転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 今回から弟のオリキャラが登場します。


荒野の世界

─心配だと溜息を吐きたくなるが、周囲にプレーヤーがいるのでぐっと我慢する。

 黒髪の男─コウがそう思う相手は、もちろん恋人のことだ。ここ一年はうなされっぱなしで、よく寝られていない日が多い。今日はあの公務員の男性と会う日らしい。先にこっちと約束していたとはいえ、彼女には悪いことをしたと思っている。「そうですか、わかりました」と言っていたが、目が寂しがっていた。罪悪感がすごかった。そんな彼女も愛おしいと思ってしまうのは、仕方ないことだろう。そこまで考えて、思考を今いる場所に戻す。

 この場に待機してからそろそろ一時間経つ。流石に飽きてきた。何しろ、ここはALOと違って目に入るのは岩と砂の荒野のみ。少し目を遠くに向ければ旧時代の高層建物が見えるだろうが、なんの気休めにもならない。傾きかけた太陽が荒野を薄い黄色に染める光景は、もう見飽きている。さらに一時間待機するのなら、夜間装備に切り替えをしなけらばならない。

 

(まぁ僕は構わないんだけど、彼女は嫌がるだろうね)

 

 コウは岩に背中を預け、両手で《PGM・ウルティマラティオ・へカートⅡ(対物狙撃銃)》を抱きかかえている少女に視線を送る。

 その少女のPLNは《シノン》。この世界(GGO)で数少ない女性PLだ。そして、コウがGGOで仲良くなったプレーヤーの片割れである。そんな彼女は現在、同じスコードロンの《ギンロウ》という男に声をかけられていた。先程までは、本当にここを獲物(ターゲット)となるスコードロンが通るのか、狩りが長引いてるだけだろうと話していたはずだが、今はギンロウがシノンをお茶に誘っている。用事があると断っているが、この手の相手は誘うことは二の次であり話すこと自体が目的なのだ。

 

「ギンロウさん、リアルの話題はマナー違反ですよ。そこまでにしておきましょう」

 

 リアルでの話になりかけたので、コウはそう声をかけた。

 

「そうっすよギンロウさん。むこうでもこっちでも寂しい独身(ソロ)だからって」

 

「そういやそういってたな!」

 

「うるせぇ!お前らだって変わんねぇだろうが!」

 

 すると他二人からの追撃が入り、ギンロウが二人の頭を殴った。

 ホッと息を吐いているシノンにコウが近づくと「ありがとうございます」と言ってきた。

 

「彼に任されてるからね。君に何かあったら彼に恨まれるよ」

 

 肩をすくめてそう言うと、シノンはフッと口元を緩める。そのまま二人はこの後のことを話し始めた。

 彼、というのはもう一人の片割れだ。今はここより少し離れたところにいる。こちらの合図で襲撃する手はずだ。

 

「─来たぞ」

 

 そう言ったのは双眼鏡で索敵を続けていたパーティーメンバーだ。このスコードロンのリーダーである《ダイン》は《SIG・SG550(アサルトライフル)》を肩に下げたまま、双眼鏡を覗き込んだ。

 

「間違いねぇ、先週と同じ奴らだ。八人…二人増えたな」

 

 コウも確認のために双眼鏡を覗き込む。光学系ブラスターが四、大口系レーザーライフルが一、実弾系の《FN・MINIMI(軽機関銃)》─通称《ミニミ》─が一、マントを被って装備が見えないのが二。この中で脅威度は《ミニミ》持ちが一番高いか。

 この世界の銃は実弾銃と光学銃の二つのカテゴリに分けられる。光学銃のメリットは、銃自体が軽量であり、射程が長く命中精度が高い。マガジンにあたるエネルギーパックも軽量であるが、《防護フィールド》という防具で威力を散らされてしまうデメリットがある。実弾銃のメリットは、一発当たりのダメージが高く、《防護フィールド》の貫通能力があること。デメリットは、銃自体やマガジンが重く、弾道が風や湿度の影響を受けてしまうこと。

 それ故、mob(モンスター)相手には光学銃、対人には実弾銃がセオリーとなっている。性能とは関係ないが、それぞれの特徴として光学銃は架空の名称のみ、実弾銃は実在する名称が使われている。よってガンマニア達は普段は実弾銃、mob相手にのみ光学銃に切り替える者が多い。

 

(あのマント二人…嫌な予感がするな…)

 

 一人は巨漢、見える限り武装は無い。腰にあるであろう武装は、大きくても軽機関銃だろうか。もう一人はすらりとした体形、こちらは背後のマントが若干膨らんでいる。膨らみ方から長身の銃、スナイパーか。しかし、それが光学銃なのか実弾銃なのかは判断できない。ヘッドセットからは何も聞こえない。となると、彼からも装備が見えていないということだろう。彼は確信しない限り余計なことは言わないのだ。

