転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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はぁい三か月以上お待たせして大変申し訳ございません!!
単純にモチベが無くなってました。今月もう一話投稿出来ればと思っています。


観戦者達

 時は少し遡り、場所はALO。広大なマップの中心に聳え立つ《世界樹》の上にある空中都市《イグドラル・シティ》。その一面にPLが月額料金を払って借りられる部屋があり、そこで複数人のPLが集まっていた。

 

「和ねぇも浩にぃも中々映らないね~」

 

「リーファちゃん?ゲーム内(ここ)ではPLN(プレーヤーネーム)だよ?」

 

 現実での呼び名(リアルネーム)でキリハを呼んだリーファに、シリカが薄く笑いながらそう言い、それに追従するようにピナが「キュアっ」と鳴いた。

 

「まぁまぁシリカ、ここにいるの現実(リアル)で知り合ったのしかいないんだからいいじゃない」

 

(桐ケ谷さん、佳奈さん達がいると気が緩むんだよなぁ…)

 

 シリカに軽い口調でそう言ったリズと、リーファの横でそう考えるレコン。なお、考えが顔に出ていたのか、リーファに肘でどつかれたことを追記しておく。

 

「リズの言う通りだぜ?シリカ。まぁそれはそれとして、二人はかなり計算高ぇからな。テキトーに人数減るまで隠れてんじゃねぇか?」

 

 部屋の隅にあるバーカウンターに陣取ったクラインの台詞に対し、この部屋主の一人であるキリトが返す。

 

「クラインお前、SAO(あそこ)で姉さんの何見てきたんだよ。あの姉さんだぞ?隠れてるわけないだろ。…いつもなら、だけど」

 

 最後に小さく呟いたキリトの声は全員に聞こえていたのか、首を傾げる中、隣のアスカだけが苦笑しながら口を開く。

 

「まぁ確かに、いつもなら突貫するだろうけど。和葉にも考えがあるんだよ。兄さんはクラインさんの言う通りだろうけど」

 

「そうです!それに、ねぇねもにぃにもカメラに映る前に敵を一瞬でやっつけちゃいます!」

 

 キリトとアスカの娘であるユイ(inキリトの膝上、子供姿ver)の台詞に、誰かが銃じゃなくて剣でやりそうと言ってその場の全員が笑った。

 因みにユイの言った『にぃに』はコウのことだ。キリトの姉が『ねぇね』なら、アスカの兄は『にぃに』だろうと。

 

 先も記したが、ここをキリトとアスカが共同で借りている。月額二千ユルドを払っているだけあって、相当に広い。具体的には六十五畳、おおよそ百平方Mほど。主な集会会場になっているということもあって、かなり広い部屋を借りたのだが。

 綺麗に磨かれた板張りの床、中央には五人が座っても余裕がある大きなソファーセット、壁にはホームバーまで設えられている。棚に並んでいる無数のボトルは、仮想世界でも酒飲みキャラを貫いているクラインが、妖精九種族の領地から地下の《ヨツンヘイム》まで行ってかき集めたものだ。たまに部屋主の許可をもらって、成人組で集まって飲んでいるらしい。らしいというのも、その時は許可だけ出して、別の場所でアスキリユイ(三人親子)は別の場所でまったりしているからだ。

 南向きの壁は一面ガラス張りとなっており、いつもならイグドラル・シティ(イグシティ)の壮麗な景色が一望できる。が、今日ばかりは大型スクリーンも兼ねているガラスに別世界の光景が映し出されているので、景色は見れない。映し出されている光景は、《MMOストリーム》が中継している《第三回バレット・オブ・バレッツ》、キリハとコウが参加している大会だ。

 集まっている趣旨は、この大会に出ることは事前に聞いていたために二人の応援、そして単純に他の世界に興味があるからである。

 ここに居ない面子だが、それぞれ違う場所で見ていたり(黒猫団など)、年中無休の仕事だったり(エギルのことだ。彼の喫茶店は夕方のこの時間からがかき入れ時なのだ)で不在である。

