東方姉弟録~もし霊夢が姉だったら~   作:エゾ末

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68話 好敵手であり友達

 

 

「綺麗だなぁ」

 

 

 紅白の人と白黒の人が、宙を舞いながら色鮮やかに光る玉を撒き散らしている。

 今日は祭りでもしているのかな? こんな廃墟でよくやるよね。

 ____って、そこにいる僕も他人のこと言える立場ではなかった。

 

 

「あれ……ていうか僕、なんでこんなとこにいるんだっけ?」

 

 

 至る所に壁は穴が空いてる上に屋根は壊れてるし、敷地も地面が凹凸に地盤が歪んでいる。

 とても人が住める環境ではない。

 

 そんな廃墟地で弾幕ショーを繰り広げる少女二人。

 もしかして僕、御伽の国にでも迷い込んでたりする? 

 

 

「えっ」

 

 

 あれ、今紅白の人と眼が合った…………? 

 可怪しい。道行く人は全員僕の事無視をするのに。まるで僕の事を認知できていないかのように、眼すら合わせてくれないんだ。

 あの人、もしかして僕と話してくれる人なのだろうか。

 もしそうだったら嬉しいな! 

 皆無視するから少しナイーブになってたところだったんだ。

 話すなら何が良いかな? いや、まずはなんでこんなところで遊んでるのか聞こうかな。さっきから不思議でならなかったからね。もしかしたらちょっと関わったらいけない人かもしれないけど、背に腹は代えられない。

 僕は今、コミュニケーション不足による鬱症状があるからね。多少アレな人でも頑張って話しかけるから安心してね! 紅白の人! 

 

 

「うわ!?」

 

 

 流れ弾だと思うけど、僕の顔面スレスレに御札が通過していく。

 怖ぁ〜。絶対これ、紅白の人の流れ弾だよね。

 やっぱり話しかけるの止めようかな……

 

 

「でもまあ、どうせ当たらないしいっか!」

 

 

 何故だか知らないけど、僕に流れ弾が当たったことがないんだよね。

 ちょっと前に、同じ様に玉を撒き散らし合ってる人達に対して至近距離まで近付いてみたけど、一つとして僕に当たらなかったぐらいだ。

 弾幕ショー自体この廃墟から少し離れてるし、当たることはまず無いんじゃないかな。

 

 

「あれ、そういえばなんでここにいるんだっけ?」

 

 

 至る所に壁は穴が空いてる上に屋根は壊れてるし、敷地も地面が凹凸に地盤が歪んでいる。

 とても人が住める環境ではない。

 

 そんな廃墟地で弾幕ショーを繰り広げる少女二人。

 もしかして僕、御伽の国にでも迷い込んでたりする? 

 

 

「まあいっか! なんか綺麗だし、どうせ当たらないからゆっくり鑑賞しよ!」

 

 

 何故だか知らないけど、僕に流れ弾が当たったことがないんだよね。

 ちょっと前に、同じ様に玉を撒き散らし合ってる人達に対して至近距離まで近付いてみたけど、一つとして僕に当たらなかったぐらいだ。

 弾幕ショー自体この廃墟から少し離れてるし、当たることはまず無いんじゃないかな。

 

 

「綺麗だなぁ」

 

 

 __

 _____

 ________

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 お祓い棒、魔法の箒、追尾弾、星弾、御札、魔法陣、封魔針、レーザー、陰陽玉、ミニ八卦炉。

 

 二人は思考する。

 

 各々が持つ手札を最大限に活かし、どれだけ相手の虚を付き、如何に美しく勝利するか。

 

 二人は抱いている。

 

 一発も被弾できない緊迫した状況の中、一刻も早く決着をつけたいと思う反面、恒久的に続いてほしいという感情があることを。

 

 二人は確信している。

 

 最後に勝つのは、己であると。

 

 

「(これも駄目か)」

 

 

 空気抵抗を減らし、速さに特化したブーメラン状の魔弾を放つ魔理沙。異変解決時にはよく多用している弾幕の一種であり、魔理沙自身の通常弾でもある。

 その通常弾とレーザを織り交ぜた弾幕を駆使し、霊夢の隙を窺うが一向にその兆しが見えない。

 それどころか弾幕間を縫って飛んでくる御札の大書に苦労する始末。

 ばら撒いているようで一枚一枚がまるで意思を持っているかのように、魔理沙の移動する先々に向かってくる御札。それに対し彼女はいい加減嫌気が差し始めていた。

 

