転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 はぁい皆様ジャスト一年ぶりでございまぁす!!!待ってくださった方々はかなぁりお待たせしましたぁ!!
 皆様はコロナでどのように過ごしましたか?自分は以前までとそこまで変わらなかったです。習い事が無かったり大学の授業が通信になってたくらいですかね。

 今回からGGO編始まります。取り敢えずストックしている話がいくつかあるので、3日に1話のペースで載させて貰います。

 ではどうぞ


ファントム・バレット
菊岡誠二郎


─暗い部屋の中、数人の男の嘲笑と共に体に拳が撃ち込まれる。両手は吊るされているので防ぐ術がない。何時間経ったのだろうか、仲間は自分のことを助けてくれるだろうか。見捨てることはしないか、と思い直すと一際強く撃ち込まれた。思わずせき込み、血を吐く。そこへ、この場にはいなかった男が口を開きながら部屋に入ってきた。

 

「ふん、流石の『Vent(ヴォン)Noir(ノワール)』も吊るされては何もできんか」

 

 『Vent(ヴォン)Noir(ノワール)』、フランス語で『黒い風』を意味するそれは自分の異名だ。この道に入って十数年、いつのまにかそんな異名がついていた。自分としては特になんとも思わなかったが、仲間は喜んでくれていたっけか。

 何のために自分を捕らえたのだろう。とは言っても、心当たりはあるのだが。

 

「─僕を捕らえたのは仲間の敵討ち、というところでしょうか」

 

「その通りだ。我々の部隊は貴様らに壊滅させられた」

 

 はっ、と思わず笑ってしまった。男達が怪訝な顔をしたが、関係ない。この道では仲間が死ぬなど日常茶飯事だろうに。こいつらはいちいち敵討ちをしてきたのだろうか。つい、くだらないと呟いてしまった。

 

「なんだと?」

 

「くだらないと言ったんですよ。()()なんてやってれば誰かが死ぬ事は当たり前でしょうに」

 

 その答えが気に食わなかったらしい。脇腹に鋭い蹴りが入った。骨が折れたなと思っていると、男は口を開く。

 

「少し休憩を入れてやろうと思っていたが気が変わった。おい」

 

 男の指示で部下が小振りのナイフを持ってくる。それを手に取り、近づいてきた。そして刃を思い切り腹に刺される。

 

「ぐっ、がぁぁぁあ!!」

 

 そのままねじる様に押し込まれた。たまらず悲鳴をあげる。それを面白がるように、更にねじ込まれる─

 

 

 

「─っ!」

 

 目を開ければ、浩一郎が覗き込んでいた。その眼には心配の色が見える。

 

「大丈夫かい和葉。()()うなされていたようだけど」

 

 彼が言うには、相当酷かったらしい。何も言わずに和葉は浩一郎に抱き着いた。浩一郎は目を軽く開いたが、何も聞かずに抱きしめ返してくれた。二人は今、服を着ていない。そのため、彼の体温を直接感じることが出来る。和葉は浩一郎の体温を感じると落ち着けることが最近分かった。

 彼の匂いを嗅ぎながら和葉は先程見た夢を考える。小さい頃から同じような夢を見ているが、いつも見下ろすように見ていたのだ。しかし、ここ最近は自分が体験しているような夢を見る。まるで、過去の出来事を繰り返すように。そんなことはありえない、と思う。あんな過去はない、あれはただの夢だ、そのはずだ。

 

(でも、何故でしょうね─)

 

─ただの夢で終わる気がしないのは─

 

 

 

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか」

 

 先に来ていることを店員に伝え、喫茶店の中を見回す。すぐに奥の窓際の席から無遠慮な声が聞こえてきた。

 

「おーい和葉ちゃん、こっちだよー!」

 

 店内にいた他の客から非難気味の視線を浴びても、自分を呼んだ男は笑顔で手を振っていた。これはさっさと行った方がいいな、と判断して溜息を吐きながらその席へ向かう。

 

「ここは僕が持つから好きなの頼んでいいからね」

 

「最初からそのつもりです。それと、こういう喫茶店で大声を出さないでください」

 

 居心地悪くなるんですよ、と男に言いながら席に座った。手厳しいなぁと笑っている男を目に入れながら、ウェイターが持ってきてくれたメニュー表を見る。こういうところのメニューは高いもので、一番安いものは千二百円するものだった。この男が一般人だったら遠慮するところなのだが、生憎一般人ではないので遠慮はしない。ケーキ二つとカフェを一つ、ざっと四千円分のものを頼んだ。

 

「ところで、浩一郎君は本当に来なかったんだね」

 

「先約がありましたから」

 

 非常にすまなそうな表情をしていたことを覚えている。確かに寂しさが無いとは言わないし、隠すつもりも無いが友人との約束を守らないのは違うと思うのだ。

 