 

「しっかし、コウは元々GGOをやっているから良いけどよぉ。なんでキリハはコンバートしてまでこの大会に出ようと思ったのやら」

 

「あ、それ私も思った。時間がないっていうのもあるんだろうけど、キリハだったらキャラ作成からやりそうなのに」

 

 飲み物片手にリズが不思議そうにそう言うと、リーファがピクリと反応したが「なんでだろうね~」と笑顔で言った。キリハが誠二郎(ALOでは水妖精(ウンディーネ)で、PLNは『クリスハイト』)から依頼を受けていることを知っているのは家族のみだ。リーファが反応したことに気づいたのはアスキリユイの三人…と隣で彼女を見ていたレコンくらいだろうか。妹をよく見てるなぁと思いつつ、キリトは口を開く。

 

「信用できるところからの依頼だよ。VRMMO、というより《ザ・シード連結体(ネクサス)》の現状リサーチ…だったか?GGOは唯一《通貨還元システム》があるから選ばれたらしい」

 

 とキリハから教えられた理由そのままを皆に説明したが、確実にそれだけではないだろうと、家族の四人は思っている。嘘ではないだろうが、真の目的が他にあるはずだ。恐らく、コウはそれを知っているだろう。

 

(まったく…そんなに俺達に心配かけたくないか?)

 

 信頼できないから話していない、それはあり得ない。どちらにしろ心配してしまうのだから、真実を話してほしかった、とキリトは内心不貞腐れる。表情には出ていないが、リーファも同じ気持ちだろう。

 

「だとしても、わざわざPVP大会に出る必要はあるんでしょうか?リサーチなら、街のPLに話を聞くだけでいいのでは…」

 

 レコンの発した問いに一同が確かにと首を傾げる中、リーファが口を開いた。

 

「和ねぇのことだから、依頼ついでに厄介ごとに巻き込まれてるんだよ、絶対」

 

「「「あぁ…」」」

 

「え?今ので納得するんですか?」

 

 リーファの言葉にレコン以外のキリハのことをよく知っているメンバーが納得したように頷いた。この場に彼女がいたら「なんで納得するんですか」と抗議をしていたに違いない。

 

「それにしても、本当にお二人とも映りませんねぇ。大会が始まってからもう三十分経ちますよ?」

 

 シリカの言葉が示すように、現実では三百インチはありそうな大型スクリーンには、二人の姿は映っていない。銃撃戦型だからか、基本的に中継は一人のPLを背後から追いかける形であり、原則的に戦闘中以外のPLは映さない仕様になっているようだ。そして現在、十六分割されている画面のどこにも、【Kiriha】と【Kou】の名はなかった。また参加者全員の名が表示されているところでも、二人の名の隣には【Alive】と表示されているので生存している。それはつまり、二人はこの三十分間、一度も戦闘に参加していないことを示している。

 キリハが戦闘症なのはこの場の全員が知っている。それ故、彼女が他人の戦闘音を聞いていておとなしく出来るはずがないと思っていたのだが…。

 

「あの姉さんが戦闘しない事情、ねぇ…」

 

 これはかなり厄介なことに巻き込まれてるなと、キリトは頬杖を突きながらつぶやく。次いで、一度ログアウトして菊岡に突撃してくるか、とも思った。

 そんなことをしているうちも試合は進み、今『Dyne(ダイン)』というPLが、青白いギリースーツを着たPLに倒された。

 

「こう見るとGGOも楽しそうだなぁ。銃って自作出来るのかな…」

 

「リズさんまでコンバートするとか言わないでくださいね?《新生アインクラッド》の攻略、これからなんですから」

 

 シリカの言葉に「はいはい」と手を振りながら答えた。

 シリカの言葉に一理ある。生まれ変わったSAO─《新生アインクラッド》はもうすぐ二十層台のアップデートが入るのだ。層の形、テーマは以前のままだが、《SAO生還者(サバイバー)》のPLがいる関係上、モンスターやクエストは新しいものとなっているのだ。以前とは違うとはいえ、やはりこの馴染み深い面子であの城を完全攻略したいところである。…まぁ、かくいうキリトはリズの言葉にも共感しているのだが。

