転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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ルグルー回廊

 道中、《イビルグランサー》という単眼の飛行トカゲ型モンスターを腕試しがてらに狩って小休憩しながら飛んでいると、あっという間に洞窟まで到着した。

 巨大な入り口だ。幅も高さも六、七メートルはありそうだ。入り口の周囲には不気味な怪物の彫刻が飾られ、上部中央には一際大きな悪魔の首が突き出している。

 

「ここが《ルグルー回廊》、鉱山都市の名前が『ルグルー』だからこの名前がついてるんだと思う」

 

 さらっと説明してから四人は洞窟の中に入る。中はかなり暗い。リーファがコウに視線を送ると、コウが手を前にかざしスペルを唱えた。すると、先程まで暗かった視界がスッと明るくなる。スプリガンと闇妖精(インプ)のみ使える、パーティーメンバーに暗視能力を付与する魔法だ。一応、他の種族にも類似スル魔法はあるが、それは周囲を照らす魔法なのでモンスターが寄ってくる恐れがある。パーティーの実力が高ければ問題ないので、スプリガンが必ず必要というわけでもない。まぁ、そんな魔法しか持っていないから、あまりスプリガンは人気が無いのだが。

 

 

 洞窟に入っておよそ二時間、《オーク》と十回ほど戦闘を行なったが難なく切り抜け、スイルベーンで仕入れておいたマップのおかげで迷う事なく街まで向かう事も出来ている。

 ルグルーはノーム領の首都である地下大要塞程ではないが良質な鉱石が採掘でき、商人や鍛冶師のプレーヤーが多く暮らしている。それとルグルーは中立都市のため、領を離れたプレーヤーの取引場所にもなっているらしい。

 更に二十分程進むとリーファにメールが届いた。差出人はレコンだったのでメールを開く。リーファが内容を読み終わるのと、ユイが声をあげるのは同時だった。

 

「二十人程のプレーヤーが後方から近づいてきます!」

 

「走って!!」

 

 突然の事ではあったが、三人は迷わず走り出した。そして、キリトが理由を聞く。

 

「どうした?」

 

「レコンからのメールによると、サラマンダーが私達を尾行してるらしいの」

 

 内容は『サラマンダー、尾行、シグルド、裏切り』と単語が並べてあるだけだったが、それだけレコンは急いでメールをうったということだ。

 キリトはリーファの答えに納得したが、そうすると別の疑問が生まれる。いつから尾けられていたか、だ。その疑問は、更に深くなる。

 

「リーちゃん!後ろに赤いコウモリが見える!」

 

「コウさん!!」

 

 リーファの呼び掛けにコウは小振りのナイフを一本取り出し、振り向きざまにコウモリへ投げつける。それは見事に命中、コウモリはポリゴンとなった。

 

「コウさん!今のはなんだ!?」

 

「サーチャーとトレーサーを兼ね備えた上位の使い魔っぽいね。ホントにいつの間に尾けられていたんだか」

 

 最悪、領内から尾けられていた恐れがある。だが、サラマンダーはシルフの領に入れないようになっているはずで、入るためにはパスが必要だ。となると─

 

(シグルド…!)

 

─レコンのメール通り、彼が裏切ったということ。彼ならばパスを発行する事が可能だ。次に顔を合わせたら絶対たたっ斬るとリーファが思っていると、狭い通路を抜け湖が現れた。湖の真ん中に街があり、そこへ向かうための石造りの橋がかかっている。

 

「なんとか逃げ切れそうだ」

 

「…どうだろうね」

 

 橋の中央まで来た時に呟いたアスカに、コウはそう言った。怪訝に思ったのも束の間、四人の頭上を二つの光球が通り過ぎる。それらは十メートル程先に落下、天井まで届く程の大きさの岩壁が出現した。

 

「物理攻撃じゃ破壊出来ないからね!」

 

 飛び掛かろうとしていたキリトとアスカは、リーファの声に踏みとどまる。

 

「これは土魔法だね。魔法を撃ち続ければ破壊できるけど…」

 

「その時間は無さそうだな。水中に逃げるのは?」

 

「無理。凄く強いモンスターがいるから、上位バフ魔法を持ってるウンディーネがいないと」

 

