和「作者は受験があるようなので、今回は許してあげて下さい」
ではどうぞ
「─前方にプレーヤー反応多数、数六十六。これがサラマンダーの強襲部隊と思われます。更に向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会談出席者と予想します。双方接触までおよそ五十秒です」
洞窟を抜けてしばらく高度限界を飛んでいると、不意にユイがそう言った。その直後、下にある雲の隙間から赤い集団が目に入る。サラマンダーだ。その向こう側にある円型の台地にそれぞれ七人ずつ、シルフとケットシーが見えた。まだサラマンダーに気付いていないようだ。
「ん?あれ、ユージーンじゃないかな」
サラマンダーを見ていたコウが一人装いの違う者を見つけ、そう言った。
「誰それ?」
「ALO最強プレーヤーって言われてる人だよ、アスにぃ」
その言葉を聞いたキリトは考えるように顎に手を当て、「あれがねぇ…」と呟きユージーンをジッと見る。そして口を開いた。
「アスカは俺と来てくれ。リーファとコウさんは領主さん達の所へ」
言うと同時にキリトは翅を震わせ急降下を始めた。あまりの速さにリーファは一瞬、キリトを見失う。慌てて下を見れば、既にユージーンの前で急停止し─短剣を振るっていた。それをユージーンは手に持っていた両手剣で防ぐ。
「よぉ、アンタが噂のユージーン将軍だな」
ニィッと口端を吊り上げ、そう言った。
(なんだこのケットシーは)
それが、ユージーンの心境だった。今回の作戦は極秘、外に漏れるはずがなく、会談中のケットシー達も先程まで気付いた様子は無かった。たとえ気付いていたとしても、あまりにも援軍が来るのが早すぎる。
そう考えるユージーンをよそに、男のウンディーネが隣に来ると女のケットシーは口を開いた。
「俺の名前はキリト、こっちはアスカ。さて、単刀直入に言おうか。俺と決闘しろ」
短剣を突きつけそう言うと、空気が固まった気がした。全員から冗談だろ?という雰囲気を感じる。
「ふん、何故貴様と決闘する必要がある。領主を助けに来たんだろうが、貴様に付き合う理由は無い」
そうユージーンは言ったが、キリトは不敵な笑みを浮かべたままだった。
「いやいや、これはアンタ達のためでもあるんだぜ」
「…どういうことだ」
意味が分からず、ユージーンは問いかける。領主を逃がすための時間稼ぎだとも思ったが、領主が逃げる動きは無い。何を狙ってるのか、全く分からなかった。
「確かに人数差は圧倒的にそっちが多い」
でもな、と続ける。
「俺達の誰かがアンタさえ押さえておけば、領主を逃すだけの時間は稼げる」
その場の全員がどよめいた。よく見れば、会談場所に落ちた二つの影の片方は、シルフ領に属する
「でもそうなると、互いに被害が大きいだけだ。そうなるのは俺らも、そっちだって不本意だろ?」
─ということは目の前にいる二人は、
改めてユージーンは、目の前の笑みを浮かべたケットシーを見る。
(兄者は確か、追手を放ったと言っていたが─)
─しくじったか、とユージーンは結論づける。なるほど、大口を叩くだけの実力はあるようだ。フッとユージーンは笑みを浮かべた。
「貴様の言いたいことは分かった。もし俺が勝てば領主を差し出すと言うことで良いのだな?」
「それは断る」
ノータイムで、キリトはそう言った。眉を吊り上げ、ユージーンは怒気を含んだ声で「何故だ」と問う。
「俺らは領主を討たせないために来てるんでね。アンタらは金が必要なんだろ?」
そう言うと二人はウィンドウから一つずつ、大きな皮袋を取り出した。その中から青白いコインを手に取り、ユージーンに投げ渡す。それを受け取ったユージーンは目を見開き、驚愕した。
「十万ユルドミスリル賃だと…。それら全てがか?」
正解だと言うように、キリトはニッと笑みを浮かべた。二人の持ってる袋の大きさからして、少なく見積っても、一等地に城は建つ金額はありそうだ。
元々この任務は、十人程度の護衛を連れた領主を狩るだけの簡単なものだった。それがどうだ、四人とはいえ、強敵と思われる者が現れた。領主を討つ事は出来るかもしれないが、万が一逃げられた時のリスクが大きい。
