転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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今年中に終わらせたかった…

因みに後、二話程で終わると思います。


覚醒

「─やぁぁあ!!」

 

 声をあげ斜めに斬り下げ、その返しで横に斬る。よろけた所をアスカが速さを乗せたレイピアで貫き、HPを全損させた。

 これで二人目。向こうは既に全員気付いている。向こうのリーダーである斥候(スカウト)が次々と矢を放っているが、アスカには当たらない。スカウトの放つ矢はかなり早く、普通なら避けるのは困難だ。しかしSAO(あの世界)で随一の速さを誇っていたアスカにしてみれば、矢を放つ事を目視してから回避するのは容易い。しかしその為には、常にスカウトを視界に入れていなければならない。故に─

 

「アスにぃ!!」

 

─リーファの声でスカウトを視界に入れ、飛翔してきた矢を顔を逸らして回避する。そのまま近くにいた者にレイピアを突き立て、そこをリーファが追撃し葬った。

 スカウトを見ようとしたリーファだったが、スペルが聞こえたのでその場から回避、瞬間そこを光線の如き水流が足場を削った。相手方は攻撃の当たらないアスカよりも、先にリーファを倒すことに決めたようだ。実際、リーファがサポートに回っているからこそ、アスカに攻撃が当たっていない所もある。倒せそうな方から倒す、その考えは当たり前の事だ。

 アスカのサポートをしながら凌ぎ続けるのは不可能。中途半端なサポートは逆に危険だ。故にリーファはアスカのサポートをやめ、自分が生き残る為に索敵魔法を放ち、防御に回る。それを認識したアスカは出来るだけ魔法と矢を撃たせないように邪魔をし始めた。

 

(そろそろ重装備(タンク)のプレーヤーが戻ってくるからキツイけどね)

 

 もう後十数秒もすればタンクの者が来て、一方的にやられるだろう。ここまでは、相手がメイジとスカウト(軽装備)だから出来たことだ。とはいえ、大人しくやられるつもりもない。

 

(スグちゃんが防御に回って俺がメイジの邪魔をすれば、まぁそこそこ持つはず─)

 

─なにせ、完全な守の体制に入ったリーファ(直葉)を崩すのは困難なのだから。

 本人は姉達に勝てるのは剣道だけと言っているが、守りに関して言えば彼女に勝る者は(彼女らの親を除けば)いない。これは疑問ではあるのだが、何故かリーファは守りの時のみ反応速度が尋常ではないのだ。それ故、リーファの守りを崩すには完全な死角からの不意打ちしかない。尤も、それを行うのは一般人には不可能であろうが。

 更にいえば、ここはゲームの中。索敵魔法を先に放っておけば、死角などない。制限時間は五分、それを過ぎてしまえばやられてしまうかもしれない。しかし最後のその瞬間まで噛み付いてやると、トンキー(友達)のために、そう簡単にやられてたまるものかとリーファは意気込んでタンクを斬っていく。

 

 

 一方で、スカウトは畏怖の念を抱えていた。何故、たった二人にここまで苦戦させられるのかと。こちらは対邪神用の装備を揃えているのに。不意打ちを食らったといえ、人数も圧倒的にこちらが多いのに、何故この二人は全く怯まないのか。そもそもあのウンディーネは何故、我らと敵対している?

 

「おい!お前同種族(ウンディーネ)だろ!?なんで他種族に加担してんだよ!?」

 

 同じ事を思った仲間がそう叫んだ。それに対し、男はただ一言だけ。

 

「家族だから」

 

 それだけ言ってレイピアを連続で突き刺し、葬った。もう今ので十人近くやられてしまった。これほどの者がウンディーネにいたなら噂は立ったはず。何故今まで聞かなかったのか。

 

「タンク隊、メイジ隊を守れ!!メイジ隊は大型魔法を唱えろ!!」

 

 しかし、今はそんな事を考える暇などない。そう命令を下せば、タンクはすぐに生き残っているメイジにつき、武器をしまいタワーシールドを取り出す。これではスピード型の二人では突破できない。

