ではどうぞ
迷宮区に金属と金属がぶつかり合う音が響く。音の発信源は黒のフード付きコートを着こんだプレイヤー、キリハとトカゲ型亜人モンスター、『リザードマンロード』の武器が打ち合う音だ。
『ガァァァア!!』
「ふっ」
リザードマンロードが曲刀を振るうが、それをキリハは大鎌をクルクルと回しながら躍るように弾き返す。今回大鎌で戦っているのに対した理由はない。ふとそういや最近大鎌使ってないな、と思っただけだ。
ロードが大振りに切り落としてくるのを弾き返し、そのまま追撃を行うことなく後ろに下がり距離をあける。武器を持っているモンスターは距離をあけた場合、ほとんどの確率で突進系ソードスキルを使ってくる。
『ゴァァ!』
曲刀突進系ソードスキル『リーパー』で距離を縮めるロード、キリハはそれを誘うために距離を開けたのだ。
キリハはロードの懐に入り込み大鎌二連激ソードスキル『クロスサイス』で十字に切り裂きHPを全損させる。ウィンドウを開きドロップアイテムを確認したキリハは一言。
「帰りますか」
デスゲームが始まって早二年。最前線は七十四層まで進み、残り二十六層となった。死者は約三千、思ってたより少ないというのがキリハの本音だった。まぁ死者は少ないにこしたことはない。それよりも、攻略スピードが落ちてきている方が問題だ。死ぬのが怖くなったのではない。慣れてきてしまったのだ、この世界に。
迷宮区から出てそこまで考えていると、物音がした。すぐに索敵スキルを使って周囲を警戒し、背の大鎌に手をかける。そして草むらから出てきたのは、ウサギ型のモンスターだった。
「ラグー・ラビット…」
『ラグー・ラビット』、それがこのモンスターの名前だ。キリハは鎌から手を離し、代わりに投球用ピックを取り出した。出現率が低く、更に敏捷は全モンスター随一という噂だ。わざわざ近付いて逃げられるリスクを負う必要は無い。そもそも何故倒そうとしているのか。特に経験値が高いわけでもレア素材を落とすわけではないのだが…。
キリハは投球系ソードスキル『シングルシュート』を放つ。初期ソードスキルだからと侮るなかれ。キリハのステータスで放つ『シングルシュート』は目視することすら難しい速度で飛んでゆく。攻撃速度が高ければ威力は増す。そんなものを敏捷以外は低いステータスしかないモンスターが受ければどうなるか。ピギッと鳴き声を上げたラグー・ラビットはHPバーをどんどん減らしていき、ポリゴンとなった。ウインドウを開きアイテムを確認する。取得順にしてる一番上にそのアイテムはあった。『ラグー・ラビットの肉』、S級食材だ。この食材はモンスターのレア度もあり市場では一つ数十万単位で取引され、味も最高だそうだ。件も、キリハ達─というか攻略組のほとんど─は食べたことがないが。レア度の高い食材はそれだけ高い『料理スキル』が必要だがキリハもキリトもアスカもつい最近コンプリートしたので問題ない。
(これ、どうしましょう)
皆(三人+風林火山、黒猫団、エギル)で食べるか、三人だけで食べるか。
(僕達だけで食べると皆に悪いですよねぇ)
SAOの世界では食べ物が唯一の娯楽と言ってもいい。黙っていれば良いだろうが、バレた時に(特にクラインに)恨まれそうだ。かと言って、皆で食べるにもこの量だと一人一口くらいになってしまう。せめてもう一つ手に入れば…。
まぁ無理だなと考えているとメールが来た。キリトからだ。迷宮区から出てきたようだ。メールを見てみると次のようなことが書いてあった。
『from キリト
姉さん聞いてくれよ!迷宮区から出たら運良くラグー・ラビットがいたから倒して食材ゲットした!皆で食おうぜ!とりあえずエギルの店に行ってるな!
