というわけで今月2回目の投稿となります。代わりに来月投稿しないかもしれませんが、そこはご了承くださいな。
世界樹の内部は真っ暗だった。暗視魔法を使おうと右手を掲げようとすると、それよりも早く眩い光が内部を照らした。思わず両手で顔を覆う。
光に目が慣れ内部を見渡すと、そこはとてつもなく広いドーム状空間だった。直径百m以上、高さはそれの倍以上はあるだろうか。壁には円形の窓が数え切れない程に施されている。どうやら光はそこからきているようだ。そして更に上に視線を向ければ、そこには円形の扉があった。それを十字に分かれた四枚の扉壁が閉ざしている。あれが、世界樹の上へと続く道の筈だ。
コウは二本の小太刀を握りしめ─地を蹴った。その勢いを殺さぬまま扉を目指す。
そのすぐ後、壁の窓に異変が現れた。窓の光が泡のように沸きだち、何かを生み出そうとしている。光は瞬く間に人型を取り、完成したそれは四枚の翅を広げ咆哮した。全身を白銀の鎧で包んだ、長大な剣を構えた巨躯の騎士。間違いなく、あれがグランドクエストのガーディアンだろう。ガーディアンは急上昇してくるコウに顔を向けて─
「邪魔だよ」
─目の前まで来ていたコウに斬り捨てられる。声もあげずに爆散した守護騎士に見向きもせず、上空を見上げた。そしてほんの一瞬、コウの動きが完全に停止する。そこには、数えるのも馬鹿らしくなるほどの守護騎士が生成されようとしていた。その数、数百はいくだろう。
しかし、ここで止まるわけにはいかない。たとえ何匹、何十匹来ようとも、それら全てを斬り裂いていくのみ。
自信を奮い立たせるように小太刀を握りしめ、急上昇を再開する。数体の守護騎士達がコウの進路を阻もうと舞い降りてきた。いくら一対多が得意とはいえ、あの数相手では流石にキツい─だからなんだというのだろうか。元より無茶なのは理解しているし、止まるつもりも無い。故に─
(─一度も止まること無く、全て斬り捨てる!!)
先頭にいた守護騎士に狙いを定め、速度をあげる。守護騎士は例外なく巨剣を持っていた。ならな、懐に入り込んでしまえばこちらのものだ。故にコウは自身より大きな守護騎士に臆さず突っ込み、懐に入り込む。そして、相手の首筋を斬り落とした。まずは、一匹。爆散したエンドフレイムから飛び出し、目の前にいた守護騎士を二刀の小太刀で斬り裂く。背後から接近してくる気配を察知、振り向きざまに右手の小太刀を投球。背後にいた二匹のうち、片方の顔に突き刺さった。即座に接近し、突き刺さった小太刀を掴み右へ振るう。それはすぐ近くにいた守護騎士の首も跳ね飛ばした。
周囲にいた守護騎士を殲滅し、コウは上を見上げる。上からは更に多くの守護騎士が降下して来ていた。
「─うおぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
それでも、雄叫びをあげその中に突っ込んでいく。怯む暇など無い、あの扉の向こうに彼女がいるのだ。それ以外に、進む理由は無い。
自分の攻撃力では、胴体に一撃入れたところで殺しきれないだろう。故に、人体の急所のみを狙っていく。縦横無尽に動き回り、守護騎士の首を跳ねていった。挟むように狙って来た二本の剣を両手の小太刀でそれぞれ受け流し、片方に回し蹴りを叩き込む。体勢を崩した守護騎士の胸を貫き、そのまま上に斬り裂いた。その勢いで小太刀を振り下ろし、もう一匹の守護騎士を縦に裂く。
上を見上げ、天井のゲートに視線を向ける。ゲートは意外なほど近くにあった。そこへ向かって上昇しようとして─飛来した何かがコウの右足を貫いた。そこへさらに三度の追撃が入る。貫かれた足を見ると、そこには光の矢。飛来して来た方には、弓矢を構えた守護騎士の姿。耳障りな声でスペルを詠唱し、第二波の光の矢が甲高い音とともに殺到してくる。回避は不可能、コウは小太刀でそれらを弾いていくが、全て弾く事は出来ず数本の矢が突き刺さった。HPがイエローゾーンへ突入する。
「邪魔を、するなぁぁぁぁぁあ!!!」
再度スペルを詠唱しようとした守護騎士に、ナイフをいくつも取り出し投げつけた。数体のは阻止したが守護騎士の方が圧倒的に多いため、先よりは少ないがそれでもかなりの数の矢が押し寄せる。今度はそれらを回避し、上昇を再開した。遠距離のエネミーを単騎で相手取るのは難しい。故に、強行突破を図った。後数十m、時間にして数秒の距離にゲートがある。そこまで行ければ勝ちなのだ。