 二人は、もうこれ以上抵抗しても無駄だということは分かっている。だが生憎(あいにく)、二人は諦めが悪い。アバターが砕け散るその瞬間まで敵を葬り続ける。二人がそう思い、地を蹴ろうとした─その瞬間、高らかな啼き声が響きわたった。その声はトンキーのものであるのだが、先程までの小さな悲鳴とは違う。

 いったいトンキーの身に何が起きたのか。例外なくその場にいる者達がトンキーの方を向いた。見えたのは、楕円形の胴体に刻まれた幾つものひび割れ。それらは徐々に長くなり、互いに繋がっていく。そのひび割れた隙間から邪神の黒い血が吹き出ると、誰もが予期した。だが─

 

『『『『っ!!!』』』』

 

─目にしたのは白い光だった。あまりの光量に全員が顔を覆う。同時に、その光はウンディーネ達を包み込み、彼らに付与されていた支援魔法や詠唱途中だった攻撃魔法が強制的に中断された。

範囲解呪能力(フィールド・ディスペル)。一部の高レベルモンスターのみが有する特殊スキル。効果は先程の通り、範囲内の魔法やアイテムによる効果を強制的に無効化させるものだ。それに加え詠唱途中の魔法を強制中断させることも可能。最下級のはぐれ邪神が持つには強力すぎる能力だ。何が起きたのか分からず、ウンディーネ達は凍り付いた。

 いくつもの視線を集める中、トンキーのひび割れたその胴体が音も無く四散した。正確にいえば、四散したのは殻だけ。未だ留まり続ける光の塊から、螺旋状のものが生える。それは回転してほどけ放射状に広がり、やがて四対八枚の白い翼となった。

 

─ひゅるるるぅ!─

 

 高らかな声をあげ、トンキーは八翼を大きく羽ばたかせ舞い上がった。丸かった胴体は細長い流線状に変化し、鉤爪の付いていた触手は植物の根のようになっている。しかし、顔だけは以前と変わっていなかった。残っていた体力がどれほどだったか分からないが、今は全回復している。

 十m程の高さでトンキーが止まると、何の前触れもなく白かった翼が青い輝きに染まった。さて問題だ、ゲームの中において青い輝きは何を示すか。

 その輝きを見たスカウトがそれに気づき、声をあげる。

 

「たっ、退─」

 

 しかしその声は、更なる大音量と共にトンキーの触手から放たれた青い雷撃によってかき消された。それらは一番近くにいたアスカとリーファを避け、ウンディーネ達に声をあげる間も与えず吹き飛ばす。タンク達は耐えたようだが、流石にメイジ達は耐えられなかったようだ。今の雷撃によって更に半数のメイジがアバターを四散させた。

 すぐさまスカウトが回復と支援魔法の指示を飛ばすが、再度トンキーから白い輝きが放たれる。それは詠唱途中だった魔法を全て中断させた。

 これ以上は危険だと踏んだのか、スカウトが手を真上に上げると弓使い(アーチャー)達が矢を飛ばす。それらは真っ黒な尾を引き、やがて部隊を隠した。

 

「撤退っ、撤退!」

 

 スカウトがそう言えば、ウンディーネ達は一目散に逃げていく。その速さは流石のものだが、飛行型になったトンキーならすぐに追いつけるだろう。しかしトンキーは勝利の声を響かせるだけにとどめ、こちらを向いた。そのままゆっくりと飛んできたかと思うとアスカ達の真上で止まり、六個ある目玉がギョロリと二人を見つめる。しばらく見つめ合っていると先までと同じように、象のような長い鼻で二人を巻き取り背中に乗せてくれた。

 二人はそれぞれ剣を納めて、リーファはトンキーの背中を撫でる。心なしか、毛が以前より長く柔らかくなっているような気がした。まぁとりあえず─

 

「…トンキーが生きててよかった」

 

 呟くようにそう言えば、アスカの胸ポケからユイが出てきて同意する。

 

「本当に良かったです!」

 

「うん、そうだな」

 

 

 

 それからは特に障害もなく、トンキーに乗せてもらったままヨツンヘイムの景色を楽しんだ。ここは飛行不可能な場所の為、高空から見下ろしたのは二人が始めてのはずだ。スクリーンショットを撮ってスレで自慢したい所だが、やめた。不正だ合成だ言われて炎上するのが目に見えてる。