 少しだけなら…などと思っていると、ダインを倒したPLが横に倒れた。視点が切り替わり、今度はそのPL視点となる。画面下部に『Pale Rider(ペイルライダー)』なる名前が表示された。

 倒れただけで、一撃死してしまったわけではないようだ。右肩のダメージ痕から、全身を封じるように青いスパークが這い回っている。

 

「風魔法の《封雷網(サンダーウェーブ)》みたいだね」

 

「俺あれ苦手なんだよなぁ。追尾(ホーミング)性能良すぎだろどう見ても」

 

「あんたは弱体化(デバフ)魔法全部苦手でしょうが!ちっとは魔法抵抗(レジ)スキル上げなさいよ」

 

「やなこった。侍たるもの、魔の一文字が付いたスキルは取れねぇし、取っちゃなんねぇ!」

 

「あの…RPGでいう《侍》ジョブは戦士プラス黒魔法が基本なんですけど…?」

 

 リーファの一言からギャーギャー騒ぎ出す面々に苦笑しつつ、アスカは右手を伸ばし件の画面にフォーカス、二本の指を開いた。すると、そこの画面が大きくなり、他の画面が隅に追いやられる。

 あのPLが撃たれてから十秒が経過しようとしているが、他のPLはフレーム内に入ってこない。いったい何のために麻痺(スタン)させたのか…。

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

 七人が()()に反応したのは同時だった。()()─黒い布地は突然、画面の左端からフレームインしてきたのだ。カメラが徐々に引き、それの全体像を映し出す。

 

「ゴースト…?」

 

 女性陣の誰かがそう呟いたが、それも仕方ないと言える。ぼろぼろのマントは微風に揺れ、内部を完全な闇に隠すフード。そして、その奥で鬼火のように赤く瞬く二つの瞳。その姿が、幽霊(ゴースト)系mobを連想させたのだ。

 とはいえ、それがこの大会に出場しているPLの一人であり、ペイルライダーをスタンさせた人物なのは間違いない。目に見える装備は、右肩にかける大きな黒い猟銃のみ。恐らくは、動きを封じてから近接で止めを刺すのだろう。そう考えたキリトだが、ぼろマントが懐に手を入れ、取り出した拳銃を見て首を傾げた。あれがダメージソースだとしたら、どう見ても物足りないと思ったからだ。他の皆も同じことを思ったようで「しょぼくね?」やら「ライフルの方が攻撃力高そうだけど…」と好き放題言っていた。一応リーファが「弾代が高いのかなぁ?」とフォローしていたが。

 そしてぼろマントは拳銃をペイルライダーに向け、十字を切る仕草をする。それを見て、キリトの頭の内側で、何かが小さく引き攣れた気がした。

 ジェスチャーとしては特に珍しいものではない。ALOでも回復師(ヒーラー)系の一部のPLがRP(ロールプレイ)の一環として行っている。正式なキリスト教徒からしたら不快なものかもしれないが、キリトは別にキリスタンではないので、そのジェスチャーに不快や嫌悪感を感じることはない。

 

(なんだ…この嫌な感覚は…)

 

 知らず知らず顔を顰めるキリトを余所に、ぼろマントは十字を切り終えた左手を拳銃の握りに添えた。そして引き金を引こうとし─突然、上半身を仰け反らせる。その理由はコンマ一秒後、先ほどまでPLの心臓部があった空間を画面外から巨大なオレンジの光弾が貫き、再び画面外に飛び去ったことで判明した。

 恐らく、遠距離からぼろマントを狙撃したのだろうと予測する。ぼろマントの左後ろから飛来したように見えたが、それを慌てもせず余裕をもって回避したとこをみると、このPLもただものじゃないとキリトは思った。