コウは歯を食いしばり上昇、ゲートに手を触れようとして─突如、背中に衝撃が走った。振り向くと、守護騎士が歪んだ笑みの気配を滲ませて剣を突き立てている。そして、完全に止まったコウに群がるように、守護騎士達は一斉にコウを剣で貫いていった。HPを確認することなく、視界に青い燐光を纏った黒い炎が映る。それが自身のエンドフレイムだとすぐに分かった。炎を背景に映し出される、【You are dead】。次いで、コウのアバターは呆気なく四散した。視界は彩度を失い、紫のモノトーンで染まる。それを背景に【蘇生猶予時間】の文字と、減少していくタイマー。意識はハッキリしているが、四肢の感覚は存在しなかった。
この感覚は久しぶりだなと、コウは先程までの激昂が嘘のように落ち着いていた。元より、グランドクエストが一人で攻略出来るものとは思っていない。では何故、無謀にも一人で中に入ってきたのかと聞かれれば、そうでもしないと
さて、後は回収されるのを待つだけなのだが。アスカはともかく、キリトとリーファは来てくれるだろうか。多分来てくれるだろう。嫌われているというわけでも無いのだから。
その時、世界樹内部の入り口から三つの影が入ってくるのが見えた。アスカ達だ。こちらに向かってまっすぐに飛んでくる。守護騎士達が金切り声をあげ、侵入者達を排除すべく殺到していった。しかし先のコウとは違い、彼らは一人では無いため、接近してきた守護騎士をことごとく倒していく。
「リーファ!!」
キリトの合図でリーファがコウに急接近、腕の中に抱き込んだ。そしてすぐさま急降下、
世界樹から脱出したリーファはすぐにアイテムウィンドウを開いた。蘇生魔法を取得できていないので、そこから《世界樹の雫》という蘇生アイテムを取り出し、抱えていたリメンライトに注ぎかける。蘇生スペルと同じような魔法陣が展開し、すぐにコウのアバターが実体化した。
「ありがとうリーファちゃん。二人も」
蘇生したコウはそうやって三人に礼を言い、頭を下げた。迷惑をかけた自覚もあるからだ。
「びっくりしたぜ。浩一さんのあんな顔、久しぶりに見たからな」
「ね」
二人は安心したようにホッと息を吐く。ここまで口を開いていないアスカが近づいてきたのを、コウは視界の端で捉えた。
「兄さん」
次に起きる事が想像ついたコウは顔をあげ─瞬間に思い切り殴られる。吹っ飛びはしなかったが、それでも数mは後退させられた。目をパチクリさせる姉妹をよそに、頰を手の甲で擦るコウに、アスカはゆっくり近づき口を開く。
「これで迷惑をかけられた分はチャラな」
「分かったよ」
呆れたように言ったアスカに、コウはそう言うしかなかった。
兄弟喧嘩が始まったかと思った、と言ったキリトにアスカが謝りながら頭を撫でる。そういえば、キリト達の前で兄弟喧嘩をすることはあまり無かったな、と思った。まぁ、本気で喧嘩したのは一回だけだし、かなり凄まじい事になったので、見せない方がいいのだろうが。
「もう大丈夫ですか?」
とそこで、いつのまにかキリトの肩に座っていたユイが口を開いた。四人は頷いて続きを促す。
「では先程、コウさんの戦闘で分かった事を報告します」
「ちょっと待って。ユイちゃんどこから僕の戦闘見てたの?」
「?コウさんのポケットに入り込んでいたので、そこからですが」
何か問題でも?と首を傾げるユイに、コウは首を横に振った。この子は常識外の行動をしたことを自覚しているのだろうか。
そんな事をコウが思ってるとは知らず、ユイは話を続ける。
「あのガーディアン・モンスター、ステータス的に言えばさほど高いものではありません。ですが、ポップ量が異常です。ゲートまでの距離に比例してポップ量が増加、最終的には秒間十二体にも達していました」
キリトは顎に手を当て、「少ないな」と呟く。それはどういう事かとリーファが尋ねる。
「秒間十二体なら、頭数とある程度の装備さえあれば、最悪ゴリ押し出来る。なのに今までクリアされていないということは─」
「─距離だけじゃなく、挑戦する人数にも比例して増えていくか、ステータスが上がるか」
