東京都台東区御徒町、喫茶店『ダイシー・カフェ』。そこに佳奈と明日加が入ると、スキンヘッドの黒人がカウンターに立っていた。二人を認識すると笑みを浮かべる。
「よう、待ってたぜ。お二人さん」
この男は
「こんにちは、エギルさん」
「相変わらず過疎ってるな」
「うるせぇ。夜は繁盛してんだよ」
二人が現実に戻ってきて、初めに連絡をとったのがアンドリューだった。驚くことに彼には奥さんがいる。奥さんと結婚してこの喫茶店を開き、順風満帆な人生を歩もうとした矢先、SAOに囚われてしまった。現実に戻ってきた当初、店のことは諦めかけていたらしいが、アンドリューの帰還を信じていた奥さんがその細腕で守っていた。
挨拶はそこそこに、アンドリューはカウンターの下からゲームパッケージを二つ取り出した。これが、佳奈がアンドリューに頼んでいた物だ。
「ほら、要望通り二つ揃えたぞ」
「助かる」
「ありがとうございます」
「大変だったぞ?これを
そう言ってアンドリューは苦笑したが、満更ではなさそうだ。心配されてるということは、それだけ愛されているということ。
佳奈と明日加はゲームパッケージを手に取る。タイトルは『
そもそも佳奈達は、現実に戻ってきてから何もしなかったわけではない。戻ってきていないプレーヤーは誰か、共通点はあるのか、何故戻ってこないのか、ナーブギアに何が起こっているのか、あらゆる手段を用いて桐ヶ谷家は調べていた。
そして一か月前、とある掲示板に貼られた画像を見つけた。それは巨大な太い枝のようなものに置かれた巨大な鳥籠。そして鳥籠の中に閉じ込められている一人の女性。妖精を思わせる尖った耳と羽があり、露出の多い黒いドレスを着ている。そこまでなら、この写真に興味など持たなかった。だがそれは出来なかった。何故なら、その顔は和葉と瓜二つだったからだ。その写真がどこで撮られたものか、調べはすぐについた。ALOにある世界樹、そこの上層部で撮られたものだった。
ALOは飛行時間決められており、無制限に飛ぶ事が出来ず今まで世界樹の上に何があるのか分からなかったそうだ。それ故、写真を撮ったプレーヤーからしたら、世界樹の上を撮ることが出来た、という意味を込めて掲示板に貼ったのだろう。そしてその数時間後、世界樹の周辺
ALOを運営しているのは『レクト』。手に入れた情報によると、ALOのサーバーはSAOのサーバーをそっくりそのまま使っているらしく、須郷がそのサーバーを管理、運営しているそうだ。サーバーがまったく一緒ならば、SAOから解放されたプレーヤー達をALOに閉じ込めることは、理論上は可能だ。
これらはあくまでも予想でしかないが、まぁ確かめに行けばいいだけだろうと思っている。その為に、アンドリューに頼んでいたのだから。
「必ず助けだせよ。それまでは俺達の戦いは終らねぇからな」
そう言ってアンドリューは拳を佳奈達に突き出す。二人は笑みを浮かべ自身の子は突き合わせた。
「「当たり前(だ/です)」」
帰宅した二人は、先に帰ってきてる直葉と浩一郎をリビングに呼んである事を確認し、佳奈の部屋に向かった。
「にしても、意外だったなぁ」
「何が」
ALOは《アミュスフィア》と呼ばれるナーヴギアの後継機でプレイするのだが、ナーブギアでもログイン出来るらしいので準備していると、不意に明日加がそんな事を言った。佳奈も準備しながら、何の事か聞き返す。
「種族だよ。てっきり俺は
「佳奈、黒好きだから」と明日加は付け加えた。そんな理由で種族を選ぶと思っていたのか、と少し不満に思うが明日加の言う通り、最初は色で選ぼうとしていたのでグッと堪える。
ここでALOについて説明しよう。ALOはSAOには存在しなかった『魔法』があるが、逆にレベルが存在しないので強さはプレーヤー自身のスキルに左右される、更に
