東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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67話 姉として

 

  

    私は物心がついた時から独りだった。

 

 

 正確には育ての親として紫がいたが、どうしても妖怪の人間という隔たりにより家族としては見れなかった。

 

 私はどこで産まれ、紫と出会うまでどうやって過ごしていたかは今はもう微かにしか憶えていない。

 

 ただ、どこぞの一般的な家庭でなかったのは確かだ。

 

 紫は教えてくれないが、私の遠い記憶の中にボロボロの衣服に傷だらけの素足で野原を歩く光景が未だに脳裏に焼き付いているからだ。

 

 

「ということで霊夢、貴女に弟が出来たわよ」

 

 

 そんな折、紫が攫ってきたであろう赤子が私の弟として迎え入れられた。

 

 此奴も被害者の一人か___当時の私は赤子に対して若干の同情を抱いていたと思う。

 

 

「うう!」

 

「ついてくんな!」

 

 

 拙い足取りで付いてくるあいつを、冷たくあしらったりしたっけ。

 あの時の私は、すぐに泣くしおしめの取り換えまでさせられた鬱憤で少し嫌ってた節があった。

 

 

「れいむ……」

 

「くっつかないでよ熱っ苦しい」

 

 

 初めてのお使いの時、人里に入って間もなく不安になってか握りしめてきた掌の感触。

 ただただ鬱陶しかった筈の存在が、あの時を境に特別な何かを抱くようになっていた。

 

 

「僕、霊夢と一緒に神社に住むよ」

 

 

 私が正式に博麗の巫女として任命され、紫の家から出ることが決まった日に、あいつが一緒に荷物をまとめて紫に言い放った発言。

 紫がとても悲しそうな表情をしていたのは少し面白かった。

 私自身、まだ姉離れが出来ていないのかと呆れる反面、少しだけ嬉しかった記憶がある。

 

 

「霊夢! いい加減起きな! 5秒後に起きなかったら朝ごはん全部鼻に詰め込むからね!」

 

「う〜ん、普通に食べさせて」

 

 

 だが、あいつは姉離れが出来ていないから私についてきたわけではないことはすぐに分かった。

 

 あいつは、私が独りで生活できるか不安だったからついてきたのだ。

 

 紫もそれがなんとなく理解できていたから、渋々了承したのだろう。

 そんな心配をしなくとも私は独りでもなんとか出来る。でも、あいつのおかげで少しだけだけれど、助かっていたのも事実であった。

 

 

 

 

 何よりも、独りでないという安心感を、『トオル』は教えてくれたから。

 

 

 

 

「やだよ……霊夢は、霊夢だけは憶えていてくれると思ってたのに。それなら一層、僕は独りでいるしかないじゃんか……」

 

 

 これは_____以前私が断片的に思い出した記憶。

 そうか、あいつも独りでいることが嫌だったのね。

 

 あいつも私も捨てられた身。

 だからか、これまで上手く二人で寄り添って生きてこれた。

 その支えをいつの間にか失っていたのだ。

 憶えていなくとも、違和感として残るのは当たり前の話だ。

 

 ったく、姉である私の手を煩わせるなんてね。解決したら一ヶ月、朝昼晩全部あいつに御飯作らせてやるわ。

 

 

 

 

 だから『トオル』、もう少しだけ待ってて頂戴。

 

 _____直ぐに"姉ちゃん"が助けてあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 天道が沈み、宵闇で空を覆い尽くしていくとともに、博麗の巫女が墜落していく。

 

 まるで幻想郷の未来を暗示しているかのように。

 

 

 いや、あれだな。その表現だと私がとんでもない大悪党みたいな言い方になるな。さながら私は幻想郷の支配を目論む大魔法使いってところか? 

 

 

 ___冗談はさておき、今のところは明らかに私が優勢であることは間違いない。

 

 先程までの攻防は全て私の策略どおり事が運んでいる。

 

 まず一つ目は最初の攻防で霊夢をパワーで封殺することだ。

 そのために魔法陣をいつもよりもバフをかけていたのだが、結果は良好。霊夢の封魔陣を完封することが出来た。

 

 次に二つ目、スペルカードを封殺され、焦って防御系のスペルカードを発動させること。

 これも面白いくらいに乗ってくれた。

 霊夢は封印術と結界術に長けているからこそ、次は封印系か防御系で攻めてくると踏んでいたからだ。

 本来であれば貫通力を増したマスタースパークであれば霊夢の結界の一つは割ることは出来たであろう。

 けれども、私は初手にそれを実行しなかった。

 

 それこそが三つ目、霊夢に自信をつけさせてから崩す。

 一つの結界で私の魔砲を防げると思わせたところに、火力を上げた魔砲でヒビを入れる。

 そうすれば自信がついた矢先に瓦解する恐れに瀕し、動揺を誘えると思ったからだ。

 そこで真打ちの貫通力のある魔砲で一つ目の結界を破壊。結界術に自信のあった霊夢は半ばムキになり最後の結界に心力を注いでしまう。

 

 結果としては私の火力が、霊夢の結界術を上回ったわけだ。

 実際感触として最初の魔砲を撃った時点で分かっていたが。

 

