転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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本戦開始前

─ベッドから起き上がり、適当に服を羽織って机に座りPCを起動。メールを開き、誠二郎に頼んで送ってもらった資料を見る。その資料は、《死銃(デス・ガン)》被害者のものだ。リアルでの情報だけでなく、GGO内のキャラ情報もある。それらの情報と、自分で調べた情報をまとめていく。無差別に標的を決めているならば意味が無いが、そうでないなら共通点を探すためだ。そうすれば、ある程度は次の被害者を絞り込めると思う。問題点として、被害者が少ないので、絞り込んだところでそれがあっているかどうかがわからないのだが。まぁ。やらないよりはマシだろう。

 

(職業は違う…。年齢も違う…。二人に共通の知り合いがいるわけでもない…)

 

 リアルでの共通点があるとすればどちらも男性であり、関東圏で一人暮らししていることくらい。となると、やはりキャラの方か。そう思い今度はキャラ情報をまとめようとして、後ろから腕が伸びて抱きしめられる。顔を見なくとも誰か分かる、この部屋にいるのは自分ともう一人だけだからだ。そういえば、昨日は悪夢を見なかったなと抱きしめられながら思う。

 

「おはよう和葉。朝から肌を出しているのは感心しないよ?」

 

 浩一郎がそう言うと、和葉は溜息を吐いた。確かに暖房が効いているとはいえ、十二月中旬に彼シャツ状態はまずいだろう。が、和葉は物申したい。

 

「夜、『お仕置き』と称して人の体を好き勝手したのは誰でしたっけ?」

 

「和葉があんな戦い方しなければよかっただけだよね?」

 

 ジト目を向けながら言った和葉の言葉に、浩一郎は即座に反論された。まったくもってその通り、浩一郎が正論である。ので言葉に詰まり、溜息を吐いて負けを認め、彼が持ってきてくれていたパジャマを着た。

 

「それで、何か共通点は見つかったかい?」

 

「リアルでの目ぼしい共通点は無いですね。キャラの方はこれから調べようと思っていたところです」

 

 とはいっても浩一郎が起きたのなら、このまま進めるのは彼に悪い。スリープモードにして椅子から立ち上がる。そして部屋から出ようとして、言い忘れていたことを思い出した。振り向き、浩一郎に笑顔を向けて口を開く。

 

「おはようございます、浩一郎」

 

 

 

 

 BOB予選の翌日、二人は結城家にいる。本当ならいつも通りに桐ケ谷家に行こうとしたのだが、明日加と浩一郎の母親である京子(きょうこ)に「たまにはうちにも来てちょうだい」と言われたのだ。そういえばここ最近は桐ケ谷家に二人が来ているなと思い、ここに来た。京子は常に表情が険しいため厳しい人物だと思われがちだが、実際はそこまでではない。まぁ、夫である彰三がかなり甘い人物であるため、比べてしまうとかなり厳しいと評価されてしまうが。

 

「あら、二人ともおはよう」

 

「「おはよう(ございいます)」」

 

 京子に挨拶をして、結城家の家政婦─佐田 明代(さだ あきよ)─が作ってくれた朝食を食べる。因みに、彰三は出勤しているのでいない。名残惜しそうに「日曜出勤は辛いよ…」と呟きながら出ていったのが印象深かった。最高責任者となると大変だなと他人事ながらに思う。自分の義父とは言え、こう思ってしまうのは許してほしい。

 

「浩一郎」

 

 食事中、不意に京子が浩一郎を呼んだ。それに対し、浩一郎は食事の手を止める。そこまで重い話が出るとは思っていないが、念のためだ。そして「どうしたの?」と聞く。

 

「まだ妊娠は駄目ですからね」

 

 ゴフッ、と浩一郎の隣で食事をしていた和葉が咳き込んだ。即座に浩一郎が水を和葉に手渡し、それを飲む。当の京子は普通に食事をしていた。

 

「何故いきなりそのようなことを…?」

 

 背中をさすられながら和葉が問うと、不思議そうに「だって」と口を開く。

 

「夜、浩一郎の部屋から声が聞こえてたわよ」

 

「…聞いてたの?」

 

「耳が良いの、知ってるでしょ?」

 

 違った?と首を傾げられる。それに二人とも口をつぐんだ。何かやましいことをしていたかと聞かれれば、答えはNO。が、何もしていなかったのかと聞かれても答えはNO。なので沈黙したのだが、それは逆に何かあったのだと言っているようなものだ。

 

(うちも、あの子達の部屋は防音にするべきね)