 言いながら後ろを振り向けば、赤い集団が橋のたもとに差し掛かったところだった。前の五人は鎧を、後ろにいる者達はローブを着ている。

 

「じゃ、まず俺から行くよ」

 

 そう言ってアスカは返事を待たずに、レイピアを抜いて疾走した。そのまま勢いを殺さず、引き絞ったレイピアを突き刺す。

 

「はっ!」

 

 それに対してサラマンダーは、両手で持つ壁盾を前に出し防御の構えを取る。アスカの勢い良く突き出したレイピアは盾に当たり、男達を後退させただけにとどまった。男達のHPが一割程減少したが、敵の後方から複数の詠唱音が鳴り響き、男達のHPが瞬時に回復した─直後、複数のオレンジ色に光る火球がアスカに襲いかかる。しかしアスカは間一髪、持ち前の速さで全て回避した。

 

「あっぶなかったぁ…」

 

「出たのがアスカで良かったなぁ…、俺じゃ回避出来ない」

 

「リーファちゃんは回避出来そう?」

 

「五分五分ってところかな、タイミングが難しいんだよねぇ」

 

 それはともかく、これで相手の意図が分かった。あの集団はこちらの対策を練ってきている。リーファやコウは勿論、昨日の森の出来事が向こうに伝わっているようだ。出なければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など組まないだろう。プレーヤーにこれはやりすぎだとリーファは思うが。

 さて、どう攻略するか。相手の作戦は理解した。対物理に特化しているのなら魔法で攻撃すれば良いが、生憎こちらの魔法剣士はリーファのみ。物量で負けてしまう。となると─

 

「─シンプルに正面突破。これに限る!!」

 

 叫びながらキリトが短剣を腰から抜き、走り出した。

 

「アスカ、リーファは回復(ヒール)で援護!コウさんは俺と一緒に来てくれ!」

 

 一緒に走り出そうとしたアスカはキリトからの指示で踏みとどまり、リーファの所まで下がった。コウは小太刀を二本、走りながら抜き取る。そして、敏捷に勝るコウはあっという間にキリトを追い抜いた。その際、何かを呟いたキリトの言葉にコウは頷く。

 

「ふっ!」

 

 壁盾の前まで辿りいたコウは、小太刀で交差するように斬る。ほんの少し後退させ、体制を整えさせる前にすかさず二撃目を叩き込んだ。そして、練撃を叩き込んで空いた数ミリの隙間に短剣を差し込み、なんと強引に抉じ開けようとする。

 それに対して、相手陣営に戸惑いの雰囲気が漂い始めた。対物理に特化した隊列を、物理で崩そうとするものなど見たことがないからだ。それでも、後方の魔法使い(メイジ)達は詠唱を開始する。確かに戸惑ったがあれでは時間がかかりすぎる、そう判断したからだ。しかしその時─タンっと、何か軽い音が聞こえた。

 

「──」

 

 メイジ達が見たのは、コウの背中を押して踏み台にして盾兵(シールダー)を飛び越えた黒い影(キリト)だった。敵の中央辺りに着地したキリトはニッと獰猛な笑みを浮かべ、メイジ達に襲いかかる。

 

「ゴボォっ!?」

 

 喉を掻っ切る。

 

「─あっ」

 

 額に突き刺し、そのまま切り裂く。

 ケットシーの俊敏さと小回りの効く短剣を合わせ、一人一人確実に屠っていく。この中に剣士が一人でもいたら多少は被害を抑えられたかもしれないが、今更遅い。シールダー達は後退しようとしたが、それを許すはずがなかった。

 空いている隙間から、コウは手首のスナップだけでいつのまにか取り出したナイフを投げつける。鎧に阻まれ碌なダメージは入らなかったが、体制を崩すのには充分だった。更に隙間が大きくなり侵入を果たしたコウは、鎧の隙間に小太刀を突き刺す。いくら鎧が堅かろうと、防げなければ意味がない。そうして一人倒したコウは、残りの者には目もくれずキリトの所へ行こうとする。それを阻止しようと、盾をしまい武器を取り出すが─それがいけなかった。