 

「一人は分からねぇが、でけぇほうは多分…極STR型の運び屋だな。狩りで稼いだアイテムやら予備の弾薬やエネルギーパックを背負ってるんだろう。武装も大したものじゃねぇだろうし、こいつは無視していい」

 

 ダインの言葉に一人の仲間が「もう一人のマントはどうする」と聞く。それに対し、どうせ光学銃だろうと言った。しかしコウは、そんなダインの言葉を否定したい。

 

(明らかに不安定要素だよね、あの二人は。それに─)

 

─多分、相当強い。GGOを始めたのは数か月前のことだが、ALOと現実(リアル)で培ってきた経験が《ミニミ》持ちより、マント二人の方に警報を鳴らす。。それをシノンも感じたのだろう。ダインに「でかい方のマントを最初に狙撃したい」と言った。明確な根拠は無いが不確定要素だからと、しかしダイン達は目に見える脅威を優先した。正論ではあるので、シノンは主張を引っ込める。それなら変わりに自分がマントを撃とうと、コウが言った。実弾銃持ちは一人だけなので、ダイン達はそれを了承した。

 距離が近くなってきたのでダイン達は移動を始める。ここに残るのはシノンとコウだ。シノンは持っていた狙撃銃のスコープを覗き込み、いつでも狙撃できる体制に入った。コウは一度周囲を見回し、危険が無いことを確認してから《SV-98(自分の狙撃銃)》を取り出す。この銃は六:四でAGIよりの自分がギリギリで持てる狙撃銃なので、極STR型を倒すには圧倒的に威力が足りない。ひるませることが出来れば上出来だろう。本来、あの巨漢を狙撃するなら対物狙撃銃(アンチマテリアル・スナイパーライフル)を持っているシノンが最適なのだ。しかし、彼女の方が狙撃の腕は高い。確実に《ミニミ》持ちを仕留めるには仕方がない。

 

(まぁ最悪、彼がこの子を守るだろうしね)

 

 二千五百Mも離れていれば、狙撃銃でない限り撃たれることは無いだろうが。しかし心配なのは、もしあのマント二人組が強敵だった場合は飛び出して行きかねないということだ。

 この子達が何のためにGGOをやっているのかは知らない。ただ遊ぶために始めたのではないだろうとは思っている。敵を狙撃する時の彼女は、氷を連想させるほどに、冷静に敵の眉間を撃ち抜く。まるで自分は機械だと()()()()()()()()ようだなと思いつつ、コウもスコープを覗き込んだ。

 こちらが狙撃するのはダインの指示が来てからだ。それまではダイン達に敵の位置情報を伝える。そして、こちらとの距離が千五百を切ったことを伝えると、『いけるか?』とダインがシノンに聞いた。ちらっとシノンがこちらを見る。それはコウも大丈夫なのかという意味なのはすぐに分かった。なので、自分の弾丸は外れても問題ないという意味で頷いた。

 

「問題ない」

 

『よし、狙撃開始』

 

 その言葉と共に照準器(レテイクル)の十字を動かし、距離と風向き、相手の移動速度を考慮して照準を決める。そしてトリガーに触れると、視界にライトグリーンに光る半透明の円が現れた。

 銃を撃とうとしている本人にのみ表示される攻撃的システムアシスト《着弾予測円(バレットサークル)》。これは本人の鼓動に応じて拡縮を繰り返す。この円は脈を打つ瞬間に最大まで広がり、弾丸はこの円内にランダムで着弾するので、精密な狙撃をするには常にリラックスしていなければならない。故に、GGOには狙撃手が少ない。外れれば味方の負担が高くなる、誰が好き好んで責任重大な役をする。

 まぁ、コウが狙撃銃を使うのはただの趣味なのだが。シノンが使う理由は知らない、知ろうとも思わない。興味が無いからだ。身内以外には結構ドライなのだ、この男は。

 さらに言えば、コウからしたら外れても対処できるからだ。狙撃が失敗したら、後は接近戦に持ち込めば良いと考えている。なので、いつでも飛び出せるよう腰には二本のナイフが常備してる。

 息を思い切り吸って、吐く。円が最小まで縮まった瞬間、トリガーを引いた。ほぼ同時にシノンの銃からも弾丸が撃ち出される。

 さて、この戦いはどうなるか。恐らくは一筋縄ではいかないだろう。だがまぁ─

 

(─ここはゲーム、せっかくだから楽しまないと損だよね?)

 

 自分の弾丸が巨漢に当たったのを見つつ、コウはそう思った。

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