 

 桐ケ谷の家におすすめの防音材を聞こうと思った。息子達の様子を見る限り意外と早く孫を見られそうだと、京子と彰三は密かに楽しみにしているのであった。

 因みにその後の食事中、和葉と浩一郎の間に変な空気が漂っていた。その様子を見て、京子が微笑ましい気持ちになったのは余談だろう。

 

「あ、そうそう。和葉さんの首元、見えてますよ」

 

「っ!」

 

(顔真っ赤な和葉可愛い。母さんグッジョブ)

 

 

 

 

 昨日の予選決勝を思い出して、つい溜息を吐く。それを見ていた目の前にいる蓮巳が視線でどうしたと聞いてきた。隠すことでもないので、正直に話す。

 

「昨日の試合を思い出していたのよ」

 

 銃弾を弾くなどという無茶苦茶な相手に、どのように戦えばいいのだろう。昨日からどれだけ考えても、見つかる前の最初の一発で仕留めることしか考え付かない。それは目の前の人物にも言えるのだが。

 詩乃の言葉に納得したように軽く頷いた。

 

「…初弾で仕留めれば?」

 

「アナタには通じないから悩んでるんでしょ」

 

 蓮巳は直観、所謂第六感が異常に優れている、らしい。どれだけ離れていても、不意を突いたとしても、スナイパーの初弾を回避するのだ。彼が言うには殺気を感じるらしいが、VR世界でそんなものを感じるものだろうか。疑問に思うが、事実そうやって今まで回避してきているので信じざるをえない。昨日もそれで避けられ接近されて殺られたのだ。

 こんなことなら多少は近接戦闘もやっておけばよかったと後悔するが、今頃考えても無駄である。それに気づきもう一度溜息を吐いた。更にコウ曰く、あの時の彼女は本調子でなかったらしい。

 

「…付け焼き刃で良いなら、教えるけど」

 

 やめておく、と伝える。今更教わっても遅いと考えたからだ。

 因みに現在、二人は家から近い喫茶店にいる。そこで雑談を交えながら、今日の本戦について話していた。

 

「…詩乃」

 

「嫌よ」

 

 要件を言わせず、断る。詩乃には、彼が次に言おうとしていたことが分かっていたからだ。

 

「私だってあの二人を倒したいもの」

 

 だから、と右手を銃の形にして蓮巳に向けて、こう言った。

 

あの二人(今回の獲物)は早い者勝ちよ」

 

 詩乃のその()()に、蓮巳はほんの少しだけ、無意識に笑みを浮かべる。

 蓮巳が言おうとしていたのは、あの二人との戦闘を邪魔しないでほしい、だ。それが断られるだろうということは分かっていた。では何故、笑みを浮かべたのか。

 詩乃のトラウマは酷いもので、銃のレプリカ、動画や写真、ゲーム内の物、挙句の果てに手で銃の形に模したものでも発作が出ていたのだ。それが今ではGGO内だけでなく、手で銃の形を模しても大丈夫になった。向けられるのは未だに慣れていないようだが。

 故に蓮巳は─自分が銃を使わないこともあるが─右手の人差し指と中指を伸ばし、自分の首元に当てた。言葉には出さなかったが、それが彼の返事だということは詩乃には分かっている。そしてそれは互いとも言外に、その次はお前だ、と伝えていた。

 

 

 

 GGOにログインしたキリハは、その足で総督府に向かう。コウとは別々の場所になってしまったようだが、それでも総督府に行けば会えるだろう。

 総督府の中に入れば、少数ではあるが、BOBが始まるのを今か今かと待ち望んでいるPLが見える。この中には観戦しにきた者もいるだろう。BOBはGGO最大のイベント、あらゆるところで映像が流れると思ったが、やはりよそで見るのとは違うのだろうか。

 キリハの足音に気づいたのか、数人のPLが振り向き顔を向けてくる。それに構わずコウ達を探そうとすると、まるで滝が割れるように人波が割れた。先日自分がしたことを思い返せば、周囲のPLがそうなるのも分かる。銃相手に近接で突貫かけるPLに声をかける勇気を持つ者が、はたしてどのくらいいるのやら。

 

「キリハ」

 

 声の方に顔を向ければ、コウが手を振っていた。四人掛けの椅子に座っており、シノンとアレンもいる。そちらに歩いていき、コウの隣に座った。

 

「僕が言うのもなんですが、二人とも早いですね」

 