しかし向こうの提案を飲めば、当初よりも利益は少ないだろうが負けた時の被害も少ない。だが果たして本当に、その条件に見合う程強いのだろうか。ただのハッタリではないのか。
「ふっ、良いだろう。貴様が俺の剣を三十秒耐え切ったら、その条件を受けてやる」
故にユージーンは、試してみる事にした。もし持ちこたえられなければ、即座に攻撃を仕掛ける。
「随分気前が良いな」
笑みを浮かべたままキリトは短剣をしまい、代わりに身の丈程ある剣を取り出す。同時にアスカはリーファ達の所まで下がっていった。
(ユージーン、現ALO最強プレーヤー…)
そして手に持っている両手剣が《魔剣グラム》。とあるエクストラ効果が付与された
「─相手にとって不足ねぇっ!!」
獰猛な笑みを浮かべ、キリトが突貫をかけた。
下から切り上げるように振るうが、難なく防がれる。次いでユージーンが上段から振りかぶった。それを受け流そうとキリトは剣を頭上に掲げる。そして二つの剣が衝突しようとした─その瞬間、赤い剣が黒い剣を
「何今の!?」
絶句するリーファに説明したのはコウだった。
「《エセリアルシフト》、剣や盾で防御しようとすると非実体化してすり抜ける、魔剣グラムに付与されてるエクストラ効果だよ。あれを初見で防ぐのはキツいなぁ」
「なんでそんな落ち着いていられるのかナ!?伝説級武器で一撃くらったんだヨ!?あの子死んじゃったんじゃ…」
あまりにも落ち着きのあるコウにケットシーの領主、アリシャ・ルーがそう叫ぶ。確かにアリシャの言ってることは間違ってない─が。
「それは心配ないですよ」
アスカがそう言った直後、土煙から
「ほう、生きていたか」
軽々と防ぎながらユージーンはそう呟く。
「おいおい、そっちが防ぐ時はすり抜けないとか卑怯じゃないか?」
「俺ではなく製作者に言え」
互いに軽口を叩きあいながらも攻防は続いていた。切り上げ、切り下げ、薙ぎ払い、それら全てをユージーンは防ぎ、一瞬の隙をついて攻撃に転じる。右から振るわれた攻撃に、キリトは反射的に剣で防ごうとしたが再び非実体化、脇腹に叩き込まれた。
「がっ!」
回転して吹き飛ばされたのを翅を広げて急停止、剣が食い込んだ箇所を左手でさする。
「いってぇ…クッソ
そう呟いたキリトに、ユージーンが上から声をかけてきた。
「三十秒耐えたか。中々やるな。では、このまま続けさせてもらうぞ!」
ユージーンはそう言って急降下、剣を振り下ろした。それを半身ずらして躱し、そのまま回転して後ろから首を狙う。しかしユージーンは既に剣の範囲外、当たることはなかった。
「─まずいな」
キリトとユージーンの攻防を見てシルフの領主、サクヤがそう呟いた。
「プレーヤースキルは互角と言えるが、武器の性能が違いすぎる。あの魔剣に対抗出来るのは、同じ伝説級武器の《聖剣エクスカリバー》だけと言われているが、それは入手方法すら不明だからな…」
サクヤの解説に、シルフとケットシーから諦めの雰囲気が漂い始める。しかしそれでも、アスカ、リーファ、コウの三人は武器の性能差ごときでキリトが負けるとは、微塵も思っていなかった。
「流石ユージーンだね。武器の性能に頼ってない。最強プレーヤーの名は伊達じゃないか」
「アスにぃは勝てる?」
「うーん、どうだろう。正直キリトと
少なくとも一回目は、とアスカは肩を竦めた。アスカは自分が油断しやすい性格と自覚している。その点、キリトは相手が誰であろうと油断はしない。
領主含めた他の者達は、何故そんなに落ち着いていられるのか理解出来なかった。故にその理由を聞こうとして─音が聞こえてきた。通常の戦闘では聞こえるはずの、先程までは聞こえなかった音。すなわち、金属音。全員が顔を上げ目に映ったのは、グラムを
《エセリアルシフト》は剣や盾で防ぐこと事は出来ない。なるほど、聞いただけでは対処のしようが無いものだ。しかしゲームの世界において、対処出来ないものなど存在しない。必ず抜け道はある。
剣や盾で防ぐ事が出来ない、ならば
(それでも、練習してた訳じゃないのによく順応出来るなぁ)
そう思ったアスカの視線の先では、キリトが先程から変わらずグラムを受け流している。受け流すのは慣れたが、持っているのが巨剣のせいで攻撃に転じられないのだ。
(さて、キリトちゃんはどうするかな?)