 

「……」

 

 

 感覚が研ぎ澄まされている。

 霊夢の眼には全てが視えていた____正確には運動を司る小脳が、どう動けば最適かを自動で割り出し、己の五体に指示を出していた。

 

 いわば感覚。

 自身がどれだけ動けるか。この弾幕はどこに行くのか。相手はどの様に動くのか。

 

 これまでの経験則からくるものであり、覚醒状態の魔理沙と同じ状態ではあるが、似て非なるものでもある。

 

 魔理沙は経験則を基に大脳___頭で考えて行動しているのに対し、霊夢は小脳___身体が赴くままに、つまり感覚で行動している。

 

 これまで勘だけで異変の元凶までたどり着いてきた霊夢には、ある意味適した状態でもある。

 

 

 秀才と天才。

 巫女と魔法使い。

 紅白と白黒。

 

 

 一見相容れないと思われる二人。

 互いが似て非なる者であるからこそ、友でありライバルであれるのだろう。

 

 

「霊夢! そろそろデカいのいくぜ!」

 

「ええ! いい加減退屈してたところよ!」

 

 

 弾幕を展開しながら上空へと舞い上がり、一枚の札を夜空に掲げる。

 

 

「魔符『スターダストリヴァリエ』!」

 

 

 魔理沙を中心に無数の魔法陣が出現し、螺旋状に回りながら星弾を生成していく。

 彼女にしては比較的火力が控えめなスペルカード。

 

 

「それがデカいの? 拍子抜けにも程があるんじゃない」

 

 

 軌道とは逆方向に飛んでいく星弾の波を難なく避ける霊夢。

 

 他に手を隠している可能性があれば、先の発言がブラフであり、霊夢に安牌としてスペルカードを使わせようとしていた可能性もある。

 

 だが霊夢は考えない。

 

 直感が、そして身体がスペルカードを使用しない判断を下している。ならば今は避けに徹するのみ。

 

 スターダストリヴァリエの演出時間、霊夢は耐久することに徹する判断をした。

 

 しかし魔理沙は、霊夢がそう判断することは折込済みである。

 

 

「(あいつ、絶対なにか隠してるわよね)おっと」

 

 

 スペルとはまた違う弾が霊夢の顔の側を通り抜けていく。

 

 

「(通常弾……あれ、スペルで発動した魔法陣が多いような_____)!!」

 

「いけ!」

 

 

 スペルカード発動時に展開された時よりも増えていた魔法陣に疑問符を浮かべた霊夢であったが、思考は早々に放棄せざるを得ない状況となる。

 

 魔理沙はスペルとは別に魔法陣を展開していた。

 そこに霊夢のいる付近にスターダストリヴァリエが最も密度が高い頃合いを見計らって包囲網を敷いたのだ。

 

 霊夢が気付いたときには既に何重にも展開された弾幕の包囲網。

 

 その光景を見て魔理沙は、一瞬だが勝ちを確信した_____

 

 

「あっぶないな!」

 

 

 _____が、弾幕の包囲網は霊夢に着弾することはなく、空を切った後に互いの弾同士で相殺されていく。

 

 

 瞬間移動。

 これまで意図してではなく、無意識で使用していた霊夢の回避術である。

 

 

「(くそっ、このタイミングでやられちまったか! でもまあ、そう連発はできないだろ)」

 

 

 折角の奇策も瞬間移動で難なく対応されてはやるせないと呆れる様子を見せる魔理沙。

 

 いつもの状態であれば、そのまま魔理沙のスペルカードの効果時間は切れることだろう。

 

 だが、今のスペルカードは大技を出すための前準備に過ぎない。

 

 

「んじゃ、決めるぜ」

 

 

 霊夢に聞こえないほどの声量でつぶやく。

 まだスペルカードの演出は終えていない。霊夢もまだ迫りくる星弾と通常弾の対応に心力を注いでいる。

 

 

「魔符『アルティメットショートウェーブ』」

 

「はあっ!?」

 

 