 正直な話、霊夢の二重大結界と誘導弾のコンボはキツかった。

 そのまま霊夢がムキにならず弾幕を張り続けられたら相打ちになっていただろう。

 だからムキになるように敢えて最初に真打ちは使わなかったのだ。

 

 

 そう、今の戦闘の全ては私の策略通り。

 性格、戦闘経験やその傾向まで霊夢のことは分かっているつもりだ。

 今の私ならそれをフルに活用して先読むことが出来る。

 

 今のままの霊夢、であればの話だけどな。

 

 

「こんなんで終わるのか。なあ博麗の巫女さんや」

 

 

 煙を立てて落ちゆく霊夢を見やる。

 まるで気を失っているかのように力無く落ちていく様を見て私は一縷の不安に駆り立てられる。

 

 あれ、もしかして霊夢やばいんじゃないか? 

 あのまま気絶してたら地面に頭部が激突してしまうぞ。

 

 そうなってしまえば、弾幕ごっこどころの話ではない。

 助けなければ霊夢が死んでしまう! 

 

 

「ちょっと待ってろ_____!!」

 

 

 箒に魔力を込め、霊夢の元へと向おうとした刹那、私は一度だけ瞬きをした。

 その一瞬だけ。

 自由落下運動をしているはずの霊夢を見失う訳がない。

 だが、瞼を開いた瞳の先には、霊夢の姿は既に無くなっていたのだ。

 

 

「やってくれるじゃない」

 

「ッつ!!」

 

 

 背後から聞こえる声に、私は全身から嫌な汗が吹き出す。

 このままではやられると踏んだ私は急旋回しながら弾幕を張る。が、全ては封魔針に撃ち落とされてしまう。

 

 マズい!! この状態で"アレ"をされたら______

 

 

「霊符『夢想封印』」

 

 

 至近距離から放たれる霊夢の得意技である夢想封印。

 大球の霊弾が自動追尾してくるというとんでも技を不意から飛んでくる事に私は_____

 

 

「黒魔!! ____」

 

 

 _____当然のことながら予想出来るはずもなく、敢え無く弾幕の波に呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「これでおあいこね」

 

「ぐっ、くぅ……不意打ちなんて卑怯だぜ」

 

「あんたがそれを言うの?」

 

 

 膝から崩れ落ち、無様に地に伏せる私を横目に、霊夢がボロボロとなった巫女服についた埃をはたいている。

 

 まさか霊夢が不意打ちを仕掛けてくるとは思いもしなかった。

 いや、不意打ちを意図的にしたかどうかは定かではないが、タイミングとしては最高過ぎた。

 

 

「あんたのお陰で吹っ切れたわ。私が今やるべきことが明確となったもの」

 

「それはどんなのか聞いてもいいやつか?」

 

「ええ、勿論良いわよ_____魔理沙、あんたを打ちのめす」

 

「ほざくのも、大概にしたほうが良いぜ」

 

 

 箒を杖代わりにして、上手く力の入らない脚を無理矢理立たせる。

 先程までの霊夢になら鼻で笑ってやるところだったが、今はそうもいかない。

 

 霊夢が仕掛けてきた刹那の攻防。

 あれは偶然で済ませられる代物ではない。

 私が大量に放った星弾を、霊夢は一つ残らず撃ち落としてみせたのだ。なんならそのまま私に封魔針を当てる余裕すらあったと思う。

 なのに態々夢想封印を撃ってきたあたり、確実に被弾させる以外にも、ずっと読まれ続けた鬱憤晴らしも兼ねているだろう。

 

 

 ………………。

 

 

 これだから、霊夢との戦いは止められない。

 

 

 博麗の巫女は、追い詰められてからが強い。

 

 漸くだ。

 今の霊夢に勝てば、私は魔法使いとしてまた一つ成長を遂げることが出来る。

 透明人間の事なんて二の次だ。

 今はただ、最高の相手に最高の弾幕ごっこをして、勝つ。それだけに全神経を研ぎ澄ませる。

 

 

「身体は大丈夫なの?」

 

「それはこっちの台詞だぜ。霊夢こそ私のマスタースパークを諸に食らっただろ」

 

「ええ、凄い効いたわ。少しだけ気絶するくらいにはね」

 

 

 やはり、霊夢は私の魔砲を食らってほんの少しの間気絶していた。

 私の不安は的中していたんだ。

 だが、霊夢は起き上がった。異変解決時に時折魅せる、鬼神を彷彿とさせる圧倒的存在感を纏って。

 

 

「(お互い被弾は残り一回。体力的にもお互い残り一回の被弾で戦闘不能になるだろうな)」

 

「(残りスペルは私が2つ、魔理沙が3つ……余裕ね)」

 

 

 霊夢が御札を構えるのに呼応するかのように、私は箒に跨りながらミニ八卦炉を構える。

 

 

「んじゃ、第2ラウンド開始ってことで」

 

「これで最終ラウンドにしてやるわよ」

 

 

 そして再び、私と霊夢による弾幕ごっこに開始の合図が鳴った。

 

 

 

 

 

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