元へと訪れたのは透明人間のことに他なりません」

 

「それはもう良いわよ。さっさと要件を言いなさい」

 

 

 まどろっこしく言う相手は苦手だ。

 だって大抵そういう奴って頭が固いもの。

 特に映姫に至ってはその究極系、一度判断したものを覆すことは決してない。

 

 

「透明人間は霊夢、貴女の弟です」

 

「はあ!?」

 

 

 え、えっ? 今この閻魔なんて言った。

 私に弟? 私に血縁者がいたってことなの? 

 

 

「安心しなさい。弟と言っても血の繋がりはありませんよ」

 

「余計混乱したわ! ていうか自然に心を読むな!!」

 

 

 血縁者でもないのに弟って。一体どういう関係性なのよ、私と透明人間は。

 

 

「貴女達の関係性について話すべきなのでしょうが、深く話す必要性はないので省略します」

 

「なんでよ! 必要性がないのはこっちが決めるから話しなさいよ」

 

「どうせ深く話したところで忘れます」

 

「忘れっぽいって言いたいわけ?」

 

「いいえ。今、彼は自身に関わる事象から尽く"避けてしまっている"。今のこの状況で話すのは焼け石に水も良いところです」

 

「避ける?」

 

 

 避けているって何のことなのよ。

 いきなり頭の回転を止めてくるようなワードが連発してきて腹が立ってきたんだけど。

 

 

「唐突な事実に現実として受け入れ難いのは判ります。取り敢えず飲んで落ち着いてください」

 

 

 その姿を察してか、映姫は湯呑に茶を注ぎ、私に勧める。

 これで一息つけってことね。

 

 ………………。

 

 

「ごくっ、ごくっ……」

 

 

 ……ふぅ、正直あらゆる質問を投げつけたいところだけれど、映姫曰くそれも全て忘れてしまうってことなのよね。

 

 ややこしいことは取り敢えず考えないようにした方がいいわ。

 

 一旦整理すると、透明人間は私の弟でなんが原因かは知らないけど、能力か何かで自身を皆の記憶に残らない状況を作り出してるって感じで良いかしら。

 ……ふぅ、なんとか言語化したらひとまず落ち着いたわ。

 映姫が茶を勧めてくれなかったら、頭から煙が出ていたところだわ。

 言われた内容は多くないけれど、質が異常過ぎて矢継ぎ早に言われたら簡単にショートする代物であることは間違いない。

 

 

「貴女達、今違和感を持って生活しているでしょう。例えば何か失ったような、これまでどう暮らしていたのかとか」

 

「な、なんでそれを……」

 

 

 落ち着いてきたところで、再び口を開いた映姫の発言に私は愚問の声を上げる。

 相手は閻魔、人の生涯を瞬時に把握し、判決を下すような連中だ。私達が感じている違和感についてなんて眠ってても判るだろう。

 

 

「貴女達の感じている違和感とは、彼の残した軌跡。幾ら能力で認知されなくとも、自らがこれまでしてきた事柄を無かったことにすることはできませんから」

 

「……自分への干渉はさせないけど、自身が起こした出来事は残るってこと?」

 

「概ねそのとおりです。近頃よく小耳に挟んだりしたでしょう。貴女の近しい仲で言えば、霧雨魔理沙。彼女はつい先日、戦いを挑み負けたが、誰に負けたのかを思い出せない。負けたという事実は判るのに、誰に負けたかは思い出せない」

 

「あっ、私の部屋の隣が本だらけの部屋だったのも同じ原理ってわけか」

 

 

 何となくだが、透明人間の概要が判ってきた気がする。

 透明人間の能力範囲はあくまで自分への干渉のみ。相手が認識できなくなるのは、映姫いわく相手への干渉を"避けている"からだろう。

 

 だけど疑問が残る。私は恐らく透明人間と同棲していた。

 だけれど、その事実を知るまで私は誰かと一緒に住んでいた事実すら忘れていたのだ。

 ……駄目ね、下手に考えたら際限がない。

 

 ほんと、なんて厄介な能力の持ち主なの。

 底が見えない。透明人間に関するあらゆる情報が他者の記憶から消え去るなんて______

 

 

「あっ」

 

「そのとおり。先程私がどうせ忘れると発言したのは、この情報自体が彼への干渉となるのです。数刻と経たぬうちに貴女は彼に関する話を忘れ、私と話したが内容を憶えていない状態となるでしょう」

 

「なんでそれが判るのよ」

 

「現に貴女、貸本屋で知った透明人間の名前、もう忘れているでしょう」

 