 演出時間中に別のスペルカードを出すことは出来ない。

 発動させようものなら発動中の弾幕を中止しなければならない。

 それはスペルの撃ち合いとなった際のゴリ押しを防止するためでもあり、弾幕ごっこの前提となる美しさを崩してしまう恐れがあるためでもある。

 

 

 スペルに適応した弾幕は出せない___そう、()()は。

 そのスペルカードに適用した弾幕を出さなければ、前準備を施すことは可能なのである。

 

 先程までスターダストリヴァリエにて展開し、残った魔法陣は既に、霊夢の周りを囲っていた。

 

 

「(あいつ、スペルカードを隠れ蓑に!!)」

 

 

 本来、スペルカードを発動中に別のスペルカードを発動させる者は殆どいない。

 同時発動させたいのであれば元よりそれに適用したスペルカードを作成すればいい上、前述の通り演出時間が丸々潰れることになり勿体ないためである。

 

 そのため、霊夢に出来ていた固定概念を覆す結果となり、またも虚を突かれる形となった。

 

 

 魔法陣からはマスタースパークにも匹敵するレーザーが何重にも交差しながら放たれる。

 

 超高火力ゆえ、名のつく通り非常に短いスペルカード。

 

 

「……やるわね、魔理沙」

 

 

 何度も虚を突かれ、幾つもの対策を練られ、先手を譲った相手へ賛否の声を上げる霊夢。

 傍から見れば諦めたかのように感じるだろう。

 

 しかし、四方八方から迫りくる極太の光線を前に、博麗の巫女は臆して等いなかった。

 

 

「大結界『博麗弾幕結界』」

 

 

 先に発動した二重大結界の完全上位互換である霊夢の絶対障壁。

 魔理沙のスペル然り、霊夢が被弾した時と同じ状況となる。

 

 

「さっきの二の舞いにしてやるよ!」

 

「やってみなさい!」

 

 

 博麗結界が展開された直後、極太レーザーが着弾する。

 

 ほんの数秒、されど無限にも続いてるかのような永遠とも感じる時間。

 

 

 全方向に交差しあうレーザーの行く手は結界によって阻まれる。

 破られれば最後、霊夢は敗北を喫する。それどころか重症では済ましれない事態となりうる状況でもある。

 

 結界にヒビが入り、ジリジリと嫌な音が結界内に響き渡る。

 

 だが、霊夢の心は穏やかであった。

 

 

「(……私が認めてやったんだからこれぐらいやって当然よね)」

 

 

 好敵手として認めた相手であれば自身の最高硬度の障壁に傷を付けるのは当たり前。

 それだけ今の魔理沙を信用をしているからこそ、霊夢の心は穏やかであったのだ。

 

 

「だけど_____」

 

 

 眩い光が徐々に闇へと呑み込まれていく。

 それはまさに、魔理沙のスペルカードの終わりを告げる合図でもあった。

 

 

「はあ、はあ、はあ……まじかよ」

 

 

 残るのは霊夢の絶対障壁である博麗結界。

 全方位からの攻撃に耐えたその鉄壁は、魔理沙のスペルカードの終わりとともに徐々に崩れ去っていった。

 

 

「____()()の領域に踏み入ることは認めてあげない」

 

「なんだよ、それ」

 

 

 策を弄し、霊夢の先手を打って来た魔理沙の体力は底をつきかけていた。

 一日で複数の幻想郷の強者を相手取り、勝利を収めてきた代償として魔力も尽きかけていたが、それよりもやはり体力である。

 

 本日で魔理沙が被弾したのは一回。

 

 そう、一回なのだ。

 それまではスペルやグレイズを駆使し、一度として被弾はしてこなかった。

 これまでの戦いの上、霊夢からの手痛い一撃。常人ならば何度も卒倒する代物である。

 

 それでも魔理沙は毅然として霊夢の前に立ちはだかる。

 そのリスクを負った上でも、今の状態が魔理沙にとって史上最高であると踏んだからだ。

 

 

「(手が痺れる……ていうか、身体中が重いわね)ふぅ……」

 

 

 そしてそれは、霊夢にも同じことが言える。

 覚醒状態の魔理沙のマスタースパークを防御もままならず被弾したにも関わらず、酷使し続けた身体は悲鳴を上げていた。

 