引き継いだアスカにキリトは頷く。
あくまでも仮説であるため、出来れば確認しに行きたい。この四人でも行けるだろうが、念の為もう一人はヒーラーが欲しいところだ。
「リーファちゃ〜ん、みなさ〜ん」
うんうん悩んでいると、四人を呼ぶ声が聞こえる。その方向に顔を向けると、レコンがこちらに手を振りながら飛んできていた。
「レコン!?もう追いついてきたの!?」
驚愕するリーファの側に着地したレコンは、翅をしまい話し始める。
シグルドがいなくなったので、隙をみて見張りのサラマンダーを毒殺。彼にも毒を盛ろうとしたがいなかったので、仕方なくアルンを目指す事にした。そしてその際─
「─頼もしい人達のおかげで、ここまで難なく来れたんだ」
ほら、と言ってレコンが示した方向を見ると─緑とオレンジの大群がこちらに飛んでくるのが見えた。五十はくだらないシルフのプレーヤーと十体ほどの飛竜。そして、その先頭を率いるのは─
「どうやら間に合ったようだな」
「先に入ってたらどうしようかと思ったヨ〜」
─シルフとケットシーの領主、サクヤとアリシャ・ルー。二人は領主の地位を失う危険を顧みず、リーファ達の個人的な頼みを聞いてくれたのだ。この時点での頭数は七十近い。更にシルフの装備はエンシェントウェポン級、そしてケットシーの切り札である
それを見たキリトは時間を見て、予定を変更する事にした。
「急いで来てくれたところ悪いんだが、後もう少しだけ待ってくれないか」
『『『『?』』』』
キリトとアスカ以外が疑問符をとばしたその時、キリトの近くに一人の男が空から飛来した。その瞬間、全員が戦闘態勢をとる。侍のような服装をしたその男は、サラマンダーだったのだ。ここは中立域、互いに攻撃出来る。いつでも反撃出来るように両種族は身構えていた。
「よう、キリトにアスカ。久しぶりだな」
しかしその男は、警戒されているにも関わらず気軽に口を開いた。それに驚いたのはリーファとコウだ。二人には見覚えが無い、何故姉と弟を知っているのか。その疑問はすぐに解けることとなる。
「お久しぶりです。クラインさん」
「お前が一番乗りか」
「おうよ。つってもすぐに他の奴らも来るぜ」
侍風の男─クラインが振り向けば、その方向から四十人程のプレーヤーが飛んで来ている。驚く事に、その集団は種族が統一されていなかった。何が起きているのか把握出来ていない者達とは違い、キリトとアスカにとってその者達は強力な助太刀であった。
何故ならその者達は、全員があの世界で知り合ったSAO
サラマンダーの《風林火山》とキバオウ、ノームのエギル、レプラコーンのリズ、ケットシーのシリカとアルゴ、プーカの《月夜の黒猫団》、ウンディーネのシンカーとユリエールとディアベル。
久々の再会だ、積もる話はあるが後だ。先に、両種族に説明しなければならない。リーファとコウは問題なさそうだ。クラインとの会話で察してくれたようだ。キリトが説明しようとしたその時、集団の中から一人の男が出てきた。その顔を見た瞬間、キリトとアスカは顔が引きつったのを自覚する。出来れば会いたく無かった相手故に。
「これはこれは。久しぶりにまたお会いしたというのに、まるで腫れ物を見るようでありますな?」
ニヤけた顔でそういう男はあの世界で『辻斬り』と呼ばれていたプレーヤー、キリハと斬り合った危険人物─エンバ。種族はスプリガンのようだ。
「何しにきたんだよ」
「何しに、とは心外であります。友人が危機にあるとなれば、すなわち良心のままに行動するだけであります。それが人情というものであると存じておりますがなぁ。そも、助けを求めていたのはそちらであったと記憶しておりますが?」
エンバの言葉に、キリトは反論出来ない。事実、
とりあえず、この場の全員には協力な助っ人とだけ説明しておいた。まさか馬鹿正直にSAO生還者ですとは言えまい。特に、エンバと姉の関係(
シルフが五十、竜騎士隊が十、生還者が四十、そしてキリト達四人、戦力は十分。これなら、行ける…っ!
「行くぞ!」
『『『『『おおぉぉぉぉぉぉぉお!!!』』』』』
キリトの号令で世界樹の内部へ入っていく。さぁ、攻略開始だ。
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