to キリハ』
「……わぉ」
メールを読んだキリハは辛うじてそう発した。無理だと思っていた矢先にこのメールが来たのだ。それ以外にどう言えと。とりあえず『わかりました』と短くメールを返す。キリハも肉を手に入れてるが、メールで言う必要はないだろう。
(さてと、待たせるわけにはいきませんね)
キリハはポーチから転移結晶を取り出す。金には余裕があるので、また買えばいいだろう。そしてキリハは自身のホームがある場所を言った。
「転移、アルゲード」
アルゲードは第五十層の主街区だ。場所によっては迷路のように入り組んでおり、迷って帰って来れなかった、という噂が流れるほどだ。キリハ自身、ここにホームがあるが街の全容を把握仕切れていない。まぁ、利用する場所は把握出来ているので問題ないのだが。
鎌からいつもの刀に変えたキリハはエギルの店まで迷うことなく向かっていく。店に着いたので中に入ると、フードを外したキリトとエギルが話していた。念の為、他に客がいないことを確認してからフードを外す。こちらに気づいたキリトが近づいてきて興奮気味に話しかけてきた。
「姉さん!ラグーの肉をゲットした!凄くないか!?」
「さっきメールで送ってきたでしょう。何回話すつもりですか」
なんか目がキラキラと輝いている。興奮しているキリトは置いといて、取りあえずエギルに挨拶する。
「やぁエギル、先程肩を落としているプレイヤーとすれ違ったのですが、また安く仕入れたのですか?」
「ようキリハ、安く仕入れて安く売る、それがこの店のモットーなんでね」
ニッと笑いながら挨拶をする黒人スキンヘッドのプレイヤー、エギル。ご存じだろうがエギルとは第一層からの付き合いであり、キリハ達が信頼するプレイヤーの一人だ。故にフードは外している。
「安く買われましたが、安く売られた記憶はありませんよ。因みに何をいくらで買いました?」
「『ダスク・リザードの革』二十枚で五百コル」
「…それ安すぎません?」
『ダスク・リザードの革』は優秀な武具になる素材だ。それが二十枚で五百コルは安すぎる。
「向こうが納得したんだ。それでいいだろ」
「納得させたの間違いじゃないか?大方、その悪人面で睨み付けたんだろ?」
否定も肯定もせず肩を竦めるエギル。そもそも、エギルがこんな商売をしているのに理由があるので、そのことを知っているキリハ達は咎めることはしない。
「そういえば、アスカにもメールしたんですか?」
「ん?あぁ勿論、だから多分そろそろ…」
ドアの開く音が聞こえ咄嗟にフードを被る二人。入ってきたのは─
「ようキリト、キリハ。エギルさんも」
─勿論アスカだ。後ろには二人の護衛がついている。
「「「(よう/やあ)アスカ」」メールを見て急いできました?」
「当たり前だろ。S級食材なんて中々食えるものじゃないからな」
笑いながら問うキリハに即答するアスカ。確かにS級食材は中々手に入らないのでアスカの言っていることに間違いはないのだが、これに本音を足すと
「当たり前だろ。S級食材なんて中々食えるものじゃないからな(佳奈が誘ってくれたんだから来ないわけないだろというかS級食材なら佳奈の為ならいくらでも獲ってきてやるし確率とかそんなの問題ないし狩り続ければ出てくるだろうし─)」
こうなる。因みにアスカのこれは平常運転だ。キリトも大体こんな感じ。ただ、普段隠している分、二人きりになった時の反動は凄い。もし目撃したら、その瞬間に砂糖を吐くか精神的に死ぬか温かい目で見るかのどれかになる(キリハは温かい目で見る)。
「それだったら二人で食べたらどうですか?二人だったら食べられる量も増えるでしょう?」
そういえば最近二人きりにさせてあげられてないなと思ったキリハはそんなことを言った。二人にさせる口実としては少し苦しい気がするが。
「キリハはいいのか?折角キリトがS級食材をゲットしたのに」
「…僕もゲットしたのでいいですよ」
二人きりにしてあげようとした気遣いを無駄にしようとしたアスカを殴りたくなったがなんとかこらえ、そう言う。
「「「なに!?」」」
そんなことを言ったら勿論驚くわけで。そしてキリトとアスカはこう言いやがった。
「「だったら余計に一緒に食べれば良くないか?」」
…あ、ヤバいキレそう。
アスカだけでなくキリトもそう言ってくるので一瞬ブチ切れモードに入りそうになったのを、ホントに、ギリギリで、こらえる。そして出来るだけニッコリと笑いながら二人を手招きする。それが逆に怖い。ここでようやくキリハがキレそうなことに気が付いた二人は青ざめながら近づく。キリハは二人の肩に手を置き顔を近づけ、周りに聞こえないようにこう言った。
「折角僕が気を遣ってんのにそれを無駄にする気か?君らは。
分 か っ た ら さ っ さ と 行 け」
「「は、はい…」」
訂正、キレそう、ではなくキレている。敬語がログアウトしていた。あまりの怖さに二人は返事をし、店を出て行った。護衛の二人は(うち一人はこちらを睨んでから)アスカに着いていった。
「な、なぁキリハよぉ、俺にも味見ぐらいさせてくれるよな?な?」
色々と鈍感な二人にため息をついたキリハにエギルが怖ず怖ずと聞いた。
「普通に食べさせてあげますよ。他にクライン達も呼ぶので一人一口ぐらいになってしまうと思いますが」
エギルは小さくガッツポーズをとった。一口食べられるだけでも嬉しいらしい。それを横目で見ながら風林火山、黒猫団の皆に下記の内容のメールを送った。
『ラグーの肉を手に入れたので皆で食べましょう。大勢いるので一人一口になってしまうと思いますので、他にも料理を作っておきます。場所は僕のホームにしましょう。十五人くらいなら普通に入れるので』
一時間後、キリハのホームに集まった皆はラグーの肉とキリハの作った料理に舌鼓を打ち、その場にいた独身男性全員に「嫁に来てください!」と言われ、それを手伝ってくれると言ってくれたサチと共にぶっ飛ばしたのは余談だ。
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