 お互いが満身創痍。

 だが、二人はこの舞台に降りる気は更々ない。

 

 

「これで、最後のスペルカードになったな」

 

「そうね。私はもう、直ぐに発動させるつもりだけど、魔理沙はどうするの? 無様に私のスペルが切れるのを待つ?」

 

「愚問だろ。そんな湿気たこと、私がすると思うか?」

 

「しそうだから質問したのよ」

 

 

 夜空に浮かぶ二人は、軽い笑みを交わす。

 

 

 お互いが満身創痍。

 

 それがどうした。

 

 二人の中に、満身創痍等眼中にない。

 

 あるのはただ一つ_____

 

 

「「勝つのは私だ!!!」」

 

 

 最後に勝つのは己だと言う、絶対的自信だけだ。

 

 

「『夢想天生』!!!!」

 

「『ブレイジングスター』ァア!!!!」

 

 

 ほぼ同時に二人はラストワードを宣言する。

 

 霊夢の夢想天生は、自身の能力を最大限に活かしたものであり、自身を理から浮いた存在とし、誰の干渉からも受付けないという耐久型のスペル。

 

 対する魔理沙は、魔法の箒にミニ八卦炉を取り付け、推進力とともに自身が突撃するという特攻型スペル。

 

 相性としては最悪。それは魔理沙も分かっていた。

 

 

「(あいつのスペルが切れるまで耐え忍ぶ!!)うりぁぁあ!!」

 

 

 一筋の彗星が、幻想郷の夜空を照らしだす。

 コンマ数秒であるが、魔理沙は霊夢より後にスペルを宣言した。

 つまり、夢想転生さえ耐え切れれば、霊夢のスペルカードは0枚となり、魔理沙の勝ちとなるのだ。

 

 霊夢の側から放たれる弾壁が魔理沙に襲い掛かる。

 

 だが、魔理沙はその全てを自身の周りに展開された衝撃波により蹴散らしていく。

 

 霊夢の有効打は8つの陰陽玉から無数に放たれる弾壁のみ。

 それならば衝撃波のみで看破出来る。

 

 

「(これなら! これなら霊夢に勝てる!)」

 

 

 そう魔理沙が一憂している中、霊夢は己の違和感に涙していた。

 

 

「トオ、ル?」

 

 

 憶えていない筈の弟の名を呼ぶ霊夢。

 

 霊夢の夢想天生は『己の能力を最大限に活かした』スペル。

 自身を理から浮かすことにより、他者の干渉を受けない。

 そして今の霊夢の前では、全ての生物が能力を持ってしても、一個体として判別される。

 

 それは能力により全てを避けているトオルとて例外ではない。

 

 

()()()()()のね。直ぐに終わらせるから、そこで大人しく待ってなさい」

 

 

 半壊した母屋に眼を向け、そう告げる霊夢。

 

 そして向けていた眼を戻し、相対するは彗星となりし好敵手。 

 

 霊夢は無意識にも、陰陽玉の出力を上げていた。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 一本の弾壁が、ブレイジングスターの衝撃波を破り、魔理沙の前を通過する。

 

 

「それならぶっちぎるまでだ!」

 

 

 魔理沙の後を追うように、無数の赤い弾壁が織りなす光景は、まるで流星群。

 

 その光景を目撃せし者がいたならば、必ずやその絶景に魅了され、言葉を無くすことであろう。

 

 

「ぜぇ! ぜぇ! はぁ!(意識が飛びそうだ! だが、あと少し! あと少しで私は_____)」

 

 

 だが、その光景も時期に終わりを迎える。

 

 

「ありがと、魔理沙。あんたのおかげよ」

 

 

 彗星の向かう先には、既に霊夢が立ちはだかっていたのだ。

 

 

「______ふっ」

 

 

 その姿を見て魔理沙は、乾いた笑いが込み上げていた。

 

 

「はぁ、はぁ……本当によ」

 

 

 霊夢の周りに展開された陰陽玉から放たれる弾壁が、衝撃波を突破していく。

 

 そして遂に_____

 

 

「悔しいけど霊夢、お前が友達(ライバル)で良かったぜ」

 

 

 _____霊夢と魔理沙の、長くとも短い弾幕ごっこに終わりを告げた。

 

 





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