「それで、今回はどのような要件でわざわざ銀座まで呼び出したんですか?」

 

「…なんか和葉ちゃん、機嫌悪い?」

 

 そう言って困ったように笑ったこの男は菊岡誠二郎、SAO生還者のために動いてくれた人物だ。それは感謝しているが、何度も会っていればただの善意でこちらに接触していないことくらい分かる。それは別に構わないのだ。その方がこちらも楽ではあるし、両親の調べによれば敵ではないようだし。

 因みに、最初はPLN(プレーヤーネーム)で呼んできたので訂正させた。

 

「…ここ一年、毎日のように嫌な夢を見るので…」

 

 八つ当たりに近いのは自覚しているのでばつが悪そうにそう言うと、誠二郎はほっと胸をなでおろした。

 

「良かったぁ。とうとう嫌われたのかと思ったよ」

 

「嫌いではありませんよ。信頼しきれていないだけで」

 

 信用はしているのだ。そもそも、この男は桐ケ谷家のことを()()()()()。彼が所属するのは総務省総合通信基盤局硬度通信網振興課第二別室、通称《仮想課》。氾濫しているVR世界を監視するために国が設立したものだ。まぁ、詳しいことは教えてもらっていないが、どうやら裏の道にも繋がっているようでその関係で桐ケ谷家のことを知ったそうだ。

 

「そんなことより、早く要件を言ってください」

 

 わかったよ、と誠二郎はタブレットを取り出し要件を言っていく。

 なんでも、ここ数ヶ月でVR関係の事件が急激に増えているらしい。仮想財産の盗難や毀損が十一月のみで百件以上、ゲーム内のトラブルが原因の傷害事件が十三件、うち一つは致死事件。刃渡り百二十センチ、重さ三・五キロの模造の西洋剣で二人死んだ。なんでも、ヘビープレイのためにドラッグを乱用していたらしい。これはニュースでも報道されたし、父親が鎮圧した事件なのでよく知っている。たまたま近くにいたかららしいが、それを聞いた時には何やってんだと言ってしまった。

 しかしこういってはなんだが、全体からみて傷害事件がその程度なら社会不安を醸成しているとは言えないだろう。つまりこの男が言いたいのは─

 

「─VRMMOが現実世界で人を物理的に傷つけることへの心理的障壁を低くしている、それは認めます」

 

 その時、ウェイターが和葉の前に皿を二つとカップを一つ置いて「以上でお揃いでしょうか」と述べてくる。それに頷くとウェイターは伝票を置いていった。コーヒーを一口含み、話を続ける。

 

「ゲームによってはPKが日常化していますしね。ある意味では、殺人の予行演習と言えるでしょう。先鋭化したものでは、よりリアルなものもありますし」

 

 ここで言うことはしないが、血が出たり、内臓がぶちまけられたりするものがあるのだ。一部のマニアはログアウトの代わりに自殺をしているらしい。

 毎日そんなことをしていれば現実で行おうとする者がでてきても不思議ではない。なんらかの対策は必要だろうが、法規制は無理だろう。それこそ、ネット的に鎖国をしない限りは。

 そこまで話した和葉はケーキをフォークですくって口に運んだ。すると誠二郎が一口貰っていいかと聞いてきたので、無言で皿を前に出す。口に運んだのを見計らって和葉は口を開く。

 

「それで?本題はそれじゃないでしょう」

 

 ばれてたかといわんばかりに苦笑を浮かべ、タブレットを再び操作し差し出される。そこに写っていたのは一人の男性と、その男のプロフィールだった。

 

「この男性は?」

 

 彼の話によると、先月(十一月)の十四日に死亡した男性の写真らしい。東京都中野区のアパートで掃除していた大家が異臭に気づき、その発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らすも部屋主は出ない。電話にも出ない、が部屋の電気はついている。それを異常と感じた大家は電子ロックを解除、部屋に踏み込んだ。するとその男、茂村(しげむら)(たもつ)二十二歳がベッドの上で死んでいた。死後五日が経っていたらしい。部屋は荒らされた様子がなく、アミュスフィアを被っていた。すぐに家族に連絡がいき、変死ということで司法解剖が行われた─

 

「─死因は心不全だそうだ」

 

「心不全?何故心臓が止まったんですか?」

 

 和葉の問いに無言で首を横に振った。死亡してから時間が経ちすぎており、事件性が薄いこともあって精密な解剖は行われなかったようだ。ただ男性は二日はほとんど食べずにログインしていたとのこと。

 

「…話を聞く限り、変ではないでしょう。栄養失調で心臓発作は起こりますから」

 

「そう、別に珍しいことじゃない。でもね、実は妙な話があるんだ」

 

「妙?」

 