「!!」

 

 

 そうだ。確かに私は貸本屋へ行って、貸与者の名前を聞いたが、もう誰の名だったかさえ忘れてしまっている。

 こんなの忘れっぽいで済まされる問題ではない。

 これが透明人間の能力___本当に厄介極まりない。こんなのがもし戦闘中に起こったら一溜りもないわ。

 

 

「なら、なんで私にこんな話をしたのよ」

 

「どうせ忘れてしまうにしろ、前置きに言っておかねば本題も入り難いというもの。今までの話を忘れてしまったにしろ、今までの話を聞いた上での次に話す内容は、貴女の脳裏に深く刻まれる筈です」

 

 

 そのための前置き、ね。

 ほんと、回りくどい。

 記憶に植え付けるためとはいえ、私だったらそんなもの省いて要件だけ言うところだわ。 

 

 

「ごほん。霊夢、貴女は能力を覚醒させなさい。でなければ今回の件を解決することはできません」

 

「えっ、そんなこと?」

 

 

 能力を覚醒? 

 私はただ空を飛ぶ程度の能力しかないってのに、何を言ってるのよ。

 

 

「貴女の能力でしか、現状の彼を止めることはできません」

 

「空を飛ぶ程度のことが?」

 

「本来、空を飛ぶには霊力を扱いこなす必要がある。しかし貴女はその過程を飛ばしている。地球の重力ですら貴女を捉えることはできない証拠です。ある意味、透明人間と似た存在なんですよ」

 

「私が、透明人間と……?」

 

 

 そういえば私は空を飛ぶ時、特に何も考えずとも飛べていた。

 誰でも出来るものかと思ったが、そうでもなかった為、自己申告制である能力名を『空を飛ぶ程度の能力』と命名した。

 結局、空を飛ぶやつは結構いて少し恥ずかしくなったけど。

 でも、名前を変えようとしても紫から止められたのよね。

 確かその時、『霊夢のその能力は飛ぶだけの意味ではないわよ』みたいなことを言われてそれ以降何も教えてくれなかったから苛ついたのを覚えている。

 

 

「貴女は今、無意識に今の能力を扱っている。それを意識レベルにまで引き上げなさい」

 

「そんなこと、いきなり言われても困るわよ」

 

「これまで能力について特に考えずに戦ってきたでしょう。それを意識すれば貴女なら出来るはずです」

 

 

 緑茶を啜り、一息つく映姫。

 意識して能力と向き合うというのは、実は一度としてしたことがない。

 だってそれが普通だとしか思っていなかったから。

 そうしなければ解決できないほどまでに、今回の一件は難解だって事なのだろう。紫の認識的に異変とは未だに違うと思うが、面倒臭さ的には異変以上ね。

 これまではなんとなくでも解決できてたもの。

 

 

「ねえ、一つだけ聞いていい」

 

 

 そんな中、私はある一つの疑問があった。

 正直、一つどころか幾らでもある質疑のうちの一つでしかないが、どうせ忘れるとのことなので、どうしても知っておきたいものだけ絞った。

 忘れるとしても、これだけは聞いておかないと気が済まない。

 

 

「なんで、透明人間についての問題を態々私にしたの」

 

 

 そもそも能力の覚醒を私に促すくらいであれば、映姫が直接本人に説教をすればいいんじゃないの。なんか能力が暴走してるっぽいことも言ってたし、その術を教えるなりすればいいような気がするけど。

 

 

「……彼自身の問題ではあるのです。確かに貴女に話すことではない。しかし、もはや彼自身では解決し得ないからなんですよ」

 

「なんでよ。自身のことなんだから、自身でなんとかさせるのが普通じゃないの」

 

「それは……」

 

 

 本人の問題に他者を介入させるのなんて、閻魔らしくない。それは映姫も理解しているからか、少し言い辛そうに少しだけ口を噤んだ。

 彼女自身、休みの日に態々地獄へ行くかもしれない人の説教をしに来るほどのお人好しだ。

 映姫も本人では不可能でも他者なら可能であることを判ったから、私の元へときたのだろう。

 

 しかし、流石は閻魔と言われるだけはある。少し申し訳無さそうにしながらも直ぐ様立て直し、私の眼を見やる。

 

 そして、覚悟を決めたかのように一息つき______

 

 

 

「博麗通の自我は、既に失っているんですよ」

 

 

 

 _____と、衝撃の事実を語った。

 

 




※補足
 四季映姫は既にトオルの元へと説教へ赴いています。
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