もう一つの特徴として、『妖精の国』の名の通り九つの種族が存在する。
風妖精、シルフ。緑のかかった髪が特徴で、風属性魔法を得意とし、飛行速度と聴力に優れる。
火妖精、サラマンダー。赤のかかった髪が特徴で、火属性魔法を得意とし、戦闘力に優れる。
影妖精、スプリガン。黒のかかった髪が特徴で、幻影魔法を得意とし、トレジャーハントに優れる。
猫妖精、ケットシー。頭にある猫耳と尻尾が特徴で、モンスターの《テイミング》を得意とし、敏捷に優れる。
水妖精、ウンディーネ。青のかかった髪が特徴で、水属性魔法を得意とし、回復魔法と水中活動に優れる。
土妖精、ノーム。大柄な体格が特徴で、土属性魔法を得意とし、耐久と金属等の採掘に優れる。
工匠妖精、レプラコーン。光沢のかかった髪が特徴で、武具生産や各種細工に優れ、全種族の中で唯一『エンシェントウェポン』を作ることが可能。
闇妖精、インプ。藍色のかかった髪が特徴で、闇属性魔法を得意とし、短時間ながら暗闇でも飛翔が可能。
音妖精、プーカ。銀のかかった髪が特徴で、魔法や戦闘が不得意だが代わりに『歌』を歌う事が可能。
プレーヤーはこの九つの種族から一つ選び、プレイすることとなる。因みに佳奈はケットシー、明日加はウンディーネだ。何故、佳奈はスプリガンではなくケットシーにしたのか、明日加はそれが気になった。
「別に、どうでもいいだろ」
その反応に、これは何か恥ずかしがってるな、と察した明日加はある事を思いつき実行に移す事にした。
「佳奈」
「今度は何だ・・・うわぁ!?」
名前を呼び振り返った所で、明日加は佳奈をベッドに押し倒した。
「いっ、いきなりなにすんだよ!!」
「押し倒した」
「んなもん分かってるわ!!何で押し倒したかって事だよ!!」
「はーなーせー!」と佳奈は暴れるが、両手を押さえ付けられており抜け出す事が出来ない。明日加は笑みを深め、佳奈の耳元に顔を近づける。
「何で、ケットシーにしたんだ?」
「っ。だっ、から、どうでもいいって言ってるだろ!」
耳元で囁くように聞こえる明日加の声に、佳奈は顔を赤らめながらも話そうとはしなかった。
「ふーん?佳奈がそんな態度取るならこっちにも考えがある」
「なに・・・んあ!?」
突然、明日加は佳奈の首筋に噛み付いた。佳奈は体をビクつかせる。
「佳奈が理由を話すまで止めないよ」
そう言ってもう一度噛み付いた。佳奈は声を抑えようとするが、抑えきれず少しもれる。
「んぅっ。バ、バカヤロウっ、スグと浩一さんがいんだぞっ。見つかったらどうすんだっ」
「大丈夫だって。二人とも
それに、佳奈が理由を話せば止めるよ?」
別に噛まれるのは構わないのだが、家に人がいる状況で続けられるのは流石に恥ずかしい。そう思った佳奈は理由を話すことにした。
「分かった!分かったから止めろ!」
「残念」と明日加が呟いたのを聞き逃さなかったが、佳奈もそう思っていたので何も言わない。
「・・い・・・・ら」
「ん?なんて言った?」
ボソボソと、至近距離でも聞こえないくらい小さな声だったので聞き返すと、佳奈は顔を赤らめたままキッと睨みつけた。
「だからっ、可愛かったからだよ!!悪いか!!」
(俺の嫁可愛すぎかっ!)
コンマ一秒も経たずにそう思った明日加は約束通り上から退き、顔を両手で覆い床に突っ伏した。そんな明日加に構わず、佳奈はナーヴギアを被りベッドに横になる。
「いつまでやってんだ。先に行ってるぞ」
「あ!ちょ、ちょっと待って!!」
「早くしろ」と言いつつちゃんと待つあたり、本気で先に行くつもりはなかったようだ。ナーヴギアを被った明日加は、それが当たり前かのように佳奈の隣に寝転び抱きしめる。そして二人は、その体制のままALOの世界へ入っていった。
「「リンクスタート」」
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