 現在、本選開始三時間前である。キリハの言葉に、余裕を持ってエントリーしに来た、とシノンが答えた。それを聞いて、まだエントリーしていないことを思い出し、席を立つ。コウに視線を送ると、彼はもうしてきたと目で答えたので、一人で向かった。

 エントリーを終えて席に戻り、本選のルールを改めて確認する。といってもルールが記述されたメールをざっと読みとおしただけなので、自分の認識が間違っていないかを確認してもらうのだが。

 

「スタート地点では他プレーヤーとは最低千m離れていて、エリアは十kmの正方形。隠れてやり過ごすのを防ぐために《サテライト・スキャン》が各プレーヤーに配布され、十五分ごとに全プレーヤーの位置と名前が表示される、と」

 

 合っています?と視線でシノンとアレンに問い、二人は頷く。

 改めて、戦闘エリアが広いなと思う。アインクラッド第一層と同じ広さだ。まぁ、銃撃戦を行うのだから当たり前か。

 そういえばと、二人に聞いておくことがあることを思い出した。

 

「お二人、というかシノンさんに聞きたいことがあるのですが」

 

 そう言いながらキリハはトーナメント表を全員に見えるように表示させた。「変なことを聞くようですが」と前置きをしてから口を開く。

 

「この中で、初参加のプレーヤーの名前を教えてください」

 

「はぁ?」

 

 何言ってんだ?という目でシノンに見られた。しかし、キリハは真面目な顔を崩さない。シノンは一度、アレンに顔を向け、彼がなんの反応も示さないと溜息を吐き「分かったわ」と言った。

 

「もう三回目だから、ほとんどの人達とは顔見知りよ。今回のBOBで初参加なのは貴方達三人を除くと」

 

 そう言って、トーナメント表に指を滑らせながら名前を言っていく。

 

「《銃士(じゅうし)X》、《ペイルライダー》、後は…あら?《バジリスク》もいるじゃない。他の二人はいないようね。

で、これは…《スティーブン》かしら?」

 

「違う」

 

 シノンの言葉をアレンが即座に否定し、それに驚いたようにシノンが顔を向ける。言葉の前に溜めがないのが珍しいのだ。

 

「…sterben(ステルベン)。…ドイツ語で、医療用語でもある」

 

 感情が表に出にくく、分かりにくい彼であるが、その浮かべてる表情から悪い意味なのだとシノンは察した。

 

「…意味は、《死》。…医療では患者が死んだときに使う」

 

 沈黙が、その場を漂った。その中で、キリハは思考を巡らす。結論付けるのはまだ早いが、今のところ最も《死銃(デス・ガン)》である可能性が高いのは《ステルベン》だ。今のところ二件だけだが《死銃(デス・ガン)》事件が起こっている中で、そのような不吉な言葉を使用するPLが奴ら以外にいるのだろうか?いるはずがない、とキリハは考える。

 

「と、ところで、いきなりどうしたの?名前なんて聞いて」

 

 空気を変えるようにシノンが問うてきた。それにキリハは、どう答えたものかと迷う。馬鹿正直に、この中の誰かが《死銃(デス・ガン)》である可能性がある、と言ったところで何かが変わるわけもない。そもそも、《死銃(デス・ガン)》を本気で信じているPLはかなり少数だ。それは、目の前の二人もそうだろう。

 仮に、だ。二人に自分の目的を話したとしても、二人に大会の出場をキャンセルさせることは出来ないだろう。かといって何も言わずに、というのは無理だろう。もしかしたら協力してくれるかもしれないが、信用していいのか。

 

「キリハ、この二人は信用して良いよ。僕が保証する」

 

 そうして迷っているとコウが口を開き、そう言った。キリハは彼に視線を向け、次いで二人を見る。アレンは無表情なので何を考えているかわからないが、シノンは困惑したような表情だ。深く息を吐き、キリハは口を開く。

 

「僕がこのゲームに来た本当の目的は、《死銃(デス・ガン)》調査のためです」

 

 仮の目的ではなく、本当の目的を話した。本当のことは話さずに誤魔化すという選択があったが、コウが信用しているのなら誤魔化す必要はないと判断した。

 

「《死銃(デス・ガン)》って…あの噂の?なんでそんなことのために?」

 

 シノンが怪訝そうにそう聞いてきた。それにキリハは頷く。

 彼女の反応も当然だろうと考える。普通のPL達は《死銃(デス・ガン)》はあくまでも噂でしかないと考えているだろう。だが、それは違うのだ。一般人には知られていない情報を、キリハは二人に伝える。

 

「今から伝えるのは、表に出ていない情報です。それを踏まえて聞いてください」 


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