 突然、視界に入ってきたものとの距離感を二人は一瞬把握出来なかった。青く透き通った逆ピラミッド型の氷塊と、それを網のように抱え込む世界樹の黒い根っこ。それはヨツンヘイム中心にある大穴の真上にあった。ダンジョン…なのだろうか。全長は恐らく二百m以上、その内部は幾つもの層に区切られている。

 

「ん?」

 

 リーファが声もなく目を見開いていると、アスカが何か遠くのものを見るように目を細めた。それに気付いたリーファは何を見ているか問う。

 

「明日にぃ、どうしたの?」

 

「あのピラミッドの先端に何かある。スグちゃん見える?」

 

 そう言われて最下層、ピラミッドの先端に目を向けると、確かに何か光っている。リーファは短いスペルを唱え、右手に水の塊を出現させた。それはすぐに氷結し、扁平な結晶へと変わる。

 

「それは?」

 

遠見結晶(アイススコープ)の魔法だよ。これであれが何か見え…」

 

 説明しながら結晶を覗き込んだリーファの言葉が、不自然に止まった。不思議に思ったアスカが結晶を横から覗き込むと、見えたのは、透き通るような黄金の刀身を持つ一振りの片手剣。その武器を知らないアスカでも、それがサーバーに一本しか存在しない武具、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)に属するものだと気付いた。そして、その考えは正解だ。肩から覗き込んだユイが興奮したように声を上げた。

 

「あれは…《聖剣エクスキャリバー》です!あのサラマンダーの人が持っていた《魔剣グラム》を超える、ALO最強の剣と言われています!」

 

 更にリーファの補足を加えるなら、今までどこにあるのかヒントすら見つからなかったらしい。そういえば、そのようなことをシルフの領主であるサクヤが言っていたような気がする。

 剣の奥に細い螺旋階段が見える。それはダンジョン内部に続いているようだ。つまりあの氷のダンジョンを攻略すればエクスキャリバーを入手することが出来るというわけだ。

 トンキーは二人を乗せたまま上昇を始めた。リーファが聖剣から目を離すと、同時に二つのものが目に入る。一つは氷のダンジョンから突き出したバルコニー。トンキーの軌道はその端を掠めるように向かうようで、トンキーから飛び乗ることが出来る。もう一つは更に上空、ヨツンヘイムの天蓋から垂れ下がる、階段を刻まれた一本の根っこ。階段はそのまま天蓋を貫き更に上へ続いているようだ。間違いなく、地上への出口だろう。トンキーが向かうのはこっちだ。

 二つに一つ。トンキーから飛び降りダンジョンに向かうか、出口へ向かうか。しかし二人は微動だにせず、ただ氷のダンジョンが通り過ぎるのをただ見ていただけだった。聖剣を見ても、二人の心は全く動かなかったのだ。

 

「和葉を助けだしたら、皆で来よう」

 

「どっちにしろ、私達二人じゃ攻略出来ないよ」

 

 何故なら、二人の最優先事項は『和葉を助け出すこと』。ここで時間を消費するわけにはいかない。

 無事に天蓋から伸びる階段に辿り着いた二人は、トンキーから飛び降りて彼の方を振り向く。

 

「また来るね、トンキー。それまで元気でね」

 

「ここまでありがとう。次来るときは俺達の仲間を紹介するよ」

 

「またいっぱいお話ししましょう!」

 

 それぞれの言葉を聞いたトンキーは一声鳴いて下降を開始、あっという間に見えなくなった。ここでトンキーの名前を呼べば、また背中に乗せてくれるだろうか。そうだと良いなと、リーファは考えながら階段を登り始める。

 さぁ、ここを登れば目的地である《アルン》だ。恐らくキリト達はもう現実に戻っているだろう。かくいう自分達もかなり眠い。さっさと宿を見つけてログアウトしなければ。そして─

 

家族(和葉)を返して貰う。彼女を攫った者に、生まれたことを後悔させてやる─




ここまで見て頂きありがとうございます。誤字脱字、又はおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします

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