 突然、一番端にいた者が宙に吹き飛ばされそのまま湖に落下、断末魔が聞こえる。何事かと顔を向ければ、先まで壁際にいたはずのアスカがレイピアを突き出した体制でそこにいた。唖然としていると、今度は横に両断される。リーファだ。事前に作戦を決めていた訳では無い。ただ、敵に隙が出来たから前に出てきただけだ。

 一度崩れてしまえば組み直すのは難しい。更に言えば、この時点で既に半数以上がやられていた。後はただ、蹂躙されていくのみ。

 

「ひっ、ひぃぃぃっ…!」

 

 あっという間に敵の数は一人となった。その男に対してリーファは剣を喉元に突きつける。

 

「さて、残りはあなた一人。死にたくなかったらこっちの質問に答えなさい」

 

 相手に恐怖を与えるような笑みを浮かべるリーファに、キリトは若干引いた。あれ、妹はこんな笑みを浮かべるような子だったっけ、と。

 

「こ、殺すなら殺しやがれっ!」

 

 しかし、男は顔面蒼白になりながらも首を振った。素直に喋る事はないだろうとは思っていたので、気は進まないがコウに頼もうとする。すると、

 

「なぁ、物は相談なんだけどな?」

 

 キリトに何やら耳打ちされていたアスカが、男に話しかけた。警戒する男に構わずアイテムウィンドウを出し、男にそれらを見せる。

 

「これ、さっきの戦闘で俺が手に入れたアイテムと(ユルド)なんだが…、質問に答えてくれたら、全部アンタにあげようと思っているんだけどなぁ」

 

 唾を飲み込む声が聞こえた。周りをチラチラと見渡している。迷っているような表情に、もう一押しと思ったアスカは更にこう言った。

 

「OK分かった。んじゃ、残りの三人が戦闘で手に入れた物も追加でどうだ!」

 

 今度こそ男は、交渉成立と言わんばかりにアスカと握手を交わした。

 

 

 男の話を整理するとこうだ。

 今日の夕方頃、ジータクス─先程のメイジ隊のリーダー─から強制収集のメールが届いた。内容は四人を二十人で狩る作戦であり、イジメかよと思ったが理由を聞いて納得した。その理由が、シルフ狩りの名人であるカゲムネ─先日、リーファを追い詰めた男─を倒した者だから。

 更に聞けば、今回の作戦はジータクスより上の者からの命令だったらしい。自分みたいな下っ端には教えてくれないが、なんでもサラマンダーの上の方で何か大きな事を狙っているんじゃないか。実際、ログインした時に大軍で北へ向かっていくのを見た。領から北へ向かうとアルンがあるが、世界樹攻略ではない。目標金額の半分もいってないから、それはありえない─

 

「─とまぁ俺が知ってるのはこれくらいだ。

 …さっきの話、本当だろうな?」

 

「取引で嘘はつかないさ」

 

 そうして約束通りアイテムを貰った男は、ホクホク顔で元来た道を戻っていった。

 

「そういえば、リーファはコウさんに何させようとしてたんだ?」

 

 ルグルーに入ると、キリトがそう聞いた。それにコウは笑顔で答える。

 

「ん?ああ多分、拷問じゃないかなぁ?」

 

「「ゑ?」」

 

 予想だにしない答えに、二人は固まった。リーファは溜息をつきながら言う。

 

「コウにぃ、何でか知らないけど拷問めちゃくちゃ上手くて…。無理やり情報出させるの得意だよ」

 

 出来るだけ頼りたくないけど、こっちもキツイから、と死んだような目でそう付け加えた。同情的な視線を送るが、コウはそんな人物だったろうかと思っていると

 

「出来るだけソフトにやろうとするんだけどねぇ。相手が怯えてるのとか見ちゃうと、ね?」

 

 と、とんでもない事を笑顔で言う。そういえばこの人ドSだったわ、と全員で遠い目をした。それを分かっているのかいないのか、コウは笑顔のままだった。




 浩一郎をドSにしてしまったが、特に後悔も反省もしない。
和葉「しなさいよ。どうするんですかこれ、後々大変な事になる気がするんですが」
 気にしない気にしない

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