コウは、キリトがここからどうやって切り抜けるのか楽しみだった。あの世界ではどうやって危機をくぐり抜けてきたのか、どんな技術を身につけたのか─
(─僕に魅せてくれ)
「─アスカぁ!!」
名を呼ばれたアスカは音高くレイピアを抜き、迷わず
「!?」
「シッ!」
剣で防がれたことに驚愕したユージーン、その隙を逃さずキリトは連撃を叩き込む。巨剣とレイピア、全く重さの違うはずのそれらを完璧に使いこなしていた。ユージーンも負けじとグラムを振るうが、連続での透過は出来ないらしく、二つ目の剣で弾かれる。
空中に流星のような黒と白の光の線が無数に描かれる。先程と真逆、今度はユージーンが防戦一方となる番だった。
「うぉぉぉぉぉぉおお!!!」
しかし、それは強者と自負しているユージーンにとって許されることではない。腹からの咆哮をユージーンが放つと何れかの防具の特殊効果か、薄い炎の膜が放射されキリトを僅かに押し戻す。その隙にグラムを上段に構え、思い切り振り下ろす─
「─遅せぇよ」
─より早くキリトがユージーンの手首を切り落とした。驚愕に目を見開くユージーンに、レイピアを胸に突き刺す。そのまま左上に切り上げ、即座に巨剣を右上から振り下ろすためにあげた。それを見たユージーンは自分の負けを悟り、笑みを浮かべ一言。
「─見事」
その一言を最後に、ユージーンは左肩から右脇腹にかけて切り裂かれる。体が斜めにずれ、次いでリメンライトと化した。
場が静寂に包まれる。そして一瞬後、敵味方問わず歓声が爆発した。口笛や拍手、果てには武器を旗のように振り回す者もいる。正直に言えば、ユージーンを倒した後にサラマンダーが突撃してくることも予想していたが、それは杞憂に終わったようだ。
歓声の中心にいるキリトは巨剣を背中にしまい、右拳を上に挙げる。こうしてALOの最強プレーヤーとの決闘は、キリトの勝利で終わった。
あの後、ユージーンを蘇生しサラマンダー部隊には約束通り帰ってもらった(その際、もう一度戦おうと言われてしまったが)。現在は領主達に状況を説明している所だ。
「─なるほどな」
それがリーファから状況を聞いたサクヤの一言だった。曰く、最近シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいたのは感じていた。しかし、独裁者と見られるのを恐れて合議制に拘るあまり、彼を要職に置き続けていた。彼が苛立っていたのは、サラマンダーに勢力的に負けている現状が許せないのだろう、とサクヤは予想した。そしてスパイを受けたのは《アップデート五・Ø》で実装される《転生システム》、それを条件にモーティマーに乗せられたのだろう、と言った。
「くだらねぇなぁ」
ため息を吐きながらそう呟いたのはキリトだった。口には出さないがアスカも同じ心境だ。
ゲーム内で強さを求めるのも、負けて悔しいのも当たり前。けれど楽に強者になるより、自分で強さを手に入れる方が面白いのではないだろうか。自分より上にいる奴らを利用するならまだしも、そいつらの下に行って満足するのは違うと思うし、くだらない。
そんな男に妹が利用されてたと思うと、怒りがぶり返してきた。次会った時は問答無用でぶった斬る、とキリトが物騒な事を考えているといつの間にか、そこにシグルドがいた。正確に言えば、そこにある鏡にシグルドが映っているのだが。
闇属性魔法《月光鏡》。遠くにいるプレーヤーの姿を鏡に映し、会話する事が可能。どうやらサクヤは、直接シグルドに物申しているようだ。そして恐らくは、領主の権限を使って追放しようとしていた。
何事かを喚こうとしたが、それよりも早く彼の姿が鏡の中から消えた。
「サクヤ…」
「…私の判断が正しかったかどうかは次の領主投票で分かるだろう。
─ともかく、礼を言わせてほしい。君達が来なければ私達はやられていた。ありがとう」
「ありがとネ!」
そう言ってサクヤは右手を胸に当て上体を傾け、アリシャは頭を深々と下げてそれぞれ一礼をした。護衛の者達も例外なく感謝を述べる。
そして今回の礼として、世界樹攻略を手伝ってもらうことになった。しかし目標金額までがかなり遠いそうで、すぐには無理とのこと。そこでキリトとアスカが全財産を領主に渡した。全員が絶句するほどに驚愕した時は流石に笑いそうになった。かなりの金額を持って中立域にいるのはゾッとしないらしく、領主達は会議の続きはケットシー領で行うと言って去っていった。
「さて、じゃあ行きますか」
このままアルンへ向かいたいところだが、もう夜も遅い。明日(もう今日か)は休みとはいえ、どこかで宿を見つけなければ。まぁ、一文無しになってしまったので格安宿に泊まることになるが。コウとリーファはため息を軽く吐いて、足りなかったら自分達が払うと言った。
ユイを呼んで近くの村を探してもらい、翅を広げ四人は飛んでいった─。
和「無理矢理終わらせた感じがするのですが」
それは思った。でもそれ以上にさっさと投稿しなければと思った。
和「それで雑になったら読者減りますよ?」
ぐぅ正論