 ゆらりと、上半身を戻したぼろマントは、再び拳銃をペイルライダーに向ける。そして今度は誰にも邪魔されることなく引き金を引き、弾はPLを貫いた。胸の中心に直撃したが、とても大ダメージを与えたようには見えず、それを証明するように麻痺から回復したペイルライダーはばねのように起き上がると、銃口をぼろマントの胸に当てた。

 ぼろマントはこれで終わり、と誰もが思ったその時、一つの音が響く。それは銃声─ではなく、ペイルライダーの手から銃が滑り落ち、地面に転がった音だった。

 何が起こったのか、事態を理解できないでいると、ペイルライダーは自身の胸に右手を持っていき、力強く握り始めた。次いで膝から崩れ落ちると、突如一時停止したように止まると、青いエフェクトに包まれてアバターを消失させた。

 理解不能の出来事が立て続けに起こり、全員が声も出せないでいると、ぼろマントがカメラに向かって視線をよこした。どうやら向こうからでも中継カメラの位置が分かるらしく、右手に持った拳銃をカメラに突き付けた。

 フードの奥で赤い瞳が瞬き、それと同時に機械的な音声が聞こえ始める。

 

『俺と、この銃の、真の名は、《死銃》…《デス・ガン》だ』

 

 その声を聞いた瞬間、SAOの記憶がキリトとアスカの脳裏によぎる。目を見開き、二人の呼吸が止まる。

 

『俺は、いつか、貴様らの、前にも、現れる。そして、この銃で、本当の、死を、もたらす。俺には、その力が、ある』

 

 その言葉はまるで、画面を見ているこちらに言っているように聞こえ─否、ようにではない。奴は、今この瞬間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!

 

『忘れるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()。─イッツ・ショウ・タイム』

 

 その瞬間、硬質なサウンドが室内に響いた。そちらを向くと、音源はクラインの右手から滑り落ちたクリスタルのタンブラーが粉々に砕けたものだったようだ。

 

「ちょっとなにやって…」

 

 決して安価ではないPLメイドのものを壊したことに文句を言おうとして、リズは口ごもった。クラインが信じられないと言わんばかりに両目を見開いていたからだ。

 

「う…嘘だろ…なんで…」

 

 唖然としているクラインを見て、アスカはやはりと口を開く。

 

「やっぱりあいつ、《ラフィン・コフィン》か…」

 

 その言葉に、今度はリズとシリカが息を吸い込み、言葉を失う。

 SAOで数々の凶行で血に染めた殺人(レッド)ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の名は、中層PLである彼女達の記憶にも染みついていたのだ。

 その場の空気に付いていけないリーファとレコンに説明している間に、件のぼろマントが川岸へと姿を消していく。説明を聞き終わった二人は、拳を握りしめ、唇を噛み締めた。

 

「クライン、あいつの名前、覚えてる?」

 

 名前までは思い出せないアスカの問いに、クラインは首を横に振り否定する。

 

「いや…奴の名前までは思い出せねぇが、幹部の一人なのは間違いはねぇ…。さっきの『イッツ・ショウ・タイム』ってのはリーダーだったPoH(ヤロウ)の口癖だったからな…」

 

 その場を、重い沈黙が支配しそうになって─大きな舌打ちが響いた。あまりにも突然だったので、全員がびくっと肩を浮かせ、舌打ちをした人物に目を向ける。

 

「か、かなねぇ…?どうしたの…?」

 

 代表してリーファがそう問いかけた。真っ先に声をかけるはずのアスカはというと、どうしてだか苦笑している。彼女が次に起こす行動が分かったのだろうか。

 

「姉さんの依頼主をここに呼んでくる。明日香は俺と、ユイはGGO内の出来事を調べといてくれ」

 

「「了解(です!)」」

 

 リーファはそれに納得したように頷き、彼女以外の面子は「依頼主?」と首を傾げる。皆が知ってるやつだよ、と教えてから二人はログアウトした。

 

 

 とりあえず菊岡はぶん殴る、と心に決めて。


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