 誠二郎は頷いて話し始める。

 その男性は《ガンゲイル・オンライン(GGO)》のトップに位置していたプレーヤーだったらしい。十月に行われた最強者決定戦での優勝者、キャラクターネームは《ゼクシード》。死亡直前にログインしていたのは《MMOストリーム》というネット番組で、それの《今週の勝ち組さん》に出演中だったそうだ。

 そういえば、番組の途中で出演者がログアウトして一時中断したという話を聞いたなと思い出した。「多分それのことだろうね」と彼は言って続きを話し始める。

 《Mスト》はゲーム内でも中継される。それはGGO内の首都、《SBCグロッケン》のとある酒場での話だ。あるプレーヤーが立ち上がり、テレビに映っているゼクシードに向かって、裁きを受けろ、死ねなどと叫んで発砲したそうだ。それをたまたま音声ログを取っていたプレーヤーが掲示板に貼り付け、ファイルには日本標準時(JST)も記録されていた。銃撃があったのが十一月九日二十三時三十分二秒、茂村が突如消滅したのが同日二十三時三十分十五秒。

 更にもう一件、今度のは十一月二十八日。埼玉県さいたま市のアパートで死体を発見、死因は心不全でその人物がやっていたゲームもGGO。キャラクターネームは《薄塩たらこ》。この人物もまた、トップに位置するプレーであるそうだ。掲示板の情報なので信憑性は薄いが、彼はゲームの中でスコードロン─ギルドのことだ─の集会に出ていたところを銃撃されたらしい。それに怒り詰め寄ろうとしたところ、消滅した。アミュスフィアのログによると消滅したのは十一月二十五日二十二時四秒、死亡推定時刻もそのあたり。こちらも同じような言葉の後に銃撃され、同じネームを名乗っているらしい。

 

「─《シジュウ》…それに《デス・ガン》とね」

 

─すなわち《死銃(death gun)》。

 和葉はその名を何度か口にしてから、誠二郎へ顔を向ける。

 

「その二人の死因は、心不全で間違いないのでしょうね?」

 

「というと?」

 

「脳に損傷は無かったのですか?」

 

 そう言うと、それは誠二郎も気になったらしく司法解剖した医者に問い詰めたそうだ。しかし、二人の脳には何の損傷も無かったらしい。そもそもの話、アミュスフィアはナーブギアと違って、脳を破壊するレベルの出力を出すことは出来ないのだ。

 

「まぁこんな具合でね。和葉ちゃんは可能だと思うかい?ゲーム内から人を殺すことが」

 

 誠二郎の問いに顎を引いて考える。不可能だ、と和葉は即座に答えをだした。

 ナーブギアを被っていたら、もしかしたら可能かもしれない。しかし、二人が被っていたのはアミュスフィアだ。しかも死因は脳の損傷ではなく心不全、不可解なことが多すぎる。アミュスフィアは一定以上のレベルの信号波を生成することが出来ない。つまり、ゲーム内からの干渉でショック死させることは不可能なのだ。そんなことはこの男もわかっているだろう。

 

「それで、僕に何をしろと?」

 

 そこまで考えて頬杖をついてジト目を向けると、誠二郎は参ったというように両手をあげた。

 

「OKわかった、白状しよう。GGOにログインして《死銃(デス・ガン)》に接触してほしいんだ」

 

 それを聞いて和葉はつい溜息を吐いた。

 

「そういうことだろうと思いました。報酬は?」

 

 誠二郎は指を三本たてた。三十万、ということだ。それだけあれば今の和葉には十分、了承する。誠二郎がホッと息を吐いた。

 

(浩一郎がGGOをやっているのでちょうどいいでしょう)

 

 そう思いながら和葉は口を開く。

 

「接触の仕方は任せて貰えますよね」

 

「うん、僕もALOをやってるとはいえ、ゲームは苦手だからねぇ。あ、でも一応捜査って事になってるから場所はこちらが提供するよ。もちろん、安全面は保証する」

 

 本当は君の家の方が安全だろうけどね、と誠二郎は苦笑する。それに和葉は否定も肯定もせず、肩を竦めるだけに留めた。

 

「最後に、音声ログを聞かせてくれませんか?」

 

 全て食べ終わり、解散する流れになった時に和葉がそう言った。誠二郎は勿論と答えて音声をイヤホンで流す。

 低い喧噪が再生されたが、すぐに消失。張り詰めた沈黙を、鋭い宣言が切り裂いた。

 

『これが本当の力、本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖と共に刻め!』

 

『俺と、この銃の名は《死銃》…《デス・ガン》だ!!』

 

 金属質の響きを帯びた声だった。それとともに、和葉は感じる。その声の主は、ロールプレイではなく、本物の殺戮を望んでいると…。




 ここまで見ていただきありがとうございました。誤字脱字、又はおかしな場所がありましたらご報告よろしくお願いします。

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